148話 再び王都へ
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
今話から、8章開始です。
狙ったわけではないのですが、148話は帰省からのUターンです。
「では、王都へ戻ります」
玄関で、親父さんが酷く落ち込んでいる。
もちろん俺が王都へ帰るから、ではない。
娘であるソフィアを、俺が連れてここを離れるからだ。
「うむ。ああ、ラルフ。やはり出立は……夕食を食べてからにしないか? 元々予定では」
いや、親父さん。
そんなんでソフィーが嫁入りする時どうするんだ。順調にいくと10年もしない内に、その日はやってくるぞとは思ったが。よく考えると、親父さんにしてみれば、嫁入りとさほど変わらないのか。夫になる男が存在しないだけで、離れて暮らすことになるからな。
そう考えると、さっきから親父さんがちらちらと恨みがましい視線を俺に向けて居るのは……いやいや、俺はソフィーの夫じゃないから! 仮想敵にしないで下さいよ!
「あなた! ラルフは、例の物もお預かりしたんですから、そうは行きませんよ」
玄関には、お袋さんと妹も居る。
「あっ、ああ……そうだったな」
「ソフィーも早く王都へ行って、慣れた方が良いわよね」
「うん!」
なかなか残酷な母娘だ。
「ラルフ。くれぐれもソフィーのこと頼んだぞ」
「はい。承りました」
親父さん。俺はソフィーの保護者ですから。そんな顔しないで下さい。
「ソフィー、今からお兄ちゃんの言うことを、ちゃんと聞くんですよ」
「もちろんです! お母様」
対照的に、隣に居る妹は晴れ晴れとした笑顔だ。
そんなに王都が良いかねえ……。
「では!」
†
あっさり王都に着いた。
1時間程前にシュテルン村を出たばかりなのだが。
領都ソノールから王都スパイラスまで400ダーデン(360km)の道程。行きに2日掛かったが、帰りは一瞬だった。
なぜか?
伯爵様のご厚意で都市間転送を特別に使わせて貰ったからだ。
厳重な警備を抜けて転送場に入ると、係員と大理石でできた2本の柱が立っていた。
無論柱は魔導具だ。
それらの間に張られたまるで膜のような揺れる面を通り抜けたら、その先は王都だ。
係員に、伯爵様から頂いた許可証を渡すと、確認し始めた。少し間があったので発動している術式を読み取る。長かったが読み取れたので、今度研究してみよう。
係員が転送を認めたので、柱の前に進む
迷宮の転送門とは違って、一定期間空間を繋いでいるらしい。柱の間は少し違和感はあったが、特に何事もなく通り抜けると、別の部屋だった。
俺の後を、セレナと人間4人が付いて転送されてきた。
皆、部屋の様子の差異に戸惑っていたが、正面の垂れ幕にスパイラスへようこそと書かれているのを見つけて感激していた。ソフィーの転入手続きもその場で済ますことができた。流石は大貴族向けの施設だけのことはある。
王都転送場は南門からやや東にあったので、そこから辻馬車を拾って、王都館に着いた。
おっ! 屋根裏階に複数の男が居る。
盗賊の類いでない。
それを見ている内に、アリーが玄関で魔導ベルを鳴らし、マーヤさんが出て来た。
「まあまあ。アリーお嬢様! 皆様もお帰りなさいませ。お早いお戻りで」
俺達を見て驚いている。
ここを出掛ける前には、明後日に帰ってくると告げてあったからな。
「たっだいま! マーヤさん。転送ってのを使って、一瞬で着いちゃったんだよ! ソノール土産を買ってきたからさあ、後で一緒に食べようね!」
「てんそう……ですか?」
やはり一般人は都市間転送を知らない。この間までアリーも知らなかったからな。
玄関から中に入る。
「ただいま」
「ああ、旦那様。奥様、お帰りなさいませ」
「うむ、予定より早くなって、悪いな」
「とんでもございません」
「ああ、紹介しよう。妹のソフィアだ。こちらはメイドのマーヤさんだ」
ここを発つ前に、ソフィーの件は説明してある。
