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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
8章 青年期V 上級魔術師選抜試験編
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162話 2次実技試験 決着

2次実技試験も決着させると言うことで、大分長くなってしまいました(当社比?2倍)。


「なんだ、あれは!」

 鎧戸を閉め切った記録員は、映像魔導器を見て驚きの声を上げた。

 膨れ上がった分身体から少し距離を取った周囲に、キラキラと輝く屏風の如き板が無数に浮かんだ。


 言うまでも無く7番候補者の魔術だ!

 それは分かる。逆に言えばそこまでしか分からない。


 それが動き始めると、あたかもそれぞれが意思を持つように距離を詰め集結していく。

 何が起こっているのか。

 ああ、モザイクのように端が繋がって行く。


 瞬く間に分身体を覆い囲む殻となった。

 球体のように見えるが、上の方が漏斗のように尖り、全体としてはタマネギのような形になっている。


 それだけでは終わらなかった。


 7番が、両手を空へ突き出すと、さらに多くの光る板が再び浮遊した。さらに外側に殻となりて包み込んだ。


「こんな魔術見たことないぞ。何の意味が……」


 また一層、また一層と殻を纏わせていく。

 消えていった表示器のランプが最後の一つになった。

 既に分身体が膨張を始めて居るはずだ。


「……あっ、始まる」

 そして全てのランプが消えた。


 超獣の昇華──


 ヴォオオオオオーーー。

 

 記録員が予期した爆発など起こらず、間延びした重低音が笛のように響き、光殻の上端から白煙を噴き上げただけだった。


 その横に白いローブの7番は、何事もなかったように佇んでいたが、やがてこちらを向いた。

 彼から吸い上げた魔力は尽きた。もう分身体は再生されることはない。


────合格だ! しかし、宣告は少し待て!


 そう告げた、特別審査員の気配が忽然と消え去った。


「ちょ、イーリス様? イーリス様ぁぁぁあ」


 その5秒後、記録員は聞き流した事実に愕然となった。


   † † †


 超獣の昇華と視てとった。

 間もなく断末魔を上げながら破裂するだろう。只では済まない距離──


 そう。これは試験だ。退くわけにはいかん!


 あれだ! あれをやるぞ。


深瞑(シマラナ)


 昇華を模擬。

 観えた。


 ん?

 爆圧が弱い。そんなはずは。

 そうか! 俺が譲渡した魔力量なら、確かにこうなるはずだ──


 だが不自然過ぎる。

 こんな弱い爆圧で何の意味が、これでは試したことに。


 俺は100分の1秒迷った挙げ句。

 模擬結果を無視した。

 何か裏がある──背中を駆け上る霊感をこそ重視!


 深い思考域に沈み込み、魔術を編んで行く。そして脳裏で唱える。 

魔鏡殻(ゲハウルゼ)──囲集(ベラゲルン)


 高速に周波数変調を繰り返す光のかけら、魔鏡片を夥しく生成。

 編み上げた目論見に則り多重並行で接合していく。瞬く間に大きな殻となって、包み込んだ。

 しかし、完全に封じ込めてはいない。適度に穴が残されている


【魔鏡殻──囲集】【魔鏡殻──囲集】

 殻を重ねていく、4層目……。


 !


 内殻第1層に高圧力反応!

 来た!


 予想を遙かに上回る魔界強度の極大値──


 どうやって、あの魔力量で……むぅ?

 疑問が晴れる前に、感知魔術が受ける情報が上書きされていった。


 なんだこの勾配。

 球状に広がるはずの衝撃ではなく、俺に向かう方向だけまるで槍で突くように衝撃が発生している。


 その先鋭化された第1波の後は鈍った反応しか来ない。

 それゆえに減衰された2層、3層に連鎖的に圧力が掛かったが、全て健在。


 ヴォオオオオオーーー。

 上部の逃し弁から盛大に魔力が噴き出し、一気に圧力が下がる。


 爆風を極狭い立体角に集約するとは、考えすらしなかった。

 魔力量が同じでも、密度を上げて障壁を破ろうとしたのか。拳より槍の方が突き通す力が強いのは当たり前だが、それを魔術でか。

 まさに薄氷を踏んだ心持ちだ。


 しかし、敵は俺から吸い取った魔力を使い切ったはずだ。試験はこれで……と思った時だった。


 土塁の方向から猛烈な魔界強度が迫り、驚いて数歩下がった。

 さっきまでの紛い物とは異なる存在感。


 人間、女か?

