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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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146話 単独潜入

用が無いから行かない……ではなく、普段意識はしてないけど足が向かないという場所が有ったりしませんか? 私はないんですけど。どうやら父母には有ったみたいです。



 館に戻り。朝食を摂った。

 ローザの母であるマルタさんと義父のボースンさんとも、しばらく話をした。

 昨日館に泊まって貰ったのだ。


 改めて、ローザを頼むと言われたが、これから超獣に挑んでいくつもりなので、できる限りのことをするとしか答えられなかった。

 マルタさんは、流石坊ちゃんは真面目ですね。でもそこもローザが気に入っているところでしょうと言って帰って行った。

 アリーとサラの反応が、館内に無いので訝しんでいると、セレナを連れて村を回ってみると散歩へ出かけていたそうだ。

 居間に戻って、親父さんと話していると、ローザがお茶を淹れてきてくれた。


「お義父様、父と母のために馬車を雇って頂き、ありがとうございます」

「いやいや、当たり前のことだよ。マルタご夫妻は、我が家の2重に親戚だ。とにかく遠慮する事はない」

「はい」

 眉を小刻みに震わせて、面を伏せた。

 親父さんは、にこやかに茶を喫する。


 ローザは一息吐いて、こっちを向いた。

「あなた」

「ん?」

「突然ですが、領都のお館に行きたいのですが。よろしいでしょうか?」

 一昨日まで居たのに、行きたいのか? 


「ああ、かまわないが……」

「なんでも、お義母様がお婆様から呼ばれていたそうで」

 やはりな。

 彼女の意思ではなく、お袋から付いて来いと言われたわけだ。俺が嫌がったら、言い出さなかったんだろうなあ。


「では送っていこう」


「ああ、いえ。馬車はお貸し頂きたいのですが。御者はサラさんが引き受けてくれました」

「そうか。では玄関へ出しておく」

「ああ、ローザ。では館に誰が残るのかね?」

 親父さんが見上げて尋ねる。


「あのう。お二人とイネスさんだけです」

「なんだ、ソフィーも行くのか」

 語尾が淋しそうだ。


「はあ」

「ああ、悪い悪い。行って来なさい」

「はい。では失礼します」


 部屋を辞していった。


「うーん。ラルフがうらやましいなあ」

「何ですか?」


「いやあ、ここだけの話。ローザが居なくなってから、なかなか旨い茶が飲めなくてなぁ」

 そりゃあ、ここだけの話だよな。お袋さんの料理の腕は、それなりだ。

 というか、貴族家の女子の多くがそうらしい。まあそれでも困ることはないのだろうけれども。

 ん……なかなか?


イネス(新メイド)さんはどうなんですか?」

「うむ。そこそこだな。ああ、ソフィーが結構旨いんだ」

「ほう。そうですか」


 そう言えば、王都へ移る前にローザから手ほどきを受けていたな。だから、お袋へも……教えないよな。お袋から教えろと言わない限りは。


「無論ローザ程ではないし。なかなか淹れてくれなかったが」


 過去形……明後日には王都に向かって発つからな。

 親父さんには、なんだか申し訳ない。責任はないはずだが。


「さて。俺も出掛けます」

「そうか。まあ、私もやるべきことがあるからな。また夜にでも話そう」


     †


 魔術で容貌を変え、変装用に古着屋で買ってあった服に着替える。

 以前サラも商人にしか見えませんと、賛辞を貰った服装だ。


 飛行魔術は便利だ。30ダーデン(27km)の道程も1分も掛からず、他領へ差し掛かる。平地がちな地勢だ。ところどころ林が途切れた所があるが、聞いていた石切場のようだ。地面は所々白く見えるとこから見て石灰岩質のなのであろう。


 丘の上に、白亜の壁に屋根が蒼い建築が見えてきた。

 あれが男爵の館か。スワレス伯爵の城とは比べるべくもない規模ではあるが、なかなかの構えだ。

 擁壁の内側に、人が屯って居るのが見えた。


 ん……あれは?

 館の向こう、3ダーデン程。林が大きく切れ地面が剥き出しになっている場所がある。


 むぅぅ。

 直径150ヤーデン程のすり鉢状の大穴が開いてる。

 石灰岩や大理石を採掘する地下坑道もあったそうだから、落盤でもしたか?

 いや、違うな。なにか内から外へ擦過痕が見える。まるで爆発。


 もしかして、ここは……。


     †


 館にある町に降り立った。

 町を囲む防御壁もないので、そのまま町に入った。


 閑散としているな。

 人気のない路地裏から目抜き通りに出てきた。


 エルメーダの町。

 上空から見る分には結構町並みが美しく、こじんまりとはしているものの男爵領領都としては申し分のない様子だったが。間近に見てみれば物寂しい。

 午前10時過ぎなのに、人通りがまばらだ。


 以前は商店だったのであろう道沿いの石造りの建物は、窓や扉に荒い板が打ち付けられ、営業している様子はない。ざっと3割から4割方はそんな感じになっている。店が閉まることは、ソノールやスパイラスでもなくもないことだ。ただ有数の通りに面した空き店舗は、すぐに次が埋めるのだが。


 とりあえず、館の方へ行ってみよう。

 むう、歩きづらい。

 石畳の街路が、うねっているからか。公共工事が行き届いていない証拠だ。

 あちこち傷んでいる……では済まず、所々路面が沈下して穴になってる。ああ、この穴は大きいな。


 スワレス領都にはない光景だ。名君の誉れ高い伯爵様のお膝元と比べるのはどうかと思うが。それにしてもな。


 行き交う人々の身なりへも反映されるのか、心なしか荒んでいる気がする。通り掛かりの余所者は、さっさと通り抜けるが吉と寄り付かなさそうに見える。

 なんだろう。今は関係なくなってしまったが、我が一族の産土(うぶすな)の町と意識すると、他人事のはずの俺さえも落ち込ませる。


 町の中心はあっちか。

 道を渡っていると、前から荷車から来たので足早に道端に避ける。


 ガッッダン!

