137話 ドワーフの習性
小説だと色んなドワーフの形態がありますが、私がガチムチな男臭い感じを持って居ます。
ガチムチが好きなわけではないですけど。
自治村長の屋敷前に着いた。
ここまで見てきた村の家々と比較すれば数倍は大きいので、分限者であることは間違いない。
土塀を巡らせた敷地内に、平屋としては屋根が高く立派な家屋が建っている。母屋だろう。その他にも、納屋なのか倉庫なのか、いずれにしても居住用ではなさそうな建物もいくつも並ぶ。向かって右側の煙突が3本突き出ているところが鍛冶場なのだろう。
塀の向こうには、赤茶けた小山がいくつも見える。鉄鉱石の貯石場だ。
道々見てきたが畑がなさそうだし、サラが言っていたように、鉄鋼や鉄製品を出荷して、食料品など生活必需品を購入しているのだろう。それで、これだけの屋敷が建つのだ、鍛冶で結構儲かっているのは想像に難くない。
土塀が途切れた門近くまで行くと、人集りがしている。何やら7、8人もいきり立った様子だ。馬車を少し手前で止めると、皆が一瞬こちらを見たが、再び騒動の方に戻った。結構切迫している。
降りて歩み寄る。まずは何の騒ぎか観察だ。
「お前達の娘はここには居らぬ! 帰れ帰れ!」
少し抑揚が微妙だが、ミストリア語を喋っている。
「そんなはずはないわ! 村長から呼び出されて、家を出たのよ。今日で2日も帰って来ないのよ!!」
「知ったことか! どこかに余所へ行ったのであろう」
門に立ちはだかっている男達に掛け合っているのは、ドワーフの中年女性だ。横顔が見えた。
むっ、あの夫人──
その外側で、数人が見守っている。
皆、背が高く、男は巨漢で年寄り程髭が濃い……と言うよりは、ボウボウで胸まで伸ばしている。生成りや紺色の丈夫そうな麻の衣類を身に着けて、所々毛皮を当てている。
すぐには収まりそうにもない。放っておけば、時間ばかり喰いそうだ。
「こちらは、自治村の長の屋敷か?」
門の中から押し出そうとしてる1人がこっちを向く。
「何だ!! 人族。見ての通り取り込み中だ。用があるなら後日改めよ!」
いや、後日って。
「そうはいかん! これでもはるばる王都からやって来たのだからな!」
「おっ、王都?! 何者だ?」
喧噪が概ね静まった。
「ラルフェウス・ラングレン准男爵だ!」
「だっ! 男爵ぅう?」
誰何してきたドワーフが息を飲んだ。
まあ、男爵でもあるので否定はしない。
「速やかに村長に取り次ぐがよい!」
「はっ、はあ」
転げるように門の中に走って行った。一旦毒気が抜けたのか、もみ合いは収まり、両者が距離を取った。
さっきの夫人に歩み寄る。
「サラスヴァーダ嬢のご母堂とお見受けしますが!?」
「はっ、はい。そうですけど……人族の若くていい男って、娘が言ってた人じゃ?! あんたぁ!」
呼応して厳ついおっさんが近付いてきた。
その時アリーとローザも降りてきた。俺の横まで来る。
「おう! なんだ」
「サラスヴァーダ嬢と一緒にクランを組んでいるラングレンです。こちらは妻のローザと義妹のアリーです」
「ねえ、ラルちゃん! この人、サラっちにそっくりじゃない!?」
だから初対面で話しかけたんだ。
「ああ、サラは俺達の末娘だ! 俺は父親のスパルナ、こっちは母親のシュクルだ! ところで……さっき男爵だか、准男爵とか言ってなかったか? 娘はそんなこと言ってはいなかったが」
「ええ。叙爵戴いたのは、つい十日程前のこと、つまり娘さんがこちらへ発った後のことですから。その件は知らないでしょう。それはともかく。さっきの騒ぎ。サラさんが帰ってないというのは?」
スパルナさんが何か言い掛けたのを、シュクルさんが押し留める。彼女が説明してくれるようだ。
「ええ。一昨日、村長の屋敷に行くと言って出掛けたまま帰らなくて。昨日はこの人が煮え切らなかったのだけど、今日は流石にと思って、ウチの若い衆を連れ立って押し掛けてきたんです」
「それはまた……」
「ここに来られたと言うことは、自治村ってご存じですよね」
「はあ」
「私達、この村の住人が、村外に出るには村長の承認が居るのですが……それが降りなくて。皆が言うには、娘と村長の息子をくっつけようとしているのじゃないかと」
シュクルさんを手で制し、スパルナさんがこちらに踏み出す。
「つまり、あんたの所為だ!」
「何だと?」
なんで俺の所為なんだ? さっぱり分からないが。
「また、あんたは! 済みませんね」
「ああ、なるほどねぇ!」
なぜか、アリーが理解した。
「ラルちゃんが、サラっちを誑かせた。妾にしようとしてる。いや、もうしたと勘繰ってるのよ!」
「はあ?」
「だから、このサラパパは……」
サラパパって!
