180話 賢者とパーティー
済みません。予定を1日前倒して投稿します。次話の投稿は5月6日月曜日を予定しています。
天才とか頭抜けた才能を持つ人って、変人と言うか。どこか抜けてる、ある意味非常識な面を持って居る場合が多いようです。限られた観察した体験としては、抜けている方面ができないと言うわけではなく、関心がないからやらない。その内に、できないとの境が消えていくという感じと思いました。
今日は、騎士団結成と超獣対策業務開始のお披露目の日。貴族がお披露目と言えばパーティーだ、不本意だが。
この日の為に、慌ただしくしていたのは、俺ではなくモーガンと執事。騎士団で言えばダノンだ。これまでの準備も、今日の仕度も彼らに任せきりだ。
彼らは、仕事とは言え粛々と進めてくれる。
俺がやったことと言えば、宴への招待者選定と招待状への署名位のものだ。申し訳ないな。
それはともかく。
招待状を送ったのは、30通余り。
まずは賢者と上級魔術師宛て12通。
幸い現時点は超獣対策で出動している者は居ない。だが4人の月番を呼ぶのは、不文律にて良しとされないので非番宛て9通。
俺以外の非番上級魔術師が全13人中9人も居るのは、指名出動などされた者など4人が月番が免除されているからだ。ちなみに賢者はそもそも超獣駆除に対する月番はないから3通送った。
欠席回答は9通。
無回答2通。賢者のグレゴリー・ベリアル殿、月殿だ。
精神的に凹む必要はない、送る方も受ける方も外交辞令だ。むしろ出席が1通あったことに驚いた。
電光バロール、賢者バロール・ディオニシウス殿だ。
1度館に来られたが、どうやら気に入られたみたいだな。
後は、軍務大臣、内務大臣、外務大臣など政治家宛て5通。
こちらは宛先全てが、ご当人は欠席だが代理を送り込んでくるそうだ。
さらにファフニール家、スワレス家、ダンケルク家など貴族宛て、15通。
後はギルド関係、魔術師協会など宛て数通。
都合、出席招待者20組53人だそうだ。それに団員35人。結構な規模のパーティーだ。
「お館様。間もなく刻限にございます」
「分かった」
ローザを伴って、公館大広間に向かう。パーティーというと着飾ることになるローザだが、今日は制服。黄身がかった白い薄手のジュストコート。スカートではなくパンタロンに長靴。男装の麗人だ。
俺の妻としてではなく、筆頭従者としての出席だからだ。
広間に入ると、団員が揃っていた。
テレーゼが俺達を見付け、団員に整列を促そうとしたが、手で制して止めさせる。似ては居るが、騎士団は軍隊ではない。
皆にはこちらから近付き、緊張している2、3人に声を掛ける。
昨日昼、バルサムから団員に向け今日のパーティーでの無作法は許さないと、厳命したようだ。夕食でアリーが、あれはオーガだわ、と言っていた。それも有るのだろう。皆表情が硬い。
執事が寄ってきた。招待客が来たようだ。
あれは……。
品が良い年配紳士が1人でやって来た。
「ラングレン様。お久しぶりでございます。サフェールズ家家宰のベトレンと申します」
「これはこれは。ベトレン殿、ようこそ。内務卿はご息災か?」
「はっ。すこぶる体調が宜しいと申しておりました」
「それは良かった」
「主人より騎士団の結成、誠におめでたく喜ばしいとのことでした」
「ありがたく存ずる。このラルフェウスならびに騎士団は働きますと、閣下にお伝え下さい」
「はっ、承りました」
紳士は、会釈すると壁際に歩いて行かれた。
「今の方、私もどこかでお見かけしたような気がするのですが」
ローザが小声で訊いてきた。
「うむ。ターセルのアルデス亭でな」
「ターセル……ああ! 内務卿の執事の方だったんですか」
気が付いたようだ。宿で待っていて、身元を明かさぬまま閣下の礼状と大金貨3枚を手渡してくれた男だ。
それから数人の代理と、多くの貴族出席者と挨拶を交わす。
碌でもないが、俺の仕事だ。
む。あと1人で途切れると思ったとき、何やら玄関の方が慌ただしくなった。
「ああー問題ない。通してくれ!」
大音声で、周囲の耳目が一気に集まる。
挨拶を終えると、そちらに歩いて行く。
ガシャンシャンと紅い鎧を鳴らして近付いてくる赤毛の男がやって来た。
「これはこれは、賢者様。ようこそお出で下さいました」
賢者……。
俺の言が聞こえたのか、少し間が空いていた人の輪が一段と遠巻きになった。
男盛りの分厚い体躯が、傲然と俺の前に立つ。
「ラルフェウス卿。一別以来だ。この度はおめでとう」
「賀詞痛み入りますが。その出で立ち、いささか饗応致しにくいのですが」
賢者とはおよそ似つかわしくないプレートメイル姿。見た目が暑苦しいぞ。
背後を従者が付いて来ている。そちらは軍礼服姿だ。それに、さっきから落ち着きなく誰かを探しているようだったが。何だろう?
