150話 妹とメイド
子供の頃の妹って可愛いですよねえ。まあ思春期を過ぎると差が出てくると思いますけど。やっぱり、護ってやるべき存在と認識するからでしょうか? うーむ。
年末は慌ただしく過ぎ、新年となった。
「お兄ちゃーーーん。入っても良い?」
執務室で古代エルフ語の文書を紐解いていると、薄く扉が開いた。そこからひょこっと可愛い首が突き出る。
「いいぞ。入って来なさい」
「じゃあ、目を瞑って」
「むっ? こうかな」
なんだろうと思いながらも言われた通りにすると、部屋へ入って来た気配した。
「もう目を開けてもいいよ!」
「おおぅ……」
「どっ、どうかな……お兄ちゃん」
ソフィーは、初めて見る服を着ていた。
「うん、可愛いなあ」
立ち上がって、そばまで歩いて行く。
濃紺のジャケットに、同じく濃紺の足首近くまである長いスカートを穿いている。無論着ているのが可愛いソフィーだからというのもあるが、無垢で清楚だ。
「よく似合ってるぞ。ちゃんと貴族のお嬢様だな」
これを着て、基礎学校へ通ってくれ。
「そっ、そう。そうかなあ……」
少し頬を染めながら、スカートをつまんで身を捩る。
「うーん。可愛すぎる。館から出したくないぐらいだ……アテッ!」
「えっ? なんだぁ、アリーお姉ちゃんかあ」
尻を擦りながら、光学迷彩を解いたアリーが現れた。
「えへへ。ラルちゃんと声似てるでしょ!」
「うん、ちょっとドキッとしたよ!」
「今度やったら絞める」
睨み付ける。
「こっ、恐いよ! ラルちゃん。でも、いいなあ……」
はっ?
「いいでしょう! お兄ちゃんに誂えて貰ったんだ」
またソフィーが回り始めた。
年末に、ダンケルク家出入りの服職人に来て貰って、採寸して貰ったが。もうできてきたんだな。
「いいな、いいな!」
アリーが上目遣いで、俺を見てくる。
「自分で稼いでるだろう!」
「アリーちゃんも同じ妹じゃん。お兄ちゃん!」
ローザの妹なのは事実だが、散々子供の頃、姉だって言い張ってたろう!
「あれ? アリーお姉ちゃん。妹でいいの?」
アリーは、ムッと呻いて。
「いいの! いや良くはないけど、作戦だから!」
俺としては意味不明だが、ソフィーとは作戦かあと意気投合している。
「アリーは、ともかく。基礎学校は3日後からか」
修学院より、基礎学校の後期は早く始まる。
「そうだよ」
「じゃあ、ちゃんと仲良くなっておかないとな」
「仲良く?」
「もう1人メイドが来るんだ」
「ええ、そうなの?」
「アリーちゃんも聞いてないよ……ああ、そうか! それで3階の部屋を改築してたんだぁ。で、いつ来るの?」
「今日だ。14時だったから……そろそろ来てもおかしく……おっ!」
2人の視線が、窓へ向く。
「もしかして、あの子なの?」
子って、お前より年上だ。
「思ってたより若いね、お兄ちゃん」
「ああローザと同い年と聞いているが」
「ふーん。若いドワーフか……ソフィーちゃん見に行こ!」
何だか含みがある言い方だな
「うん!」
パタパタと執務室を出て行った。
しばらく飜訳を続けていると、扉がノックされて、マーヤさんが入って来た。
「失礼します。旦那様。お仕事中恐縮ですが、パルシェさんに面談願います」
「ああ。じゃあここへ」
「あい、すみません。皆様お揃いですので、よろしければホールへお越し戴けますか」
「わかった」
腰を上げて部屋を出ると、外出中のサラ以外が揃っていた。
ローザがこちらに会釈する。
すると俺に気が付いたのか、パルシェがこちらを振り返る。
「お久しぶりです。旦那様」
既に、マーヤさんと同じ意匠のメイド服にエプロンを着けて居る。
浅い褐色の肌に、赤毛。俺よりは若干背が低いが、ドワーフ女性らしいがっちりとした体型だ。
久しぶりというのは、1月前に面接をした時に会っているからだ。
