140話 微かな覚醒
油断大敵と言いますが、たしかに小生、気を抜いていると、よく填まります。
特に何か良いことが起きたすぐ後なんですよね。喜びも半減ってことが結構……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すみません。後尾が乱れてました。
村長の屋敷に泊まることになったことと、祠に向かうことをローザ達に告げるため、母屋へ寄る。
無骨な石造り内装の廊下を経て、応接へ通された。
「あっ、ラルちゃん!」
その部屋に居たのは、サラとその家族2人。あとは俺の連れ2人だ。茶を供されて寛いでる。
「あなた。お早いお戻りですが……」
結論を言ってくれと美しいローザの顔……以外の顔にも書いてあるように見える。
「村長が退出許可を出すそうだ。そうだな?」
「へえ。今日の夕方までに、家まで届けましょう」
ヴィドラは、案外さっぱりと応じた。
サラはヴィドラを軽く睨んでから、立ち上がる。
「ありがとうございました、ラルフ様。さっきは驚き過ぎて、お礼も申し上げず済みませんでした」
胸に手を当てて、感謝の意を表する。
「ああ構わない。仲間だからな」
「はい……はい?」
驚いたようにローザへ無言で問いかけると、肯かれて真っ赤になった。
自分が書いた人物評が、俺に伝わったことを理解したのだろう。
立ち上がって肩を叩いてやる。
「きょ……恐縮です」
擦れ違って、対面へ足を向ける。
喜ぶ娘と対照的に父親は顔を顰めている。
「残念でしたね。スパルナさん」
「なっ、なんだと? 儂は……」
「村長から事情を訊きましたよ」
「えっ、何の事情ですか? ラルフ様」
サラの問いかけに、スパルナさんの顔がみるみる歪んでいく。
「なっ、なんでもない、なんでもないんだ。ヴィドラも何とか言ってくれ」
「えーと、親父があんたに釘を刺しておけと言ってたな。何の釘だかは訊いてないが」
当てが外れたのか、ぶるぶる震えだした。
「あんたぁ! なーんか、おかしいと思ったのよ。そりゃまあ、村長はいっつも偉そうにしているけど、道理に合わないことはやらない人だわ! 昨日のあんたの態度も変だったし!」
シュクルさんの目が吊り上がっている。
やはり女性は勘が良い。真相に辿り着いたようだ。
「ちょっと! もしかしてお父さんが、村長に私を外に出さないよう頼んだってこと?」
「そうよ、そう考えれば、全部辻褄が合うわ!」
母娘が父親に詰め寄っている。
うーむ、直接とっちめる手間が省けたな。
そっちは放置して、ローザ達に向き直る。
「今夜はここに泊めて戴くことになった。我々は祠へ行ってくるが、2人は部屋で休んでいてくれ」
「いやいやいや。アリーちゃんも行くよ!」
「アリー。旦那様のおっしゃる通りになさい!」
「ぶぅーーー」
「何か?」
アリーはむくれたが黙り込んだ。
†
30分程掛かって、自治村の端の方まで来た。
俺のゴーレム馬も結構立派だが、ヴィドラの騎乗馬は遙かにデカい。
ゴーレム馬は700ガパルダ弱(500kg)程だが、2倍はありそうだ。
脚の太さも段違いだ、おそらく農耕馬系だろう。
まあ巨漢のドワーフが乗るならこれぐらいは必要なのかも知れない。
小高い丘があって中腹に柵が設えられていた。
ヴィドラは、馬から下りると手綱をそこに結わえた。
「兄貴。この先は徒歩でお願いします」
「ああ」
言う通りにした。
柵に入ろうとして、ヴィドラが振り返る。
「ああ……そのデカい犬も連れてくんですかい?」
セレナのことだ。
「だめか?」
「いや、駄目ってことは無いですが。まあ、いいかあ。黙っていれば……くれぐれも壊させないで下さいよ」
「だそうだ!」
「ワフッ!」
処置無しだと言う顔で首を振った。
柵から20ヤーデン登った所に小屋がある。
「ああ、祠の入り口はこの中でさあ」
床に下り階段が口を開けていた。
「へえ、こういう風になっているのか」