 銀髪に透き通る肌、端正にして秀麗。ほっそりとした体型に薄衣を纏った姿。

 薄い光の如き翼が背中にある。


 何者だ?

 恐るべき魔界強度を、沸き立たせつつも内に循環させている。


───また会ったな、汝


 念話──


「さて。こんな美形を忘れるとは思わないが」

 いずれにしても尋常な人では有り得ない。

 

───ふふふ、女の扱いに如才がないな、座の高き者よ


「もしかして、砂丘の地底に居た……?」


 ゲドに拠れば聖獣、それもかなり高位!


───血の巡りも悪くない、好みじゃ!


 聖獣の存在を知ってから、八方手を尽くして調べたところ。150年程前、まだこの国が動乱の時代だった頃に存在したことが分かった。

 人の姿を象る聖獣、名はイーリス。


「イーリス……」


───妾を知っておるようじゃな


「ええ」


───汝は見たままの人族かや?


「正直に言えば、余り自信が無いですがね」


───ふふふ、面白きかな……ならば妾と仕合え!


 なっ!


 刹那、紅蓮と燃え上がると、肉迫──地を蹴って避ける。

 熱っ!


 一気に高度を取った有翼人は、旋回し急襲。

 燃え盛る硫黄塊が、いくつも降って来る。

 間一髪で避け続けた火球が、大地に落ちて弾け飛び、土煙と轟音が続けざまに熾る。


光壁(オーラ)!!】


───あぁはっはは!


 戦いは、上を取った者が圧倒的に有利!

 その優位を最大限に生かす攻撃を、次々繰り出してくる。


 やってくれるじゃないか!

 自分だけが飛べると思うなよ──

光翼鵬(アーヴァ・ガルダ)!!】


 重力を遙かに打ち克つ加速で舞い上がった。


───ほほう……飛べるとはな


 火球を錐揉みして避け急迫、そして。


電弧(アーク)!】


───むぉ!


 急降下で回避した対象を逐って、紫電の孤が幾重にも迫る。しかし、空の一角を電光が埋めても、ひらりひらりと身を躱す。

 そして顎門をこちらに大きく開いた。


 炎呼(ブレス)──


 こちらの進路を見越した明橙色の焔が前方を塞ぐ。並々ならぬ火力に急減速して躯を捩る。

 ちぃ……空中戦は、向こうに一日の長があるが──決定的な差ではない!


 いつしか、宙で追いつ追われつ。魔術を拮抗させる競り合いの中、爆炎が空を染め、黒き筋雲が幾何学模様を描く。


 慣性を無視する急峻な旋回の連鎖に、俺は笑いながら慣熟を実感し始めた。

 内なる魔界強度を練り上げていく。


 速度、魔術機動がイーリスを上回り、追い詰める。今だ──


鮮紅炎(プロミネンサ)……・・・


 ふうぅ。魔力が還流して強張った肩から力を抜く。

 俺が停止すると、距離を取ったイーリスも遊弋して対峙した。


───なぜ止めた?


 そう。俺は上級魔術の発動を必中の間合いで中断した。

 地を指差す。


 そこには、大きく手を振る人間が居た。


───くっ、時間か


 イーリスの魔界強度が沈静していく。

 何時の間にか、俺の持ち時間を過ぎていたようだ。


───汝! 妾が超獣であったとしても、止めたかや?


