105話 総力戦
ワールドカップ視てましたが。チームによって、個の力か! 組織の力か!とか、話題になってましたね。CSの番組でも言ってましたが、どっちが強いとは言えず、歴史的には年代で遷移したと言う結論でした。ただ、視てて思ったのは個の力は、周りの組織があってこそ光るってことですかねえ。
玄関に馬車が回してあり、そこにローザ達が待っていた。
「ラルちゃん! この馬車を貸してくれるんだって!」
幌馬車で乗り心地は良くないだろうが、軽い分速度は出る。
「ああ。みんな乗り込んでくれ! サラ、操縦を頼むぞ!」
「私にもお任せ下さい! 西支部のペドロと申します」
「頼むぞ」
ギルドの職員が1人御者台に乗ってきた。
間もなく、馬車は走り始めた。
俺は例の粘土細工を再び出庫すると。
【召喚 ゴーレム!!】
ゴーレム鷹となった。
さっき書いた手紙を脚に結わえる。
「よし、行け!」
窓から放った。
「ローザ、アリー。俺を動かないように支えてくれ。鷹を遠隔操作するために瞑想に入る」
「はい!」
「ラルちゃん、瞑想って、また?」
「いやちがう。今度は鷹を王都まで飛ばす!」
既にアリーの顔に、森林の俯瞰の光景が二重映りしている。
「ちょっと。ここから何ダーデンあると……」
「24ダーデンだ」
「むり届く訳が……」
「やってみせる。だから支えてくれ」
「分かったわよ!」
放った鷹は高く舞い上がった。
速度はぐんぐん上がり、時速120ダーデンを超えた。
5分経過。
順調だった飛行は、徐々にだが、明らかに不調に傾いている。届く魔導波の強度が弱っていく。魔導波の強度は、距離の2乗に反比例するからだ。
俺から離れること5ダーデン(4.5km)程までは、まるで自分自身が飛んでいるような鮮明な視界だったが。10ダーデンを超えるに至って映像の伝達が遅延し始め、ぽつぽつと小さな斑点が混じり、時々途切れるようになった。鷹に仕込んだ魔石に込めた魔力はまだ半分も使って居ないはずだ。
放ってから十数分が経過。
薄らと王都の城壁が見え始めた。あと数ダーデンだ。
さて。そろそろ、鷹に結わえた手紙を目的の人にどう届けるか、それを決定しなければなるまい。王都城壁の上空には魔獣除けの結界が張られている。ゴーレム鷹で突破できる可能性0に違いない。
ならば……。
案は2つある。東門の衛士に届け、伝達して貰う。門脇にある厩舎に飛び込ませてギルドの職員に届けて貰う。
いずれにしても目的の人はギルマスだ。
あの人、ぱっと見太ったおじさんにしか見えないが、なかなかの大人物だしな。非常の用には頼りになる。
ギルド繋がりなら飛行先は後者だが、いかんせんもう鷹の操作がままならない。
視界が途切れることが9割を超え既に、途中は勘で飛んでいる。
それももう限界か。
瞬間、石畳が見えた。東門広場! 100ヤーデンもない。
それっきり、視界は復活しなかった。
目を開けると、心配そうなローザの顔が有った。
「ああ、ラルちゃん! 届いた?」
「わからない」
「えっ?」
「東門外市場の上空までは行ったが、そこで魔術が途切れた」
「だ、大丈夫だよ、そこまで行けば。届くって! それより顔蒼いよ、ラルちゃん。また無理したでしょ。魔力が残っているからって、良いわけじゃないからね」
「だっ……ああ。ありがとう」
「そう? ああ、サラっち、急いで!」
「はい!」
御者台では懸命に、サラが馬達を操っている。
†
エヴァトン村に着くと、ペドロが他のギルド職員に命じて、新しい馬車を手配してくれて乗り換えた。
今朝見付けた、あの仕掛け。同じ時刻に孵化するならもう45分余りしかない。そもそも王都の城壁は超獣対策で造っている。そう簡単に抜けはしないと思うが。
最悪のことも考えないと駄目か。
【セレナ!】
【ナンデモ ヤル!】
察したのか、実に頼もしい返事だ。首筋を撫でてやる。
そうだな──
このパーティー。俺が引っ張って居るように見えて、本当は皆に支えて貰っているのだ。ローザにもだ。
1人で焦っても何ほどのことはない。世の中はそのようにこそできているのだ。
ならば、しばらく甘えるとしよう。
「悪いが、王都の5ダーデン手前まで行ったら起こしてくれ」
「承りました」
荷台の床に横になった。
「ラルフェウス様!」
「ん……」
覚醒した。
なんか早い気はするが……頼んだ通り王都東門まで、あと5ダーデンだ。
ゆっくりと起き上がる。
む! 御者台の後ろで、アリーがへたれて座りこんでる。
逆に疲れているはずの馬達が、どうしたことか元気が良い。
まさか!
「馬達に回復魔術を掛けたのか?!」
「はぁ、はぁ……アリーちゃんも、少しは働かないとね!」
「ああ、良くやってくれた」
ふっふぅん!
引き攣りながら笑った。
それに、俺も考えつかなかった。馬を魔術で回復させるなんてな。
行けるところまで行って、セレナに乗せて貰って、最後は自分の脚で走ってと思っていたが。
「アリー手を出せ!」
「何!」
「魔力を分けてやる」
何か紅くなった。
「良いよう。ラルちゃんだって魔力温存しておかないと……」
「想像したくないが、怪我人が大勢出るかも知れん。まだまだ働いて貰わないとな」
「もう、人使いが荒いんだから」
ローザの方をちらっと見てから差し出した。
俺は、ぎゅっと握り。
「気を強く持て!」
「えっ、うん……うわっ、ハニャァァア!!」
魔力を流し込むと、表情がだらしなく融けた。
「うわぁぁあ。すんごく気持ち良いんですけど。うぅぅーゾクゾクするぅ」
横に居るローザの眉が、ひくひくしながら吊り上がっていく。
いや、ローザさん。決して、いかがわしい行為じゃないから。
「はぁぁああ。満足ぅ! ふぅぅ」
なんか艶っぽい。
だからといって、お腹さすられてもなあ。
えっ、何ですか? ローザさん。この手は?
新妻の手を握ると、魔力を流し込んでみる。
「ほうぉおお……まあ、でも、あれよりはね」
なぜか少し勝ち誇ったように微笑んだ。余裕を感じさせる。
何のことだか。まあでも他でがんばります。
「もう結構です」
10秒ほどで手を離した。
あと王都まで1ダーデンまで来たとき、例の魔導波が押し寄せた。
「くっ!」
北門?
ここまで近いと、どこで出現したか、三角測量するまでもない。
それにしてもこれは──
12時には、まだ10分あるのに!
「ラルフェウス様?」
「どうしたの、ラルちゃん?」
「北門に魔獣が出た!」
「じゃあ、北門に回る?」
城壁から、200ヤーデン離れたところに周回路がある。
「いや。周回路を左へ曲がってくれ!」
数分後、俺達の馬車は、周回路を魔獣が現れた北門とは逆に曲がった。
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訂正履歴
2020/01/24 東門広場! 100ダーデンもない。→東門広場! 100ヤーデンもない。




