179話 思い掛けない再会
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次話からの投稿予定です。よろしくお願い致します。
180話 4月26日金曜日,181話 5月6日月曜日 ,182話 5月11日土曜日(以降平常通り)
180話は土曜日から前倒ししました。すみません。
4月も下旬に入った。非番も残り10日足らずだ。
超獣が現れないので、当然指名依頼は来ない。現れたとしても依頼は来ないとは思うが。
それもあって、騎士団お披露目のパーティーを開くことができる。数日前に沢山の招待状を書き……と言っても書いたのは署名だけだが、それを出した。ぱらぱらとその返書が帰って来ているようだ。実施は5日後だ。
それで、モーガンもダノンも忙しくしている。
騎士団の方も訓練場に宿舎が竣工し、モーガンが使用人を雇ったので、団員も駐屯できるようになった。よって団の運営は俺の手を離れた。
アリーもエリザ教授も救護班の連携訓練に懸命らしく、俺を余り構わなくなった。
俺は出動時に団員に配る魔導具を造っていたが、ゲド=ゴーレムとガル=ゴーレムが興味を持ち、やってみたいと始まったのだが。今では、本館地下作業場がほぼ乗っ取られている状況だ。
ソフィーを構って一緒に遊んでやりたかったが、生憎平日だから学校だ。
正直暇だ。
なので、ローザと日帰りで王都外に出掛けることにした。
来月月番になれば、王都外に出るのは憚られるからな。
東門から出て、馬車に乗り北へ進んでいる。
馬車の中のローザは終始上機嫌だ。閨の中のようにぎゅっと俺に躰を押し付けている。
「こうしてあなたと出掛けられるなんて」
誰も見ていないからだろう、蕩けるような表情だ。
「そうだな。行先に色気がなくて申し訳ないが」
「いいえ」
顔を耳元に寄せて来た。
ん?
「あなたが居る所が、私の楽園なんですもの」
……まだ陽は高いぞ。
「ワッフッ」
おっと後ろにセレナが居たんだった。
声音に嫉妬が混ざっている気がしたが、気の所為か。
そんなことがありつつも、馬車は街道を折れ、脇道に入って1時間ほど走る。いくつかの丘を越えると目的地に着いた。
「ここらしい。降りよう」
往来のない脇街道の右側、少し開けた土地に馬車を留めて降りる。歩いて道路に戻ってみるが、人影は全く見えない。
「ここは、どちらなんでしょう」
道の両脇には建物であったろう残骸が並ぶ。あるものは壁が崩れ、隣は屋根がない。我が物顔に蔓草が繁茂しいる。昨日今日そうなったわけではなく、数十年を歴ていることが見て取れる。過去にはそれなりに賑わったのであろう無人の町。
「ツゥラッド迷宮跡だ」
「迷宮跡ですか?」
「前に行った観光迷宮。あれと同じような物だったのだろうが、俺たちが生まれるだいぶ前に崩れ落ちたとされている。それでこの町も寂れたんだろう」
「なにやら、意味深な仰り方でしたが?」
「ああ、それを確認してみたくてな」
「何か私にできることは、ありますか?」
「もちろんだ。俺とセレナで、この辺りを探ってみるから……そうだ。ここは殺風景すぎる。ここに来る途中に丘があったろう。あそこで待っていてくれ」
「いえ、ここでお待ちしますが」
健気だ。
「あーいや。あそこに戻って食事の用意を頼む。食べるなら、景色が良いところが嬉しいからな」
「分かりました」
「じゃあ、いくぞ! セレナ」
「ワフッ!」
むう。
朽ちかけた看板に書いてあった迷宮入口の方角へ歩いてきたが。道が切れ、土砂瓦礫で埋まっていた。
噂通り、何らかの災害が起こって放棄されたようだ。だが只の廃墟にはない雰囲気が漂っている気がする。
「今帰っても、まだ食事はできていないだろう、少しこの辺りを一緒に巡ってみよう」
「ワフッ!」
なぜだか嬉しそうだ。
他愛のない会話しながら、探索し始めて30分も経った頃、セレナがピクッと反応した。
「ラルフ!」
「あっちか?」
「ワフッ!」
どうやら俺と同じ場所を気にしていたようだ。
感知した異常な魔力に惹かれ数分進むと、こんもりとした塚があった。頂が鈍く光っている。
そこへ惹かれるように近付くと、突如地面から炎が吹き上がった。
驚いて数歩退くと、俺の背丈を超える火炎は瞬く間に鳥と変化した。
───やはり貴様か ラングレン
紅い羽毛に彩られ、鶏冠と翼が揺らめく焔の如く燃えている。
イーリス!
上級魔術師試験の時、相見えた聖獣だ。
───貴様はなぜ妾の住処ばかりやってくる? そこな青狼の導きか?
怒気が漂う。
「へえ。あんたの住処だったのか。俺たちは怪しい遺跡を巡っているだけで、他意はない。ああ、上級魔術師合格の件、感謝する」
───全く心が込もっていないが
勘がいいな。
───少しでも恩義を感じるならば 疾く立ち去れ!