「ああ、よく来てくれた」
「はい。力仕事しか取り柄はありませんが、身を粉にして働きますので、よろしくお願いします」
「んーーん。別にパルちゃんに文句はないんだけど、ドワーフのメイドさんって珍しいよね」
パルちゃんって打ち解けるの早過ぎるだろう。
「アリー……メイドに種族は関係ありませんよ」
ローザ。メイド道とやらに関わることになると容赦がないよな。口調は柔らかいが、目が恐いぞ。アリーが小さくなってる。
「ああいえ、私も不思議で。洗濯婦や下働きは経験があるのですが……そのメイドは」
確かにパルシェの職歴の中でも、メイドは上級職だろうし、高報酬なはずだ。
「ウチの所帯はそれほど大きくないからな。家事全般もやって貰うが、パルシェにはソフィー付きを優先してもらう」
「えっ、私?」
ソフィーが目を見開いた。
「ああ、ソフィーが外に出る時は、基本的に同行して貰う。学校の送り迎えもな」
アリーが過保護兄め! という視線を向けてくるが無視だ。
親父さんからはくれぐれもよろしくと託され、過分にソフィーの滞在費用を貰っているからな。これぐらいはしないと。
「承りました、命に換えましても」
いやそこまで期待していないが……ん?
玄関の扉が開いて、サラが入って来た。
「ただいま戻りまし……た? 皆さんお揃いで、何か有りましたか?」
「ああ! サラっち、お帰り! ほら、新しいメイドさんが……」
はあといいながら、サラがホールの中央に寄ってきた。
「「あっーーーーー!!」」
は?
サラと新メイドが同時に叫んだ。互いを指差しながら。
「パルシェ姉ちゃん! なんでここへ?」
サラは結構取り乱している。
「メイドとして雇われたの」
「姉ちゃん……なの? サラっちの?」
「あっああ、姉ちゃんと言っても、従姉なんですけど」
ほう……。
ローザを見ると、首を振ったので彼女も知らなかったのだろう。
「で、サラちゃんは!?」
「ああ、ラルフ様のクランに入れて戴いて。このお館へ住まわせて貰っているんです」
「パルシェさん!」
「はっ、はい! マーヤさん」
パルシェが一瞬で直立不動の体勢になる。
「ご親戚のようですが。サラ様は、旦那様の御客人です。尊称でお呼びするように!」
「うっ、承りました!」
ふーむ。サラに輪を掛けて真面目なようだ。
「しかし、5年前に王都へ行くって隣の自治村を出て行ったけど、まさかここでパルシェ姉ちゃんと会うことになるとは。しかし、メイドさんって……ププ……」
サラの肩がヒクヒクと震わして。笑わないように我慢している
「何々、パルちゃんはメイドさん向いてないの?」
「いやあ、隣村のパルシェ、ウチの村のヴィドラとが2大ガキ大将として鳴り響いてましたから」
「ちょ、ちょっと……ああ……昔の話です」
パルシェの褐色の顔が紅くなった。
「パルシェ姉ちゃんがメイドさんかぁ。うんうん」
何を納得したかは分からないが、何度も肯いている。
「そうかあ、戦闘重視のメイドさんってことだね!」
「アリー!」
ローザは窘めたが、彼女にメイド追加を依頼した時の選考条件の第一は腕っ節が強いことだ。マーヤさんとは異なり、ダンケルク家経由ではないところで探して貰ったのだが、まさかサラの従姉とはな。
「お兄ちゃん、ありがとう」
ん?
ソフィーがニコッと笑った。我が妹ながら賢い。
「パルシェお姉ちゃん。よろしくね」
「はい! ソフィア様。こちらこそよろしくお願い致します!」
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訂正履歴
2019/01/12 パルシェさんにお目通り下さい→パルシェさんに面談願います
2021/04/14 誤字訂正(ID:668038さん ありがとうございます)




