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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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135話 馬車の旅

貴族の乗り物と言えばやっぱり馬車! 高級馬車はステータスシンボルですよね。

今日でも乗ってみたいですもんね……長時間は勘弁ですが。


 11月も押し詰まり、1年生の前期も終わりが見えてきた。

 皆がピリピリしてた教養教科の試験も、少なくとも俺は滞りなく終了し、週末に加えて試験休みを迎えた。


 級友達は皆寮生なので、神学生といえども5日間の奉仕作業を始めている頃だ。それには参加しないので申し訳ないなと思っていたのだが……学院外に出られる貴重な時期らしく、却って喜んでいる者が多かった。


「いやぁ。良い天気! お出かけ日和だなあ!! ふんふんふん……」


 アリーがいつになく上機嫌で、前を歩いている。

 後ろからは、しずしずとローザが付いて来ているが、以前と違ってメイド姿ではない。俺と夫婦というよりは貴婦人とその従者()に見えてるのではないだろうか。それにしては歩く順序が違っているが。最後尾は、辺りを睥睨しながら進んでくるセレナだ。


 王都東門を抜けて、冒険者ギルドの厩舎へ向かう。


「こんにちはぁあ」

 勝手知ったる厩舎で、受付も顔で通れる様になっている。


「ああ、アリーさん。ラルフさん、こんにちは。聞いてますよう。楽しみにしてました」

 若き厩務員ニコロが近付いてきた。

 玄関を入って左が馬房だが、そちらにはには行かず、そのまま建物を通り抜けて通路に出る。


「じゃあ、ここらで」

「そうだな。ああローザ。アリーも、もう少し脇に避けてくれ」


 出庫と念じて、魔収納(インベントリ)から2頭立ての馬車と馬を出す。

 生き物は入らない魔術だが、誰も驚きはしない。皆知っているのだ。


「おおぅ。思ったより立派だねえ」

 アリーが、行ったり来たりして馬車を眺めている。


 馬車は購入した物だ。

 いつものようにギルドの2階でギルマスと雑談中に、クランとして機動力が欲しいなあと告げたところ、馬車はどうだと言われて紹介された物だ。

 ギルド出入りの工房で完成間近に貴族から注文が取り消され、数年間倉庫で眠って居るものがあると知っていたそうだ。


 見せて貰ったところ、なかなか出来が良かったのと、工房主に安くしときますと言われ買うことにしたのだ。そして、仕上がってない内装を設えて貰ったのが、先週のことだ。

 馬車は貴族向けだったことも有って、2頭立てで引っ張るにはやや大きいのだが……。


 感慨深そうに、ローザが眺めながら扉に触っている。そこには本来紋章を描く意匠だったのだろう。意味ありげに空間がある。

 彼女に馬車を見せるのは初めてだが、買うことは伝えてある。ローザとしてはウチの紋章を描いて欲しかったようだが、俺は却下した。

 

 無論理由はある、現状余り目立ちたくはないのだ。

 

 ミストリアには、細かいしきたりがいくつかある。

 そのひとつとして、自家用の馬車に紋章を描くには、持ち主が男爵以上の爵位を持って居る必要がある。


 つまり、貴族の馬車は誰の持ち物か、見ただけで分かるようになっている。


 が、まあ古いしきたりのようで、士爵だと微妙だが、准男爵だと紋章が描かれていても咎め立てされないようだ。それに、俺はプロモスの名誉男爵だしな

 ギルマスも描くか? そう買う時に訊いてきた。不要と答えたが。


 それでローザを却下した時に……。

『そうですね。もう数ヶ月もしたら、晴れてこの国の男爵様になられるのですから。その時でも遅くありませんわよね』


 ローザは、来年2月に受ける上級魔術師(アーク・ウィザード)に合格し、俺が男爵位を授与されることを毫ほども疑っていないようだ。まあ、俺もそのつもりだが。


「それにしても、この馬達は素晴らしい。駿馬ですよ」

 ニコロが背をしきりに撫でている。

 確かに、胸前がしっかりしていて、脾腹に適度に肉が付いている。


「しっかし、これがゴーレムとはねえ。驚きました……」


 横で、訳知り顔でアリーが、大きく肯く。

「でしょ! ゴーレムなら、給水や休憩も必要ないので、普通の速度で走らせても距離が稼げるんだよ。すごいでしょう、ウチのラルちゃんは!」

「そっ、そうですね」

 ニコロが、少し引いてるぞ。


アッシ(わたし)としては、これがゴーレムとわかっていても、この手で世話したいですよ。それぐらい良い馬です」

 

