119話 宵闇の戦い
戦闘回です。
子供の頃、西部劇とか好きでした。やはり騎馬での戦いはロマンですね……。
客車は前後に仕切りがあって前に4席あった。
前部は随行の席、後部は貴賓席だ。
ルンガさんが手招きしたので、そこに座る。
奥に厳つい体躯の男がもう1人居る。
【武官のベスターだ】
同じ武官のルンガさんより若そうだ。
【さっき通事に成ったラルフです。よろしく】
手を差し出されたので、握手する。
痛った!
糞力で握られた。しかも離そうとしない。
【はっはっは、教養も大事だが、若いのだから身体も鍛えんとな】
脳筋だな。
まあ、俺の体が細いのは確かだが、負けず嫌いでね。
【同じ意見ですよ、ベスターさん】
身体強化魔術が掛からない程度に握力を込める。
【うぉ、痛たたたたた……痛ってェ】
ベスターが右手を押さえ、ルンガさんが呆れている。
【はあぁ、人を見掛けで判断するなと何時も言ってるだろう。それと正使様は騒がしいのがお嫌いだ。後ろに行ってくるが、おとなしくしてろ。主にベスター!】
叱られてベスターさんは、押し黙った。
仕方が無いので、窓の外を眺める。まもなく右折して王都の外周の周回路に入った。
周回路は宵闇で暗い。時々窓から魔石を使った街路灯の明かりが差し込み行き過ぎる程度だ。
王都から外に伸びる所謂法線路は、街道筋ということもあり数ダーデンに渡って、それなりの賑わいがある。
しかし、王都の周りを巡る周回路は一本奥に入れば、たちまち貧民街だ。修学院でも、神職候補生はともかく、神学生へ立ち入りをしないよう呼びかけている。そんなこと考えていると、扉が開いた。
【ラングレン殿! 正使様がお会いになるそうだ】
【わかりました】
通路を後部へ進む。
仕切りの扉を開けて中に入ると、進行方向に向かって真ん中に、女性が座っていた。
仄白く浮き立った細面は、恐ろしく高貴。
玲瓏というか堅い水晶細工のような顔だ。
麗しくも鋭い目線が俺を射竦めようとしている。
おっと礼をしなくては……貫通路に片膝を着く広さはないので、胸に手を当てて会釈した。
対面の席には、初老の文官ぽい人と、年配の女性おそらく侍女が座っていた。
【そちは、我らの言葉を解するか?】
おお、なんか人形が喋ったような、ぞわっとした感じが背筋を走る。大した声量ではないの不思議に良く通る声だ。
答えて良いのか? 直答は、失礼に当たる。どうしたものかと文官さんを見ると。
【苦しゅうない。応えよ】
正使様から声が掛かる。
【はい。理解できます】
【では、創世記第1節を申してみよ】
はっ? 馬車に乗せておいて……正使様自ら試したいと言うことか。
【虚無の闇に神は唱えた 光あれと しかし混沌の支配は緩まず 成すことはなかった 未だ時期に非ず 神は待った 1万年に1度光あれと唱えた 幾たびも試みたが混沌は衰えることはない 神は諦めなかった 数えること39度目 ようやく 遍く光が行き渡った 神は光神となった】
【もうよい。確かに、プロモスの言葉を話せるようだ。冒険者とやらの割に教養もあるようだ……随分若いようだが、その装束は魔術師か】
【はっ。他に、神学生もやっています】
【ふふふ……あははは。神学の徒に聖典を問うとは、妾も抜かったわ。して、そちの名は?】
【ラルフェウス・ラングレンと申します】
【家名持ち……貴族か】
【准男爵と申しまして、最下層では有りますが……一応貴族の家の者です】
【我がプロモスの通事として相応しい。スパイラスへは3日程滞在するゆえ、その間、そちを取り立てよう。励め】
励めと言われてもな。
まあ学園は明日から3連休だ。その期間ならなんとかなるか。
【承りました。よろしければ、正使様のお名前をお教え戴きたく】
【プロモス王国第3王女クローソ・ヒルデベルト・ラメーシア・デ・プロモスである】
高貴そうだとは思ったけど、王女様か。
「ははぁ……」
胸に手を当て再び敬礼する。
ふう。神学生選考試験より緊張した。
なんというか、綺麗な人ってのは居るもんだね。
ローザとは違って硬い。なんというか容姿が整いすぎて、寄せ付けられなそうな感じさえする。
文官さんが手で下がれと示されたので、前部座席に戻った。
周回路自体は、それほど治安が悪くないはずだが、何やら胸騒ぎがする。頭では、ここまで立派な馬車に悪さをすることはないと思っては居るのだが。
なんだ?
