10話 不可解な外出
明日から、仕事が始まります。投稿ペースが(段階的に)落ちます。ご容赦下さい。
書斎の窓を壊したので、こっぴどくおかあさんに叱られた。
最近覚えた言葉、自業自得だ。
夕方、おとうさんが帰って来た。おとうさんは腕白に寛容なので、窓を壊したことは、さほど怒らず、逆にまあまあと、怒りが収まらないおかあさんをなだめてくれた。
しかし。
アリーが、3時の鐘が鳴るぐらいまで、ウーとかアーとか反応はするけど、何をしても起きなかったことをおかあさんから報告され、おとうさんの顔が凍り付いた。
強く念じてそれを相手に飛ばすと、人を眠らせられることを白状させられた。その後、拳骨で殴られました。
それで、僕は泣かなかったけど。殴られたところを見ていた、おかあさんの方が大泣きしちゃった。びっくりしたんだね。
なんて言うか……初めて後悔して、反省しました。
おかげで、魔術は禁止、人に念は飛ばさない。書斎にしばらく一人で入らないことを約束させられちゃった。親父さんが居ない時は、しっかり錠前も掛けられているし。
それから数日後。
僕は鞍上、おとうさんの前に座っている。
常歩だけど結構速いし、なにより高くて気分が良い。揺れるけどね。
それにしても、この馬はマールって名前で、前にウチに居たおじいちゃん馬と違って元気が良い。色も青鹿毛って言うそうで、少し黒が深い。
もうすぐ領都だ。城壁が見えてきた。
黄色い土を突き固めて築いたって聞いた。
「おとうさん」
「何だ? ラルフ」
「あの城壁の高さって、どれくらい?」
「ああ、あれはな……ううん。ああぁ。領軍の機密なのでな。たとえ、お前でも教えられないんだ」
「はぁい」
おとうさん、真面目だなあ。
城門へ辿り着いた。荷物を抱えた人や荷車だったり列ができているが、その横を馬に乗ったまま追い抜いていく。門の前まで来ると2人の兵隊さんが待っているので、止まった。
「これはラングレン様。おはようございます。どうぞお通り下さい」
「うむ。ご苦労」
再び、馬が歩き出して、門の中を通り抜けた。
石畳の道が広がって、すこし広場になってる。
「あの人、おとうさんのこと知ってたね」
「ああ、平日は毎日通るからな」
おとうさんは、城壁の中。さらにあの高いとこにあるお城に勤めている。財務方の役人だ。なので、門番さんも何もしないで通してくれたのだ。
普通だったら、荷物とか調べられてるところだ。
しばらくして十字路を、真っ直ぐ通り抜ける。
「ねえねえ、おとうさん。おじいさんの館は、さっきのところを右だよ!」
「ああ。その前に行くところが有るんだ」
「へえ」
左に曲がった。
シュテルン村を出るときは、おじいさんの館に行くから、一緒に行くぞって言われたんだけど。お土産でも買いに行くのかな?
そう思っていたけど、お店がある街区からどんどん離れていく。進んでいく道が細くなって行って。小さい家が並ぶところに入った。街並みは綺麗だけど、なんだかみすぼらしい感じがするなあ。
あっ、家の庭に干されてる洗濯物、領軍の軍服だ。
あっちの家もだ。この辺は兵隊さん達が住んでるところらしい。
こんなところに、おとうさんは何の用があるのだろう。
「ラルフ。着いたぞ」
「ここ?」
「どうどう。ああそうだ」
周りの家よりは、立派だが質素な家の前で止まった。
「ほれ。ラルフ」
おとうさんが先に降りて、僕を降ろしてくれた。
ブフヒヒゥゥン。
乗ってきた馬が、軽く身震いして嘶いた。ふーん。
手綱を引っ張って、敷地の中に入る。庭の横に別の芦毛馬が居た。
「ラルフはここに居なさい」
あの馬の横に繋げるみたいだ。
あっ!