「さあ……どうでしょうね」


───ふん! 任命までに決めておくのだな


 イーリスは、身を翻すと土塁の方へ姿を消した。


「7番様! 2次実技試験終了です!」


   † † †


 2次実技試験の翌日早朝。

 王宮東苑と呼ばれる政庁の一角にある部屋。


「それでは、381年上級魔術師選抜、1次および2次試験の結果を報告致します。なおできますれば本日の御前会議にて、最終結果を上奏したく存じますので、審議委員に置かれましては、ご協力をお願い致します」


 司会の話を聞く者──

 上等なテーブルに着いて聞いているのは5人だ。そしてその背後に木の柵を介したベンチ、つまり傍聴席があるが、そこに3人が座っている。ついでに特殊な制服の人間が6人程がさらに後ろに立って居る。


 沈黙を承諾と受け取った司会は肯いた。

「では、続けます。まず1次試験受験者は15人。同通過者は4人でした、次に……」

「あーーー」


 背後の席で挙手があった。背の高い軍人だ。

「なんでしょうか?」

「その内の軍人ならびに深緋連隊サカラート所属の人数は?」


「はっ、はあ。ええと、軍人は11人。深緋連隊所属は6名です」

「それで、通過者は6人の内の4人ということだな」


「いっ、いいえ。3人です。あっ、あのう。この結果につきましては……」

「分かっている。他言はしない。で? 残り一人は、どこの師団所属かね?」


「参謀次長閣下、あなたはここでは傍聴人に過ぎない。質問は議決が終わってからまとめてすると良い」

 テーブルに着いた上品な紳士が、振り返りもせず窘めた。


 居丈高に質問をしていた軍人は拳を握り締めたが、そのまま黙った。


「でっ、では続けます。2次実技試験受験者は4人。内、不合格判定は2人です」

「ほう、それは喜ばしい。今年は2人も委任判定が出ましたか!」

 中央の席に座っていた審査委員長である魔術師協会総裁テレスターが顔をほころばせる。


 委任判定?

 そう傍聴席から声が聞こえた。

 2次試験で特別審査員から何の宣告もなかったこと、委員の間ではそう呼ぶ。合否を委任されるからだ。


「いっ、いいえ。大変喜ばしいことに、34年ぶりに合格判定が出ました。ラルフェウス・ラングレン殿。15歳です」


「おお、我が協会が推薦した、若者ではないか! やはりな……」

 総裁が破顔して大きく肯く。


「ばっ、馬鹿な! 軍人でもない民間人が合格だと! おかしいではないか!」

 先程の軍人が立ち上がる。


「この会議は軍の会議ではない! 先程も警告した傍聴人には、ご退場頂け!」

「はっ!」

 衛士が、近寄って軍人の両脇を抱えた。


「なっ、私が誰か分かっているのか?! おい! 中佐! 聞こえているのか……」

 そう喚いてジタバタしていたが、無理矢理運ばれていった。


「グッ、グレゴリー殿。よろしいのか?」

 あの参謀次長は、中将だ。軍の階級で、中将と中佐では全く勝負にならない差なのだが。そう心配したのだろう。


「あまりもたつきますと、御前会議に間に合わなくなりますぞ。委員長殿」

「そっ、そうですな。続けてくれ給え」


「はっ! 合格判定のラングレン殿の2次試験の模様を上映致します」


 魔灯が消えると、司会者が居た背後に映像が映し出された。


 そして5分もせずにそれは終わった。


「あまりにも強すぎはしないか」

「信じられん。1分も経たずして魔力吸引が終わり、あの短時間で昇華が始まるとは」

「それより、その衝撃を防ぎ切ったことが驚異だ。前代未聞ではないのか」

「いや例はあるが」

 4人の委員の視線が、グレゴリーと呼ばれた委員に集まる。


 当人は薄く微笑みさえ浮かべていた。

「皆さん。これだけはっきり結果が出ているのだ。時間も無い。決を採ってはどうか?」

 全員が肯いた。


「では、最終判定の決を採らせて頂きます。ラルフェウス・ラングレン殿の合格を是とされる方。挙手願います!」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/03/25 誤字訂正(ID:881838様 ありがとうございます)

2022/02/14 イーリア→イーリス(ID:1907347さん ありがとうございます)

2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)

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