143話 帰郷
───夜はイベントがあるので、早め投稿です───
普段気にもしないのに、久々に故郷に帰ってくると、「そうだった! ここで生きてたなあ」と感慨深くなるのはなぜなんでしょうねえ。
春休みになった。
王都での披露宴の準備はどうしたものかと考えて居たが、比較的容易に終えることができた。今回もまた義母上に大きな借りを作ることにはなった。
が、親に何の遠慮がいるかと言われたし、相当に嬉しそうだったので多少は気が楽だ。
休みの初日早暁に、王都を発った。
ゴーレム馬車に乗る一行は、俺、ローザ、アリー、サラの4人とセレナだ。まあ御者台にはレプリーも居るが。
王都へやって来たときは、駅馬車ということもあり4日掛かった。しかし、今回スワレス伯爵領都に着いたのは、翌日の日没後まもなくだった。
シュテルン村には向かわず、今夜は爺様の館に泊まれというのが、手紙で届いた親父さんの指示だ。
館に馬車が滑り込むと、中から少女が飛び出してきた。が、見知らぬ男が御者台にいるのを見て足を止める。
レプリーが降りて扉を開ける。
「あらソフィーちゃん。こんばんは」
「アリーお姉ちゃん……おかえりなさい。ああ、お兄ちゃん!」
満面の笑みでソフィーが迎えてくれた。思ったより機嫌が悪くない。
事前に今日こちらに着くとは手紙を出しておいたが。
「おお、ソフィー。こっちに来てたのか、ただいま。ああ、ちょっと待て」
馬車の奥からローザが出て来たので、手を取って降ろす。
振り返って、よしという顔をしたら、ソフィーが飛び付いてきた。
「お兄ちゃん、おかえり」
抱き留めて軽く一周回る。
「ああ、ちょっと大きくなったか?」
「そうだよう。もう淑女だもん!」
ん? 深く考えないようにしよう。
そうこうしている内に、玄関の奥から父母が出て来た。ソフィーを降ろす。
「ただいま帰りました」
「お義父様、お義母様、お出迎えありがとうございます」
「うむ。良く帰って来たな。ローザもアリーもな」
「お帰りなさい、みんな。ああ、サラさんもいらっしゃい」
サラとセレナが降りてきた。
親父さんが、おっという顔をする。そうか、お袋とサラは会ったが親父さんとは初対面か。紹介を……。
「ラングレン様、ルイーザ様」
紹介する前にサラが自分で歩み寄って、親父さん達に挨拶する。
「ラングレン様には、お初にお目に掛かります。ラルフ様のクランに居りますサラスヴァーダと申します。サラとお呼び下さい」
「うむ。サラさんか。よろしくな」
「はい!」
全員が降りて、レプリーが馬車の扉を閉め、こちらへ挨拶した。
「彼は? 従者を雇ったのか?」
「いえ。ゴーレムです」
「ごっ、ゴーレム……だと?」
「ええ、馬もですけど」
「なんと……」
「明日にでも、じっくりご覧に入れます」
「あっ!」
レプリーも馬ごと馬車も、消え失せた。魔収納へ格納したのだ。
「いやあ、人間にしか見えなかったが……」
「うっわぁああ、セレナが喋った!」
皆が馬車が有ったところに気が行っている時、素っ頓狂な声がした。
「どうしたの? ソフィー」
「お母さん、セレナが喋ったの!」
「はあ、何?」
「奥様 こんにちは」
「……えっ……」
お袋さんが困った顔をして、俺の方を見た。
「ラルフの悪戯よね」
「いいえ」
「ラルフ 喋られるように してくれた」
「本当にセレナなの?」
「はい」
「うわーーー」
「ああ、まだ寒いからな。話は中に入ってしよう」
「そっ、そうね。あなた。お義父様とお義母様が首を長くして待っているんだったわ」
館の居間に向かう。
たった、5ヶ月しか経っていないのに懐かしい。
「お爺様、お婆様。戻って参りました」
爺様は笑い、婆様は笑いながらも涙を浮かべている。
「おお、お帰り」
「まあ、ラルフさん。立派になって!」
大袈裟だな、婆様は。
「立派も立派! 男爵になったのだからなあ。儂も鼻が高い」
「お爺様、お婆様に、親父とお袋が育ててくれたおかげです……ああ、今日は我が妻としてローザを連れて参りました」
「おお、そうだそうだ。私は、ローザとアリーの大伯父から祖父となったのだった。よく来たな」
「はい、お爺様、お婆様。今後ともよしなにお願い致します」
「まあ、まあ。ローザ。水臭い、元から孫だと思っていたわよ」
そんな感じで、再会の挨拶は終わり。夕食の後も王都の話を夜半までして、その日は終わった。
†
翌日。
親父さんに伴なわれ、伯爵様の城に向かう。
ローザ達は、義母となったマルタさんと明日の婚礼に向けて準備で忙しいらしく付いてこない。
滞りなく城門を通り抜けると広間脇の控え室に通され、30分ほど待った。呼び出しが来て廊下に出ると、陳情に来たのであろうやや肥えた商人とすれ違い、入れ替わりに広間に入った。領政庁の文官と武官が並んでいる中央に促された。
一段高い階の椅子にが掛けて居た壮年の男が、すっくと立ち上がる。
「おお、憶えて居るぞ! その利発な顔。鋭き双眸、ラルフェウス・ラングレン!」