「なんでも、昔は剥き出しだったそうですがね。学者が来て、これ以上荒れないようにって、建てたそうです。俺の生まれる前のことですがね。一本道で、どん詰まりに1つ部屋があるだけなのに、何の価値があるんだか」
「案内してくれて助かった。ありがとう。戻ってくれ!」
「気を遣って貰って申し訳ねぇ」
それも有るが、帰って貰った方が落ち着いてみられるからな。
「ああ、中の物を壊さないよう気を付ける」
「へい。では!」
ヴィドラは小屋を出て行った。
「行こうか」
「ワフッ」
【燈明】
頭上の灯りが階段を照らす。5ヤーデン程の深さだ。
下り切ると石張りの床が迎えた。
ふーん、なんか似てるな。
辺りを眺めながら進むと、数分でどん詰まりと言っていた部屋に着いた。
丸い。
差し渡し20ヤーデン程の広間だ。
何も無くガランとしてる。ヴィドラが言っていた通りだ。
劣化した壁画が微かに見えるが、剥落が酷すぎて何の絵なのか判別はできない。
さてどうしたものか。
見上げても、石の天井があるばかりだ。
文字も思わせぶりな模様もない。
手掛かり無しか。
途中にも何も無かったしな。
しかし、なにやら尋常ではない魔界強度は感じる。
いっそ魔力を撒き散らして……いやいや、壊さないって約束したし。
その時だった。声が直接頭に響いた!
──やあ! ガル。久しぶりだな。
「ガル?」
──何奴? 我を謀ったな!
その刹那、床が掻き消えた。
なすすべもなく重力加速度で落下して行く。
身体を捻って下を向く。
下は深く真っ暗だ。照らしても自分の姿しか見えない。
【風槍!!】
前方に突風を噴き出す。これで……いや減速していない。
確かに反動を感じているが、魔覚が知らせる速度は秒速50ヤーデンを超えた。
おかしい……おかしいが、今は対応優先だ!
何時底にぶつかるか知れぬ。
【深瞑】
思考を加速し、時間を稼ぐ。
【閃光!!】
【閃光!!】
下にも横にも光を放つも、一瞬で吸い込まれ消えた。
ぞっと背筋に冷たい物が駆け上った。
生まれて初めて感じる感覚──死の恐怖だ。
5歳の頃、六脚巨猪と対峙しても味わなかった絶望。
そして後悔する。
空を飛ぶ夢を見た後、腕に現れた聖痕が示す魔術……あれが使えれば!
しかし、それは発動せず先延ばししてしまった。
あれさえ使えれば……その思いに苛まれる。
足先から血が抜けていく如き絶望。
駄目か
俺はここで、死ぬ?
思わず目を瞑ったとき、瞼の裏に愛しい顔が映った。
ハアァァァアア!!
怒りが満ち溢れる。
お前は、ローザを悲しませるつもりか?
何の為に生きてきた?
超獣を斃す? これしきで絶望する者が斃せるのか!
させるものか。
「させるものかぁああああ」
頭上が輝いた──燦然と!
怒りが消え、脳が冷えていく。
世界が明るくなっていく。底が見える。
あと100ヤーデンもない。
独りでに言葉を紡いだ。
【光翼鵬!!】
脳裏に言霊が浮かんだ瞬間、慣性を無視して即座に止まった。
物理法則をねじ曲げたことを理解しつつ、何の感慨も浮かばなかった。当然の出来事と受け取った。
──光の冠だと?!
また声だ。
上体を立て、ゆっくりと闇の縦坑に底へ降り立つ。
──何者だ?
「ラルフェウス・ラングレン」
† † †
────あちゃあ! ラルフ君、あっさり試練をクリアしちゃった
────本当に期待を裏切らないね、ラルフ君は!
────しかし、あの神通力……下級天使並みだよなあ、悪くない
────ただ計画としては、まだ早いんだよねえ
────怒られない内にリミッター掛けておこうか!
────あとは残った枷の方の強化も必要だな
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2018/12/01 後尾で名乗る部分で、意図せずカットペースとされていたのを訂正。
2020/02/15 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)