104話 危急の復路
緊急の時は非常な覚悟が要る。分かる気がしますが、なかなか小生には難しいそうです。幸いこれまでそういった決断をすることがなかったので良いのですが……。
連休前の仕事進行が厳しくなってきました。投稿が滞るかも知れません。ご承知おき下さい。
缶の中の魔石から魔力を吸い上げる。
俺の髪が淡く輝き、折角ローザが綺麗にまとめてくれたのに、逆立って広がってしまった。
俺も起きたばかりで魔力が一杯だから、肌や髪から空中に放出しているようだ。
無駄だな……。
「セレナ来い!」
ぴこっと耳が立つと、青白い塊がはっはっと白い息を吐きながら跳んできた。身体は大きくなったが、相変わらず可愛いやつだ。
「おお、よしよし。魔力をやるぞ」
左手で頭を撫で、首筋の毛並みを梳かす。触感の愉悦に浸りつつ、吸い上げた魔力を譲渡していく。
別の気配で顔を上げる。
「呼んでないけど」
アリーとサラまでここに来た。
「ぶぅ! もう安全なんでしょ、セレナを呼んだんだから」
「まあ、そんなに危なくはない」
「それで、何か分かったの?」
「魔獣だ」
「はっ? 魔獣? それが?」
「まだ卵で、孵化前だがな」
たじろいだサラは、胸を撫で下ろした。
「へえ、魔獣って卵から生まれるんだ」
「そういうやつも居る。セレナは赤ん坊で生まれたはずだが」
「ふーん」
「それはともかく。魔獣の卵を、その缶に入れて埋めたわけですね。何の意味があるでしょう?」
サラは真面目だな。
さっき魔力を吸い上げながら、術式も分析できた。
「いや。時間が来たら、突如成体の魔獣で現れるようになってた。何もしなかったら、あと3時間で」
「ぇぇええ! 3時間? お昼?」
「嘘でしょ!」
アリーもサラも顔が歪むほど驚いている。
「それで、今は何をされているのですか?」
「ああ、魔石から魔力を抜いている。原形を留めたまま魔獣を孵化させないためにな」
紅かった魔石が目に見えて昏くなってきた。魔力が失われてきた証だ。
数十秒後。魔石から魔力が吸収できなくなった。
【どうだ、セレナ? お腹一杯になったか?】
【マアマア】
おっ。缶から漂っていた魔導波もなくなった。
掌を戻す。
「えっ、ラルちゃん。終わったの? やな感じがなくなったけど」
鋭いな、アリー。
「多分な。確かめてみる」
俺はミスリルの缶に蓋を戻すと、魔収納を発動した。
「なくなったね」
アリーの言った通り、掘り出した土の上から缶がなくなっている。
「ああ、入庫できた。魔獣が卵のまま死んだと言うことだ」
「では、これで一安心ですね」
「ああ、そうだ……いや──」
「ラルちゃん? 何? どうしたの?」
確かに、この埋蔵物の危機は去った。だが……腑に落ちない。こんな田舎に仕掛けたやつらに何の目的がある?
時限式の精巧な魔導具、希少な魔獣卵を使わねばならない理由は!
…………むむ。
「ラルフ様?」
「ああ、ラルちゃんは何か考えてるようだから、邪魔しないように、放っておこう!」
…………わからん!
中小規模の村。産業と言えば林業。
確かに住民からすれば、この森は大事な財産だろうが。あんな手の込んだことを、わざわざする意味などありえない!
いや。この村に何があると考えるのが間違っているのか?
話を抽象化しよう……ここにではなく、ここでも良かった。あるいはどこでも良かった……ある場所でなければ、ここでも良かったと考えればどうだ。
まさか!
「ええと、感知魔術に改変を入れて……」
「ラ……」
「しぃぃーーー」
アリーがサラを引っ張っていった
瞼の裏に術式の奔流が流れ込む。
他の反応に重みを乗して……特定の周波数帯のみを通過するように…………これでいいか。
【魔感応!!】
視界が暗転し、風の音が消える。
肌感覚も喪失し、自分の形をも朦朧とする。
無──
耳鳴りも拍動の体内伝導も消え去った闇のみが広がる。
ふと、光が在った。
ああ、これは……ここ、そこ、それに……。
「……ちゃん! ラルちゃん!」
「ラルフ様ぁあぁあ!!」
「ふぅぅぅ……」
「い、息を、息してます!」
切迫した声に眼を開けると、俺の肩を掴んで揺すっていた。
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ!」
鼻声の金切り声だ。
「ラルフ様が、突然座り込まれて……」
「最初はラルちゃんの魔術だと思ってたけど、息してないし、心臓も止まってるし! もう」
アリーが胸をバンバン叩く!
