155話 上級魔術師選考始まる
少し前にセンター試験があったようですね。何の受験でも大変ですよね。
小生は筆記試験より面接が余り好きに成れません。
休みの期間というのは、なぜだか普段の数倍の速度で過ぎるように感じる。
館にソフィーが住むようになって、楽しいことが増えたからと言うのもあるよな。
1月下旬となって、まずは彼女が通う基礎学校が始まった。
転校初日は一緒に学校まで行こうと考えていたのだが。ローザが難しい顔をした。
『それは止めた方がようございます』
アリーには、馬鹿兄! 過保護! とか言われると思っていたが、ローザに反対されるとは思わなかった。
『いや、俺は保護者だし』
『手続きは全て終わっています』
確かにな。
『どうして止めた方が良いんだ? 治安も完璧ではないし』
ローザは、ぐっと詰まり、目頭を押さえた。
『パルシェさんを付けているのは、そのためですよね』
その通りだ。
もちろん俺が毎日付いて行くわけにいかないのも分かっている。
『ああ。だが初日ぐらい……』
『いいえ。あなたが一緒に付いていくと、ソフィーさんがいじめられかねません」
はっ?
『いやいやいや。なんでソフィーがいじめられるんだ?』
『あなたは、ご自分がどれだけ有名か分かっていらっしゃいませんね』
有名か。
披露宴の翌日。ギルマスが指摘してくれたように、何紙かの新聞で披露宴のことを書き立てた。
他に書くことは無いのかと言いたい。
問題は、俺の後援にファフニール侯爵家が付いたという記事だ。
スパイラス新報至っては、出席した貴族を取材して、先の侯爵夫人が2人を祝福するという談話を書いた。巧妙にも、”ドロテアさんの次に”とは書いてなく、俺の後援者が子爵家から侯爵家へ格上げしたと、わざと誤解させる書き方がされていた。
そもそも義母上の後援の仕方は、他の上級魔術師、同候補のそれとは違うのだが。いや、まあ館は貰ったけども……なんか思考の方向性がずれた。
新聞で何紙も取り上げる程度の有名人だ。似顔絵も、不本意ながら皆が結構似てると言ってるものが掲載されている。
『有名人の家族はいじめられるのか?』
『転校生という者は、ただでさえ目立ちます。それまでの人間関係を変える可能性がありますからね』
『むう』
『それに、ソフィーさんは、美人でとても可愛い方です……』
うむうむ。
『ですから、それまで上位にいた生徒に対して脅威となりますので、いじめの対象になります』
ならば。
『その対応をし……』
『いえ、大丈夫です。ソフィーさんは、あなたの妹だけあって十分強い子です。一致団結して敵対されない限りは、その人間関係を作り直していけます』
『ああ……』
要するに一致団結させる原因を俺に作るなと言うことだ。
一緒には登校できなかったが、俺は誰にも気づかれないように魔術で姿を消して、基礎学校の校門まで付いていった。
思いの外ソフィーとパルシェの仲が良い。パルシェは甲斐甲斐しく世話を焼いてるし。子供だ子供だと思っていたソフィーも、俺が居ないところではしっかりしてる。ローザが言っていたように大丈夫だと確認できた。
数日経った今日、修学院も後期が始まった。
今日の午前中は、級友達と休み中の話をして、自主研究準備の時限では宿題提出と延々エリザ先生の愚痴を聞かされた。
曰く、院長先生にとても長く説教された……自業自得だな。
曰く、あの料理の所為で、院の食事が不味く感じる……あんた宗教者だよな。
曰く、もっと宿題を出せば良かった……いじめですか?
それから解放されて、ようやく館に戻ってきて、食事を摂って再び出掛けた。
†
「ここか……」
南街区にある、煉瓦造りの結構立派な建物の前にいる。見上げると5階建てだ。
看板が見えた。いくつも懸かっているが。
スパイラス諸組織合同館舎。
商業者ギルド、手工業者協会、薬師ギルド……これ全部の様々なギルドや協会本部が集まっているらしい。
ちなみに。
ギルドは、同業者が自助機関として作った組織だ。だから国際組織もある。
協会は、同業者同士で自己規制させる為に作った組織だ。手が回らない政府の肝煎りだ。
案内板を眺めて魔術師協会を探す。
有った! 4階だな。今日の目的、上級魔術師選考試験の事前面接会場だ。
おお冒険者ギルドも同じ館舎か。5階だな。まあ魔術協会とは繋がりが深いからな。ここにあって当然か。
階段を上って廊下を曲がると、魔術協会と扉の上に扁額がある。入ると受付があった。長机の向こうに、中年の女性が座って居る。
「ラルフェウス・ラングレン様ですね」
まあ、この日時に呼びつけたのは協会だ。
俺と分かっていて当然か。
「はい。そうです」
「では、少し時間が押していますが、あちらの待合室でお待ち下さい。順番になりましたら、お呼び出し致します。今から番号でお呼びしますので、よろしくお願い致します。番号は7番です」
指定された部屋に入ると、ソファがいくつか置かれていて先客が居た。
軍人だ。
しかも、赤白の段駄羅模様ということは、深緋連隊だな。25歳前後だろう、俺と同じ候補か……軽く会釈して別のソファーに座る。
数分経ったが、無言だ。
俺に話しかける気は無いようだ。こっちもにない。
「失礼します。6番の方!」
すっと軍人さんが立ち上がると出て行った。
暇だ……あれやっておこう……。
†
「……さん! 7番さん! ナナバンサン!!」
ああ、俺だ!
