182話 超獣との戦い
連休進行を終え、通常の投稿ペースに戻します。
いよいよ超獣との戦いです。やはり大なる者と闘うのは心が躍るところ。ラルフ君にはがんばってもらいましょう。
騎士団出動!
ユングヴィ伯爵領、領都バスクアーレへ向かう。
今回は何度か使った都市間転送場ではなく、少し奥まった部分にある軍事用を使う。馬車も通せる程の大型魔導器だ。バスクアーレの都市間転送場を出ると、若い軍人が待っていた。
魔導器が作る虹色の門から数歩進み、バルサムと共に彼が立っている脇に避ける。立ち止まると、キョロキョロと辺りを窺いながら後続の人員と7台の馬車が続く。
「ラルフェウス卿と騎士団の皆さんですね」
バルサムが、進み出て応対する。
「いかにも。こちらが男爵様。私は騎士団副長のバルサムです。貴官は?」
「ペルザント隊第3普通科小隊所属メディル軍曹です」
ビシッと軍礼した。
「ペルザント隊?」
「はっ! 正しくは、近衛師団対超獣魔導特科連隊、特務第6隊と支援大隊第17中隊の混成部隊です」
対超獣魔導特科連隊は、有名な深緋連隊のことだ。同連隊は他にはない構成で、特務部隊と支援大隊から成る。
前者が典雅部隊だ。
そこに所属するのは、我が国最高最強の魔術師。三賢者、さらに13人の上級魔術師達と彼らを補佐する従者だ。つまり特務は第1隊から、先頃できたばかりの第16隊まである。
後者の支援大隊は、上級魔術師の予備軍たる魔術師科、一般の戦士である普通科、工兵科、補給科の小隊を複数含む中隊から成る。
「ペルザント隊の状況説明を致したく。また、そちらの監察官もいらっしゃいますので、すぐ近くの拠点までご案内します」
城ではないが、何やら石作りの塔がある建物から街道へ出た。
「物見櫓ですな」
同じように振り返ったダノンが呟いた。なるほどな。一応軍施設のようだ。
そこから60ヤーデンも進むと石が敷き詰められた街路に出た。両脇に煉瓦造りの建物が並ぶ。真っ直ぐに伸びた街道の先に街壁が見える。差し渡し400ヤーデン程の街らしい。
古くて、こぢんまりした街並みだが、瀟洒で落ち着きがある。
領都の目抜き通りなのであろう。馬車と人通りもなかなかのものだ。
「こちらです」
「ああ、あちらが?」
「ええ、ユングヴィ伯爵様の城です」
北の方角。石造りのなかなか立派な城が見える。が、それよりも目を引くのが、さらにその向こうの山の端だ。真夏の5月に入ったというのに白く雪を被っている。
それとは反対側に進み城壁間近まで来ると、通りを一本奥に入った。門には旅館と書いてあるが……。
「こちらを後方拠点として徴発しています」
徴発と言う言葉が、少しチクッとくる。
庭園には、補給物資だろうが積まれ、防水加工の大布が被されている。
玄関ホールを入って行くと、数名の軍人に軍礼される。
団員は庭園で待機、ダノン、バルサムと共に中へ入って行く。ああ、言うまでもないがローザは付いてくる。
まずは、監察官の執務室に案内された。
怜悧な官吏を想像していたが、俺なんかより余程体型もがっちりしていて、体力も一般人よりは高かった。まあそうで無ければ、上級魔術師の従軍もままならないだろうからな。
いずれにしても、今後騎士団が撤退するまで同行することになった。
次は、ペルザント隊の留守部隊幹部の部屋に通され、1時間程談合した。それからバルサムは、これからの移動経路を確認し、皆に指示を出している。
それが終わるまで、茶の饗応を受ける。
「それにしても、意外にも友好的でしたな」
ダノンが切り出す。
「確かに……我等など歯牙に掛けていないと言うことだろう」
ペルザント隊にとって、俺達の助勢はあまり面白いことではないはずだ。要するに、ありがた迷惑と言うヤツだ。それで、手柄でも掠われた日には目も当てられないしな。しかし、我々を目の仇にすることもなく、対応してくれた。
それだけに留まらず、親切にも関係各所の地図を渡された。地図には超獣の発見場所、これまでの進行経路、最新の位置情報、それに、中隊の展開まで書き込まれている。
「いやあまあ、それもあるでしょうが、慣れて居るのでしょう。いくつかの隊で組んで取り組むことは、良くあることですとバルサムが言っておりました」
バルサムは、深緋連隊に居たからな。
「ふむ。俺達を教化してくれるということだな」
「教化ですか……」
ダノンが考えて居ると、バルサムが入って来た。
「準備終わりました。何時でも出立できます」
「分かった」
「ではお館様。私はこちらの伯爵様にお目通りし、王都に戻ります」
「ご苦労だった。ダノン」
「いえ。ではご活躍を祈念しております。バルサム頼んだぞ!」
「はっ!」
ここでダノンと分かれ、バスクアーレを出立した。
