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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
7章 青年期IV 王都2年目の早春編
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116話 ヰタ・セクスアリス

旧仮名遣い(歴史的仮名遣い)は、どうなのか? とは思いますが。森鴎外大先生に敬意を表してサブタイトルに使わさせて戴きました。ヰタ・セクスアリスは、ラテン語で性生活のことです。

 それは変な目覚めだった。


 何かから解き放たれるような感覚に覚醒したが、見ゆる光景には現実味がなかった。


 ふむぅ……。

 妻になったばかりのローザが一糸も纏わず、ベッドで男と同衾している。

 寝入っているのか。

 乱れた髪は、あからさまに事後と物語っている。


 なぜだろう……。

 2人を眼下に見下ろしながらも、不思議と怒りも嫉妬も湧いて来ない。

 その男の姿形が俺に似ている、いいや俺そのものだからだろうか。

 

 眼下?


 そう。俺はベッドの上に浮いていた。足が地に付いていない。

 驚くべき事と認識があるのに、心が動かない。


 既視感……前にも?

 そう浮かんだ刹那、慣性を感じることなく、()へと墜ちた。


 天井も屋根も無きが如く突き抜けた。

 ぐんぐんと上昇し、王都の灯火に浮かび上がる城壁を見下ろし、雲を突き抜け、目の前が真っ白になった。


     †


 ここか──


 俺は再び(・・)思い出した。

 白い空間。いずこかの次元にある天界福祉庁のオフィスだ。


 なぜ俺は上昇して、ここに来たのか?

 天界と言っても、空の上にあるわけではない……はずだが。


 豹頭天使が来た。


「いやあ。お楽しみの所、悪かったね。ラルフ君」

 なぜ、にやけているのか。なぜそれが分かるのか。

 気にしたら負けな気がする。


「1リンチでも悪いと思うのなら、ここに呼び出すのは遠慮して欲しいものですが」

「えぇぇぇ…………」

「前にも言ったはずですが、完全に服務規程違反ですよ! ソーエル審査官」

「だから、前にも抗弁したけど、君の承諾があれば問題ないんだよ」


 平行線だな。


「そんな顔しないでよぅ。ほら、君だってさ、僕のお陰で強くなったじゃない」

「頼んでいませんが」


「うっ……そりゃあ、最近は、何だっけ? そうそう、あの惑星で言うところの中級魔術を改変して、上級魔術並み、いや威力だけなら凌ぐ程の魔術を使えているのは、君自身の努力だと認めるけどさあ」


「…………」


「その切っ掛けをあげたのが、僕だってことも忘れないで欲しいんだよね」

「そうでしたっけ?」

「なんだよ、つれないなあ!」


「で、早く帰して貰いたいのですが?」


「ううぅぅん。まあ、ちょっと話を聞いてよ。ベヅベヅ語の人間が飢饉で大量死しちゃって、てんやわんやなんだよ」

 ああ超マイナー言語だ。


「それと私になんの関係が?」

「やだなぁ。あれを聞き取れる審査官なんて限られてるでしょ!」


「別にあなたがやればいいじゃないですか!」

「もちろん僕はやるさ! でも転生審査は2審制! 予備と本審査を同一審査官が受け持てないって天界法で決まってるの知ってるでしょ、君のことだから!」


 こと転生に関する天界法は、俺の方が詳しいかもな!


「できるのと、やるのは10万光年ぐらい離れてますけど」

「わっ、冷たぁ!」

「ええ、人間的な感情は、3年間のバイトで摩滅しましたから」


「なっ……なかなか言うようになったねえ。で、条件の摺り合わせのことなんだけどさあ」


 聞いてないな、この天使。


「対価としてラルフ君が欲しそうな魔術を用意してるからさあ」

「何のことですか?」

「ほらほら、さっき!」


 さっき?

「なんのことだか、よく分かりませんが。なんにしろ、強制バイトさせられるぐらいなら、要りません!」


「まあ、そう言わずに。ああ、そうそう。最近監査の査察が厳しくって、下界に帰った途端に使えるようになると、うるさいからさあ。下界でちょっとした試練を受けてもらうから」

「なおさら要りません」


「むぅぅ。今回だけ! 今回だけ! 頼むよぅ。やってくれたら、もうラルフ君のヰタ・セクスアリスは観察しないと誓うからさあ!」


 むしろ、夫婦の寝室を今まで覗いていたのか! ラテン語で言っても赦さないぞ!

 手を合わせながら豹頭がこっちを見てる。

 なんだ、この天使!!


