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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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138話 鐵起請(上)

444444PV & 60000ユニークありがとうございます。


ああ、世の中は3連休なんですね。昨日朝、なんで休日ダイヤ?とか思いました。


─── サラの視点 ───


 ああ。なんてこと。全て私が悪いのだわ──

 やはり、ヴィドラが……。


 誰かが嘘を村に広め、それを信じたのであろう村長が、私の村外行きの申請を拒絶してきた。しかも、ラルフ様に申し開きさせろと要求されたので、3日も待たされた私は、つい王都へ手紙を書いてしまった。


 それで、ラルフ様一行が私のお願いにを聞き届けて村に来てくれて、村長の家に押し掛けた軟禁された私をアリーさんが助け出してくれた。


 そこまでは良かったのだけれど。

 ドワーフ男の、どうしようもない習性。腕っ節が全て。

 揉め事は、腕力で決着を付けようとするわ。

 私を軟禁したヴィドラが、案の定ラルフ様に鐵起請(オディアル)を挑んだわ!


「受けて立とう!」


「ラッ、ラルフ様!」

 信じられない。

 

鐵起請(オディアル)をご存じなのですか?!」

「知らない」


 知らないですって? バカな……。

 なんで、知らないのに受けるのよ!

 本当にラルフ様の自信家ぶりにも困ったものだわ。

 十中八九、いえ、それ以上に過信ではないのが、凄いと言えば凄いのだけど、それにしても。


 助けて貰った身で言うのは憚られるけど、ドワーフに! それもよりにもよって、この村一番の怪力ヴィドラの挑戦を受けてしまうなんて。


 無謀すぎる!

 でもなぜだろう?

 アリーさんはともかく、いつも冷静な師匠(ローザさん)すら全く止める気配はない。皆、ヴィドラの強さを知らないのだ!

 私が、私がなんとかしないと!


「てっ、撤回して下さい。アリーさんも止めて下さい! 鐵起請でヴィドラに勝てる者など……いくらラルフ様でも」


「さあぁぁぁ、それはどうかな?」

「えっ?」

「ラルちゃんは、負けないよ!」


「アリーさん……」

 挫ける。

 皆知らないのだ。

 私の幼馴染みヴィドラ。

 彼は力比べで誰にも負けたことはないのだ! 10歳にして以前の強者、現村長の自らの父を破ってから1度も。


 ラルフ様も確かに力は強い。それは知っている。

 が、ヴィドラは段違いなのだ。

 見よ! あの腕、ラルフ様の腹回りの倍程もあると言うのに……勝てるはずがない。


「何の勝負かは知らないが。ドワーフの漢が揉め事を決するやり方なのだろう? それを受けろとのスパルナ(サラパパ)さんの注文だ。やって見せるさ!」


 なんという自負心だろう。


「良い度胸……と言いたいところだがな。無謀なだけだ。大口を後悔するんだな! タルガ! 用意しろ!」

「分かりやした! 行ってきます。へへへ!」


「場所を変えるぞ! あっちだ」


 ヴィドラが指差したのは庭の一角。

 芝生が植わった地面に腰高の岩がある。

 高さ1ヤーデン強の上面が、誰か加工して平面になっている。


 あれは忌まわしき岩なのだ!


 ラルフ様の意思を変えるには……。

「ローザ様! ローザ様!」

「サラ!」

「止めて下さい、ラルフ様を。とても酷いことになります!」


 私の言い方のどこが間違っていたのだろうか? 師匠は、薄く微笑みさえ浮かべて、私を(なだ)めた。

「旦那様が決めたことです。何があろうとも、信じて待つのが私達の役目ですよ」


「しかし、それ……」

「サラ、旦那様の勝負を邪魔立てするなら……」


 ひっ!

 ついぞ感じたこともない程の、殺気が師匠から放たれた。

 背筋に怖気を走らせる明確な威嚇だ!


 分かった、分かりました!

 ラルフ様も師匠もそこまで言われるのであれば……もう、何も言うまい。


 にやりと笑った、ヴィドラが試し岩を前に講釈を始める。

鐵起請(オディアル)のやり方を説明してやろう。試される2人が、この起請岩を挟んで立ち、この面に右肘を突いて右掌を握り合い、互いの左へ倒し合うんだ」

「で? この上面に相手の手の甲を付けたら勝ち、自分のを付けられたら負けか?」


「いいや、違う。答えはタルガが来てからだ……」


 そう違う。

 ラルフ様が仰ったのは、ドワーフでない者達がやっている腕っ節比べ(腕相撲)だ。やることは同じかも知れないが、鐵起請はそんな生やさしい物ではない。

 恐ろしくも凶悪な神事なのだ!


