15話 出会い
去年転職して、多くの出会いがありました。ただ、もうちょっと,浮いた出会いも……。
追記
2章のタイトルを、幼少年期から、幼年期に変えました。
魔術と剣術を稽古するようになってから2年が経ち、僕は6歳になった。
背丈も1ヤーデン40リンチ(126cm)に達している。同い年の子が周りに少ないので、よく分からないけど、背は高い方と思う。
しかし、僕は痩せてる。
おそらく、身長が10リンチは低い、どちらかと言ったら痩せ気味のアリーより軽いはずだ。
隣に居るアリーは、もう少女って感じでかわいさの方向性が変わってきている。
「ラルちゃん。なんだか川の水が冷たくなってきてない?」
今日も河原に来てる。魔術の稽古は専らここだ。
人に迷惑掛けないし、時々魔獣はやってくるし。あと、鱒とか獲れて、食べたりもできる、なかなかいい場所だ。
もっとも魔獣を狩るなら森に行ったら良いのだけど、おとうさんから基礎学校に上がったらなと言われていて、子供だけでは行ったことはない。でも、もうすぐだ。秋になったら、入学だ。
それはともかく。
夏も盛りを過ぎた。段々昼間が短くなって、アリーが言った通りになってる。
「うん、泳ぐのがきついよね」
「アリーちゃんは泳いでない」
もう下着で泳ぐのは、恥ずかしいみたいだ。
「それよりお腹空いた。もう帰らない?」
「まだお昼には早いよ、ローザ姉も帰ってきてないだろうし」
「だけど、今日は魔獣も出てこないし」
「まあね」
なんか、朝から、ざわざわしてる感じなんだよな。
んん?
あっちか? 上流の方だ。
「どうしたのラルちゃん?」
「何か、臭わないか?」
エーーっと叫んで、自分の匂いを嗅いでいる。
「わかんない! 臭う? 嘘ぉぉ。ここに来る前に、水浴びしたのに」
「いや、アリーじゃなくって、あっちの方から……うわっ!」
流れてきた川の水に、紅い筋が混ざっている。
結構な量だ
上流で何が?
川は右に曲がっていて、見通しが利かない。
「ちょっと、ラルちゃん。何で上へ行くの! 危ないよ! 駄目だよ! あっちは山犬が……」
そう。少し上では、山犬の群れが何度か目撃されている。
「アリーは、ここで待ってろ! 僕は行く!」
「やぁだ! ラルちゃんと一緒に居るって言ってるでしょ!」
その声も、小さくなって行く。結構全速で進むと、ちょっとした滝がある。それを岩のとっかかりを蹴って数歩で駆け上った。
うわっ!
生臭さが一気に強くなった。川の水もあちこち真っ赤だ。
ハウゥゥゥ!!
出た! 山犬──
【風槍!!】
「おっと!」
飛び掛かってきた黒い塊に、狙い違わず魔術が直撃した。風魔術衝撃を集束して貫通力を上げた風槍だが。それが行き過ぎたのか、山犬の勢いは殺されず、そのまま飛んできた。それで僕は避けなければならなかった。
おそらく何が起こったか、分からないまま事切れたはずだ。頭部から河原に落ちて、何度か転がって止まった。
あれは何だ?
数ヤーデン先にさっきの山犬が飛び上がったところに、白っぽい物が見える。
よく視ると青白い、毛のような……毛玉?
仔犬か?
