112話 来訪者
出張先では、一杯雨に降られましたが、無事帰って来ました。
さて、今後の投稿ですが、土曜日か日曜日は午前中にしようかと思っています。
冒険者ギルドから館に帰って来ると、実家からローザとの結婚に対する返信が届いていた。
親父さんはラルフよくやった。おふくろさんは、私のお陰ねとまあ、後者はむかついたものの中身は賛同であったのでよしとした。
しかし、妹ソフィーからの手紙は暗鬱とさせた。
私とおかあさんが王都に行ったときに、なぜ結婚すると言ってくれなかったのか。お兄ちゃんが信用できない。嫌い、嫌い、大嫌い……うそ、うそです。だから来年1月に王都には行きますからって書いてあった。
口で言うのは分かるけど、文章でこの支離滅裂さ。我が妹は、素晴らしく聡いなあと誇らしく思っていたが、少し補正が必要なのだろう。まあ、まだ7歳だからなあ。
精神的に不安定になってるかも知れない。あと1ヶ月半したら王都に来るから、ちゃんと構ってやろう。
手紙はもう2通届いていて、いずれもマルタさんからだった。一通はローザ宛て、俺宛の方にはローザをよろしくお願いしますと承諾の内容だった。少し肩の荷が下りた気がした。
† † †
王都南門の魔獣襲撃事件の後、数日が過ぎた。
相変わらず新聞は、かまびすしく書き立てている。
俺やウチのパーティーは、王都を救った英雄などと概ね持ち上げられていたが、遠回しに軍やギルドは批判されていた。
それから昨日、南前門事件調査委員会というのに招集され、意見を求められた。
話題は2つ。
委員は、ほとんどが7人居たが、内5人が軍人だ。さらに3人程は始まる前から、俺を睨んで居るところからして好意的でないことは明らかだ。
1つは、魔獣を産んだ魔導具の件。
知っていることは、全て答えた。
なぜお前は、術式が読めるのかとか、確証も無しに王都に帰って来たのは独善ではないのかとか、事件を予見していたのはおかしい、犯人の一員ではないかという、途中から魔導具とは関係のない質問が続出した。
まあ、調査の冒険者に死者は出なかったが、大怪我した者は出たので、責任が皆無とは言えないが。そこは依頼を受けた以上、個々に想定範囲へ入れるべきで、罪悪感はない。
それについては俺が反論する前に、軍人でない委員からそういう場ではないと窘められ質問は撤回された。
2つは、バジリスクの4頭目と5頭目の件。あれは超獣だったのか、違うのかの問いだ。
率直に少なくとも超獣の気配があり、あの時超獣となったと感じたと答えた。
また近くに居た魔術師は、超獣出現時に発する凶悪な魔導波を受けたと証言していたらしい。
しかし、別途の専門学術者による報告では、魔獣2頭が融合して超獣になったなどの目撃例はなく、判定材料が少ないため保留ということにまとまった。
最後に発言を求めた軍服を着た委員は、仮にそれが超獣だったとして、上級魔術師でもない者が、一撃で斃せる魔獣が果たして超獣に値するものか? そう発言した後、高笑いして発言を終えた。
結局確証がないので保留、つまりは超獣は存在したと認めないと結論が下り委員会は終了した。
何のために開かれたのか、よく分からない委員会だった。俺に訊くというよりは、公的な見解を外向きに出すために開いたのではなかろうかと勘繰りたくなった位だ。
まあ、そういうむかつくことは多かったが、嬉しいこともあった。
まずは魔術師協会から表彰された。
なぜ協会から表彰されるのか、よく分からなかったし、それほど嬉しくなかったが、 特例で2月にある上級魔術師試験の受験資格を貰ったことは嬉しかった。
そして今日、冒険者ギルドからも表彰された。
俺を含めて、アリー、サラが、ギルドランクが上がって中級であることは変わらないが、黒灰白の3組で俺が上の黒組、アリーとサラが灰組に上がった。
その中の序列は、来月発表だそうだ。サラは結構喜んでいた。
アリーはしらっとしていたが、特別報酬とバジリスクの魔結晶2頭分で、合計120ミストの収入があったので、そっちには喜んでいた。
表彰式から館に帰るとローザが迎えてくれた。
「お姉ちゃん、ただいま!」
「お帰りなさい!」
「ギルマスがね、エイレネ亭でお昼を奢ってくれたんだよ! おいしかった! お姉ちゃんも来たら良かったのに!」
「でも、私はギルド会員じゃないし」
ギルドから招待状も貰ったが、ローザはそう言って欠席した。
「ああ、師匠。ギルマスがせめてもと言われて、お土産を戴きました」
サラが両手で持ってきた箱を渡す。
「じゃあ、お茶にしましょう……あなた。お客様がお見えです」
「ああ、応接室だな」
「はい。お一人で、子爵様とだけ仰っていらっしゃいます」
