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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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132話 緊急依頼(上)

前近代において軍を催すには結構時間が掛かったようですね。常備兵が限られた状況では、脚で兵の動員連絡をして小さな単位で集まるのを待ち、行軍の途中で合流していくとのがパターンだったとか。確かに週単位とかで日数が掛かるのは、想像に難くありませんね。

 ギルマスの問いには、軽く首を振って曖昧に答えて部屋を辞した。

 階段を降りる途中。


「ラルちゃん。何が気になるの?」

「いや……」

 振り返ると目が合う。

 ふむ。まあアリーに隠し事は無理か……。


「……軍だ」

「軍? だって防衛隊とか、黒衣大隊に……この前来た……」

 名前忘れたのか? バロールさんだよ。電光(ブリッツ・デ)バロール。


「陸軍だけで、軍人が何万人居ると思ってるんだ。いくつも派閥があるそうだしな」

「ふーん。流石に軍は、ギルマスにも荷が重いよねえ」

「そういうことだ」


 向き直って、階段を降りきった。

 

「今日は、ラルちゃんと水入らずで狩り三昧ぃぃぃ!」

 早くも機嫌が治っている。

 まあ玄関までは忘れさせておこう、待っているセレナのことは。


 2時少し前だ。ロビーには、今日の獲物を持ち帰った冒険者の姿がボツボツと見える。


 確かに魔獣狩りは久しぶりだ。少し心が浮き立つ。

 さっさと城外へ出よう。


「ぁぁあああ、ラルフ君! ちょっと待って!」

 声は窓口の方からだ。

 玄関まで持たなかったな、アリーの機嫌。


「なんですか? サーシャさん」

 声の源に近寄っていく。


     †


 サーシャさんの用は、緊急依頼だった。


 プルディア村近辺でオークが出たようだ。

 豚頭の2足歩行魔獣。総合戦闘級(レベル)は30から50と高くない。

 ターセル迷宮で斃したバルログのざっくり半分だ。

 単体では精々惨事級(ホリブル)だが、問題なのは群を作ることだ。しかも、オークだけでなく眷属であるワイルドボアをはじめ、ゴブリンまで混ぜて連れ回り、なんでもかんでも食べ尽くす。蝗のような厄介なやつらだ。


 プルディア村は、王都(スパイラス)から南西に12ダーデン程の距離。


 日が暮れれば、夜行性のオークの群れは村を襲うだろう。

 時間が無い。やつらは人肉に禁忌など持たず、躊躇なく喰らうやつらだ。


 軍にも連絡が行って、動員を掛けているようだが出足は遅い。対超獣・対上級魔獣魔術師特科の深緋連隊(サカラート)は、オークでは出撃しない。


 ギルドはギルドで、中上級冒険者がいるクランを動員しようとしているが、昼日中で集まらない。それに、ギルドへもたらされた情報が断片的で、オーク達の数が分からない。したがって対抗すべき、冒険者の必要数もどれほど必要なのか知れない。


