114話 修学院再開
7章開始です。
たまたまですが、多くの学校の再開時期と被りました。
連休って、半分までは長いのに、後半は短く感じるのはなんでなんですかねえ……。
多くの出来事があった冬休みだったが、皆無事で、少なくとも身体的には無事で過ごせたのは良かったと思う。
暦も11月となり、修学院の前期後半が始まった。
登校して教室に入ると、しばらく会っていなかった級友とも顔を合わす。
「いやあ、冬休みにラルフ君が王都の英雄になるとはねえ」
「実家の領都の新聞にも載ってたよ。それでラルフ君のお父さんが、伯爵様からお誉めに預かったって」
ヨーゼフ君とクルス君が、破顔している。喜んでくれているようだ。
だが、親父さんからの手紙に、そんなことは書いてなかったな……時系列的に、手紙を出してから褒められたのか。
「えっ、そうなんだ。初めて聞いたよ」
そんな話しをしていると、見掛けたことのない女生徒が近付いてきた。
髪が長く、勝ち気そうだ。少し大人っぽい。
「君が、ラングレン君?」
「はい」
軽く目礼する。
「2年のラディアです」
やっぱり上級生だった。
「何かご用でしょうか?」
厚みのある封筒を、3通差し出した。
「受け取って。そして、確かに受け取ったとこの紙に署名して欲しいんだけど」
「これは……なんでしょうか?」
「お見合いの申込状よ! もちろん私ではなくて、私の本家縁の方からよ」
本家筋ねえ……ドロテア様の仰っていた通りか。
先輩の向こうで、聞き耳を立てていたアネッサが、飛びすさって騒ぎ出す。
「あぁ先輩。俺はダンケルク子爵様と懇意にさせて戴いていて、その方面はそちらを通すように言われています。申し訳ありませんが、受け取りかねます。先方にも、そうお伝え願いますか」
先輩は、むうと唸って眉間にしわを寄せた。
「分かったわ。無理強いしても、子爵様と本家筋との中が険悪になる可能性もあると……そう添え書きして送り返すことにします」
分かってくれたようだ。
「お手数掛けます」
「こちらこそ、無理言ってごめんなさい」
先輩は、踵を返して教室から出て行った。すれ違いに担任のバナージ先生が入ってきた。
「あれ? あいつは、2年だよな……まあいい。朝礼を始めるぞ! って、なに外に出ようとしてるんだ! アネッサ。席に着けぇええ」
†
3限目は、1月から始める自主研究の準備だ。
この時期に至っては、みんな指導教授が決まっており、それぞれの場所に向かっていった。大凡の級友達は研究企画を練っている段階だそうだ。それで、教室に俺だけ残っている。
無論、俺も指導教授は決まっている……そうだ。
問題なのは、その教授がずっと不在なことだ。決まっているとは聞いているが、会ったことはおろか、名前すら教えて貰ってない。
企画書だってだいぶ前にできあがったし。バナージ先生の担任承認だって冬休みが始まるだいぶ前に貰いかなり先行していたはずなのだが、すっかり追い付かれた。
まだ本格的な研究の準備が始められていないことになっているからだ。
指導教授と摺り合わせできていないからなあ。
まあ実際の所、俺は勝手に研究を始めている。
そもそも俺は自主研究の時間である午後には、冒険者の仕事をするつもりだからな。
修学院の決まりでは、その時間割り当てを個々人で決めて良いことになっている。ただ、期ごとに報告する内容が、一定水準を満たさない場合は、その自主性が規制されることになる。つまり冒険者の仕事に支障が出るということだ。
そうならないためにも、不在の教授を待っている訳にはいかない。
俺の研究テーマは、神と魔術の関係性についてだ。
知っている魔術の呪文に出て来る神名と魔術の属性をまとめている。まあ、中身的に初歩段階だが、研究の客観性を上げるには有効な作業だ。
ん? 誰か来た。入り口の扉の向こう。
すっと開いて人が入ってきた。
黒いベールを被った女性助祭様。いや、あの刺繍は司祭様だ。
教室へ数歩入ってくると、キョロキョロと何かを探している。神学科に司祭を初めとする神職はいらっしゃらないが、神職科には何人も教授としていらっしゃる。
「あのう、司祭様。誰か、お探しでしょうか?」
それでも、数秒間見回した後、この部屋に俺しか居ないと認めて、こちらを向いた。
「教え子を探しています」
「その生徒は何と言う名前ですか?」
多分探すべき場所を間違えているのだろうな。
「えーと……」
ん?
