13話 将を射んと欲すれば!
世の中、やっぱり根回し大事だよねと思うこと多し。
おばあさん達が作ってくれたご飯を戴いておじいさんの館を後にした。何だか、おかあさんの表情が緩んでいる。ほっとしたみたい。
昼下がりに、お腹がくちた状態でゆっくり歩く。汗ばむ季節だけど、風が通って涼しい。領都は周りを城壁で囲まれているのに、何でだろうなあ。
ローザ姉がキョロキョロしてる。地番を探して居るみたい。
「6番街って、ここですね」
「そうみたいね。1本入った通りって、こっちかしら?」
おかあさんが、煌びやかなお店が並ぶ表通りから、一本南へ入って行く。
そこは、少し地味な感じのお店が並んでいる。
「ありました。看板にバロック商会って書いてあります」
そこには、荷車がいっぱい停まっていて、おじさん達がたくさん荷物を扱っている。
『ああ、坊ちゃん。店の構えの右側に、小さい路地がありやして、そこに玄関がございやす……』
「ああ、バロックさんが、こっちだって言ってた!」
迷わずそっちに曲がって、みんなを手招きする。
20ヤーデンも進むと門があって、厳ついおじさんが2人立っていた。
「こんにちは」
「おっ、おう子供……」
その2人が、顔を向け合う。
「もしかして、お前……じゃなくって、坊ちゃんは、ラングレンって、お名前ですか?」
「そうだよ!」
「ああ、お待ちしてました」
少し遠巻きにしてたみんなが寄ってきた。
門を開けてくれると、1人が僕達を案内して、もう1人が走って奥へ行った。
塀に囲まれた中は、落ち着いた感じの庭だ。そこを通り過ぎて、玄関に辿り着く。
おう。おじいさんの館よりデカい。お金持ちなんだねバロックさん。
「ああ、坊ちゃん。いらっしゃい! ラングレンの奥様もようこそ……お嬢さん方もようこそ」
「ごめんね。バロックさん、大勢で来て」
「いやいや。歓迎しますよ。ああ、それで、妻でやす」
「こんにちは、メディスと申します」
なかなか綺麗な人だ。
バロックさんの奥さんにしては、とかは思ってないよ。
「ラングレン様には大変お世話になっております。主人からよく聞いております」
「では、早速ご案内してくれ」
「そうですね。こちらのお嬢さんも、ご興味が出て来るお年頃。ご一緒されてはいかがでしょう」
「そうね、ローザも一緒に行きましょうか」
「はい、奥様」
そう、ローザ姉が答えたとき、ほんの一瞬バロックさんの口許が緩んだ。どうやら、ローザ姉が邪魔なようだ。
実は。
おかあさんに良い香水や服地が手に入りやした。お得意様には安くお譲りしておりますので、一度お越し下さいと口説いて、今日来ることになった。
「さあさ。坊ちゃんとアリーさんは、こちらへどうぞ」
通された部屋は、なんだか応接間のようで、豪華なソファが置いてあった。
「バロックさんは、ここに住んでるんですか?」
「ああいや、前は住んでいたでやすがね。娘達が生まれて、いささか狭くなったので、今は城壁の外に住んでやす」
「そう……なんだ」
狭くはないと思う、流石お金持ちだ。
その時、ドアが開いて、2人の女の子が入ってきた。
「おお来たな。この二人はアッシの娘でやして。二女のバネッサと三女のプリシラでやす。ご挨拶するでやす」
僕らより年上そうな少女が優雅に、スカートを摘まんで、軽く膝を折った。
「二女のバネッサです。どうぞよろしく、ラルフェウス様」
なかなか容姿は整っていて、眼が少し勝ち気そうな感じだ
名前を知ってる辺り、バロックさんに言い含められているのだろう。
「三女のプリシラです。よろしく」
妹の方は、引っ込み思案のようで、姉の後ろに半身を隠して挨拶した。
僕も立ち上がる。
「ラルフェウス・ラングレンです。バロックさんには、お世話になっています。よろしく」
「アリシアです。よろしくお願い致します」
アリーは、ぶすっとした。ずーっと2人が僕の方を見てたからだ。挨拶も終わったので、ソファに座る。どうも商談に使って居る部屋のようだ。
「うむ。では、坊ちゃん。アッシは少し外します。すぐ果物とか持ってこさせやすので、2人と話でもしてやして下さい」
そう言ってバロックさんは、部屋を出て行った。
いや、気まずいだろ。
「あのう……」
「はい。ああ、僕のことはラルフ、この子のことはアリーと呼んでもらえれば」
「では、ラルフ……何歳? ああ、私は6歳だよ」
「僕は、4歳です」
「そうなの。よかった!」
ん?
