181話 初出動!
前々回予告の通り、次話の投稿は5月11日土曜日を予定しています。
準備万端で待っていると、なかなかその機会が回ってこないって良くありますよね。数日掛けて資料作ったのに、重役がドタキャンで来ないとかね……。(前書きは本文の流れを反映されていない場合があります)
廊下を走って来る。
御館様ぁ、御館様ぁ!!
ダンと大きな音を発て扉が開く。息せき切ったトラクミルが入って来た
「御館様、失礼いた……れっ、礼服?」
上着をローザが着せてくれている。
「はい。これでよろしゅうございます」
「うむ。トラクミル行くぞ」
「えっ。はっ?」
「ご使者は第1応接室であろう?」
「そっ、その通りですが、なぜそれを? 御館様!!」
もっともな質問だが、説明している暇はない。
「旦那様を誰だと思っているのです? 行きますよ!」
慌ただしく廊下を歩くと。慌ててトラクミルが抜いていく。
ローザに続いて応接に入ると、椅子にジュストコートを着た男が座っている。使者だ。ダノンも居る。
「ラングレン卿にございますか?」
「如何にも!」
ローザが答えると、使者が立ち上がる。
「国家危機対策委員会からの綸旨にございます!」
「承る!」
綸旨は手続きが簡略化された勅、つまりは命令書だ。国王の意を受けているが、実質は委員会の指令だ。
すかさず皆が跪く。
使者は、木箱を開け巻紙を取り出し伸ばした。それをこちらに見せる。
「綸旨! 上級魔術師ラルフェウス・ラングレン男爵に命ずる!」
「はっ!」
「今般、ユングヴィ伯爵領に出現した超獣381-7、通称ゲランの討伐を支援せよ!」
討伐支援か……。
なお超獣と認定されると、識別のため通し番号が振られ、命名される。
「光神暦381年5月5日までに、同伯爵領都バスクアーレに到着のこと。なお、先陣は既にペルザント卿に命じたり。なお現地では彼の者の戦略に従うこと。」
ペルザント卿か。三賢者を除く上級魔術師としては最高齢だ。在任期間も長く、老練と聞いている。それはともかく。
5日と言えば3日後。俺だけなら今すぐ向かうこともできるが、騎士団はそうもいかぬ。
「子細は使者が携える命令書に記す。仍って件の如し。5月2日 国家危機対策委員会 総裁ケルヴィム・バルドゥ 記す。以上にございます」
巻紙と命令書を渡される。
巻紙は一瞬開いてローザに渡し、命令書をぱらぱらと捲っていく。
「回答は明日……」
「承った!」
おや? 使者の表情が……遮ったのが気に入らなかったか?
「あぁ……即答は大変結構ですが。本当に宜しいのでしょうか? 通常命令書を検めた後に回答されますが」
俺ではなく、ダノンの方を見た。
ああ、止めるなら今の内だぞと言うことか?
しかし、命令書には大したことは書いてなかった。ざっくり言えば先任になるペルザント卿の言うことを聞け、邪魔するな。王都からの指令を伝えられるよう王都と現地の領都に連絡員を置けだ。
「御館の申した通りです」
何事も無いように了承する。
「でっ、では、こちらに署名を!」
差し出された請け証に署名して、使者に差し出す。
「確かに。では失礼致します!」
「ご苦労に存ずる。トラクミル、お送りせよ」
使者が辞して行った。
「御館様。思いの外早かったですな」
「同感だ。だが、皆のお陰で問題は無い。バルサムに伝令。ダノン、第1編制でいつ王都を出立できるか、調整してくれ」
「はっ!」
身体を揺すって第1応接を出て行く。
「さて、俺達も準備だ。ローザ、本館に戻るぞ」
本館に戻って、執務室にモーガンを呼びつけ、遠征することを手短に伝えた。30分後にサラを公館執務室に出頭するように指示。
それから、久し振りにソフィーの部屋に行く。
ノックすると、数秒経って内側から開いた。
パルシェだ。
「これはお館様。ソフィア様は、只今学習をされております」
すすっと退いたので、中に入る。
ソフィアは机に向かい、その脇にブリジットが立って算数を教えている。
こちらを向いて、略礼する。
「お兄ちゃん!」
「ソフィア様、集中です!」
「はい」
中断し掛けたのを、結構な剣幕で押し留めた。
「ソフィア様に御用でしょうか?」
「そうだ。後でも良いが、間を開けると手が離せなくなるかも知れない」
そう言うと、どうぞと手で示される。
「ああ、ソフィー。勉強しながら聞いてくれ。明日一緒に出掛ける約束だったが……」
