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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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125話 斥候術

子供の忍者の本を読んで憧れたものです。

それで修行というか練習したのは、足音を立てない歩き方。よく人を脅かしてました。

大人になった今、やると騒ぎになるのでやりませんけど。得意です。

 路地を出た繋ぎの者は、堂々と通りを歩き乗合馬車に乗った。


 光系偽装魔術で他人の容貌服装になりすました俺は、次の停車場まで追いかけ、何気なく同乗した。内郭から外郭を隔てる内壁を貫く西門へ向かう乗合馬車だ。西門では顔だけ元に戻し、関門を抜け外郭へ出た。ここは、国の威信を掛けた対偽造設備が揃っているらしいから、そのまま通ると危ないからな。


 門外に出ると、また違う容貌に切り替えた。


 さて、感知魔術で追って居るが……再び目標を捉えた。

 繋ぎの男は、西外郭の大店が並ぶ商店街を通り、サッと辻を曲がって、一筋裏道に入った。


 姿が見えなくなったが、感知魔術は見失うことなく、位置を捉えている。


 塀の中に入った。

 ここで止まっては怪しまれるので、ただの通行人を装ってそこを通り抜けた。


 ブリオット商会──

 通用門の表札看板にそう書いてあった。

 ああ……知っている名だと思ったが、アリーのギルドの貿易資料の写しに載っていた。

 この商会は我が国屈指の貿易商だ。無論ミスリルも扱っている。


 なるほど。大体構図が見えてきたな。

 中に入って調べたいところだが……人質が居る。自重しておこう。


 感知魔術の魔圧を上げて敷地内を、探って見る。


 ここには居ないな。

 10歳児のロラント君らしき反応はない。

 魔導波除けの障壁の感はないから、探し切れていない可能性はごく僅かだ。

 ちなみに、さっきの繋ぎの男は大きな建屋の2階でに居るようだ。


 ゴーレムカラスを、魔収納から取りだして放つ。


「ん? あれが噂の鷹なのか? 黒かったが」


「偵察用なので、カラスにしてみました。中尉さん」

 声とは逆の方へ向く。誰も居ないが……。

「ああ、そっちの方が目立たなくて良い。それはともかく、本当に私が見えるんだな」


 中尉は、路地裏で光迷彩の認識阻害魔術を切ったようで、誰も居なかった所に姿を現した。

 ふむ。もう1人は、向こうの辻の角近く立ってこっちを見てる。そっちにも会釈していく。


「ちっ、この制式魔導具、結構良い値段するんだがな」

「慣れてますんで」


「慣れてるってどういうことなんだかなあ。それより。何回も外見が変わったが、魔導具だったりしないよな」

「残念ながら、魔術です」

 魔導具にもできる気もするが、提供する気は無い。

 カラスに送る魔圧を上げて、目標の位置を絞り込む。


「だよなぁ……操縦の邪魔なら言ってくれ」

「いいえ、大丈夫ですよ。見つけました」

 カラスは音もなく、窓枠の上に舞い降りた。


「で? さっきの男は、堅気じゃなさそうだが、何をやらかしたんだ?」

「迎賓館員縁者の誘拐ですよ」


 中尉は首を揺らした。

「そりゃあ、また物騒だな」

「全くですね」


 繋ぎの男が、こちら(カラス)の方を向いている。怪しんでいるわけではなく、窓際の机に座っている人物と会話しているようだ。

 残念ながら、ゴーレムの聴覚の最低限だ。窓越しの声は流石に聞こえない。

 機能強化しておくべきだな。

 ただ、しっかり繋ぎの男の顔は見える、唇の動きで喋っていることが読み取れそうだ。


「で? 人質は、この中か?」

「いや、居なさそうですけどね……」

「そこまで分かるのかよ。中佐は欲しい人材と言っていたが、ウチの連隊には入らないでくれよ!」


 中尉のおしゃべりを手で制する。


「女は、成功したと言っていました…………大丈夫です、総支配人。例の魔導具で確認しましたからね。」

 カラスの視界を使って認識した会話と言っても、繋ぎの男の方だけだが、それを再現する。


「総支配人かあ……」

 話が核心に来たようだ。


「ええ。あの女は殺してませんよ。まだ使えそうなのでね……坊主は、西の第7倉庫に押し込んでありますから。そうです、あの倉庫ですよ……お任せ下さい」


 そう言うと繋ぎの男は、部屋を出て行った。


「会話は終わりました」

「西の第7倉庫かぁ……」

「心当たりありますか?」

「そうだな。おそらくデジール運河沿いの倉庫街のどこかだろう」

 中尉が顎をしゃくると、奥に居た気配が消えた。


 デシール運河。

 西門から出て1.5ダーデン弱(1.3km)を流れるデシネ川と王都近辺を結ぶ運河だ。大消費地である王都へ物資を供給する水運路となっている。陸揚げ地に倉庫が多く並ぶ場所がある。


