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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
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111話 論功行賞

うーん。台風来てますね。そのまっただ中に西の方へ出張予定。どうなることやら。


そういったわけで、次回投稿は木曜日にさせて戴きます。


 30ヤーデン四方の中規模な会議室。

 多くの高級軍人が居並ぶ中、扉が開いた。私語でざわついた雰囲気が途切れる。


 眼にも鮮やかな赤と白に塗り分けられたローブを着た男が入って来た。

 多くの者が見遣ったが、何事もなかったように私語が再開する。


 部屋を見渡した男は歩を進め、近衛師団の制服を着た軍人の横の空席に座った。


「本部長。お久しぶりです」

「ああ、少佐。遠征ご苦労だった。済まんな、戻った早々」


「はあ、それはともかく。驚きましたな……黒衣旅団(ノアレス)のお歴々はともかく、王都防衛総監に……あちらには研究所のやつらまで。情報連絡会議と聞いてきましたが、部屋を間違えましたかな?」


 その問いには、もう1人向こうが答えた

「ふん! 分かっているだろう! 貴官が留守中に起こった事件の検証だよ」

 そう言った者の憎々しそうな相貌。嫌みに違いない。


「ほう……そうですか」

 表情1つ変えなかった少佐が座るやいなや、再び扉が開いた。


「全員起立!」


 ややあって椅子の軋みが静まる。


「閣下に敬礼!」


 ボッっと制服が鳴る中、閣下と呼ばれた壮年から老年の域に入った、恰幅の良い男が答礼し、随行2人と共に後方の席に着いた。


「では、情報連絡会議を始めます!」


 名称は穏やかではあるが、話し合われる内容は一般には秘匿される戦略的情報が主体と成る会議である。


「2日前、10月24日12時に王都南前門およびその門前広場にて発生致しました魔獣襲来につきまして、皆様にお集まり戴きました。異例ながら内務卿閣下並びに外務省官房の方々のご臨席を戴いております。また陸軍研究所も出席されています。どうぞよろしくお願い申し上げます」


 それを聞いた制服組にざわめきが起こり、中にはあからさまに顔を顰めた者も居たが、表だって異議が出なかった。司会は、それを確認し続ける。

 

「本会議の審議内容は3点ございます。1点は同事件内容の周知、2点目は魔獣が超獣であったかどうかの宰相閣下の諮問に関する回答内容の決定です。最後の3点目は、2点目の結果に大きく依存すると存じますが、それを斃したとする者の処遇に関する案となります」


 超獣と言った時に、ざわつきがあった。


「では、初めに内務卿閣下。ご意見を賜りたく」


 しかし、内務卿ではなく、隣の男が立ち上がった。


「閣下は、本会議はあくまでも軍の会議である。内容、結果に関して干渉するものではないと、仰っていらっしゃいます」


「はっ。承りました。では議事を進めさせて戴きます。王都防衛隊より状況説明をお願い致します」


 先程、総監と呼ばれた壮年軍人の横、別の軍人が立ち上がった。


「本件を南門前事件と呼称致します。発端は同日11時過ぎ、東門衛士の元へタレコミがありました。内容は、本日……つまり24日のことですが12時に王都にて突如強力な魔獣が現れる可能性が高い。しかし、門内に入ることは無い。くれぐれも四門の警備を厳に願いたい。タレコミの大意につきましては以上です」


「途中で恐縮ですが、タレコミに署名は?」

「ありました。ラルフェウス・ラングレンと」


「それは、まさにこの事件で魔獣共を斃したとされている者ではないか」


「恐れ入りますが、議事の3点目に関わることですので、先に状況説明を続けさせて戴きます。審議官殿」


「では続けます。11時35分には、タレコミの情報が防衛隊に伝えられまして、警戒態勢に入りました。同50分、北門外で魔獣、これは下級魔獣であったわけですが、突如出現したとの知らせがあり、そちらに当直の約7割が応援に向かいました。そちらは、冒険者ギルドの応援もあり鎮圧されました」


「陽動か?」

「防衛隊では、遺憾なからそのように考えております。説明を続けます。12時となりレガリア王国大使が、南前門を出発したのですが。その時、広場脇の側道から、突如上級魔獣であるバジリスク5体が出現しました。この状況につきましては、皆様に門上の魔導具により記録された映像をご覧戴きます」


 会議室の窓にカーテンが引かれ、薄暗くなる。

 正面の白幕に光が灯り門外の光景が映し出された。


 映像は、魔獣の間に黒い繭のような物が現れた瞬間、突如暗転した。


 会議室は、大きくざわつく。


 まもなく映像が動き出したが、既に魔獣は消えていた。多くの倒れた人々に向け、治療が始まっている状態に移ってしまっていた。


 カーテンが開いて明るくなり、別の軍人が立ちあがった。


「以降は、事態収拾の状況が映っておりました。本日の審議内容から逸脱致しますので、これで上映を終わります。なお、先に申し上げて置きますが。先程の映像の中断は、我々が意図的に何かした訳ではなく、記録をそのまま上映した物です」


