106話 テロルとの闘い(前)
(本文と関係ありません)暑い日々が続きますね。皆さん、ご自愛下さい。
とある会合で市ヶ谷に出張(ああ仕事が溜まるぅ)。
お昼休み、会場から出たら、正面になぜか見覚えのある建物。この筋は、初めて入ったのに!
日本棋院……ああ、ヒカルの碁で見たのか!(コミック&アニメ)。地下の資料館も見学しましたよ!
背筋がうそ寒くて震えた。
73地区の森でも感知した波動──
強くなって来てる。
王都の直径は,およそ3.3ダーデン(3km)。その外にある周回路まで2ダーデン強の距離だ。
「聞いてくれ! まもなく南門に魔獣が出現する!」
「南門?!」
「既に北門には出現しているが、陽動だ!」
守備隊気が付いてくれ。
「アリーちゃん達は中核に当てるって訳だ!」
「残念ながら時間切れだ! 俺は先に行く! 皆は後から来て、戦闘よりはそこに居るであろう人々を守りつつ避難させてくれ、頼んだぞ!」
「「「はい!!!」」」
荷台を駆け、後部から躍り出る──空中で身体を捩って前向きに着地、そのまま走り出す。セレナも飛び出してきた。
行くぞ!
【加速】
時の移ろいが緩み、前景が迫ってくる。疾駆する馬車を一瞬で抜き去り、行く手を阻む先行する者達を縫って進む。後ろからセレナが追い付いてきた。
「行くぞ」
一段と脚に魔力を込めた。
†
王都南門。
正式名は南前門だ。
王都は渦巻き状に拡幅が続く都市。右巻きに増殖する城壁の最先端は南南西にある、4門の中でもっとも新しい門だ。
その外に広場が有るのは、他3門と同じだが格式が違う。
幅100ヤーデン。緑地を挟んだ両側に、皓い石灰岩を敷き詰めた大路。
他国の使節を迎えるべく築かれた、大理石造りの櫓門。
天工と賞されたガルベスクの手となる、神々と天使の像が鎮座する壮麗にして華麗な建造物。
正門までの大路に平時立ち入ることを許されるは、王家、伯爵以上もしくは王都在住の貴族、あとは軍のみだ。
周回路内への庶民の立ち入りは禁止され、広場の縁に設けられた並縁筋より眺めるのみ。また大路を渡ることは許されず、周回路まで迂回するか、地下に設けられた横断通路を潜って東西を行き来するのだ。
故に南門広場は、見物客の起こす雑音が低く響いていたが……光神教会王都大聖堂が12点鐘がそれを破った。
その音の奔流の中で、青銅で設えた大扉が重々しくも滑らかに開いて行く。
今日もやんごとなき者を乗せた馬車が通る。
門を潜り抜け、馬4頭が牽く客車の煌びやかな屋根が、中天に掛かり始めた陽を照り返しながら広場と進んだ。馬車は3台続いている。
先頭馬車の1ヤーデン半もある大きな車輪が、雨水溝を乗り越え僅かに軋んだ時──
惨劇の開始を告げる喇叭が鳴った。
先触れの天使像が微動だにせぬままに。
鉄柵の前で固唾を呑み貴賓馬車を見守っていた見物客、主に上京者達の目前。大きな荷物を背負っていた男が奇声がを上げながら潰れ、陽光に劣らぬ光の柱を屹立させた。その数、5柱!
鐘の余韻を吹き飛ばした大音声と閃光で、馬たちは竿立ちとなり、客車がつんのめって停まった。
その凶事を驚きつつも眺める人々。
ギィィャャァァァーーーー!!!
光が醒めると、濡れ光って蒼く照り返す鱗姿の巨体が存在していた。
†
「弾けた!」
目前で例の波動が一気に高まり刹那の放射のあと、ぷっつりと消えた。
孵化したのか。
あの波動は時限魔術のために必要であって、孵化してしまえば不要……ということか。それに12時の鐘が鳴った。
自分の予測が当たって悔しいってのは、間尺に合わない。
広場が見えてきた。
土埃?
もう少しだ! むっ、人?
周回路の曲がり角から、人々が溢れてきた。老若男女混沌たる人が押し寄せる波涛。
いいぞ、そのまま、できるだけ遠くまで逃げろ。祈りつつ、彼らの邪魔とならぬよう周回路脇の建物に駆け上り、広場に駆け寄る。
何だ──
左側通行の車道に白い馬車が止まっている。
それらを牽いていたであろう白馬が紅く染まり、蒼い鱗が滑光る魔獣が3頭屯してる。
「バジリスク!」
体高3.5ヤーデンに届く大蜥蜴が何頭も、人間が何百人が囲う広場を蹂躙していた。
地獄絵図だ。
車体に向かう1頭には、槍を持った10人弱の守備兵が近付けまいと必死に守っている。が、広場の向こう。2頭が居る。
認めた瞬間、宙に躍り出していた。
着地すると横にセレナが来た。
【セレナはあっちを頼む!】
「ワフッ!!」
車道と中央の緑地を突っ切り2頭に迫る。
既に何人も倒れている。
そこにバジリスクがのし掛かっていく。
くそっ!
【閃光!!】
文字通りの蒼き閃光は、バジリスクの後頭部を直撃──
だが。
「跳ね返した……だと!?」
反射した光線は虚空へ消えていった。
むぅ。魔術を無効化するのか。
魔獣にも、そういったヤツがいたとの報告があったが。
そいつは、ゆっくりとこちらを向く。
鎌首がでかく、人間を一吞みできる顎門、凶悪な鉤爪。
たった今、孵ったとはとても思えない偉容。
腰を抜かし動けなくなっている人間すら居る。
キィシャァァアアアアアア!!!
威嚇の咆哮に、隣に居たもう1頭も俺を見据え、口から粘度の高い唾液を垂らしている。
憎々しく睨む視線は、完全に俺の魔術を無効化できてないと見た。
逃げ惑う民衆を忘れたように、こちらに突進を始めた。
あの鱗のぬめり──
魔術どうこうではなく、ただの光学反射なのか?
探究心が沸騰しても検証している暇はない。人命が掛かっているのだ。
原理がどうあれ、ヤツと光魔術との相性が悪いのは事実。
ならば……ぶっつけ上等!
刹那の瞑目。
『おお雷帝よ! 天空と大地の神々の御子よ! その いと高き権能を 崇め奉る小さき者へ 片時恵み給え 金剛迅雷!』
目映い電光が、迫り来る蜥蜴野郎の肩を直撃──吹き飛んだ!。
中級魔術を改変した雷撃。
印加した魔力に比して効率が悪い威力。
もう少し魔力を……。
だが。
後にして思えば軽率!
「からの──」
【金剛迅雷!】
眼も眩む烈光が周囲を純白に塗り潰す。
轟音と共に俺は後に吹っ飛んだ。
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訂正履歴
2020/01/24 大路の幅100ダーデン→100ヤーデン
2022/10/09 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)




