152話 眼に見ゆるばかりが……
眼に見ゆるばかりが世界には非ず……そうだと良いんですが。生憎小生は見たことも、感じたこともないですねえ。
ああ……。
相手がゴーレムだと、どうにも手加減が効かん。
通路の表面が、グズグズになってしまった。
緊急避難だ! 割り切ろう。
再び歩き出す。
過剰避難だと言うヤツには、ゴーレム百体を起動するとしよう。
ふと気になったことを訊いてみる。
【ここができた時代は、ガル達と比べてどうなんだ?】
俺に寄生した残留思念体達が脳裏に現れ応えた。
────古いだろうな
────おそらくな ただ古いからと言って優劣は定まらぬ
エルフ先史文明は古い方が優れている!
俺が、そういう先入観を持っていることへの警告らしい。
直線部分の端まで来た。通路なりに右へ曲がる。
ん?
しばらく歩いていると、意外な物が有った。
左側の壁に、階段が上に向けて口を開けていたのだ。
ここって、さっき降りてきた階段だよな。
そればかりか、通路の前方にはうっすらと、俺とセレナが付けた足跡があるではないか。
右に2回曲がるということは、最初とは逆方向に進んでいるはずなのに、さっき歩いていった通路に、なぜ後ろから合流するのか?
脳が認識を拒絶する。
「ラルフ?」
セレナも気が付いたようだ。
「ここで待っていろ」
「ワフッ」
【光翼鵬!!】
床から1ヤーデン程に浮かび上がると、高速に飛行し、右に曲がり、さらに右に曲がった。
やはり前方にセレナが居るではないか。
急減速して床に降りる。
「なぜ こっち?」
「さあな」
────なかなか面白い趣向だ!
ちっ! ゲドはカラクリを看破したようだ
くそっ!
「もう1回だ!」
「はっ?」
【光翼鵬!!】
右に2度回って、セレナが居る!
まだだ!
1度で駄目なら繰り返してみろっだ!
何度か階段脇にいるセレナと擦れ違って、床に降りる。
「ラルフ 大丈夫?」
「まあな」
そう答えて歩き出す。
「どこ へ 行くの?」
「怪しいのは角だ!」
飛んで曲がっているときに、僅かな違和感が何度もあった。
2周目で気が付いて、3周目で確信した。
この角はなぜ曲がっている?
仮に空間を自由に曲げられるなら、一直線に飛んでいたら元のところに来てしまった、で良いはずだ。その方が驚きが大きいからな。
あと。
曲がるだけなら、直角に曲がるで問題ない。
しかし、この通路の角は緩やかに、半径5ヤーデン位の弧を描いて緩やかに曲がっている。
そういう意匠?
不必要だ。
角に辿り着き、ゆっくりと進むと、やはり微かに違和感があった。
行きつ戻りつ、何度も確認する。
「ここだ!」
【閃光!!】
床に線を刻む。
「ここもだ!」
1ヤーデン弱進んで、線を刻む。
「ここも……ここも……」
数分後。
振り返ると、床には都合5本の線が刻まれていた。
それぞれが、15度程の角度を成している。
「確かに ここ は 変! 前にも 感じた ことある」
セレナは首を捻っているが、正解まであと少しの所までは来ている。
「鋭いな! セレナ。もし、この線が見えて居る角度でなかったとしたら?」
「意味 わからない」
「ああ、済まん。つまり、こういうことだ!」
3本目線の延長線、角の内側に右手を伸ばすと、壁には当たらずに腕が食い込んだ。
左手を振って、そのまま進み壁の中へ入る。
「なんだここは?」
そこは黒かった。
暗いわけではない。
俺自身の身体は、発光もしていないのに鮮明に見えるのだ。
光源がない黒い世界とでも名付けるべきか。
────妾が眠りを邪魔するは何者ぞ?
俺以外が見えなかった場所に、突如紅き焔がうねる
絶え間なく吹き上がりつつも、炎の中に何やら顔が現れ俺を睨んだ。
何者かは知れないが、存在感だけは圧倒的だ。
────応えよ!
「ラルフェウス・ラングレンだ」
────名? 人間か
「ラルフ?!」
セレナの声に振り返ったが、似ても似つかぬ姿。
蒼白い焔だ。
どういうことだ?
────ふん、ここも終いか
────座が高き者よ、再び相見えん
声を出す間もなく、紅き炎が窄まり消え去ると、闇の位相が変わるように世界が昏くなった。加えて発動してあったはずの魔照明が働いた。
俺が居たのは広間だった。
さっきまで居た、通路を引き延ばしたような。
姿を取り戻したセレナが、こっちを見てる。
「ラルフ どうした? ずっと 止まってる」
「いや、焔は?」
「なんのこと?」
幻……なのか。
偽装魔術だったのか、亜空間だったかは分からないが、全く違う場所になってしまった。
「それより あれ……」
「あれ?」
期待と共に振り返ると、大蜥蜴が居た。
見上がるばかりの偉容なのに、感知すらしていなかった。
そいつが徐に顎門を開いた。
禍々しくも朱い焔を吐く──火蜥蜴か。
俺を誰何した紅き者ではなかった。明らかに異なる存在だ。
迫り来る火焔に、腕を伸ばすと至極自然に寸前で阻んだ。
人1人焼き尽くすに過剰な熱量が渦巻いても、俺には及ばない
【氷晶金剛!!】
盾にした腕に皓き靄が渦巻き凍気が迸ると、焔すら刹那に固化した。
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2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)