 そこでお鉢が俺に回ってきた。近郷で怪我人も少なくない人数出ているそうなので、アリーも連れて行く。

 主たる依頼は規模の偵察だが。降りてきたギルマスは、なんなら駆除して貰っても構わんがと言って、サーシャさんに思いっきり睨まれていた。


「で? なんで路地裏に? なんで馬車借りないの?」


 俺とアリー、そしてセレナが人通りの少ない、東門外の一角に居る。


「ワフッ!」

「セレナが乗れって!」

 蒼白い毛並みの魔狼(ウォーグ)が、俺の方を見上げた。

 乗れって言っているのは、俺だけだけどな。


「セレナには、現場で活躍して貰わないとな。それに2人は重すぎる」


「じゃあ、どうやって村まで、うっ……」

 アリーの唇を指で押さえる。

 回りには人は居ないと。

 道に向けて、腕を差し出し──


「おおぅ……馬だ!」

 精悍な黒鹿毛。

 それが忽然と石畳の上に現れた。俺が魔収納から出庫したのだ。


「あれ? なんで、生き物が……もしかしてゴーレム?」

 そう言うことだ、生き物は入庫できないからな。

 肯くと、へぇぇと言って見回している。


「余り時間が無い行くぞ!」

 鐙に足を掛け跨がると、アリーを引き上げる。


 カチカチと蹄鉄が音立てて走り始める。


     †


「速い! 速いよ、ラルちゃん」

 確かにな。

 時速30ダーデン。横で走り続けるセレナも巡航速度並みだ。


 30分も走らない内にプルディア村に入った。そのまま村落に入った。

 アリーを降ろす。

 村民に被害が出ているようなので、アリーには治療と回復に努めて貰う。


「ラルちゃん、私の大きくなってたでしょ」

「はぁ?」

「もう分かってるくせにぃぃ、えへへ……」

 なんで機嫌が良いんだ? しきりに、2人乗りした乗馬中に、後ろからぎゅうっと抱き付いてきたのはそういうことか。


「まあ、もう子供じゃないからな……」

 少し遠い目をすると。

「いや、お姉ちゃんと比べないでよ! もう、行ってくる」

「頼むぞ」

「任して!」


 小走りで村の中央の方へ走って行った。

 相変わらず、何を考えているかよく分からないヤツだ。


 さて、俺もやるべきことをするか。

 村落から離れ、真っ直ぐ探知された群れに近付く。距離にして2ダーデン。

 ゴーレム馬を入庫して、風下から(にじ)り寄る。


 見えた!

 腰高の枯れ草が繁茂するなか、まばらな木立が点在する平原にいくつかに別れて宿営している。数にして、オークがそれぞれ200、その回りをバラバラと巨猪(ワイルドボア)が丸く囲んでいる。


 円陣か。

 感知魔術によると、その直径100ヤーデン程の円陣が5つある。1000ヤーデン程離して正方形の頂点と中央に円陣が位置している。


 見事な布陣だが、何か違和感があるな。

 そもそもオークの群れは、人間の里には近寄らない。彼ら以上に徒党を組んで戦いを挑むからだ。


 オークの知性はそれほど高くない。集団の規模が大きくなって気が大きくなったのか?

 果たしてこれほどの複合陣を敷けるであろうか。


 200ヤーデン程まで近付いて、強度高めた感知魔術を発動する。


 むう……やはりハイオークが居る。

 体長が3ヤーデン近い大きな個体、上位種だ。


 厄介だな。

 まずは、オークが全部で1000頭あまり居るし、知能の高いハイオークに率いられているのも問題だ。

 ギルドの混成冒険者部隊が、どれほどの数を揃えられるか分からないが、苦戦するのは間違いない。


 潰しておくか──


 傍らで脚を折って低く叢に紛れるセレナの肩を撫でる。

 征くぞ。

 両手に乗せられる程幼き頃から寝食を共にした魔狼(ウォーグ)。彼女との意思疎通に言葉は不用。


音響(ソノ)結界(シーマ)

 枯れ草が音を立てるのを嫌い、魔術を発動。

 目指すは中央の隊。

 2隊の間を風の如く奔り、セレナが音もなく駈ける。


 居た──


 視力を強化して確認すると、少しこんもりとした土地に、3頭ハイオークが屯している。周りの者達が不揃いのみすぼらしい革鎧や胸当てを着崩したようなっているのに対し、まるで誂えたような鉄鎧を着けて居る。


 この集団の指導者であろう。

 群れとは蛇に似たり、まずは頭を潰すべしと言う。


 ローブを撥ね上げ、両手を突き上げる。狙うは中央のハイオーク。


 瞑目──長く息吹を吐いていく。

 丹田(セイクラル)に魔力を集約。漲り渦巻く。


 まずは弓手(ゆんで)に意識を。


天霰(グレル・)錬成(ゲネラシォ)】──


 魔力が左腕から発散すると前方に霧が瞬時に立ちこめる。数ヤーデン先も見通せぬ密度、それが刹那に晴れる。

 取って代わった無数の皓き散弾が宙に分布。


 次は馬手(めて)

 未だ渦巻く魔力流を脊髄通して右腕へ。


──【衝撃波(エンペルスタ)!!!】


 慣性を無視した加速。収束した魔界強度が物理法則をねじ伏せる。

 毫の刻も経たぬ間に、狙い違わず散弾が殺到。


 轟音が圧するなか、何者も止められない万を超える氷箭が、円陣の真中で盛大に血しぶかせた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2021/05/08 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)

2023/02/24 誤字訂正(ID:1552068さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い小説、物語ですね。 雰囲気が良いですし何より読みやすく、楽しませていただいています。 [一言] 誤字情報、少々入れさせていただいています。 「回り」と「周りの」言葉ですが、 腕を回す…
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