「上級審査官にチクりに行こう……」

「ええぇぇ。オマケ付けるから、オマケ……」


 何が何でも帰す気がないようだ……。


「いやなんですよ。審査官やると、凹むんですよ!」

「僕だってやってるんだよ! 君の魂が影も形も無い頃から」


「だから天使なんでしょうよ!」

「ウゥゥゥ……」

 泣き落としかよ……。


「アアアァァアアアア…………おまけも付けるって言ってるのに!」

 ああ、鬱陶しいぃ。


「はぁぁ……で、何人なんですか?!」

「えっ! やってくれるの? 300人、300人ちょっとだよ、ラルフ君……」


     †


「はい! 次の方!」


 うぅ……もう、何人予備審査したかな。100までは数えてたけど。

 麻痺した。


 すぅっと。歩かずに亡者がやって来た。


「えぇと、ヴィヅフヅアワさん。享年52歳ですね」


 ベヅベヅ語を使う人類は、文明レベルがさほど高くない環境であるが、純朴で人の良い者が多い。愛すべき人達だ。


 ただそれは、亡者を審査する者にとって良いこと……では、全然ない。

 圧倒的に悪人の方が楽だ。

 

 生前のこの時が駄目、あの時が駄目。はい! 基準超えたのを、自覚しましたね。

 地獄行き仮決定です! 本審査をお待ち下さい! で、済む。


 が、善人は、そうはいかない。

 ネチネチと生前の行状をあげつらって、細かいポイントを積み上げる必要がある。

 どう考えても、審査官の方が悪役だ。時間も掛かる。


「28歳と214日目、216日、265日……窃盗しましたね」

 ジョー・ハリーシステムを使って亡者に確認させる。


「ああ……はい」

 そうだね、この鏡みたいなの、逃れようがないよね。


「で、でもぅ。お代官様。オラ達、喰うや喰わずで、この飯を盗んで子に喰わさねば、皆死んでただ……」


「審査官だ! 死んでたねえ? 必ずしもそうは言えないな。最低でもこの後7日間は死ななかったはずだ!」

「うっ、うう……」


 でも7日間経過したら、盗む体力も消えているよな。実際その24年後、餓死したしな、一族で。その結果が大量死だ。


「えーと、倫理地域補正は……」


 およそ、文明レベルが一定値を超えた場合。

 倫理観として殺人・強盗は駄目、強制性交は駄目というのは共通しているが……ああ高位者が下位者を殺しても良いというのは通用しないぞ、ここでは。


 しかし、窃盗は微妙だ。

 原則駄目だが、生きのびるためなら盗んでも良いと言う倫理は意外と多い。緊急避難の思想の延長線だ。農耕民族は厳しいが、狩猟民族は緩い。自然が牙を剥く頻度が後者の方が高いということだ。

 それを、四角四面に一律で審査するのは厳しい。とある民族が全部悪人ともなりかねない。だから補正が必要となる。


「+26……か。では不問にはできないが、霊格ポイントの減点は-5ではなく-2に留めます」


「ああ、ありがとうございます。お代官様……」

「審査官だ! したがって総合判断として、種族短命補正の12ポイントを加えると、霊格ポイントは101ポイント。高等生物への輪廻は固いところですが、個体意識がある生物となるかどうかは、本審査の審査官によっては微妙なところですので、そのつもりで」


「ありがとうございます、ありがとうございます」

「では本審査まで待機願います」

 何度も感謝の意を表しながら、退出していった。


 ふう…………。

「はい。次の……」


「ああ、終わった終わった……」


 豹頭の天使が入って来た。


「審査官だ! キリっ……ぷっ」

 俺の物真似か! 腹を抱えて笑っている。ツボが分からない。


「バイト時間終わったてことですね!」

 ここは時間の感覚がおかしくなる。

「えーーー! 天使がボケたんだから、ツッコミ入れてよ!」

「それは、ボケではなくイジメです!」


「ちょっとした茶目っ気じゃないか! ……はあ。まあいいか。お陰で予備審査が全部終わったよ。ちゃんと報酬は支払うからさ」


「報酬は要らないですから、もう絶対、金輪際、呼ばないで下さい」

「無理無理無理! ちゃんと払うからねえぇぇぇ…………」


     †


 はっ!


「うぅぅ……」

 隣で寝ている、ローザが軽く唸った。

 俺が上体を起こした気配を感じたのだろう。


 窓から薄く入る月明かりで、周りが薄ら見える。午前5時、まだ日の出前だ。


「夢か……」

「おはようございます、あなた」

「ああ、おはよう。もう起きるのか? ローザ」

「はい」

 そうか。

 魔術で、魔石灯を点ける。


 妻の背中が見えた。シミがひとつも無く、なめらかな肌。長柄物を縦横に振り回す癖に、結構華奢だ。

 ベッドから起き上がると、朝には目に毒な臀部が見えた。いや眼福か。

 掛けてあった、ガウンを着けてこちらを振り返った。


「今日は随分早いのですね」

「ああ、夢を見た……空を飛んでる夢だ」


 手拭い持ってこっちへ寄ってきた。


「そうですか。こんなに汗を」

 甲斐甲斐しく拭いてくれる。

 

 ローザは、佳い匂いがする。


 いやあ。結婚して本当に良かったなあ。

 今のところは事実婚状態で、1月になったら、ソフィーを迎えに行きがてら、シュテルン村に帰って、挙式をしようとローザと相談している。


「空ですか」

「ああ」

「今度は是非ご一緒に飛んで下さい」


「ははっ。だって、夢だぞ」

「あなたならできる気がするのですが。はい、拭けました。そちらの腕もこちらに」

「あぁ、はいはい」


「まあ!」

「ん?」

「腕に、何やら文字のような模様が浮き出ています」


「……これは!」

 

「アリーが、これと同じことがあったと言っておりました。それは魔術の呪文だったと!」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2022/07/23 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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