翼が一段と紅く燃え上がると、倍する威圧を込めてきた。ローザを連れて来なくて良かった。俺でさえ結構な不快さを覚えるのだ、耐魔力訓練をしていない人間では失神しかねない。
「立ち去るわけにはいかん。遺跡を調べて喪われた知識を得たいのだ」
───如何あっても入ると?
「別に中が見たい訳ではない、目的を達すれば良い。そもそも、あなたが造った遺跡ではないだろう。欲しいのは、知晶片だ。ここには無かったか?」
───有ったと言ったらどうする 妾と闘うか?
むぅ。どうして俺の周りは戦闘狂が多いんだ?
「ああ。あんたを殺さなくていいならな」
───なんだと?
「陛下のお気に入りなのだろう。殺したら、ご不興を買いそうだ」
ドドっと鈍い音を立て、目の前に知晶片が3本地面に突き刺さっていた。
───持っていけ
「いいのか?」
───ふん! 興が削がれたわ どのみち妾には用のない物だ こんな物のために貴様にうろうろされては割が合わぬ
腕を伸ばして、魔収納に入庫した。
「では遠慮なく。ところで一つ聞いてもいいか?」
───なんじゃ?
相変わらず、とげとげしい魔圧を掛けてくる。
「陛下とは、どういう関係なんだ?」
考えたのか、数秒間があった。
───あやつの3代前と盟約を結んだ それゆえにこの国に居る
3代前と言えば、賢王ことクラウディウス3世か。紛争の絶えなかった時代に和平を齎したと、死後百年を閲しても尊崇を集める王だ。
「そうか、分かった」
───妾からもひとつ
「何だ?」
───その者を置いていけ
「セレナを?」
俄に背中を戦慄が駆け上る。
────何という顔をしている 捕って食ったりわせぬ 無事に返してやる 数時間貸せということだ
むう。信用できない訳ではないが。
「ラルフ ダイジョウブ セレナ ノコル ハナシテ ミタイ」
「……そうか。では、俺はローザのところに戻っているからな」
「ワフッ」
後ろ髪を引かれつつ、俺はひとりでその場を後にして、丘の上まで飛行魔術で戻った。
「あら。あなた。お早いお帰りで」
「ああ」
「まだ食事の用意はできておりませんけど……セレナの姿が見えませんが?」
「うむ。置いてきた。多分数時間は帰ってこないだろう」
「はあ……」
「しばらく夫婦水入らずだ」
レプリーは入庫した。
二人で昼食を摂った。それから焚き火して、椅子で囲んで話し込んでいると、2時間足らずでセレナが帰ってきた。
「ラルフ」
出迎えた俺の脚にまとわりつく。
「なんだか……」
毛並みが良くなったな。
思わず頭を撫でながら、右手で梳る。手触りが素晴らしい。
「まあ、セレナおかえり。綺麗になったと言うか、神々しくなったわね」
ローザもそう思ったらしい。
「どうだった。変なことされなかったか?」
「されてないよ。問題なし」
「んん、それなら良いが」
何やら違和感があるような、ないような。
「あなた、どなたかと会われたのですか?」
「セレナとは別の聖獣とな」
「聖獣……ですか?」
「ああ、人には言うなよ」
†
本館に戻り着替えると、地下の作業場に向かう。
作業机の魔石に手を翳していた、ゲド=ゴーレムがこちらを向いた。
「おお宿主……じゃなかった、お館様。どうされた?」
「喜んでくれ。例の術式が手に入った」
「と仰ると、魔導通信ですかな」
以前、これから館を離れることが多くなる、ゴーレムに取り憑いていて大丈夫かと訊いたことがあった。
『魔力供給の方は、魔石に蓄積して貰えれば一ヶ月位は大丈夫です』
それは良かったと思ったが、後が聞き捨てられなかった
『魔導通信魔導器があれば、意思疎通もできるのになあ』
はっ? ちょっと待て! 何だ魔導通信って?
威圧を込めて訊いたところ。
ゲドの生きていた頃には、何十ダーデンも離れた場所の間で、互いの声が聞こえる。そんなことを成し遂げる魔導器があったそうだ。
もちろん、その術式を訊いてはみたが、肝心なところが分からなかった。
まあ、そのことに余り興味が無かったことまで全て知っていろと言うのは、土台無理な話だからな。
しかし──
そう。ツゥラッド迷宮跡で譲り受けた、知晶片に記録されていた。古の術式を解析したところ再現できた。
ただし課題があった。
受信側は問題なく作ることができたのだが。いや、送信側もできた。できたには、できたが、その重量は100ダパルダ程になってしまった。
魔石の純度が決定的に劣っていると分かった。
残念ながら、その精製方法までは記録されていなかった。
質を埋めるのは量だ。音声を魔導に変換する処理に一段では済まず何段もの魔石を使った。よって大きくなった。まあ物は使い様だ。
内務省経由で、内々に知晶片を献上した。聖獣イーリスより授かったと。造った魔導通信魔導器を添えて。
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訂正履歴
2019/09/25 誤字訂正(ID:1576678 様ありがとうございます。)