「まあ、何てお可愛らしいのでしょう。ソフィアお嬢様よろしくお願い致します」
「うん。こちらこそよろしく」
ちゃんと挨拶ができたので、頭を撫でてやる。
「ところで旦那様。屋根裏の工事がまだ終わっておりませんが……」
申し訳なさそうにする。
「うむ。だろうな」
さっき屋根裏階にいた男達は、その大工か職人だろう。
「ですが、大工仕事は概ね終わり、後は内装だけと聞いておりますので、それ程騒々しくはないはずですが」
「ああ、問題ない。気にしなくて良い」
ほっとした顔になったが、再び眉を上げる。
「ああ! そうだわ、夕餉のご準備! 材料がございません、今から買いに行かないと」
「マーヤさん。向こうで食材を沢山頂いて来ましたから、大丈夫です」
「そうですか、奥様。それを聞いて安堵しました」
ん? ソフィーが俺の腕をがっちり取った。
「ねえねえ、お兄ちゃん。私の部屋は?」
「ああ、冬休みに使った部屋だ。一緒に行くか」
「うん!」
ぎゅうと腕を組んだままだ。
うーむ。こんなに甘えん坊だったか? まあ良いか。食材が入った魔導鞄をローザに渡す。
2階に昇り部屋に案内する。
「わあぁ。この前と違う!」
やっと腕を放して、小走りで中に入って行った。
「机に椅子も。新品だぁ! お兄ちゃん。ありがとう」
ソフィーが来ることになって、買っておいたのだ。
抱き付いてきたので、頭を撫でてやる。
相変わらず可愛いなあ。
「しっかり勉強するんだぞ」
「うん」
そうかそうか。
気配がしたので振り返ると、扉の所でアリーがゲンナリしてる。
「ああ、ソフィーちゃん。お隣さんだね、よろしくね」
「うん。アリーお姉ちゃん。よろしくね」
「よーし。暇なときには、勉強教えて上げるよ」
ソフィーが、えっという顔をする。
「ああ、見掛けと違って、アリーは賢いから大丈夫だぞ」
「そうそう……ちょっと! 見掛けと違うってどういうことよ、ラルちゃん!」
「いつも抜けてるように装ってるだろう!」
「装ってなんかないわよ、失礼ねえ! それはともかく。3階がちょっとうるさいんだけど。工事ってどういうこと? サラっちの実験室でも広げるの?」
「ああ、内装工事だ」
「内装?」
「屋根裏の2部屋をぶち抜いて1部屋にしたからな」
「えっ?」
「いつまでもマーヤさんに通わせる訳に行かないだろ」
もう少し同居人を増やす予定だからな。
それには2階部屋だけでは足りない。
だが屋根裏部屋は、狭い上に内装も殺風景すぎだった。だから7月の入居時点では、屋根裏部屋にメイドを住まわせないと決めたのだが。それを改善して住めるようにするのが今回の工事だ。
まあ、屋根裏だけで済ます気はないが。
「やったあ。じゃあ。マーヤさん、夜も居てくれるんだ」
「ああ。だが、深夜にアリーの酒のつまみを作らせるためじゃないからな」
「えっ……いっ、嫌だなあ。そんなこと思ってないから、思ってないよ!」
目が泳ぎまくってる。
「お姉ちゃん、わかりやす過ぎるんだけど」
「もうーーー! ソフィーちゃん。ああ、だけど。そんなに派手に改築なんかしちゃって大家さんの方は大丈夫なの?」
「問題ない!」
「……なら良いけどさ!」
そう言いながらも、アリーは納得していない顔だ。
「さて、出掛けないとな」
「えーーー。お兄ちゃんと一緒に遊ぼうと思ったのに」
「またな」
魔収納からソフィーの荷物を出してやり、部屋を後にした。寝室に戻り、自分の分の荷物を出していると、ローザが入って来た。
「お召し替えを」
「ああいや、このまま出掛けてくる」
まだ14時過ぎだからな。
「上屋敷ですか」
「ああ、夕食までには戻る」
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訂正履歴
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)