151話 夜行供一頭
夜行……夜行動するの結構好きです。特に涼しくなって来た位の秋が良いですねえ。
「ラルフ ひとり で どこ行く?」
夕食後。
出掛けようとしたら、ホールの暖炉前で寝そべっていたセレナが起き上がってきた。
「ああ、ちょっとな」
「一緒 に 行く」
そう言うと思ったから、言葉を濁したのだが。
「いや、急いでるんだ。空を飛んでだなぁ」
「問題ない」
はっ?
てくてくと俺を追い抜いて、玄関を出ていく。セレナは、庭まで出て上体を持ち上げると地面を蹴った。
「おお。飛んだ!」
凄い。
何も無い宙を走るように飛んでいる。しかも結構速いぞ。
扉を閉めて追いかける。
「ほぉぉ、いつ飛べるように成った?」
「聖獣 に 成った 時」
そう言えば、このところ喋り方が流暢になってきてる。聖獣になって知能が上がってきているかも知れない。
「そうかそうか。じゃあ、一緒に行こう。ちゃんと城門は通らないといけないから、一旦降りるぞ」
「うん」
東門を出る。
まだ7時前だから人通りもそこそこある。もう春だからな。
路地に入って光学迷彩魔術を行使し、空へ跳び上がる。
空気中の水蒸気が多いのだろう、満月が霞んでいる。
「ラルフゥゥ」
「オワッ!」
体当たりしてきたのを避ける。
何だかとても嬉しそうにしてる。長期休暇の間は色々あって、余り構ってやれなかったからだろう。
それにしても、どういう原理だ? セレナの脚が速く動くと飛行速度も上がる。後日検討するか。
「セレナ、付いてこれるかな?!」
飛行速度を上げると、必死に付いてくる。
「ラルフ 意地悪!」
声も明瞭に聞こえる。
じゃれつきながら飛んでいると、8ダーデン程の距離もあっと言う間に着いた。
「ここなの?」
「ああ、ベルス砂丘だ!」
ベルス砂丘と小さく復唱している。
半年ぐらい前、王都に来た頃は時々来ていたところだ。ここまで来れば流石に人目はない。昼に来ても良いのだが、ソフィーが淋しがるからな。それは、もう少し猶予しよう。
女王大砂虫を葬った中央部を通り越して東の寄りに降りる。あと5ダーデン東行けば、丘陵の扇状地から、さらに高原へと繋がっている。
地中に砂虫の反応は無くも無いが、精々人の背丈くらいだ。放っておこう。
エリザ先生の本で見た印はこの辺のはずだ。もっとも、古地図上では砂丘の東端だったのだが、時の流れと共に高原から流れてきた礫が砂丘を広げ、端からは離れている。
降りるぞと宣言して降下した。傍らにセレナも着地した。
「何 が 有る?」
セレナの言う通り、緩やかな砂の起伏があるばかりで、特に目印に成る物も無い。が、何やら地中には反応がある。
「分からないが、結構大きそうだ」
跪いて掌を、砂面に掌を着ける。
【魔感応!!】
感応領域を下方に指向させ探ってみる。
「金属? 地下30ヤーデンぐらいか。砂が邪魔だな……ああ、セレナ、飛び上がってくれ」
【魔収納!!】
砂が直径150ヤーデン程消え失せる。
突如落差30ヤーデンの断崖ができた直後、雪崩の如く崩れた。もうもうと砂煙が上がる。境界部分に斜面が生まれたものの、中央部分までは及ばなかった。
目算通りだ!
下の方は、意外と水分を含んでいるな。おそらく扇状地の途中で地下に消えている川の水だろう。
直径50ヤーデン程、砂ではない平面は露呈した。
────宿主殿、何やら表面に紋様が見えるぞ!
んん? 暗視するより……。
【魔灯!】
魔光源を出現させ、頭上50リンチ(45cm)に固定すると、明々と謎の構造体が浮かび上がった。
感知した通りだが、金属……何やら合金だな。鉄に錫、ミスリルとかだな。
その上面に何か描かれているようだが、砂が被っているので判然としない。
【光壁!!】
【西風!!】
光る障壁で防ぎつつ、風で残った砂を吹き飛ばす。
────おお、見えるぞ!