「ははは、気にするな。いつも心は戦場にある。そのこと貴公にも見習って貰いたいものだが……ん?」
賢者は、俺の後ろローザを見た。
「そちらの女性、先日はメイドのようだったが、今は従者?」
「はい。筆頭従者にして妻のローザンヌにございます」
「ディオニシウス子爵様。お久しゅうございます」
「なんと、妻! と言うとダンケルク家の?」
ん?
「はい」
「これは失礼致した。奥方かそうか奥方か……ああぁぁ美男美女でうらやましい限り」
まだ、ローザの方を見てる。俺が睨み付けると、視線を逸らした。まさかとは思うが、ローザ目当てで来たんじゃないだろうな。
賢者バロールは肩を落とすと、何か口籠もり腕を振った。
その途端、鎧姿から、一瞬で白い礼軍服に替わった。便利な魔術だな、数種の類型を予め決めておくと、一瞬で着替えられるようだ。もっともローザは嫌がりそうだが。
「鎧姿では、飯が食いづらいからな」
「料理も沢山用意しておりますので、どうぞ」
「これは奥方忝い。では遠慮なく……ゴホン、貴公。政府に妙なものを献上したようだな」
「はっ!」
おいおいその話かよと思ったら、音響障壁が張られた。俺でも賢者でもなく、後ろの従者だ。まあ、結構な機密事項になるはずだからな、当然か。それは良いが、手早く終わらせないと、周りの者達には俺達が睨み合っているように見えるだろう。
「試したが、なんとかならんのか?」
一昨日ぐらいに着いたはずだが、反応早いな。今日も来られたし暇なのかな。
「と、仰いますと?」
聞き返すと、賢者は後ろを向く。従者?
「ラルフェウス卿。初めて御意を得ます。少佐の従者でトゥニングと申します」
まだ若い、と言っても20歳は超えているだろう青年が進み出た。
「ようこそ」
「はい。あの通信魔導器は、素晴らしい機能だと感激しました。魔導器史上でも屈指だと存じます」
従者とは対照的に、賢者はつまらなさそうだ。
「それはそれは」
「送信側はもう少し小さくなりますとよろしいのですが」
やっぱりそれか。
「確かに、そこは課題だと思っている。しかし一定以上の魔圧を掛ける必要があり。魔石が複数必要なため、今のところが小型化の限界でな」
「そうですかぁ。なるほどなるほど」
「ああ……なにやら、貴公自身が造ったような口ぶりだが」
賢者だ。
「その通りですが」
訝しそうな目だ。
「ふーん。まあそれは置いておいて、別に魔圧を掛けるなら魔術師でもできるだろう?」
ん?
俺と従者が疑問を同期させたようで、賢者を見る。
「それなら、もっと小さくできるのではないか?」
従者が頭を抑えた。
「あのう、添付した取扱説明書を読まれましたか?」
「読むわけないだろう!」
いや、大威張りで言われても。どうやら、この手のことは従者に任せているのだろう。
「あの少佐」
「なんだ」
「今仰ったことが受信器でできるようになっています」
「なに? あの小さい方か?」
「はい」
「お前、そんなこと言ってないだろう」
「いや、申し上げようといたしましたが、すぐ実験室から出て行かれましたよね」
何やらその時の光景が目に浮かぶような会話だ。
「わかった。もう一度、借りとけ!」
「はっ!」
障壁が消えた。
「うむ。ではな!」
唐突に会話が打ち切られ、歩き去ろうとするので呼び止める。
「ああ、あのう。賢者様、後程ご来賓の挨拶を頂戴したいのですが」
賢者バロールは、声もなく従者を睨んだ!
その後、パーティーはつつがなく挙行できた。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