さっきの山犬にやられたんだろうな。無意識に抱え上げる。
「こいつ……」
周りは紅いが、こいつが血を流しているわけではないのか。しかし、冷たい。
死んでるらしい。
それにしても、臭いな。鉄が錆びたような。
濃密な匂いに釣られ、紅い筋を辿って視線を上げると、さらに上流の方、黒い塊が点々と転がってる。
沢山の山犬だ。
そこから夥しい血が流れ出している。いずれも微動だにしていない。
その向こう。黒い塊が見えた。生きている山犬だが、何かに集っている。
ざりっと、僕の足音が聞こえたのだろう。
山犬が何頭かこちらを向いた。
飛びかかって来る。
【衝撃】・【衝撃】・【衝撃】…………
4、5頭吹き飛ばすと、塊に集っていた山犬がこちらを見た。
【去れ!】
集っていた山犬が、尻尾下げてわらわらと散っていった。
だがまだ、そこに1頭残っていた。
デカい。
山犬たちは、精々僕の股の高さぐらいだけど、そいつの体高は僕の肩口、いや背丈よりもある。
明らかに山犬とは違う、やや青みがかった白い4本脚の獣が、震えながら立って居る。
狼──
いや、狼はこんな色じゃない。
もしかして、魔狼か。
そいつが身体のあちこちから血を噴き出しながら、こちらにやってくる、ゆっくりと。
「……ウォ・ォ……ン」
微かな吠え声。
腹が大きく抉れている。
山犬にやられたのじゃないのか?
はっ! この毛色……。
目の前の巨大な獣と、抱えた物の共通点を気にした時、でかい身体が倒れかかって来た。
受け止めきれず、後ろに倒れ込む。
「……クォ……【そ…の子】」
僕は尻餅を付いてしまった。身体を起こすと倒れた狼と目が合う。
【その……子を頼む……】
「何?」
【たの……む……】
瞳から力が消えていく。
「おい! わかった! わかったけど!」
大きな屍は、キラキラと光の塊に変わり、キンっと甲高い音と共に弾け飛んだ。
一瞬遅れて、何もなくなった宙に、忽然と蒼い塊が現れ、墜ちた。岩に当たってこちらに跳ねる。
魔獣──
あの狼は魔獣、やはり魔狼だったのか。
「頼むだと? こいつ生きているのか?」
そう。魔獣は死して魔結晶に換わる。逆に言えば魔結晶になっていないなら、生きている。
僕は、抱えた仔を見た。
確かに息がまだあるようだ。しかし、冷たい。
「分かったよ」
死にゆく者の願いなら、叶えてやれと言うのが、光神様の教えだ。
【治癒!!】
僕の手から、金色の粒子が舞い降りて、魔狼の仔に振り注ぐ。
しかし。
ちぃ、緩やかになっただけで衰弱が続いている。僕は回復魔法はそれほど得意じゃない。
まずい!
死にかけてる! 体温が……上がってこない。
「ああ、ラルちゃん。こんな所にが居た! もう、置いてくなんて酷いよ! って、臭ぁああい!」
振り返ると、アリーが立っていた!
白いスカートを泥で汚すこともかまわず、僕を追ってきたのだ
天の助け!
「アリー、手伝ってくれ」
「なっ、何を持ってるの? ラルちゃん! それ、山犬?」
「違う。魔狼だ! アリーも回復魔術を掛けてくれ」
「やぁだ。あたしは、魔術をラルちゃんにしか使わないんだから」
「そんなこと言うな。頼むから、やってくれ! 後で何でも言うこと聞いてやる」
「えっ! 本当! うふふぅ。しょうがないなあぁ」
【快癒!!】
アリーも右手を翳した。
おおう。凄い!
降り注ぐ光粒子の密度が僕と……違う。みるみる回復していくぞ!。
1分も経っただろうか。
「ふう。もう大丈夫ね」
体温が戻り、呼吸も強くなってきた。安定してきたように見える。
乾いた大きな岩に、仔狼を置く。
「ああ、助かったよ。アリー」
「ふふん。いいのよ。キスでも何でもって言ったもんねって、ラルちゃん、何?」
僕は、石の間に落ちた、蒼い魔結晶を拾い上げた。
「ああ魔結晶……多分そいつの母親だ」
「じゃ、じゃあ、この子は、魔獣? うわーー。魔獣を助けちゃった!」
僕は、拾い上げた魔結晶を透かしてみた。
なんで、僕はお前の言っていることが分かったんだ。
魔狼の言葉? 人の言葉ではなかったのに……。
「あっ! 青い魔結晶、こっちにもあるよ。ちっちゃいけど。わあ、もう1個あったぁ!」
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訂正履歴
2019/01/17 誤字訂正(ID:774144さん,ありがとうございます)
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)