149話 お使いと出会い
何だか馬が合う人って居ますよね。小生の場合、大体は意外なところに居て驚きますと共に、すぐ別れることになって残念って場合が多いのですが
ソノールで貰ったばかりの査証を使って、王都内郭に入った。スワレス伯爵領上屋敷へ乗り合い馬車で向かう。所在地は西地区だ。ちなみに区割りの呼称は、王都の内郭では地区、外郭では街区となっている。後者は密集しているから言葉通りだと思う。
内郭は都市計画がしっかりしており、地区ごとに土地の用途が決まっている。
中央および北地区が王宮や公爵を含む王族の屋敷、南地区が政府本庁、東西地区は侯爵以下の大貴族屋敷や教会などが多くを占める。
「ここか……」
衛兵に身分証を見せて通用門から中に入る。奥には伯爵様ご一族が滞在時に使う邸宅があるが、俺が行くところはそこではない。同じ屋敷内にあるスワレス伯爵領の機関だ。王都にある出張所と言うべきか。
屋敷を巡る塀の中に入ると、建物がいくつも建っていた。ここは内郭にある拝領屋敷だ。土地は限られているから、密集度は外郭並みだ。
そうなのだ。
俺にしてみれば広大なスワレス伯爵領だが、王国からして見ればそうでもない。王都以外の領主は、侯爵領が5家、主に国境付近に封じられた辺境伯領が12家あり、スワレス伯爵領はその下の50家以上ある伯爵家の中でやや大きめと言う位置づけだ。
受付に行くと、予め話が通っていたようだ。
15分程待っただけで、出張所の長である参与と面会できた。応接に通された。
「やあやあ、お待たせしたな。ラングレン卿」
未だに卿って呼ばれると違和感がある。
立ち上がり、胸に手を当て敬礼する。
「オルディン参与様。初めてお目に掛かります」
オルディン・スワレス男爵。
伯爵様、スワレス伯アンドレイ様の実弟、30歳前後でがっちりとした体型だ。
「ははは。同じ男爵同士だ。そう畏まらずとも良い。先日ソノールで結婚されたそうだな。おめでとう」
「ありがとうございます。伯爵様にもご出席戴きました。それで……ソノールから預かって参りました」
伯爵様の親書を手渡す。
「ご苦労でした。これは後程……まずは掛けられよ」
ソファを勧めてくれたオルディン殿は、敬意を表するように封書を軽く目前に掲げると、傍らの机上に置いた。
伯爵家の一族でもなく、領政府の役人でもない俺達が、都市間転送を使うことができた名目は、この封書を運ぶ為だ。
一応親書には何か書いてあるのだろうが、さほど重要でないことに違いない。などと考えていると──
「うーむ……」
彼は、まじまじと俺の顔を見ていた。
「あーいや、失礼。それにしても、主査と目元がそっくりだな」
「はあ」
親父さん似なのは、よく言われることだ。
逆にオルディン卿は、伯爵様にはそれほど似ていない。兄は母親似、弟は父親似だそうだ。
「主査には、幼い頃乗馬やら槍術を習った」
へえ……。
親父さんは、伯爵様の学友とやっていて、まあ実質は世話役だったそうだが、伯爵様に乗馬を教えたとは聞いたことがある。その頃に彼にも接点があったのだろう。
「ふーむ。だが口元はルイーザ殿に似てるな」
「母をご存じなので?」
「ああ、ルイーザ殿は才媛でな。ソノールでは有名だったぞ。20年位前の話だが。あの2人の子がなあ。もう成人だものな。私も歳をとるはずだ……ああ、すまんすまん。話しがずれたな」
「いえ」
どちらかというと、ずらしたのは俺だ。
「失礼します」
参与様の従者だろうか。俺と同年代の少年が、茶を持ってきてくれた。カップを置いて──なんだか、じっと俺を見てというか、睨んでいたようだが視線が合うとすっと逸らし、参与様の前にも茶を出して部屋を辞していった。
「ふふふ……」
「はい?」
「ああ、いや。卿は知らんだろうが、彼は卿と同い年だ」
「左様ですか」
察しは付いていたが。
「うむ。子爵の子でな、優秀なやつだ。スワレス領の麒麟児を自認して王都へ来たが、ポッキリと伸びた鼻を折られてな」
「はあ……」
何の話だ?