前方から嫌な感じが近付いてくる。これか胸騒ぎの元凶か。
腰を浮かせる。
【どうした】
ルンガさんの顔が強張る。
その時、ガンガンと前方の窓が叩かれ、御者が異常を伝えてくる。
【なんだ、どうした? 襲撃か!】
【何かが道を塞いでます】
【分かった! ベスター来い! ラングレン殿は正使様へ】
肯いて後部座席に移る。
【なにごとじゃ】
扉を開けた途端に、声を掛けられた。
【何者か分かりませんが襲撃です。武官の方は迎撃準備していますが、敵は道を塞ぐ程の数です】
【むう……】
外交官は自身が国家の一部だ。他国内であっても、侵害を受ければ反撃の権利がある。
が、ここは訊く必要があるだろう。
【よろしければ、私も加勢しましょうか?】
【魔術師と言ったな……よし! 首尾がよければ、契約内容を増やしてくれる】
【では!】
さて。
前部座席に戻ったが、迎撃するにしても御者台は御者に武官2人で一杯だ。
御者台が駄目なら……。
横の扉を開けて庇を掴むと、逆上がりで屋根に上がる。手を離すと風圧で扉が閉まった。
前方を眺める。通行人もいない道を、突っ込んくる騎馬を街路灯が映し出す。
6騎──
それぞれ革鎧を着け、馬上槍を持っている。
どう見ても正規兵じゃないな。
数歩歩いて、御者台のすぐ後ろまで取り付く。
【うお、ラルフ殿!】
【ルンガさん。御者さん。俺が迎撃します。何があっても止まらないで下さい】
見えてるやつら以外に感はない。伏兵が居ないとも限らないが。
敵は横一列に並んで止まっていたが。こちらに駆け始めた。
敵対確定! 正当防衛成立だな。
あっと言う間に彼我は20ヤーデンまで近付く。
脚を踏ん張り腕を突き出す。
気尖……いや。
【西風!!】
手が微かに輝いて、衝撃が生じた。
破裂音と共に白い靄が馬車を一瞬で置き去りにするや、騎兵に殺到──
そのまま吹き飛ばした。
中央の4騎は馬ごと7、8ヤーデンも飛び、道端の屋根やら道路やらに落ちた。
これでも強いか!
【西風!!】
【西風!!】
射線をずらしつつ印加する魔力を半減して三度発動!
両脇の2騎は進路が曲げられ、そのまま道端の小屋に突っ込んでいった。
御者は悲鳴を上げながらも、速度をやや落とした程度で、そのまま通過した。
振り返ると、生命反応はある。
騎馬と戦うのは初めてだったが、思ったより他愛なかった。
流石にこれぐらいで、殺すのはやり過ぎだろう。致死性のある気尖を使わないで良かった。落馬するぐらいは自業自得と思って貰わないとな。
御者を残して、車内に戻る。
【驚いたぞ、ラルフ殿。やるものだ】
親指を上げて誉められたので、胸に手を当てて応じた。
貴殿自ら正使様へ報告してくれと言われたので、後部向かう。
【失礼致します】
返事があったので中に入る。
【どうなった?】
文官さんが訊いてきた
【問題なく、撃退しました】
【そうか……こちらに被害は?】
【特に被害はありません。何か襲撃を受ける心当たりはございますか?】
正使様は表情を変えなかったが、魔石灯に映し出された侍女の顔色は良くない。
【あるわけがなかろう】
文官がやや怒気を込めて返してきた。
【それならば、よろしいのですが】
【時に……】
正使様の方を向く
【はい】
【先程、魔力の高まりを感じたが?】
正使殿に声を掛けられる。
【なにやら突風が吹いたようで】
【突風というは、腕の先から吹くものなのか?】
肉眼で見えるはずはないが、観えるのか。
【ええ……ミストリアでは希に】
ふふん。
正使様は、不敵に笑った。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2019/04/20 誤字訂正(ID:209927さん ありがとうございます)
2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/04/24 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




