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16話 魔獣飼育

動物は、金魚くらいしか飼ったことがないですが。子供の頃に捨て犬を拾ったことが有ります。近所の人に貰われて行ったのですが、放し飼いだったので、夏場はウチのあじさいの下で涼んでました。

 3日前の山犬大量死は、村でも結構騒ぎになった。

 魔結晶は回収したし、僕も状況は説明していないので、真相は闇の中で山犬同士の共食いでは? そういうことになったみたい。


 外から帰って館の自室の扉を開けると、床に置いた木箱に傾いた陽が当たっている。そこから魔狼ウォーグの仔が、ひょこっと顔を上げた。


 じっとこっちを見ている。

 かわいいなあ。

 鞄を置いて、木箱に近付く。


「セレナ。ただいま」

 この仔の名前だ。

 指を差し出すとペロペロ舐める。


 頭を撫でてやると顔が緩む。

 眠たいのだろう、目が閉じかけてる。一日の3分の2は寝ている。

 魔狼だが、まだ鼻が短くて顔が丸っこい。とは言え、床に置くと立ち上がってゆっくりだが歩くので、助けた時は既に生まれてから1週間以上は経っていたのだろう。


 あの日、少し元気を取り戻したセレナを、連れて戻った。

 おかあさんが魔獣を飼うなんて絶対駄目!って反対したけど。おとうさんが、味方をしてくれた。


『そうか、約束したのか。男は約束を守らないとな! 父さんもな、子供の頃に犬を飼ってたんだが……』

 と言うことで、犬好きらしい。セレナを見る時の眉が下がってたし。書斎の本棚から、この本も見付けてきてくれたし。


 魔獣馴致手法序説──


 そして、おかあさんに、魔獣を飼う操獣士テイマーという者も居るとか、動物を飼うと情操教育が進むとか説得してくれて、何とか僕の部屋で飼うことになったのだ。


「アフッ!【ママ】」


 はっ!

 魔狼の仔をマジマジと見る。

 今、ママって……いやぁ、音声は狼の鳴き声だった。だけど頭に浮かんだ。


 これって(マール)でも、何度か起こってるよな。

 意思か。

 セレナの意思。

 僕のことを、ママって思っているのか?


「セレナ。他になんか言ってみろ!」


 あれ? 反応がないな。

 キョトンとして、僕の使い古しのシャツを破いて作った端布に包まって、こっちをずっと見てる。


 そうだ!

 そう言えば助けた時にも、大きな魔狼の牝、この仔の母狼の意思が流れ込んできた。

 おとうさんに言われて名前を付けた時もそうだ。

 この仔を見ていたら、不意にセレナって浮かんだ。それでそのまま名付けたのだけど。


 よし! 念を込めてみよう。


【セレナ!】



「バゥ、アフッ、ワフ!【何? ママ オナカヘッタ】」


 おっ、おおおぅ伝わった!

 でも、ママかあ? むぅ。


「おお。すごいぞ! よしよし」


 頭を撫でる。手触りが気持ちいい。

 毛の長さが揃っていて、上等な絨毯を触っているようだ。

 セレナも目を細めて、気持ちよさそうだ。


【ママじゃなくて、僕はラルフだぞ。ラルフ!】

【…………ママ!】


 駄目か。

 まあ良い。生き物相手だ。気長にいこう。

 他者に教えるのは、アリー相手で慣れたものだ。


 それに、ウチの(マール)より意思疎通ができてる気がするしな。


【クウ……】

 

「ああ、ごめん。お腹減ったか! 待ってろ。今ミルクを」


 トントン!

 ノックの後、少女が入ってきた。


「ラルフェウス様。お帰りなさいませ」

「うん。ただいま、ローザ姉」


 10歳になったローザ姉は、学校の勤労体験で受けた、メイド実習が甚く気に入ったようで、うちの館では、エプロン着けるようになり、メイドさんぽい振る舞いをするようになった。早朝の剣術稽古とは打って変わってお淑やかだ。