「ふふん。彼の鼻を折ったのは、他ならぬ卿だがな」
「はあ? いや、初対面ですが!」
どうやって折るというのだ。
「そうだな。確かに卿は彼に何も関わっていない。だが、彼にしてみればだぞ。夢を膨らませ勢い込んで王都に来てみれば、名も知らぬ同郷の少年が突如現れて大魔獣を斃して人々を救い、新聞に取り上げられて王都の話題を掠い、他国の王族に気に入られて男爵位を貰い……噂に拠れば、すばらしい美女と結婚したというわけだ」
「なにやら、私が恐ろしい程の幸運児のように聞こえますね」
「そうだろうな。調査結果に拠れば、卿は天稟の才も有っただろうが、幼少期より修行に明け暮れ、現在の魔術師の実力を蓄えたとある」
調査……わざわざ俺を調査したのかと訊きたくなる。
「しかしだ。結局、他人というのは、都合の良い物だけしか見ないのだ」
ほう。面白いことを言う人だな。
「その最たる者が、さっきの者だ」
「よくお分かりになりますね」
「うむ。分かるさ。子供の頃には、なぜ私は次男なんだ、どうして嫡男に生まれなかったなどと、嫉妬に灼かれたものだからな……」
へえ。
「伯爵の一族に生まれておきながら、下らないことを考えたものだろ。その癖、元服してから兄上の働きぶりを見るにつけ、恐れ戦いて、心から次男で良かったと思い知った体たらくだがな」
うーむ。オルディン卿の浮かべた笑みには、毒が見られない。言った通りなのだろう。
「不思議だな……」
「はい?」
「卿とは、初対面なのに、なぜか多くを語りたくなる。人徳だな……。ああ、また話が逸れたな。言いたかったのはだ。卿のように多くの喝采を浴びる者は、同時に多くの妬みを受ける存在だと自覚が必要だと言いたかったのだ」
「はあ……」
「近々、上級魔術師選抜試験を受けるそうだな」
「はい。およそ2ヶ月後に受けます」
「では。その試験における非軍人の合格率が、軍人と比べて著しく低いことは知っているかね」
ダノンさん他から聞いている話だ。
「はい。士官学校にて上級魔術師が養成されているからと聞いていますが」
オルディン卿は何度か肯いた。
「表向きはそうだが、実際のところはどうかな。非軍人では卿も所属する冒険者ギルド員が多い。つまり、魔獣との実戦経験では必ずしも劣ることはないと思うが」
個々人では負けてないと言いたいのか? もちろん受験者数は、圧倒的に軍人、しかも士官学校卒業生が多い。
「つまり、組織的な差と仰りたいのですか?」
「ああ。非軍人が不合格となるよう軍人受験者に命令している……などと言うことは流石にないと思うがね」
命令はなくとも異分子たる非軍人受験者を優先して排除しようとする、活動がないとは言えないということか。確かにな、冒険者風情に負けてたまるかとか思いそうだ。
「分かりました。気に留めておきます」
「うむ。これは卿に話すか迷ったが……兄上は相当卿を買っている。それは知っているだろうが、他の領主にも卿へ肩入れをしていることは伝わっている。済まんが……」
俺が不合格になれば、伯爵様に恥を掻かせることになる訳か。
「必ず合格するとは申せませんが、微力を尽くします」
「うむ。兄上だけではない。王都屋敷上げて支援させてもらおう。無論合格後もだ!」
「ありがとうございます。では、早速で恐縮ですが、お願いがあります」
「ああ、なにかな」
「1月15日に王都でも披露宴をやるのですが、ご出席戴けないでしょうか?」
「私か?」
「はい。是非に」
義理とか建前で呼ぶのではなく、本気で来て欲しいと思ったからだ。
オルディン卿は少し考えた。
「妻も連れて行っても良いかな」
「もちろんです」
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訂正履歴
2021/09/11 誤字訂正
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)




