閑話2 サラの手紙
7章を始める前に、少し閑話をはさみたいと思います。
脇役に回りがちな、サラの話しですが(伏線込み)。
おかあさん
お元気ですか? サラです。
この前、手紙を書いたのは9月の中頃だったね。
あれから、私は、まだ夢の中に居るようです。
王都の城壁の中のお館に住まわせて貰っていることももちろんなのだけど、もっと凄いことがありました。
お館の主にして、私を助けてくれたラルフ様と、一緒に住んでいるアリーさん、それに従魔のセレナとで、王都から少し離れた村に出掛け、なんと大きな魔獣巨甲蝦を斃したんです。
驚いて下さい!
そのヤドカリもどきは、なんと8ヤーデンを越すような超大物なのですよ。
それをラルフ様は、魔術一撃で燃やし尽くしちゃった。しかも、周りに被害を与えないように、障壁魔術を張り巡らしてからよ。魔獣と共に辺り一面を焼いてしまう、考え無しの魔術師とは全く違うわ。それに私達には、障壁魔術やその魔導具を装備させてくれるし。
そんな凄い人が、私のクランのリーダなの。
おかあさんは、この手紙を読んだら、娘がおかしくなったと心配すると思うので、スパイラス新報の切り抜きを同封します。心ゆくまで顎を床に落として下さい。
うふふ。
もちろん私は、お手伝いをしたに過ぎないけど。ラルフ様は、サラは良くやってくれると、いつも褒めてくれます。
そうそう。おかあさんの手紙に、ラルフ様のことを詳しくと書いてありましたね。
この前の手紙にも書いたけど、もう少しがんばるね。
ラルフ様は、人族で15歳。准男爵様の御嫡男なんだって。
冒険者もやっているけど。なんと、あの修学院の神学生なんだって。
背丈は私と同じ2ヤーデン(180cm)位かな。細身で体重は……多分私よりだいぶ軽いと思う……たはは。
そう、遠目で見ると女の人みたいなんだよ。
初めて見たときは、綺麗な女性!と思ったぐらい。でも裸を一度見たことあるけど、かなり筋肉質で贅肉とは縁がないみたい。羨ましすぎるよね。
そう書くと、線の細い魔術師って思うかも知れないけど、力じゃ私なんか適わないくらい怪力、剣術だって全く歯が立ちません。
髪は鮮やかな金髪で、暗いところにいると、なんか光って見えちゃうくらい。
顔は細面、目鼻立ちは整っていて美少女って感じだけど、眼と眉は違って、鋭くて凛々しくてやっぱり男の子だなあって思っちゃう。
ああ、でも勘違いしないで下さい。
ラルフ様は、とても素敵な男性ですけど、私の武術と家事の師匠であるローザンヌ様とアリーさん姉妹の思われ人なのです。
そもそも凄すぎて好きになるより崇めてしまう感じです。
だから、私の結婚は期待しないでね。残念ながら、まだまだ先です。
また手紙書きますね。
あなたの娘 サラスヴァーダ
10月1日
追伸 心ばかりを同封します。何かおいしいものでも食べて下さい。
† † †
おかあさん
お元気ですか? サラです。
すぐまた手紙を書いたのは、お願いがあるからです。
おかあさんから貰った手紙に、魔獣退治のことがそちらでも話題になったと書いてありました。
おかあさんを信用してるし、そっちのことだから大丈夫とは思うのだけど。私が住まわせて貰っている、ここのお館の住所は誰にも言わないで下さい。
なんでかと言うと、新聞記者が、ここのことを嗅ぎ回っているらしいの。その情報が出回ってしまうと、ラルフ様やローザ師匠に凄く迷惑が掛かるので、くれぐれもお願いしますね。
用はこれだけなんだけど。便箋がもったいないから、もう少し。
数日前、ラルフ様のお母様と妹さんが、ご実家から王都に出て来られたのだけど。それが、3人ともそっくりだったわ。流石は親子、兄妹ね。
で、ラルフ様の美しさは、お母様譲りだとよく分かったわ。あとねえ、妹のソフィアちゃんはとてもかわいくて。なんていうか、お人形さんみたい。
おかあさんにも見せて上げたかったなあ。
このお館は、美男美女で溢れてたもの。
でも、ソフィアちゃんは、綺麗は綺麗なんだけど、何だか少し影がある感じなの。大好きなお兄さんのラルフ様と別れ別れになっちゃったから淋しいんだと思う。御館に来たとき、しばらく抱き付いてたもの。
まだ7歳だものね。
しばらくお世話してたりしたから、仲良くなっちゃった。
私、末っ子だったから、こんな妹が欲しかったなあって。
それと昨日凄いことが起こりました。
何か起こったかは秘密です。流石にお母さん宛の手紙にも書けません。
万が一漏れたらまた新聞に書かれて、大変なことになりそうだもの。
さてさて、また手紙書きますね。
あなたの娘 サラスヴァーダ
10月7日
† † †
おかあさん
サラです。
お手紙読みました。
心配掛けてごめんなさい。
王都南門の件は、そちらでも噂になったんですね。
言い訳だけど、私は広場から逃げる人達を捌いてただけで、そんなに危ないことはなかったわ。
でもラルフ様は、本当に凄い。バジリスク5頭をあっと言う間に斃したのはもちろんだけど、ほんの2時間前は、遠く離れた森に居たのよ!
それで、これから起こることを、誰も知らなかった王都が危機になることを、推理して駆け付けたのよ。
私は震えたわ。
ああ、ごめんなさい。そういうことじゃなかったわ。
反省してます。
お父さんとお母さんには、薬師になるって言って王都に来たからね。
でも薬師見習いだけでは食べていけなかったし、薬種を入手するには危ないところに行く必要があったから、武術経験が活かせる冒険者にもなったのだけど。
お金のために始めた冒険者だけど、今では中級になったし、誇りに思ってるわ。
恐いことも、辛いことも、大変なこともあるけど、もう私の一部なのだから。
少なくとも数年間は、ラルフ様に付いていって、少しでも恩を返したいと思ってます。
だけど、おかあさんが心配する気持ちも良くわかるわ。なので、手紙に書いてあったように、11月になったら一度里に戻ります。
あなたの娘 サラスヴァーダ
10月27日
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2019/04/17 誤字訂正(ID:1191678 様ありがとうございます)
2020/02/15 誤字訂正(ID:1523989 様ありがとうございます)
2020/02/15 加筆訂正(それをラルフ様は、魔術一撃で燃やし尽くしちゃった……付近
ID:1523989 様 返す返すもありがとうございます)
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