「よいしょ、よいしょ……」
「おっ、なんだ、水か。どこにあった、この木桶」
「あ、あそこの井戸。マールが喉渇いたって」
井戸端に置いてあった。水は魔術で出したけどね。
「うーん。まあ水は綺麗そうだし良いか」
おとうさんが横木の前に桶を置くと、マールは勢い良く中の水を飲み出した。
「よく喉渇いてるって分かったな、ラルフ」
「うっ、うん。首筋に沢山汗掻いていたからね」
本当はマールが、そう言った気がしたのだけど。
おとうさんは、そうかと頷いていた。
「ディラン殿。良く来られた」
おとうさんが呼ばれた。
玄関の方から、知らない人が歩いてきた。
この人、いつ出てきた? 気配を感じなかったけど。
「ダノン殿。こんにちは」
「こちらがご子息ですな」
「ラルフェウスにございます」
胸に手を当てて腰を折り挨拶する。
歳はおじいさんぐらいだろうか、結構痩せた人だ。切れ長の眼に、長い銀髪を後ろに肩の後ろに流している。
すっと、僕に顔を近づけてきた。
じっと眼を見ている。
なんだろう。
そう思ったら、頭を撫でられた。何か髪がちりっと感じけど。
「ふむ。随分賢そうだ。おっとお客人を、戸外お留めするとは、無作法でしたな。どうぞ、中へ」
玄関を抜けて小さなホールに入ると……。
「おじいさん!」
「おおぅ、ラルフ来たか!」
なぜ? どうして、ここ居るの?
後で行くと言われてた家に居るはずの、僕のおじいさんが、さっき会ったばかりのダノンさんの家に居た。
「父上……」
「ディラン。儂も直接訊きたくなってな」
「はぁ……」
「ドリスぅぅ!」
奥から、おばあさんが出てきた。
おとうさん達に挨拶した後、こっちに来た。
「まあまあ。可愛い坊ちゃんだこと。ああ、おとうさん達は、大人の話があるって仰ってるから……」
「では、エド、ディラン殿。あちらの部屋で」
おじいさんを愛称で呼んだ。仲の良い知り合いのようだ。
「もう良いのですか?」
「はい」
おとうさん達は、一瞬僕に向いたけど、そのまま廊下を歩いて行った
「じゃあ、私達はあっちの部屋に行きましょうね。お茶とお菓子があるわよ
ドリスさんは、にこにこと笑ってる。
大人の話、おじいさんが直接聞きたい話というのは、とても気になったけど。多分僕に聞かせたくない内容だろうと思って頷く。
老婦人に伴われて、食堂に通された。
それで、お名前は? 年齢はいくつ? 兄弟は居るの? お母さんは優しい?
そう言った他愛の無い話をした。
一応、ダノンさんの職業を訊いてみたけど。
「今はねえ、隠居して何もしてないのよ!」
「昔は、兵隊さんだったんですか?」
「そうねえ。兵ではなかったけれど、軍には居たようだわよ。それよりねえ……」
うーーむ、このおばあさん、人の良さそうな感じだけど、なかなか旦那さんと同じで、底が見えにくい。
30分くらい経った頃だろうか。おじいさん達が、僕が居た部屋にやって来た。
「ドリス。お客人がお帰りになる」
「あらぁ。まあ、まあ何のお構いも致しませんで。それに、この坊ちゃんと、もっとお話ししていたかったわ。また来て下さいねえ、ラルフちゃん」
「よかったな、ラルフ。ああ、奥さん、ご厄介になりました。失礼します」
その後、おじいさんの館に行って、おばあさんが作ってくれた林檎のパイを食べて帰って来た。
結局、何のために領都に行ったのか。さっぱり分からなかった。
わからなかったが、いいこともあった。
領都に行った次の日から、おかあさんの読書禁止令はなくなった。
魔術も、人に使わない以外は、使っても良くなった。
関係あるよねえ。
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訂正履歴
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