幾何学紋様の周囲に蔓草のような有機的紋様
課題書籍にあった構造強化魔術に近い気がする。
再び魔感応を行使して、構造体の中を探る。
ふむ、魔導波が通り難い材質なのだろう、詳細は分からないが稠密な塊ではない。この下には結構大きい空洞が有るように感じる。
────然り! 古代遺跡だ
だろうな。
あの地図に示された印は、今回も正しかったということだ。
まあ、それは良いとして。入口は……分からんな。
穴を開けると、後で叱られるだろうが。この段階で当局に通報したところで、中に入られるようになるのは相当先になるだろうし。俺を入れないようにする可能性の方が高いからな。
やむを得ない、孔を明けよう。
しばらく歩いて、せめて文様を避ける。
【閃光!!】
眉間のすぐ前から発した光線を螺旋状に掃引させると、昇華した金属がもうもうと白煙を上げる。
【西風!!】
金属蒸気が再び付着させないよう、吹き払いながら縦坑を穿っていく。
一気に孔を開けることもできるだろうが、仮にも学者……の卵としては、なるべく壊さないようにしないとな。
おっと!
5分も経った頃、光輪の内側にある殻がずり落ち始めたので、慌てて魔収納へ格納した。
覗き込んだら、空間が空いている。
中に……風で砂が動いている。ここは窪になっているからな。埋まる可能性もあるか。
【地壁!!】
【硬化】
縦坑の周囲に砂堤防を作って、硬化させていく。自分の背丈位まで積み上がった。何だか蟻塚の入口みたいだ。
これ少し風が吹いたぐらいでは埋まらないだろう。
「どうする? 付いてくるか?」
「もちろん」
「じゃあ、穴の周りはまだ熱いからな、触らないようにな! 先に行くぞ!」
縦坑に突入する。
数ヤーデンも降下すると床に着いた。
上からセレナも飛び降りてきた。
「むう」
……少し饐えてる。淀んだ空気だ。
長い間換気したことがないようだな。だが、まあ息苦しくはない。いけそうだ。
辺りを見回すと、そこはやはり広間のようだった。
丸柱が10ヤーデン程の間隔で立っており、それ以外は何も無くガランとしている。
最外殻は金属だったが、内部は他の遺跡と同じように石造りだ。ただ相当な石工技術、建築技術を駆使されている。なめらかな肌理、継ぎ目も隙間無く詰まっている。ナイフとかも食い込みそうにない。
「ラルフ あっち!」
セレナが、何も言わず歩き出した。もう少し観察したかったが付いていく。
その方向が仄かに明るい。
歩いて行くと、床が明るかった。さらに近付くと下へ続く階段があった。
無造作にセレナが降りていく。
5ヤーデンも降りると、セレナが止まっている。突き当たりだ。右と左に通路が開けていた。右は50ヤーデンほど先で緩やかに左に曲がっている。左は同じように緩やかに曲がってる。
どっちに行くかと考えている内にセレナが左に行った。まあ聖獣様の勘に賭けるのも悪くないか。
そう思って間もなくだった。
曲がり角の向こうから、気配とけたたましい足音が押し寄せて来る。
なんだ?
2体が曲がって来る、騎士?
甲冑武者だが、何か色が変だ。板鎧が金属ではない。石でできているではないか。
それらが擦れ合いぶつかり合いながら、耳障りな不快さを増幅させて迫ってくる。
その刹那。
セレナが床を跳ね壁を蹴って、爪が燦めいた。
武者一体が瓦礫と化し、もう一体が体当たりを受けて横倒しとなる。
凶悪な頼もしさだが、残念ながら2体で済む騒音じゃない。
「セレナ、退がれ!」
通路を埋め尽くす程の大群が曲がってきた。
首に喰い付いていた青狼は地を発し、数完歩で俺と擦れ違う。
【衝撃!】
横並びになった武者が、蜂の巣に成って倒れ伏せた。が、そいつらをなかったことにするように、押し寄せて来る。
ふふふ……。
俺は、右腕を持ち上げて歩み出した。
【萬礫!!】 【萬礫!!】 【萬礫!!】…………
角を右に曲がり、さらに魔術を連射する。その度に、騎士を貫通し弾け飛んだ。
何十も、何百体も。
立った者も崩れ落ちた物も、知ったことではない。
耳を劈く轟音が、無数に谺した。
俺を阻む何物も許さず、幾度も幾度も礫を撃ち続け、崩潰させ吹き飛ばし続けた。
やがて遮る物すら無くなり行進が止まった。
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訂正履歴
2021/05/09 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)