視線を上げると、受付の人が真っ赤な顔をしていた。
「済みません。作業に集中してました」
「はぁ……はい。付いて来て下さい」
出して居た研究の書類を、魔収納に突っ込むと案内されて別の部屋に通される。
じりっと耳が鳴る。
静かな部屋だ。
巧妙な魔術を感知したが、構わず中に入る。
だが、思わず足が止まった。
殺風景な部屋に長机があり、3人の男が座っているのだが。その全員が、頭部全体をすっぽり隠す、濃紺の覆面を被っていたからだ。
頭頂が尖り、目に当たる部分だけが刳り抜かれていて、ぎょろっとした眼が目立つ。なかなかの不気味さだ。何だか狂信者集団に見えなくもない。
「このような姿で済まないな。我々は、魔術協会から委託された審査員だ。試験の公平性を担保する為、身元を明かさないようにする措置だ。7番殿。そこに掛け給え」
促されるままに座る。やっぱりこれは面接らしい。
感知魔術で正体が分かりそうな気もするが……止めておこう。
とは言え、なんとなく体型とか姿勢で分かるのだが。
「名前と年齢、現在の職業を答えて下さい。爵位があれば、ああ王国の爵位だけで結構」
真ん中の審査官だ。なんで知っているのに言わせるのだろう。俺が書いた願書を見ているよな。
「ラルフェウス・ラングレン。15歳。冒険者であり学生でもあります。准男爵です」
「よろしい。ではあなたが、上級魔術師を志す理由は?」
「私の祖先が……」
「簡潔に回答し給え!」
隣に座った……軍人だ。口調で丸わかりだ。
「許せぬ超獣を数多く斃す為です」
「ふん! 数多くな……で、上級魔術師になった暁には、軍にでも入隊する気かね?」
「いいえ」
「じゃあ、どうするのだ。都市間転送が使えるからといって、賢者でも従者は数十人必要だぞ。それとも何かね、君は1人でも戦えるとでも思っているのか?」
なんだろう。この人は。俺を軍に勧誘したいわけでもなかろう。
「それは……」
「ああ、君には有力な後援者が居るのだったなあ」
面接なのに回答を遮ったか。なんだろう、この違和感は。
「資料に拠れば、君の後援者は、皆年配女性だな。どうやって誑し込んだのかね?」
むう……音か。
「さあ。この顔を気に入ってくれたのかと思っていますが」
「貴様……、ほんか、私を愚弄する気かぁ!!!」
本官と言いたかったのか?
耳が痛くなるダミ声を上げて推定軍人が立ち上がると、俺を指差して怒りを露わにした。
「使える物は何でも使う。魔術師の基礎的な素養かと思いますが!」
「はあ……7人目ともなると疲れますな」
やっぱりそうか、彼は恫喝役だ。
推定軍人は一瞬で平静に戻ると、撥ね上げた椅子を引き戻して座り直した。
「で? 何時気が付いたね?」
頭が冷たくなって、言葉が浮かぶ。
圧迫面接──
「結界」
「ん?」
「この部屋に遮音結界を張っていますよね!?」
真ん中の面接官に問いかける。
「ああ」
「入るときは、中の内容を漏らさない為かと思いましたが。途中で大音量を発する出来事が予め決まっているのだろうと」
「ほう……」
3人が顔を見合わせる。
「後は、真ん中の方が右側の方を止めないのが、如何にも不自然だなと」
「そうかね。そこまで分かっているなら無用かも知れないが、謝っておく。済まなかった」
推定軍人が胸に手を当てて謝罪してきた。
どこまで役目で言ったかは知らないが、軽く会釈しておく。
「うむ。では、魔術師の最も大事な不動心を持って居ることが証明されたと言うことで」
「異議なし」
「さりとて、虚無思想ではなさそうですな。私も異議ありません」
真ん中の面接官が両側に視線を送ると肯いた。
「では、実技選考へ進んで頂きます。実施日は2月2日です。前日の午後5時までに試験場まで出頭願います。試験場については、受付で地図を受け取って下さい。おそらく10人以上の候補者が実技選考を受けることになるでしょう」
結構受けるんだな。いよいよ来週か。
「上級魔術師選考は人数を絞る作業ではありません。素養がある人全てに上級魔術師になって頂くというのが、基本方針です。他の候補を蹴落としてもあなたが合格するわけではないと憶えて置いて下さい」
「何度聞いても、耳が痛いな」
真ん中と右の面接官が顔を見合わせで、互いに肩を震わせた。
「面接は以上です。お帰り戴いて結構です」
軽く会釈して、面接部屋を辞した。
受付で地図を貰い注意事項を聞いて帰った。
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訂正履歴
2019/06/30 審査官の位置関係を分かるように訂正(ID:496160さん ありがとうございます)
2019/11/10 誤字訂正(ID:209927さん ありがとうございます)
2021/09/11 誤字訂正
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2025/04/05 誤字訂正(大津 水喜さん ありがとうございます)