「名前を忘れてしまいました」
「……はあ」
結構整った顔で、まだ20歳代に見える若さだ。
待てよ!
「ここは、神学科1年の教室ですが。合っていますか」
「はあ……バナージ先生に聞いて参りましたが」
「確かに。バナージ先生はうちの担任ですが……」
司祭、いや女教師は、まじまじと俺の顔を眺めた。
「えーと。君の名前は?」
「ラルフェウス・ラングレンと申しますが……」
「どこかで聞いたお名前ですねえ……お名前からすると男性のようですが。声も低いし」
またか……なんで、女と観られるかなあ、俺。
「その推測は間違っていません」
ほうと呟きながら、俺をマジマジと見る。
「ん? あなたは女生徒……あれ? 確かに喉元が男ぽいですね。驚きました。そうか、男性なら話が変わってきますね」
頬に手を当てて考え込んだ。
何の話が変わるんだ?
また誰か……バナージ先生だ。扉を開けて入って来た。
「ああ、ちゃんと来られましたね、エリザベート先生」
「ああ、どうも。バナージ先生」
「そういう、わけだ。ラルフ!」
「へっ? 何がですか?」
バナージ先生の眉間に皺が寄る。
「いや、エリザベート先生から話が有ったろう?!」
「ええ。どなたか教え子をお捜しとか」
「はっ?」
「でも、その生徒の名前を……」
「思い出しました。そうでした! ラルフェウス・ラングレンという名前の男子生徒でした」
「俺ですか?」
うーーむとバナージ先生が唸った。
「ええ。この生徒です。先生の教え子は」
「やはり……」
いやいや。今、気が付いたばっかりだろう。
「ああ、ラルフ。エリザベート先生は、つい最近まで、国に請われて王都を離れていらっしゃったんだ、君の……」
「研究担当教授ですか?」
「そういうことだ」
ふむ。担当教授が女性だったのは意外だったが、まあこれで正規に研究が始められるとその時は思った。
†
翌日の3時限目。
「ですから。この呪文で魔術が発動すれば、仮説の証明になると思いますが」
エリザ教授……俺のことをラルフ君と呼ぶ代わりに、自分をそう呼べと教授に言われたのでそうしている……が、顎を指で摘まみつつ、半眼で考え込んでいる。
「うーん」
「いや、あの。そこは悩むところでしょうか?」
「うーん…………いや。ラルフ君の言うことは、一見理路整然としてるし、結構説得力もあるんだけどね。いやあり過ぎるのが問題だよねえ」
なんだか学者ぽくない、物言いだよな。
バナージ先生が言うには、修学院始まって以来の才媛で魔術学で博士号を取得、我が国における呪文術式研究、魔導具研究の屈指の研究者だそうだ。
ちなみに魔術師協会の上級会員でもあるそうだ。
何度かこの教官に鑑定魔術を掛けたく思ったが我慢してる。
「やはり、この場合。正規の呪文以外で発動できるからと言っても、出来る人間がラルフ君、君だけでは証明の根拠とするには弱いね。それに……」
ん?
「そもそも、ラルフ君は呪文を唱えなくても、この魔術を発動できるのですよね」
むう……。
「はあ、確かに。しかし、そのことをどこで?」
教授は、にっこり笑った。
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訂正履歴
2022/07/23 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