「おお、来たな」

 タルガという男が両手に何かを持って、小走りでやって来た。

 

 凶悪の源を携えている。

 鐵だ。


 只の鉄ではない。赫赫と輝きと熱を放つ塊を、火挟み2つ運んできた。敷地の一角にある鍛冶場の炉から、焼いていたのを持って居たのだろう。


 息を弾ませたタルガが駆け付けると、2つの塊を岩の上面、色が変わっていた部分に下ろした。


「タルガ、ご苦労! 分かったようだな。腕を返されれば、この塊が腕に食い込む。だかそれで音を上げねば負けではない。5秒耐えれば、もう一回だ。何、言い分が正しければ、炉神の加護がある」


 この黄色に灼けた鋼が腕に当たれば大火傷だ、耐えられるわけはない。


「ひとつ、言い忘れていた。魔術を使うと、この起請岩に含まれた隕鉄が輝く。その段階で反則負けだがな……お前はどうやら魔術師のようだ、どうする」


 そう。ラルフ様が勝てない所以だ。

 純粋に力だけで、誰がドワーフの巨魁(ヴィドラ)に勝てよう。これで、ラルフ様も翻意されるはず。


「変える必要はない!」


 えっ……。

「ラルフ様!」

 決然とした言葉に、我ながら悲鳴めいた声が出た。

「ふん。いいだろう!  腕を捲れ!」


 するとラルフ様は、白いローブを脱ぎローザ様に渡した。ボディス(シャツ)の袖ボタンを外し、右腕を露わにする。

 よく締まった筋肉質の腕だ。しかし、いかんせん細い。人族の成人男性としても見劣りはしてしまう。


 対してヴィドラは、丸太の如き太腕を剥き出しにした。ゴツゴツと隆起した筋肉が黒光りしているが、恐るべきは前腕の美しさだ。幾度も鐵起請を実施しているのにも拘わらず、火傷の痕1つない。


 止められないなら──

「アリーさん、治癒魔術の準備を! お願いします!」

「あぁぁぁ、そうだね」

 素直に聞いてくれた。


 2人は脚を踏ん張り、前傾して肘を試し岩に付いた。互いの掌を合わせ握り合わせる。大人と子供以上の歴然差。


「タルガ!」

「はい! ああ畏くも尊き炉の神々に申し上げる! 御前にて繰り広げ申す 懸命なる膂力験しにご加護有らんことを 何とぞ何とぞお頼み申し上げる…………2人とも腕を構えでぇぇ」


「いくぞ!」

「おう!」


 ついに始まった。始まってしまった。

 ギシっ!

 力が漲る音が響く。嗚呼予想に違わず、いきなり拳が傾く。


 ラルフ様が負け……えっ?


 拳が止まった。前腕が鐵塊の数リンチ手前で、ピタリと。

 ジリジリと灼いているだろうが、ラルフ様は顔色1つ変えない


「ほう……やるではないか、人族!」


 ヴィドラは余裕綽々だ。ここに居るドワーフは皆知って居る、赤ヴィドラの異名を。


「……面白い俺の本気を見せてやろう……フグァァァァアア!!」


 ヴィドラが膨れた。


 いきり立ち、相貌に赤味が差していく。

 まるで赤鬼のようだ!


 腕がすっと天を突くまで戻った。筋肉が強烈に盛り上がり腕まで赤らむ。


「ラルフ様ぁぁあ!」

 必殺の一閃が来る。


「ウゥゥゥラァァァアアア!!!」

 気合い轟声と共に、腕が返った。


 全力──

 技も間合いも何も無い。唯々、力──

 ドワーフの、ドワーフによる原初の能。


「なにぃぃ?!」

 ヴィドラが片目を見開いた、驚愕と共に。


「とっ、止まった」

 誰かが呻くように呟く。

 またしても両者の腕は鐵塊の数リンチ手前で固まった。


「なっ、何だ?! なぜ動かん??」

 誰もがそう思っただろう。

 ヴィドラの顔色が赤黒くなっても、びくともしない。

 皆、息を飲んだ。


「ヴィドラ。あんたは闘った人間の中では最も怪力だ……」

 総毛だつ笑みを浮かべたラルフ様の言葉が耳を拍った。


「……人間ではなぁあああ!」


 拳が見えなくなる程の勢いで弧を描いた。


「グァァァアアア!!!!」

 ヴィドラの腕が、灼けた鐵に食い込まれ、呻き声が山々に響く!


 ドワーフの巨魁が苦悶の表情だ!

 信じられない。何が起こっているの?


 5、4。


「まだ負けて……」


 そう、5秒耐えきれば……バツバツと何かが沸騰する音、肉が焦げる匂い。


 2、1……。


「愚かな!」


 なぜか拳が垂直に戻った刹那、恐るべき速度で返った。

 ヴィドラの巨体が勢いに負け、脚が持ち上がり、投げ技を喰らったように地面に叩きつけられる。


「うっ、嘘だ!」

 誰の言葉かは分からないが、同じ気持ちだ。


 ヴィドラは2度、3度と芝生を転がり、四肢が伸びきって、ようやく止まった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

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