「どういうことか? 説明せよ!」

「陸軍研究所主任研究員のメドークと申し上げます。細かな説明は省きますが。何かしら魔術的な衝撃を受けた可能性が高い。恐らく強い魔導波を浴びたと見ております」


「ふむ。まあいい。で? 映っていた白い魔術師が、件のラングレンという者なのだな?」


「その通りです。ああ、彼の人物へのご質問もございましょうが、恐れ入ります。議事進行に順いまして、先に魔獣出現に関して第2連隊より詳細を説明致します」


 机に置いてあった塊に掛かっていた布を剥ぐと、円筒状の容器が現れた。


「こちらは、先程バジリスクを全て斃したその魔術師から供与をうけた魔導具が入っていた容器です。その用途は魔獣を卵の状態で封じ込め、魔石の魔力を使って、任意の場所にて出現させると言う恐るべき物です。それが南前門の事件でも使われたと見ています」

「なんだと!?」


「メドーク殿!」

「研究所でもそのように……ただし、南前門の方はこれを袋に入れて、人間が背負って居たと先の映像からも、そのように見えました」


「馬鹿な! そんなことが信じられるか!」

「前例は? 前例があるのか? 少なくとも小官は承知していない」


「ならば、どのようにして南前門に突如魔獣を持って来られますかな?」


 誰も対案を出せなかった。前例がなかったからだ。


「では、審議事項の2点目です。バジリスクの4頭目、5頭目の扱いです。その2頭が単なる魔獣ではなく超獣であったとの疑いがあります。」


「そこは映像がないではないか」

「超獣が現れたとき特有の威圧結界に当てられた症状を起こした者が何人もおります。ただし、その範囲は半径100ヤーデンの範囲に留まっており、これまで超獣と認定された場合より、かなり狭い範囲となります」


「通常は、どれくらいなんだ?」

「数ダーデンに及びます」

「では超獣とは違うのではないか? どうなんだ特科連隊」


「まあ、そう簡単に判断できるものではないとだけ言っておきましょう。超獣が生まれてすぐは、偽装する個体もいますしね」


「研究所、メドーク殿の見解は?」

「調査途上につき保留です。発言は差し控えます」

「何時なら結果が出るのだ?」


「早くても数ヶ月掛かるかと。なにしろ前例がありません」


 皆が唸った。大体の者は、これだから研究所はと思いつつも、発言の材料を持っていなかったからだ。


「あのう……」

 制服を着ておらず、いかにも官僚らしい細身の男が挙手した。


 司会に指され立ち上がった。

「発言の機会を与えて戴き、感謝致します。外務省外事課のペリアス参事官と申します」

 言葉は恐縮しているようだが、堂々とした態度だ。


「確証がないのであれば……あくまでその前提ですが、一般の魔獣であったでよろしいのではありませんか?」


 会議室の中は静まりかえった。

 後から思えば、大半の出席者は真意が解しかねたのだ。

 しかし、発言者は反応がなかったことに意を強くしたのだろう。手を振り上げ、声が大きく変わった。


「第一、王都のお膝元に大型魔獣が現れただけでも問題であるのに、超獣ともなれば国王陛下の宸襟を徒に騒がせ奉ることになりまする。申すまでもありませんが、結論を出さぬことも同じでございます。賢明なるご出席者の皆様におかれましては、是非決を採って戴きたく」


 美辞麗句の後は脅しか、やはり外務省らしいと多くの者が思った。だが、責任を問われるべき立場の者には、蜜のような言葉に違いなかった。


 そこで、挙手した者がいた。

「近衛師団長殿。どうぞ」


 厳のような風体で厚い体躯の軍人だ。

「陛下の御心と称するは僭越である。それとも貴公にお告げ遊ばしたのか?」


「これは、大将閣下。お言葉を返すようで恐縮ですが。魔獣が現れたとしても、軍が、王都を防衛すべき隊が退けて戴けたのであれば、問題は極小さかったと小官は思いますが」


「何が言いたいのか?」

「いえ、頼みの専門部隊は王都を留守にし、防衛隊も陽動に乗せられて主力を北門に向かわせていたと聞いております。一介の冒険者に名をなさしめた原因は、奈辺にあるのかなどと、口さがない新聞が書き立てておりまして、陛下は全てそれを眼を通されております故……」


 師団長は酷薄な目つきで官僚を睨んだが、動じる様子はなかった。


 その後、決は採られ、学術的に別の結果が出た場合是正することを前提に、南門前事件では超獣は存在しなかったとの結論を提示することとなった。


 また第3の議題であった、ラルフェウス・ラングレンの処遇については功績抜群ではあると、一致した意見となった。

 ただ、第2の議題の結論を前提として、それは冒険者としての通常の功績に留まるとされた。

 今後、是正はあり得るが、王都防衛隊からの協力表彰するのみと決した。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


お断り

文中の「僭越」に対して「傲慢」にした方が良いとのご指摘を戴きましたが、そのままにさせて戴きます。ありがとうございました。(脱字部分は修正しました)


訂正履歴

2020/02/15 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2020/11/16 誤字訂正(ID:1421347さん ありがとうございます)

2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

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