 来年から、子爵様のお屋敷で午後の数時間だけだけど、見習いとして働くようだ。そして、基礎学校を卒業したら、本格的に、メイドさんになると宣言している。


「ローザとお呼び下さい。まずはお召し替えを! それから、その仔のミルクを持ってきました」


 そう。その所為か、姉と付けると嫌がるようになった。


「あっ、ありがとう! セレナがお腹減ったって言うから。今、取りに行こうって思ってたんだ」


 外套を脱いで、汗を拭い部屋着に替える。

 よし! 振り返って皿を受け取り床に置く。

 おっ、セレナがローザ姉を見ている。


【ダレ? ママ チガウ】

【分かるのか! ローザだ】

【ママ チガウ】

 うーむ、名前の概念がないのか……。


 セレナを箱から持ち上げて床に出し、皿の前の床に置く。

 数秒経過もじっとしたままだ。自分で飲みに行くかと思ったけど……まだ無理か。

 体高30リンチ位に成ってるから。皿の高さは問題ない。もうちょっと掛かるか。


 右の人差し指を山羊の乳に浸けて、セレナの口元に持って行くとパクッと吸い付いた。

 チュウチュウ吸うとすぐ無くなる。空いた手で掬い、吸い付いている指の付け根に垂らすと、伝って行ってまた飲めるようになる。


「結構吸い付きが良いなあ」


「あのう、ラルフェウス様」

「ん?」

 僕のすぐ横にローザ姉もしゃがんだ。少しドギマギする。


「先程、この(セレナ)がお腹減ったと言ったと仰いましたが!」


 あっ、マズ!

「ああ、言ってなかった。なんかそう思っただけ」

 ローザ姉の眉根が寄ったが、戻った。ごまかせたか?


「あのう……」

「何……かな?」

「私も、ミルクをその子にやっても、よろしいですか?」

 なぁんだ!


「いいよ」

 チュポンっと、指を引き抜く。

【モット】


 セレナは、まだ飲み足らないらしい。アフアフと息を吐きながら顔を振っている。


 同じように指を皿に浸し、口の前まで差し出す。


「フッフ」

 セレナは、そっぽを向いた。

 何度か試したが、指に吸い付こうとはしない。


 うーーむ!

 ローザ姉は、美しい唇を少し突き出し、悲しそうな面持ちだ。


【セレナ どうした?】

「ウッフッ【ママ チガウ】」


 うーむ。名前は分からないが、僕とローザ姉は違う事は分かっているようだ。

 そうだ!


「ローザ姉、これ触って」

「手拭いですか?」

 さっき汗を拭ったやつだ。これからもミルクで手が汚れると思っていたので、ローザ姉に渡してない。


「そう、そう」

「はあ」

「ああ、もっと何度もグシャグシャと」

「はい」


 30秒もそうして居たろうか。

「ローザ……もう1回セレナにミルクをやってみて」

 肯くと、指をミルクに浸し、セレナの前に。


【ママ!】


 おっ、ローザ姉の指に吸い付いた。

 声を出そうとして思い留まる。

 ローザ姉が嬉しそうだ。邪魔したら悪い。

 しかし、思った通りだったな。


 10分程そのままミルクを与えていると。セレナは満腹したように、吸うのをやめて箱に向かって歩く。

 ゲッフとか、げっぷしている。大丈夫そうだ。


 近寄って抱き上げる。

【ママ オナカ イッパイ】

 満足したようだ。


 箱に入れてやると、また布に包まった。

【ウウウ……】


 眠った。


「ラルフェウス様」

「ん?」


「あの子は、どうして私の指から飲んでくれたんでしょう?」

「臭いかな……僕の」


「ああ! 手拭い! ラルフェウス様の汗!」

「犬に近い魔獣の幼体は、匂いで相手を判断していると、あの本に書いてあったから……」


「そうでしたか……1時間余り前にも、あげてみたんですが、全然飲んでくれなくて。そうですか臭いですか」


「ああ、僕もセレナのお母さんの血を浴びて臭いが混ざったから、お母さんと思っているんじゃないかなあ。その内、ローザにも慣れるよ」

「そうだと、良いんですけど……」

「大丈夫だよ」


 そう言ってから1ヶ月後には、セレナは皿からミルクを飲めるようになったし、ローザにも慣れた。ああ、アリーには慣れてないけど。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴

2019/08/10 誤字訂正(ID:860087さん ありがとうございます)

2021/03/07 誤字訂正(ID: 1532494さん ありがとうございます)

2022/09/19 誤字訂正(ID:288175さん ありがとうございます)

2022/10/05 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[一言] 慣れちゃうのかぁ、ラルのお願いを聞いたとかの方がスッキリするんだけどな。
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