閑話3 巫女アリー
もう一発閑話です。
次回は7章始めます!
まだ、アリーちゃん達が王都に来てから、1ヶ月も経っていない頃の話。
お姉ちゃんは、あいかわらず怖いよねえ。
ちょっと寝坊して朝起きたのが遅くなっただけなのに、20分も叱られちゃった。
まあ、朝ご飯はしっかり食べたから、文句はないけどさあ。
で、1人で冒険者ギルドに来てみた。
午前中だらだらしたら駄目! そう寝坊のついでに叱られた。
いいじゃんいいじゃん。サラっちが家事を手伝ってくれてるしと言ったら、後頭部を叩かれた。何気にお姉ちゃんは力強いんだから勘弁して貰いたいんだよね。
普通なら見えなくなるように隠れるんだけど、お姉ちゃんには通用しないんだよね。
ご飯抜きという最終奥義があるし。
それはともかく。力なく自在扉を押して中に入る。
にこやかにサーシャが迎えてくれたけど、長くは続かなかった。
「それで、ラルフ君はどこに?」
やっぱりそう来たか。
「はあ? アリーちゃん1人よ! ラルちゃんは、学校に決まってるじゃん!」
「あっ……そうですよね。平日だし。午前中だし」
言葉が丁寧なのは変わらないけれど、あからさまに落胆してるよね。いい気味だ。
「そういうこと」
ん? 何か視線を感じる。特にお尻。
勢いを付けて振り返ると、ロビーに居た男共が何人も顔を背けた。
タダで見るってどういうこと! お金取るぞ!
はあ、ラルちゃん居ないし、服はもっと大人しい目でよかったか。
睨み付けて、サーシャに向き直る。
「ああ、アリーさん、ギルド預金を降ろすのは、奥の窓口ですよ」
「違うって! なんか依頼を斡旋して貰えないかなあぁって」
「お一人でですか?」
「ないの? 確か巫女系の依頼は、掲示板には貼られないって言ってたでしょ?!」
「はい。色々依頼者に差し障りがありますからね。ああ、良いのがあります。……あのう」
何声を落としてるの。
ふんふん。聞こえたらまずいと。ラルちゃんのあの魔術使いたいよね、まわりに声が聞こえなくなるヤツ。
ああ、教会の癒やしの恵みねえ。なるほど。
小声で答える。
「でも、アリーちゃん聖職者じゃないけど!」
「大丈夫です。ここに行って下さい。依頼料は安いですけど、ギルドへの貢献は高いですから」
慈善事業は、大体そういう物とは聞いた。まあいいか。お金で困ってるわけじゃないし。
†
「なかなか、魔力が強いようですね。経験は?」
サーシャさんが言った通りの場所へ来たら、即採用された。
いつもの回復術士の1人が不在だそうで、手が足りてなかったそうだ。
やり方を光神教会の助祭女の人が教えてくれている。
「ああ、こういう会は初めてだけど、戦闘時や、超獣にやられて大量に怪我人が出たときとか、やったことあるわ」
「じゃあ、大丈夫ですね」
軽いな。
「お客はお年寄りばっかりだけど、どんな回復をすればいいの? 慢性的なやつは……」
「慢性的な疾病は魔術で回復が困難なのは、良く存じています。何でも良いのです。身体活性化とか、疲労回復だけでも、皆は喜ばれます。まあ、程度は他の人を見て決めて下さい」
ふーむ。けっこうお手軽だな。
「では、さっき見られた舞台の上で、施術して戴きますので。そちらの服と、頭巾を被って下さい」
服は、助祭女さんと同じ……は分かる。布教のためだもんね。でも、頭巾ねえ。
顔がほぼ隠れますけど!
「ああ、頭巾は聖職者以外の術者が、皆に顔を憶えられないようにするためです」
「はっ?」
「昔、顔出しでやっていたこともあったそうですけど、恵みの会以外、例えば道を歩いていたら、施術をせがまれたことがあったそうで」
「ああそうか、断り辛いものね。じゃあ、被ります」
頭巾を着けて舞台へ出ると。
げっ!
ちょっ! ちょっと。人の列が凄い!
100人以上、お爺さんとお婆さんばっかりいるんだけど!
これ、みんな施術待ちなの! 本当に?
うわぁ、お手軽とか言ってごめんなさい。
ああ、でも術者がアリーちゃんの他に2人居た。よかった。
これが他の人か。
1人目のお爺さんは、頭巾してる一番向こうの術者へ行った。
2人目のお婆さんは、真ん中の術者。頭巾してないから、歴とした教会の人だね。
アリーちゃんはしばらく観察なので人が捌かれてこない。
えっ? ええ?
それって、初級回復魔術……。真ん中の人は低級だ。結構派手目に、金の光子が降ってるけど、あんまり魔力使ってない。あれだけでじゃ、体力が20も上がらないけど。
まあ、このお爺さん、お婆さん達は魔獣にやられてるわけじゃないから、回復魔術を掛けると身体の具合が一時的にしろ良くなるからね。
とは言え、なんか少ないな。
そりゃあ待ってる人は多いけどさあ。
まあ、ちょっと他の人より、少し多め位でやってみよ。
『その香しくも匂い立つほどの艶やかな女神様! お願い申し上げます サナーレ!』
†
はあ、はあ、はあ。
流石に疲れた。
100人ぐらいだと思ったら、外にもまだ居たんだよね。詐欺だ、詐欺だ!
150人くらいだった。
アリーちゃんに回ってきたのは、50人ぐらいだったけどね。
あれ? 終わったと思ったけど。
まだ隅っこに誰か居る。
おばあさんと、子供だ。
舞台の方へ来た。
ああ子供が怪我をしているのか。
「お願い致します」
「だめだ、だめだ。今日はお年寄りだけだ!」
教会の人の言うことも、わからなくない。
誰でも良ければ、冒険者とか来ちゃうし、病院の事業とか圧迫しちゃうしねえ。
私も依頼を受けている身だから、勝手なことはできない。
癒やしの会を終わった。
とても良かったと褒められた。
アリーちゃんも、やりがいは感じたよ。お年寄りにとても喜ばれたからね。
これからも時々やっていこう。
依頼料を直接貰って、着替えて外へ出た。
周りにバレるほど、アリー様は間抜けじゃないよ!
さて、ギルドへ戻ろう……あれ? あの人。
さっき、舞台に詰め寄った、お婆さんと子供だ。
孫かな?
だけど、お婆さんは人族、子供はドワーフ族だ。
何だか気になって、後を付けちゃった。
東門外の路地を10分も歩いて、付いた。
ん?
小さい庭に、子供が一杯。
孤児院なの、ここ?
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訂正履歴
2020/12/28 誤字訂正(ID:1973091さん ありがとうございます)