子爵ともなると、通常従者が付き従うのだが。一人か。
実は館に入る前から、その存在感を感じていた。
明らかに魔術師。しかもかなりの上位者に違いない。
「子爵? ドロテア夫人じゃないよね」
アリーが訝しげに、ホールの右手前にある応接室の扉を見る。
「ああ、わかった」
ローブを脱いで渡し、応接へ入る。
地味なローブを着けた、赤毛の男が居た。
姿勢良く背筋を伸ばし、ソファーに座っている。瞑目して微動だしないが、寝ているわけではないようだ。
テーブルには、紅茶がまだ湯気を上げている。
「失礼。子爵様と承ったが、お約束はしてないと存じますが」
「ああ、ラルフェウス殿、不躾に押し掛けた非は認めよう」
爛々と輝く瞳からは、並々ならぬ精力に裏打ちした意志の強さが噴き出してくる。
確か30歳だと聞いたが、随分と若い感じだ。
「ああ、いえ。電光バロールにお目に掛かれ、光栄です」
「名乗った覚えはないが」
艶やかな肌で豪快に笑いつつ言った。
「その魔力と燃えるような赤毛を前にして、少佐殿と分からなければ、魔術師失格でしょう」
「ふん!」
「今日は赤白のローブじゃないんですね?」
「今日は非番で来ているのでな、子爵と呼んでくれ」
バロール・ディオニシウス。
ミストリア陸軍近衛師団対超獣魔導特科連隊。通称深緋連隊の最精鋭魔術師。要するに自他共に認めるミストリア最強魔術師の一人だ。
庶民出身ながら、その抜きん出た魔術の才能を見込まれ、子爵家の猶子となり長じて上級魔術師となり、18歳にて深緋連隊に入隊。複数回の超獣退治、撃退の功績により、本家とは関係なく子爵位を賜っている。
「では、子爵様。我が館へお越しになった、ご主旨を伺いたく」
「ああ。最近話題になった天才魔術師の顔を拝みたくなってな」
「はぁ……お気に召しましたでしょうか? この顔」
「ははは。召した、召した。遠目には随分優男に見えたのだが、実際間近で見てみれば、どうしてどうして悍馬の相だな」
遠目?
確か、この人はあの時、王都に居なかったはずだが。この前の調査委員会にも居なかったよなあ。
記憶は無いが、過去に邂逅していたとか?
「恐れ入ります」
「まあ、そう謙ることはない。子爵などと言っても、所詮成り上がり者だ」
「王族も覇者となったときは、須く仰った通りかと」
深緋連隊も典雅部隊の第一人者とも成ると、気さくなのか?
「ふむ。まあいい。1つ聞きたい」
「何でしょう」
「あれは、超獣ではなかったのか?」
あれとは、南前門広場で斃した、バジリスクの最後の2頭のことだろう。
「それは、通常の魔獣だったことになりましたが?」
「ああ、決めた会議には出席していたがな、そうではなく斃した者の見解を訊きたい」
ん?
会議? 委員会じゃなくて?。
何か言葉に、色々違和感があるなあ。
「昨日も証言しましたが、超獣だったと思いますよ」
「ふーん、昨日? そうなのか? で、その根拠は」
やはり昨日のことは知らないようだ。
「俺は、7年前にスワレス伯爵領で超獣が出現したとき、5ダーデン程の距離にいたのですが。その時と、先日受けた魔導波は、かなり似ていました」
少佐は眼を閉じて肯いた。
「ただ……」
「ただ?」
「あれが超獣なら生まれたてで、十分な力を発揮することもできなかったとは思いますが」
「そうか。超獣が放つ魔導波は独特だ。それを感じたと言うなら超獣なんだろうよ」
「はあ……」
「15歳だそうだが、冒険者をやっているということは、軍に来る気はないと言うことか?」
「はい」
猛禽の眼光を以て烈火の如く睨みが迫る。
「即答か……俺としては、軍で超獣に対して貰いたかったのだがな」
「軍だけが超獣へ対向できる術ではないと考えています」
低く唸ると、冷ややかな視線に変わった。
「不遜ながら深緋連隊とは違うやり方を目指したく」
「そうか、それは楽しみだな。では、帰るとしよう」
子爵の顔は、不敵に笑っていた。
玄関でローザと一緒に見送る。
「あの方は、どなたなのでしょう?」
「ディオニシウス子爵だ」
「お知り合いでしたか……」
「会ったのは初めてだがな。さて何しに来られたんだか……」
「私には分かりますよ。ふふふ」
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2020/02/15 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2021/05/08 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