向かうは北へ約60ダーデン。ストラバリという小さな町だ。さっき見た雪を頂く山地の中腹にあるらしい。
出発以来ずっと登りの街道を進んでいたが、11時30分になったので、休憩だ。昼食の準備をするため、街道脇に留まる。
「あと、どのくらいだ? 彼らは1日掛かりと言っていたが」
我が騎士団員の移動は馬車だ。
「そうですな。夕方には着くでしょう。彼らは物資を運ぶ荷駄車も牽いているでしょうからな、そのような物でしょうが」
騎士団も有蓋の小型の荷馬車を2両持ってきている。が、大型の魔導具となっていて荷駄車20台分の積載量がある。持ってきた物資は、警備団員2人ずつが乗っているだけで実質空荷のような物だ。しかも、牽く馬はゴーレムだから速度は速い。
昼食を挟んで、再び移動が始まった。
そして、眠くなって来たときだった。
夏だというのに総毛立つ。ゾクッと何かが背筋を駆け昇る。
超獣──
去年の10月王都正門で感じた、いやそれより強い。8歳の時に感じたのと同じ圧力を感じる。
出現の報を得て来たのだ、当たり前か。
「さて……」
馬車内で立ち上がると、天井の取っ手を掴む。
「旦那様?」
ローザが見上げる。
「少し出て来る」
ぐっと前に押し出すと、天井がずれて開いた。
ローザは肯くと、両手を大きく開いた。抱いて連れて行けということか。首を振って拒否。
「私は旦那様の従者なのですから、片時も離れてはならないのです」
「超獣と対するときは別儀だ!」
「むぅ」
「むぅじゃない。着くまでには戻る」
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
「ああ、行って来る」
光学迷彩を発動すると、そのまま飛翔する。
馬車が芥子粒に見えるまで一気に高度を取り、北北西へ向かう。
黒煙──
密集に斑のある針葉樹林から、もうもうと煙が上がっている。
その南南東に土塁に囲まれた集落が見えた。あれがストラバリだろう。
煙とその町の距離は、10ダーデン(9km)と言ったところだ。
町を横目に見下ろしながら、さらに森に接近する。
光が見えた。魔術の炎。
戦闘がまだ続いているようだ。
ならば、余り近付くわけには行かない。
魔制動を掛けると、数倍もの負の体重がのし掛かり、瞬く間に静止する。
あそこだ。
距離がまだあるにも拘わらず、伝わってくる禍々しさが弥増す。
源泉は? 目を凝らすと見えた!
深緑の角鱗に包まれた大樹を凌ぐ巨体。鋭い棘棘が幾本も生えている。
胴ばかりでかく、申し訳程度に付いた腕と脚はどうしたわけか細く脆弱だ。それゆえ自身を持ち上げられず腹這いで移動している。
何かに似ているとも思えるものの、魔獣だろうが特定できない。頭部は亜竜のように顎門がその半ばまで占めているが、全く体躯には見合わず、不釣り合いな程小さい。
唯々醜悪だ。
この世の理を無視し、淘汰されるべき姿しか見えないのだが
何かを求めている。
その証左は、延々と地に刻まれた痕跡だ。それが木々の密生に紛れる数ダーデン先まで辿ることができる
そう──
ヤツは進んでいる。地に擦れる嫌気が差す騒音を上げながら
遅々とはしているが、着実に這い続ける。
こんな速度でも領都に数日で到達する。
それを阻止するのが、上級魔術師の責務だ。
その時だった。
ダダっと破裂音が響くと、火線が4条。東から伸びた。
超獣に直撃──しかし。
大型魔獣ですら一撃で葬れそうな火力が複数重畳しても、超獣の鱗は焦げることもなく、鬱陶しそうに身動いだだけで終わった。
魔導障壁。
超獣のそれは、恐るべきことに大概の攻撃を無効化する。それを破ることができるのは、上級魔術のみと言うのが定説だ。
だが、放たれたのはいずれもが中級魔術。ペルザント卿ではない。
あれしきの魔術ではと悪寒を憶えた刹那、凶悪な魔界強度に視界が歪む。
その数瞬後、立木の間を白い蒸気が走った。
数十年は閲したろう樹木を薙ぎ倒し、あるいは根刮ぎ吹っ飛ばされている。
しかし衝撃波が、先程の火線の発動点の前で拡散した。
耐魔したか。ふむ、無防備で魔術を行使したわけではないのか。当たり前と言えばそうかも知れないが、相手は超獣だ。並の魔獣と比べる訳にはいかない。
何?
超獣の衝撃波攻撃の轟音が遅れて響く頃、別の魔圧の高まりを感知した。先の攻撃とは別の場所。
ペルザント卿──
上級魔術鮮紅炎だ!
陽の下でも網膜を灼く、深紅の豪焔が迸った。
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誤字訂正
2021/05/11 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)