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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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123話 油断

油断、よくしてしまいます。

気の緩みも有りますが、後悔するのは思考停止ですね。

なぜ、あそこで考えるの止めるよ、過去の自分よぉぉおおお! ってヤツ。


 日曜日。通事の仕事延べ3日目だ。

 

 7時10分前に迎賓館の離れに入ったが、昨日とは何かが異なる。

 なにやら暗騒音が慌ただしい。

 

 その予感が裏切られることなく、まもなくメディナさんが青い顔で出て来た。


【おはようございます。どうされました?】

【ああ、ラングレン君】

 

 何か言い淀んだ。只ならぬ事態のようだ。

【どうされました!】

【ああ……】

 周囲に目を走らせる。この場所は、まだ迎賓館の者も入って来られる場所だが。


音響(ソノ)結界(シーマ)


【音を遮る結界魔術を張りました。喋っても外には一切聞こえません】

【……ああ、そのようだ。耳が……】

 この結界の中で沈黙すると、高い周波数の幻聴が来る。呼吸を鎮めれば、血の流れも聞こえる。


【それどころではなかった。正使様のお身体に異変が! 誰ぞ、ここへ連れて来られる医師は居ないか?】


【正使様が……。なぜ、迎賓館の医師を呼ばれないので? まさか……】

 無論、ここに医師が常駐しているなど知らぬはずがない。

 

【医師とて信用できぬ】

【毒でも盛られたと仰るのですか? どのようなご容体なのですか?】


【意識はしっかりされていらっしゃるが。晩餐の後暫く経って、猛烈な腹痛と、嘔吐が……】


 しまった!

 迎賓館と言うことで油断した。

 反省は後だ!


【私は、回復魔術が使えます。まずは診せて貰えませんか?】

【そっ、そうなのか! それは助かるが……今、確認する】


 王族の未婚女性は、外聞を特に気にはするが。そんな場合ではないでしょう! そう言いたかった。

 メディナさんが奥へ入って行くと、入れ替わりにルンガさんが出てきた。


【ラングレン君、聞いたか?】

【はい】


 ん?

 誰か外に居る!


【どうした?】

 ルンガさんを手で制しながら、扉に近付く。


催眠(エスタ)!!】

 扉を引くと、女がこちらに倒れ込んできた。


【おっ! なんだ、どうした! 失神してるじゃないか】

【俺の魔術です。扉の向こうで、聞き耳を立てていました】


【なんだと。おお? この女……昨日の夕食の給仕をしていた女官だ!】


【そうですか。大丈夫だと思いますが、念のために縛り上げて置いて下さい】

【おっ、おう】


 奥の扉が開いた。

【ラングレン君入ってくれ! ん? その女は?】

【容疑者です!】

【容疑者だと?!】

【それよりも今は、正使様を!】

【あっ、ああ。そうだな】


 奥の部屋は、まず会議ができる程の大きい居室があり、そこ通り抜けて寝室へ通された。

 手前の部屋も豪華だったが、ここはさらに凄い。調度の一つ一つが磨き抜かれたマホガーン材の素晴らしい木目を見せ、布は絹、金具全て金だ。


 部屋の中央の天蓋付きベッドに、正使様が横たわって居る。顔が蒼く、やつれが目立つ。唾液が止まらないのか、側に立つ年配の侍女が、注意深く拭っている。


【失礼致します】

【……ラングレン】

 意識はあるようだから、毒といっても血液脳関門を通らない物のようだ。


【医師ではありませんが、些か心得が。回復魔術も使えます】

【おお、お願い致します。持参してきた解毒剤が効かぬのです】

 侍女が眉根を寄せて訴える。


【わかりました。吐瀉物、もしくはそれを拭った布があれば、こちらに!】

【はい】


 とりあえず衰弱をなんとかしないといけないが。

 さりとて血流量を上げないようしないと、毒素を全身に撒き散らすことになる。


治癒(サナーレ)!!】

 効果は薄いが、制御を誤ることが少ない安全な魔術を使う。まずは衰弱への対症療法だ。

 胸のすぐ上に手を翳すと、金色の微粒子が降り始める


 何の毒だろう? 治癒に優れたアリーなら、汎用効果がある中級治癒魔法で力押しするのが正解だろうが。

 俺の場合は、もっと効率良くやらないと患者に負担を掛けるばかりだ。もう少し症状を分析しないとな。


 唾液──

 侍女が下がったので、しどけなくテラテラと漏れ出ている。


【正使様。失礼します】

 肯くのを待って、正使様の口角に指を当てる。

 軽く掠って、人差し指と親指を広げ、唾液の橋を作った。


真査(キュレート)!】


 中級鑑定魔術が唾液の成分を知らせてくる。


 アミラーゼ、リゾチーム、ラクトフェリン…………ん? 何だこの塩基は?


 目の前に、半透明の四辺枠が現れる。

 古代エルフの遺産だ。


 情報が流れ込んでくる。

 アルカロイド……ムスカリン?


 特定のキノコ類に含まれる毒物。副交感神経作用物質の1種か……。

 摂取時の症状は、腹痛、嘔吐、下痢、縮瞳、呼吸困難か。


 合致する!


【持ってきました】

 ハンカチだ。少し黄色くなっている。


真査(キュレート)!】


 塩酸……こいつは胃酸か、やはりさっきより濃度が濃いムスカリンもある。

 むう、やはり。盛られたな。


【どうだ?】


 正使様の弱々しい声が上がってきた。

 侍女も、メディナさんも寄ってくる。

 

【毒物は大凡特定できました。鑑定魔術によるとムスカリンという、毒キノコから抽出される毒です】

【毒キノコ?!】


【大丈夫です。それほど毒性は強くありません。生命の危険度は低いです】

【そうか……】

【よかった】


 周りの者は一様にほっとした表情だ。

【何はともあれだ……で、ラングレン君は治せるのか?】

【はい!】


 あれを使ってみるか……。


 下級回復魔術を止める。

 両手を正使様の肋骨の下辺に擬す。


「いと高き磐座(いわくら)より 慈しみ深き光条を注ぎて 遍く敬虔なる使徒を救い給え ………… 恩寵!」


 すぐさま中断──からの!


恩寵(カリス)!!】


 俺の右手から、眩くも蒼き光針が束となりて突き刺さる。

 おお。

 恐ろしい勢いで、魔力が流出していく。

 その行き先は、腎臓。

 腎臓を超活性させ、血液を濾し取らせる。


 毒素がみるみる消えていくように感知される。


 数十秒後──


 俺はベッド脇で太い息を吐いていた。

 魔力上限値の2割方減っている。

 流石上級魔術というより、俺と回復系魔術と相性が悪すぎるだろう。まるで辺りに魔力を撒き散らしている感覚だ。

 アリーが行使したなら、消費魔力量は俺の10分の1未満に違いない。 

 

【ふう……ラングレン……(かたじけ)なし……】

【姫様!】


【お休みになりました。もう大丈夫かと。俺達は出ましょう】

【あっ、ああ】


 メディナさんを連れ立って、居室に戻ってきた。

 次の間に居たルンガさんが眠らせた女を縛って運び込み、ソファーに座らせていた。


 さて、こっちもなんとかしないとな。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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