それだけで、ヒッっと声を挙げた。
「政府から出動命令が出た。王都巡りは、悪いがまたにしてくれ」
「えーーー」
「ソフィア様! お館様は、人々を救いに行かれるのです」
「笑顔でお送り下さい!」
ブリジットの後に、パルシェが続く。
「お兄ちゃん。頑張って来てね」
「ああ」
やや睫がふるふると揺れているが、笑って手を振ってくれた。
俺が部屋を出た瞬間、後ろから嗚咽が聞こえてきた。
気持ちを振り切って、公館へ戻る。執務室の部屋に座ったところ、ケイロンが大股で走るように入ってくる。
「第1編制でご出動と伺いました。予算執行の承認をお願い致します」
「分かった」
差し出された計算書と執行承認書を開く。
予算案は、事前に議論し調整した結果だ。頭に入っているので斜め読みし、区切りの金額を確認していく。
総額千ミスト。
3割は持参する金、7割は補給の金だ。補給の方は半分は既に買い付けて備蓄してある物資の減価償却、残りは予備費だ。
多分使い切ることはないと思うが、問題ない。署名されたダノンの右側に署名する。
「ありがとうございます」
「ペレアスは?」
「商人の会合かと思いますが。呼び寄せますか」
「いや、今日中の出発はないはずだ。戻ったら出頭で構わない」
「承知しました」
入れ替わりに、サラが入って来た。
「騎士団派遣と伺いましたが」
「ああ、ユングヴィ伯爵領だ」
「はあ……結構遠いですね。ああ済みません。御用をどうぞ」
「うむ。薬品の生産はご苦労だった。また、救護班への用法用量の指導には感謝している」
「そんな、ラルフ様……あっ、お館様の方が宜しいですかね?」
「ははは。どちらでも構わないが」
「だめですよ。女にそういう言い方すると勘違いしますからね」
指を立てて説教された。
「ならば、後者で」
「分かりました。お館様」
「ああ。用件だが、今回の出動に同行してもらいたい」
サラは珍しく怪訝な顔をした。
「あのう。こちらから同行させて欲しいと、お願いしようと思っていました」
「それはまた……」
「回復薬とは言え、処方するわけですから。それに効率良く行き渡らせる為にも、最初は薬師が居た方が宜しいと思います」
この娘は、芯が強い上に生真面目だ。
「わかった。是非お願いする。それと、冒険者で慣れては居るだろうが、危なくなったら逃げてくれ。サラは、騎士団とは違う立場で相対して欲しい」
「承りました」
†
翌3日。
10時。派遣する者が公館に勢揃いした。
人員は27人。それに15頭。セレナはその数に入っている。
バルサムの訓令が長々続いていたが、終わったらしい。
「それでは出動に当たり、お館様からお言葉を賜る」
立ち上がり、数歩前に出る。
「気を付け!」
「ああ、楽にして聴いてくれ。大事な話は副長が話したから、俺から改めて話すこともないが……ああ、そうだ。自分では見たことがないが、俺は戦っている時に笑っているそうだ」
シンとなる。この男は、何を言おうとしているのか。そういうことだろう。
「それも手強い相手になるほど、笑うそうだ。どうだ? 気味が悪いだろう」
くすっと1人が零すと笑いが起こり広がる。
「だが! 笑っているときは恐怖に苛まれていないと気が付いた。これから俺達は手強い超獣に向き合わねばならない。我々は人間だ! 怖れることも少なからずあるだろう」
一拍置いて見渡す。
「だが、笑え! 現地の民衆と向き合う時は無論のこと、1人で居る時も笑うのだ! 幸運は笑っている者にしかやって来ないと知れ! 笑って生き残れ! 良いな?!」
「「「はっ!!」」」
「ああ……バルサムも例外ではないぞ!」
にこりともしたことがない男の顔が、引き攣った。
「うぅぅ……はっ!」
再び笑いが起こる。
「以上だ!」
バルサムは数度首を振ると宣した。
「出発!!!」
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訂正履歴
2019/05/06 前書きに次回投稿日予告を追加
2019/06/22 人名変更:ゲルハルト・バルドゥ→ケルヴィム・バルドゥ
2019/08/15 誤字訂正(ID:315129さん ありがとうございます。)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