「さて。俺はそろそろ、迎賓館へ戻ります」

「ああ。こっちの張り込みは任せろ。もっと人員を投入する」


     †


「なんと言われようと、ミストリアとしては、来年の関税率を2割5分より下げる気はない」


【2割5分から下げる気がないと、パエッタ審議官は仰っています】


 10時から第2回の会議が始まっている。

 今回もメディナ副使と俺、ミストリア側はゼルク南方課長にパエッタ審議官、さらに彼らの通事合わせ、計5人で話し合いだ。

 

 もう1時間が経っている。

 

 メディナさんが訊く。

【合理的な理由をお聞かせ願いたい。他国とはどの様になさっていらっしゃるのか?】


 審議官は横の通事から聞き、口を開いた。


「理由については、貴国に開示する必要を認めない。また他国との交渉については、未だ途上であるし、そもそも決定したとしても当方から貴国に通知する義務はない」

 取り付く島が無いとはこのことだ。

 

 審議官の発言を訳して伝えると、メディナさんの眉間の皺が深くなる。逆に相手は余裕綽々の薄笑いだ。

 確かに関税自主権の原則から言えば、ミストリア側に非はない。ただ……。


【そこまで仰るのなら。プロモスは、貴国のミスリル需給状況が切迫された場合も協力致し兼ねると申し上げざるを得ませんな】

 結構な脅し文句だ。


 しかし、その訳を聞いた審議官は鼻で笑った。

 それがどうしたという顔だ。


 やはりおかしい。

 我が国のミスリルの需給状況は良いとは言えない。

 去年は、特に王都では一時高騰して3倍まで価格が急に上がったことがあったそうだ。

 統計資料を読んだ俺としては、一国民として心配なぐらいだ。


 下卑た表情を浮かべたあと、審議官は口を開いた。

「なかなか失礼な物言いをされる。失礼と言えば、正使殿はどうされたか? 本日の顔見せはお越しにならなかったが」


【正使様がお出ましにならなかった、理由を問われています】

【うっ、ううむ。それは……些か、お加減が優れぬ故……】

 上手いなメディナさん。


 実際の所、正使様はかなり回復されている。会議が始まる30分前までは出席されると仰っていたぐらいだ。それを、再び狙われる危険があるからと言って、出席を見合わせて貰ったのだ。


「それは、ご心配ですなあ。私共も外務卿が仰ったウォルケス家の手前もございます故。万が一何かありましたら、お知らせ下さい」


 ウォルケス家とは我が国の侯爵家だ。そこに正使様の伯母が嫁いでいることを言っているのだろう。

 しかし、なにやらとってつけた感じだ。

 もしかして、正使様に毒を盛ったのは、そこに泣き付かないようにさせるためか? そう考えれば一応辻褄は合う。


 審議官の発言を訳すと、メディナさんは動揺したように言葉を詰まらせた。役者だなぁ。


 その後、結局正使様の体調を慮り、結論を明日に延ばして会議を切り上げた。


     †


 使節の宿舎である離れに戻ると、正使様が広間にいらっしゃった。

 会議前に比べれば、血色も良くなっている


【正使様、お加減は如何ですか?】

【はや回復した、加減は悪くはない。ラングレンの尽力のお陰だ。礼を申す】


 胸に手を当てて感謝の意を示してくれた。目下の者に対して最上級の礼だ。


【いえ。お役に立てたのであれば光栄です】

【ふむ。悪事の方も気になるが。まずは会議内容を訊くとしよう】


 メディナさんが、要領よく説明していく。

 皆の顔は暗い。


【やはり、伯母上を頼らざるを得ないか】

【しかし、またどのような妨害があるか……それよりは、例の女官をなんとかする方が得策なのでは?】

【確かにのう……妾に毒を盛った者は憎い。とは言え、交渉相手共の繋がりを明確にできねば、追及してもとぼけられて終いじゃ】


 ふーむ、正使様。王族なのになかなか世間が見えている。

 

【正使様。僭越ながら私に考えがあります】

【ほう……是非聞かせて貰いたいものじゃな】

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2019/04/17 誤字訂正(ID:1191678さん ありがとうございます。)

2021/09/11 誤字訂正

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