頬が紅潮している。少し興奮されているようだ
「はっ! 立ち戻りました。伯爵様」
俺の返事ににっと笑う。
「うむ。よくぞ帰って来た。王都での活躍、聞き及んで居る。見事だ! 誉れよなディラン」
「ありがたき幸せにございます」
「准男爵に、プロモスの名誉男爵にもなったそうだな?」
「はっ、畏れ多きことながら……」
基本的に、親父さんは伯爵様──地方領主の家臣なので、貴族としては陪臣に当たる。そうした場合、俺は、つまり陪臣の嫡子は、主家の下で陪臣と成るのが世の習いだ。しかし、俺の場合は、直接王から授爵した形なので、准男爵ではあるが王の直臣扱いだ。
ということは、伯爵から見れば、俺が勝手に独立したと見なすこともできるわけだ。
「ははは。そのように固い言葉で返さずとも良い。咎めているわけではない。この地より俊英を輩出した。儂は嬉しいのだ」
いやあ。本当に器がでかいな、伯爵様は。
「この間、サフェールズ候とお目に掛かったが。そなたのことを何とぞよしなにと仰って居られた」
居並ぶ両官達がざわついた。この若造になぜ侯爵がという驚きだろう。
「はあ……」
「つまりは、このような片田舎にラルフを縛り付けず、広く世界に羽ばたかせよとの有難き御諚だ。元よりそのような気は無いのだがな。ふふふ……」
侯爵閣下には、かなり気を使ってもらっている。ありがたいことだ。何かの形で恩返ししないとな。
「お言葉、心に刻みまする。ところで伯爵様。私の挙式へ御出座戴ける上に、披露宴を御主催戴けるとの由、父より訊いて居りますが。誠にありがとうございます」
「ありがとうございます」
親父さんと一緒に胸に手を当てて、感謝の意を表する。
手紙では、主催ではなく出席だったのだが。昨夜聞いて驚いた。
「いやいや、こちらこそ悪かったな。シュテルン村で実施する予定であったところ、儂の意向で、ソノールでやることになってしまった」
「とんでもございません」
無論この辺りは治世に対する威信向上に利用するつもりなのであろうが、俺にとしても恩返しできるなら嬉しい限りだ。仕官もしていない准男爵の婚礼に領主が出席するのは光栄と言う他ないことだ。
「うむ。だがな、もはや、世の方が捨て置かぬ。ラルフは既にそういう人物となったと言うことだ。自覚せねばならぬぞ」
「はっ」
「では、私は勤めもありますゆえ、お暇させて戴きます」
そう言った親父さんと共に跪礼して、下がろうとしたが。
「ああ、ラルフは待て、話がある。こちらへ」
王都でのことか、それとも明日のことか?
親父さんは広間から辞して行ったが、俺は奥の壁の左にある扉からさらに奥の通路を抜け部屋に通される。
「そこに掛けよ」
「はい」
ソファに腰を下ろすと、対面に伯爵様が座る。
家令フェルナンドさんは、茶を入れると伯爵様の後方に控えた。
「うむ。話はサフェールズ閣下の件だ。そなたとどう言う繋がりがあるのだ? それにプロモスの件も聞いておきたいな」
「はい……」
ターセル迷宮の件、王都南前門の件、プロモス通事の件を、無論黒衣旅団から口止めされたことを除いて、かいつまんで説明した。
「ふむ。なかなかに信じがたい」
「そうでございますな。王都へ行ったのは7月、たった5ヶ月で盛り沢山なことですね」
おっ、フェルナンドさんが、俺に丁寧に言葉を選んでいる。男爵に成ったからか。
やや冷めたお茶を戴く。ローザ程ではないが、お茶を上手く淹れている。
「まあ、王都上屋敷からの報告と付合はしておる。程度は大きく上回っている。がそれに、そうで無ければ侯爵閣下が目を掛けることにはならぬだろう」
へえ、王都から俺のことを知らせて居たのか。
「上屋敷と言えば。フェルナンド、あれを」
「はい」
なんだろう?
フェルナンドさんが、回り込んで、俺の前に金属札を置いた。
「これは内郭査証ではありませんか」
王都の内郭へ出入りできる資格の証明書。
通事をやった時に臨時の査証を預かって使ったが、これはもっと長い期間で更新する物だ。
「うむ。これから何かと使うこともあろう。まあ冒険者ギルドの資格でこと足ることもあろうが、持っておるに如くはない」
「いえ。ありがとうございます。ただ、私などに……」
「そなたを信じておる」
「あっ、ありがたき幸せ」
事実上、スワレス伯爵家が後ろ盾に付くと言っても過言ではない。
「ふふふ。まあ、儂からの引き出のひとつだ」
ひとつ?
「ああ、これからが本題だ。ここに呼んだのは、ディランには聞かせたくないことがあってな」
「はあ……」
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訂正履歴
2018/12/12 誤字脱字訂正
2021/05/09 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2021/09/11 誤字訂正
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