「ああ……悪い悪い! その通り魔術だが……やり過ぎた」
五感の他、自律神経まで切ってしまったので、生命維持が立ちゆかなくなったらしい。
「魔術なら言っておいてよ。回復魔術も効かないし、お姉ちゃんだったら、卒倒してるんだからね!」
そういうアリーも涙目だ。
「わかったが、もう一度やらないとな?」
「は?」
急いでゲルがある拠点へ戻ってきた。
「ラルフェウス様!」
ゲルのベッドに横たわって、生命維持までは遮断しない術式に改変し、魔感応を再び発動した。
「ここを引き払う」
「ラルフ様。準備はできています」
よしと頷き。
「パルヴァンへ向かう」
「「「はい!」」」
短時間で後始末して、73地区を離れた。
†
およそ1時間後、パルヴァンの町に着いた。
皆のギルドカードを預かり、休むように申し付けて、集会所に駆け込む。
一昨日とは打って変わって、閑散としていた。奥の部屋に、西支部の例の職員が居た。
「なんですか?」
「73地区担当のパーティの者だ」
「73地区……何か問題が? 調査を中断して来られたのですか?」
「調査は終わった」
「もう終わったのですか? 早すぎませんか?」
「それはギルドカードで確認してくれ」
皆のカードと、昨日までの魔獣の出現場所と傾向をまとめた書類を、傍らの事務員に渡す。
「お分かりのことと存じますが。調査が終わっているからと言って、報酬は日割りです。2日分しか出せませんよ」
「報酬はどうでもいい、これを見てくれ!」
「はっ、はあ……」
身を乗り出していたペレアスは、俺の血相に推されたのか座り直した。
机の上に、ミスリルの缶を出庫した。土で汚れているのが嫌なのだろう、少し顔を顰めた。
「ミスリルの……これは何ですか?」
蓋を開けて中を見せる。
「これは、魔獣の卵と魔力を蓄積した魔石だ。これに関しては既に処理がしてあるが、時間が来れば孵化し一気に魔獣の成体が現れる、全体としてそういう魔導具だ!」
「えっ……にっ、俄には信じがたいのですが……これをどこで」
俺は壁に貼ってある大きな白地図に歩みよる。
「ここだ、73地区のこの場所。地中に埋まっていた」
「はあ……」
「ターセル村で、黒ずくめの怪しい人影を巨甲蝦が出現する前の目撃情報がある。再び孵化する可能性がある」
「まっ、まさか」
「まさかではない! ペレアス!」
「はい!」
「そして、同じ物がこことここに埋まっているはずだ」
ペンをひったくり、俺は白地図の2点に印を付けた。魔感応の三角測量で場所を特定したのだ。2箇所で目標の方位が分かれば、その方向に伸ばした直線の交点が埋蔵地点だ!
「場所が分かるのですか!」
「魔術でな。これと同じなら、あと2時間だ! しかし、俺が見るところ、この辺りに現れる魔獣は陽動だ!」
そう。魔感応に感の有ったのは3箇所だ。距離から言えば、最後の一点こそがもっとも魔導波が強い。
「ここは陽動なのですか?!」
察しは悪くない。
「ああ本当の狙いは別にある。魔獣を相手にできる軍も有力な冒険者達も出払っている重要な場所。つまり王都だ!」
「王都……それが、本当だとしたら……これから、どうしたら……」
職員が頭を抱える。
材料は渡した。後は任せる
「俺達は王都に向かう。依頼達成は?」
「ああ、どうか?」
ベレアスは、俺の背後に居る者に問う。
「移動経路を確認しました。探査面積は十分です!」
「では、達成と認めます。私は、あなた方を信じてできるだけの対応をしてみます。王都に向かうのであればギルドの馬車を使って下さい」
ふむ。俺を信じたのか。
「こちらから頼もうと思っていた。助かる」
俺の推理が正しければ、この辺りに出て来るであろう魔獣は、王都を襲う魔獣より弱いはずだ。
募集対象の冒険者達ならば、なんとかしてくれるに違いない。
「机を借りるぞ」
大急ぎで紙とペンを出し、手紙を書き上げると集会所から出た。
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2019/4/17 誤字訂正(ID:1191678さん ありがとうございます)
2022/07/15 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2025/04/24 誤字訂正 (白雪椋さん ありがとうございます)
2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