 確かにゴーレム馬は馬車ごと魔収納に入れられるから、馬房は借りてない。


「ああっと見惚れている場合じゃなかった。装具の確認でしたね。やりましょう!」

 ニコロの点検に皆で付いて回り、コツを聞いた。


     †


「これで大丈夫ですね。少なくとも1日1回ぐらいは、使う前に点検して下さい」

「助かった、ありがとう」

 銀貨(1シリング)を3枚渡す。


「こんなにいいんですか? いやどうも! では良い旅を」

 たしかに多いだろうが、ゴーレム馬を褒めてくれたしな。


 ニコロがホクホク顔で仕事に戻っていった。


「これで馬車の方は準備万端だけど……御者は誰がやるの? まだ寒いんだよね」

 交代制にしても、嫌だなあと思っている顔だ。


 確かに、少し春めいてきては居るが、御者台で間断なく風を受け続けるのはちと辛い……というのは分かっている。サラが居たら引き受けたがるだろうが。

「こいつだ」



 人形のゴーレムを出庫する。

 【起動(アクチヴェ)!】

 革の防寒着を着込んだ青年が馬車の裏から現れ、俺達に恭しく挨拶した。


「えっ? 誰?」

「ゴーレムさ」

「おっ、おおう。人間もできるんだ。流石ラルちゃん、抜かりないねえ……あれ?」

「なんだ?」

「何と言うか……髪は黒いけど、顔と言い、背格好と言い。ラルちゃんに似てない?」

「確かに似てるわ」

 ローザも肯く。


「面倒だったから、基本俺に似せて多少変えた」

「なあぁぁ……どうせなら、きっちり似せて造って、1体頂戴」

「だめよ!」

 ローザが勢い込んで否定する


「なんでよ、お姉ちゃん。良いじゃない!」

「俺もそっくりに造る気はない」


「ラルちゃんの意地悪!」

 貰ってどうするんだ。


「さて出発するぞ」

「畏まりました」

 御者は、きびきびと馬車に寄って扉を開けた。


 無言で佇んでいたセレナがすっくと立ち上がって中へ入り、最後尾の荷台に陣取る。


「奥様。お手をどうぞ」

「まあ、ありがとうございます。あなた」

 踏み台に足を掛けてローザが優雅に乗り込んだ。

 すかさず、俺も後を追う。


「ちょ! アリーちゃんは? 忘れてない?」

「置いていくぞ」

「もう!」


 馬車内部は、座席が2列向かい合わせで6人乗りだ。その後ろは平たく荷台になっている。既にセレナが安らかに寝ている

 座席は全て倒すことができ、やや窮屈だが4人ぐらいは雑魚寝も可能だ。

 アリーが不満そうに乗り込んできた。

 ゴーレムが扉を閉め、御者台に上がる。

 

「フンっだ。でも今日は、めげないもんね。じゃあ、サラっちの実家へ向かってしゅっぱぁつ!」

 馬車が走り始めた。


 そう。

 サラの苦況を知らせてきた手紙には、実家の里で足留めを食っているとあった。王都に帰るためには、長の許可が必要なのだが貰えない……そこからは遠回しにだが、できたらで良いので俺に来てくれないかと書いてあった。

 よく分からないが、許可をくれない理由に俺が関係あると臭わせてあった。


「でもさあ、ラルちゃん忙しかったんじゃないの?」

「そうだな。サラに頼まれたからというのが半分……」

「残り半分は?」


「前にサラと話したときに、家の近くに遺跡が有るって言ってたろ」

「……ああ、言って言ってた。ターセルの迷宮から帰る時ね。でも、大した遺跡じゃないって言ってたような。じゃあ、ラルちゃん、そこにも行くつもりなんだ?」

「ああ」


「ふーん。物好きだねえ。まあ、いいけどね」

 物好きだけではないが。


 そんな会話の間にも馬車は走り、東門広場を後にした。車窓には放射状の大路の両側に並んだ城外の街並みが流れていく。


「そだ! ラルちゃん。御者君の名前は?」

「付けてない」

「ええぇー、かわいそう」

 いや、ずっと使うかどうか分からないから、付けても仕方ないだろう。


「じゃあ、アリーちゃんが考えてあげる」

「あなた。レプリーという名前は如何でしょう」


「レプリー……な」

 ラーツェン語で人造人間を示す言葉から、一部分を取ったのだろう。

「悪くない。そうしよう」


「もうお姉ちゃん! アリーちゃんが考えるって……」

「それはともかく。この馬車、本当に揺れませんね」


「うんうん。それはアリーちゃんも思った。レプリーは御者が上手いね」

 めげないヤツだ。


 実のところ、御者(レプリー)が居ようと居まいと馬車は走る。ゴーレム馬が、俺の指令を受けつつ自律的に動いているからだ。とは言え、御者台が無人で走っていると見た人を驚かすことになる。紋章もそうだが、目立つのは得策ではない。


「魔導具を使って揺れを抑制しているし、今のところは路面の状態も悪くないからな」

「そうなのですね。では悪くなる前にお茶にしましょう」


 俺は、壁に倒してあった折り畳みテーブルを立ち上げる。ローザが魔導鞄からカップを出し、お茶の入った水筒を魔収納から出して彼女に渡す。朝、出掛ける前に、ローザが淹れてくれた物だ。


 紅い茶が注がれ、馨しい香りが鼻腔を擽る。


「ああ、ありがとう……いつもながら美味いな!」

 左を向いて礼を言うと、ローザが微笑み、アリーは生温かい目付きを浮かべた。


 やがて馬車は緩やかに速度を落として周回路を左に折れ、それからは一路北へ向かった。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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