「お父さんから、ラルフはとても頭良いって言われたから、どうしようかと思ってたの」
「ラルちゃんは、そこらの大人より頭良いし、魔術も使えるし!」
「魔術?」
おっと、喰い付いてきた! 目が輝いてる。
「おねえちゃん。まじゅつって何?」
なんだか、かわいいな、この子。
「やって上げて! ラルちゃん!」
まあ、いいか。じゃあ。
「ちょっと待って。さっきから何? アリーだっけ、あなたはラルフの何?」
「私は……姉よ!」
「嘘! ラルフは、一人っ子って聞いたわ!」
「姉って言っても又従姉だけどね」
「おねえちゃん。はとこって何?」
「知らないわよ!」
アリーとバネッサがにらみあう中、プリシラちゃんに向かい合う。
「はとこってね、いとこのいとこだよ」
「いとこがわからない」
うーん、そうか。
「私達で言うと、マノンちゃんとかよ」
「ああ」
「プリシラちゃん。何歳?」
手を前に出した。
「そうか、3歳か」
こっくり肯く。
「魔術、やってみるよ」
立ち上がる。
「うん」
【光輝】
眩しくならない程度に、込める魔力を調整する。
「わあ……指が光ってる」
「凄い!」
姉妹は、わぁと言う驚きの表情だ。
「ふふん!」
いや、なんでドヤ顔だよ。アリー。
「凄いけど、光るだけ?」
おおぅ…言うねえ。
「風も出せるんだよ。この前、窓も吹っ飛ばしちゃったくらい強い風なんだよ」
「ああ、聞いた。それ! お父さんから」
「うん。魔術で、魔獣を斃すんだ」
「へえ……カッコイイ。ラルちゃん。カッコイイ」
おわっ!
バネッサに抱き付かれた。おっ、後ろから来たのは、プリシラちゃんだろう。
「ちょっと。ラルちゃんって呼ばないでよ! あと、離れて!」
アリーが、キンキン声で怒るが、どこ吹く風だ。
「別にラルちゃんは、アリーのものじゃないからいいでしょ!」
「もう!」
†
帰りの馬車だ。
「良い布地だったわね……」
「そうですね。奥様。流石は王都の品でしたね」
「そうねえ」
おかあさんとローザ姉は、何だかとても機嫌が良い。まあ、この馬車の中で機嫌が悪いのはアリーだけだ。
それはともかく。おかあさんとローザ姉の話を聞いていると、バロックさんの家で見せられたのは、服を作る布みたいだ。あとさっきは、香水の話もしていた。
「おねえちゃん聞いてよ」
「何?」
「ラルちゃんたら、バロックさんとこの子が、ちょっとかわいいからって、抱き付かれて喜んでたのよ!」
「まあ!」
「あとね、小さい女の子に、おにいちゃんになってぇぇとか言われて。いいよ! とか言ってるの」
「まあ、本当なんですか? ラルフェウス様!」
ローザ姉。こわいよ。口は微笑んでるけど、目は笑ってないから。
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2021/05/07 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2021/11/21 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)