 後ろで衝撃音が来た。

 振り返るとさっき眺めていた道の穴に、こちら向きの荷車が片輪を落としていた。さっき擦れ違った荷車がさらに向こうへ進んでいるところ見ると、落ちたのは違う荷車か。牽いているのは50歳絡みのおばさんだ。


 うーむ。俺と擦れ違った荷車を避けようとして、穴に落ちたのか。

 おばさんは抜け出そうと懸命な様だが、車輪が持ち上がる気配はない。その上。誰も足を止めることもなく、足早に通り過ぎるだけだ。


 俺とも関係ない。

 いや。さっきの荷車は俺を避ける為に少し中央へ寄ろうとしたような気もするな。


 荷車、重そうだな。

 梯子状の木枠の真ん中に車軸が通ったよく有る形態。それに粗く製材された材木が堆く積まれていた。自重込みで、ざっと500ダパルダ(370kg)というところか。

 よく横転しなかったな。絶妙な釣り合いで留まっている。これは女の力では持ち上がらないな。


「大丈夫ですか?」

 春には程遠い気温なのに結構汗を掻きながら唸っている。

「あっ、ああ」


「ああ。手伝いましょう」

 低めの声を掛けて、目を丸くする女性の横を通って後ろに回る。


「良いですか……行きますよ! うーん」

 本当は余裕で持ち上がるが、怪しまれないように、わざとらしく声を上げてゆっくりと持ち上げる。

「おおう! 上がっとる」

「ゆっ、ゆっくりと押しますからね!」


 衝撃が掛からぬように気を配りながら路面へ戻した。荷車の前に回る。


「どなたかは存ぜぬが助かった。すまんかったのう」

「ああ、造作もないことです」


 じっとこちらを見る。

「いっやあ。大した力じゃ。持ち上がったときにはびっくりしたわ!」


「今じゃ商人をやってますが、これでも昔は人夫をやってましたからねえ……ああ、この道は難儀でしょう。私はこれからお館の近くまで行きますが、方向が合っていれば引っ張っていきますよ」


「あらまた、驚いた。お館へ上がるつもりだが……こんな婆に情けを掛けても、良いことなど、何一つねーぞぅ、あはは」

 皺が深い顔で笑った。


 車夫を代わり、道を進む。


「ふーむ、随分車牽きも達者じゃな。儂ゃあ、フアナと言うが。あんた、名前は?」

「ヒューゴと申します」

「品良い喋り方じゃのう。まさか王都の出かの?」

「まあ……王都ではないですが、その近場です」

「ふーん、道理での。お館には何のご用じゃ?」


 結構口数が多いな。悪くない。


「ええ。折角男爵様のお膝元まで来たので。土産話にひとつ、お館でも見物していこうかと」

「はっ! 確かに見てくれは悪くないからのう」

 さっき上から見て、俺もそう思った。


外見(そとみ)……ですかぁ」

「そうじゃ。じゃが、住んどる(もん)があれではの」


「そっ、それはご領「声が高い!」」

「ああ、すみません」

「いやいや儂こそ悪かった。まあ、どこにでも(おもね)る者が居るからの。ああ、何じゃったか……お館の話じゃった。儂の爺様の頃建ったお館じゃからな。良いはずじゃ」


「と言うと?」

「何、3代前の先代は、違うご一族だったんじゃ。それはそれは良い男爵様だったと聞いて居る」

「へえ。そうなんですね」

 俺の4代前の先祖(高祖父)のことだな。


「昔の話じゃで、儂も聞いた話じゃ。ここにおっとろしい魔獣の親玉が出た時に、合力を北隣へ頼んだが間に合わんでの」


 北隣と言えばバズイット伯爵領──

 商店の並びがまばらになって、歩く人とも距離が開いた。男爵館に向かって、緩い上り坂となる。


「で、その人は……?」


「ああ、ラングレンと仰っての。あっちの方にダダム孔という、それはそれは大きな穴があるのじゃ。そこへ親玉を誘い込んだんじゃが、火を噴いてな。倅や多くの仲間と一緒におっちんだんじゃ」

「それは……」


「だが、その親玉もそのまま消えたそうでの。お陰で、町や多くの人間……儂の爺さんも助かったんじゃ」

「ふーむ。偉い人も居たもんですねえ」


 フアナは大きく頷いた。

「そうじゃ、今とは大違いじゃ。数十年景気は悪いままじゃ……ここだけの話だが」

 声を落として、顔を寄せてくる。

「前の御領主様が……あんまりにも立派じゃったから邪魔じゃったぁ、とは口さがない巷の噂じゃ」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2018/12/22 誤字脱字、細々訂正

2019/08/03 内部コード乱れ訂正

2021/02/14 誤字訂正(ID:2013298さん ありがとうございます) 

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 跡継ぎまで巻き添えにしてその後の領地が荒れている原因の一つなのであまりいい領主とは言えないのでは?
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