「……そんな人族の女誑しに、大事な娘はやれんと思っているし。村長はサラっちを自分の家の嫁にしようとしてるとかかもね」
憶測満載だな。
「ほぉお。こっちの娘っ子は、血の巡りが良い……」
スパルナさんは、大きく肯いた。
遺憾ながらアリーの仮説は当たりのようだ。
「大体人族なんざ年中盛りやがって。男は欲ボケな上に、好色なやつらばっかりだからな!」
流石にムッと来る。
「ああ、でもね。ウチのラルちゃんは例外だよ。こーんな小さいガキんちょの頃から、隣にいるお姉ちゃんに、ぞっこんでね。アリーちゃんのような、かわいい娘が側に居たって、指一本触ってこない朴念仁だからね!」
ああ。全然庇ったことになってないぞ、アリー。
それにローザ。はにかんでいる場合じゃないぞ。
だが、何だろう、この違和感。話の筋書きがおかしくないか? とは言えだ。解決できることから進めようか。
「状況は分かりましたが、どうしますか? 娘さんは、この屋敷の中……あの石造りの家屋に居るようですが」
一番大きな家屋の左隣を指差す。
さっき無意識に感知魔術を使ったところ、位置を特定したのだ。
「なっ、なんで、そんなことが?」
「ああ、ラルちゃんは、凄い魔術師様だからね。余裕だよ!」
なぜ、アリーが胸を張る? 最近デカくなったから、止めた方が良いと思うが。
「やっぱり! 村長!」
シュクルさんが女性にしては太い腕を、拳をバシバシと掌に打ち付けている。
隣でローザが笑っている。何かなと思ったら、アリーの姿がもう見えなかった。
おっと。母屋であろう家屋から、さっき走って行った男が出て来た。
「ああスパルナさん、シュクルさん。娘さんの救出は、俺に任して貰いましょう! 娘さんに呼ばれてやって来たのは、そのためですから」
スパルナさんは、俺のことを上から下まで睨め付けると、フンと鼻息を漏らした。
「そうか! よそ者が大きなお世話だが、そこまで言うなら……やつらはドワーフの漢が揉め事を解決するやり方を仕掛けてくるはずだ。それを受けろ!」
ドワーフの漢? 何のことだ? さっき俺を見て嗤ったようだが。
「ちょっと、あんた! あっちはヴィドラさんを出してくるんだから、勝てるわけが」
ヴィドラ?
「噂をすれば……」
「ヴィドラだ!」
その声に視線を辿ると、もう1人出て来た。
家屋まで40ヤーデンはある。みんな目が良いなと思ったが、そうでも無かった。
ヴィドラと呼ばれた男は一際大きかった。身長2.5ヤーデン近くあるが、胸周りもそれぐらいありそうな超巨漢だ。
のっしのっしと地面を揺らしながら、俺達の前まで来た。デカいが整った顔貌だ。
「貴様が、サラを誑かしたという人族か。フン! 優男が、ナヨナヨとしやがって!!」
という? 誰から聞いたんだ。
「私は、誑かされてなんかいません!」
その声と共に、サラとアリーが、誰もいなかった場所に忽然と姿を現した。
「うぉ。さっ、サラ。どうやって出て来たんだ!」
振り返った超巨漢が、眼を剥く。
変だな。サラから聞いたわけではないと。
「まあ監禁したって自白してるわよ、このデブ!」
「なにぃ」
うん。体型で誹謗は良くないぞ、アリー。言いだしたのは、向こうが先だが。
「うるさい、デブ! ラルちゃんは、細身だけどナヨナヨなんかしてないわ!」
アリーの啖呵の横で、サラがうんうんと肯いている。
まあ巨漢で厳つい顔、さらに髭。アリーの嫌いな特徴揃い踏みだしな、無理もない。
でも筋肉質だしちゃんとした服着てるし、髭もしっかり手入れされていて、見た目不潔感はないが。
「ちょっと、ラルちゃんの為に怒ってるのに、なんで醒めてるのよ!」
基礎学生じゃないだから、こんな挑発に乗るわけないだろ。
なあ、ローザ……あれ? 目が吊り上がってるけど。それにさっきから魔導鞄をあさって何を取り出そうとしているのかな?
「とにかくだ! お前なんぞに、サラはやらんぞ!」
目の端で、スパルナさんが、なぜか肯いている。
「いいえ、私のことは私自身で決めます! 何のつもりか知りませんが迷惑です! ヴィドラさん」
すかさず突っ込みを返す。
「本人も、こう言っているが? それに監禁は、立派な犯罪……どう落とし前を付けるつもりだ、ヴィドラ!」
「それは……ああ、黙れ! 面倒だ! 鐵起請で決めてやる!」
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訂正履歴
2022/07/23 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)