107話 テロルとの闘い(後)
暑い日が続きますね。前回もそう書きましたが、月曜日に日本でも有数の暑い場所に出張することになりました。がんばってきます。
「痛ぁぁああああ……」
俺は仰向けに倒れ、砂埃を被っていた。
少し魔力を込めすぎた。覚悟の上だったとはいえ、やはり試用してもいない魔術は危険だ。
これじゃまるで、4歳の頃に初めて西風を発動した時と同じゃないか。
まあ、雷撃魔術発動の直後、障壁魔術を張ったのが11年の成長だろう。もっとも発動が不十分で吹き飛ばされたが。
2頭のバジリスクが居た路盤石に、大きな焦げ後が付いていたものの、省みれば俺から後方に被害はない。
だから、そこのおじさん。悪魔を見るような顔は止めてもらいたい。
おっと、呆けてる場合じゃない。バジリスクは、まだ3頭も健在だ。
俺は気合いを込めて立ち上がった。
「おい! おじさんも、おばさんも、立って! 遠くに逃げるんだ! 急げ!」
向こう側は? どうなってる?
ローザ達が駆けつけ、見物客達を周回路の方に誘導している。
ゴッガァァァアアア!
セレナが対峙する大蜥蜴が、上半身を反り返らせた直後、霧を吹き出した。
まずい! 毒霧に添加した石化魔術──
それが届く寸前、セレナは身を翻しつつ障壁魔術を張って避けた。
やるじゃないか。
もう一度? させるか!!
【閃光!!】
流れ星よりも真直な光輝は、霧が噴き出すべき口腔を捉え穿った。
そこに鱗はない。だからか?
頸と胴の間が弾け、後方へ吹き飛んだ。その後一拍置いて輝きと化した屍が、緋を牽いて燃え尽きる。
あと2頭。
しかし、厄介だ。
1頭は先頭馬車に取り付き、もう一頭は2台目の前に並ぶ兵達の前に居る。
雷撃魔術を発動するには、大蜥蜴と兵と馬車が近過ぎる。強行すれば確実に被害を与えてしまう。
それでは、俺自身が魔獣と何が違うと言うのか!?
どうしたものか。
あの兵……。
大半は王都防衛隊だが、そうでない者達も居る。
制服からして他国の兵に違いない、それが半分くらい。それが2台目の馬車を必死に守っている。ということは、他国の外交使節が未だ乗っているのか。
一部、開いている門内へ引き摺って逃げ込もうとしているが、ほとんど動いてない。
馬か!
客車だけならなんとかなったのだろうが、先に血祭りに上げられた可愛そうな馬達が繋がっている。あれが重しになっているのか。
【閃光!】【閃光!】【閃光!】【閃光!】
馬と馬車を繋ぐ馬装を焼き切る。
兵達が一瞬こちらを見て、響めきを上げながら引っ張っていく。
よし!
もう少し離れれば、攻撃でき……なんだ?!
2頭のバジリスクの間──
黒い何かが浮かび上がった。
繭?
拳大だったそれは、いきなり1ヤーデンに膨れ、回転を始めた。
轟と風が巻き起こる、背後から繭へ。
渦を巻きながら、旋風を孕み吸い込んでいく。
脚を踏ん張っていないと吸い込まれそうだ。
なんだこれは?
2頭のバジリスクが何かに呼応したように、虹色に輝きだした。
それが光の粒に分解され、繭へ吸い込まれていく。
それが何を意味するか、分からなかった。
しかし、どう考えても、いや何も考えずとも。不吉なことにしか見えなかった。
飛び違う光の粒子が加速度的に増えるに随って、それが確信になっていく。
もう、バジリスクの身体は色が薄れ、そこに存在すらしないようだ。
繭が急速にふくれ、黒の闇が深くなって行く
背筋に幾度も冷たいものが走り、手脚が瘧を起こすように痙攣する。
やばい、やばい、やばい。
その気に当てられたかのように、バタバタと人が倒れていく。
嫌な記憶が蘇る。
──このままではいけない。
身体が重い……。
あの時は魔力を多く持つ者が死の淵に追い込まれ掛けた。未だその絶対強度はあの時程ではない。
ラルフ、今こそ動け! 動くのだ。
何かに当てられて、身動き取れないとは。それでいいのか? 良い訳がない!
腹の奥に温かい物が回り始め、背筋が伸びる。
はぁぁぁぁあ。
深く息を吐き、息吹を迎え入れる。頭がジンと痛みつつも冷えていく。
【光壁!】【光壁!】【光壁!】……。
何度も光魔術を発動し、口にもしたくないモノが生まれつつある繭を逆漏斗に囲んでいく。
自分が己の身体でないように高ぶり、ひどい耳鳴りに襲われると、俺は宙に浮かんでいた。
広げた腕が輝き始め、細かい放電が頻発する。
まだ発動すらしない魔術が高ぶっていく
光の壁の向こう。
一体となった繭が砕け、発光の内で蠢きだした。
ਅਅਅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
おぞましくも凄まじい波動が、壁を突き抜けてくる。
超獣──
生まれさせるものか──
消し飛べ──
【金剛迅雷!!!!】
頭上に開いた両腕の間。
金色の光が捩られ巨大な戈が編まれる
熱く震えるモノが手にあった。
はぁぁ。
裂帛の気合いが、尾底から頭頂へ駆け上がり、幾度となく全能感を膨れ上げる。
目映い輝きがバチバチと弾ける中、逆漏斗の尖りをめがけ投げ下ろした。
狙い違わず貫いた戈は円錐を、さながら太陽がそこに来たように沸騰させた。
重さがなくなった躯は、降下し石畳に降り立つ。
俺は何者かに乗っ取られたように、おだやかに光壁を眺めていた。
漏斗は尖端から眩い光条を天まで届かせんと轟音と共に吹き出せていたが、やがてガラス細工が弾けるように消滅した。
バジリスクも繭も失せていた。
全能感も疲労も途絶えた。
世界が傾き、石畳が目前に迫った。
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訂正履歴
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




