99話 小競り合い
所属する団体や企業を嵩に着て、威張り散らす人を稀に見ることがありますが。真に凄いところに所属してますねってことは小生は遭ってませんねえ。
替えの馬車はすぐ来た。
中継地のエヴァトン村を発って、前進基地のパルヴァンまでやってきた。
「宿場町にしては、随分淋しいね」
ああ……と肯く。
アリーの言う通りだ。ターセルも寂れていたが、腐っても観光地だ。こちらは最初から賑わったことがないんだろうなあと思える町の構えだ。
しかし、町に入ると意外と人影があった。半分以上は、冒険者の風体だ。俺達と同じくギルドに動員された口だ。
広場で止まり馬車を降りると、ビアンカとテレーゼの仲間が待っていたので、そこで別れた。
「ああ、皆さん。あそこの集会所で受付していますので、お済みでない方は寄って下さい」
比較的若い冒険者に指示された。遠征先なので、どうやら大手クラン竜の翼の連中が仕切っているようだ。大動員で、ギルド職員が手薄になる場合は、そういうことが多いと聞くが。
集会所。煉瓦積みの古びては居るが、やや大きめの建物に入ると、玄関の奥に列ができていた。
「竜の翼の諸君は、左の部屋へ。その他の人は列に並んでくれ!」
どう言う分け方なんだと思うが、あっちの方が人数が多い。アリーは差別だと、ぷんすか怒って居るが、全体の効率から然程悪くない。結構先は長そうだ。
数分後。
「ああ、アリーちゃん」
後ろから、聞き覚えのある声に振り返るとビアンカ達が居た。あと4人居たが、みんな女子だ。まあ、テレーゼは男が嫌いみたいだし。そういうことなんだろう。
人が出て来たので、列の前の方に向き直る。
「何だ、あいつは! ふざけやがって!」
厳つい男だ。
「ああ、全くだ。俺達にひでえ場所を割り当て、竜の翼が良い場所を独占。嫌なら帰れとよ。腹が立つ」
別の男が零しながら通り過ぎる。
どうやら調査区域の割り当てに、かなり不服があるようだ。
ビアンカが、ああまたかと愚痴って居たので、常態化しているらしい。
その後、怒気を含んだ表情で3人の男達が続いて出て行き、列が進んだ。
30分ほど待たされ、やっと受付まで辿り着いた。と言っても、列はまだ続く。ここは、単純に冒険者の名簿を作るところに過ぎず、割り当てはまだ先の部屋に入ったところでやるようだ。促されて、名前、ギルド登録番号、冒険者ランクをパーティーごとに2箇所に書かされる。
さらに20分ほどで、部屋に入った。
10人ほど先が並んでいる。個別でやらず、流れでやっているのか。
部屋の奥の壁には、でかい地図が掲げられている。左の端にエヴァトン、中央やや左寄りにパルヴァンと書かれているところみると、ここらの地図で有ることは間違いない。パルヴァンの周りは白いが、その周りを囲うように朱色の書き込みがある。調査区域の既に割り当てが終わった場所だろう。
その前には、机があり2人が向こう側に座っている。風体からして、左側は30歳程の線の細い男でギルド職員、右側は小柄な少壮の男だ。
そいつが腕を振り上げ、勢いよく机を叩いた。衝撃音が響き止まぬ中。
「割り当てが、気に入らないのなら帰れ! 代わりならいくらでも居る!」
大声が追い打ちを掛ける。
「ふざけんな! 何様のつもりだ!」
確かに風体や装備は、ギルドの職員ではない。
「大口を叩いたな、なんだっけ? サンバルスというパーティーはお帰りだ! 次!」
「なんだと?」
「まだ文句があるのか? 竜の翼が受けて立つぞ!」
「あっああ……揉め事は困りますね。しっ、私闘をすればギルドの1ヶ月の出入り禁止ですよ!」
「ちっ! 帰るぞ、けったくそ悪い!」
前の前のパーティーは、怒りながらも何もせず、そのまま出て行く。まあ1ヶ月も依頼が受けられなければ、干上がるからな。
それにしても、あの職員、帰らせることに異議は唱えなかったな。
「うわぁ、ザーランが仕切ってるのか、やだやだ」
テレーザが小さく呟く。
「知ってるの?」
「評判悪いし、女癖悪いんだって」
「うわぁ」
アリーとの会話が聞こえてきた。
俺達の前のパーティーは、特段騒ぎなく決まったようで。俺達の番になった。
「えぇと……なんだ男か」
下卑た視線を、俺やローザに浴びせ、名簿と見比べている。名前で性別が分かったのだろう。一瞬顔を顰める。
「そうだな。登録番号が若い。まだ駆け出しのパーティーだな。特別に指導してやろう。それに巫女は不足していてな。パーティーを2つに分けろ! 魔術師と戦士は調査。その他はこの周辺で……」
「ザーランさん! それは……」
パーティーを分けるなど、ギルドすら強制はできない。
名札にペレアスと書いてある職員が、止めようとしたが。
「なんだ? 文句があるのか? ぁぁあ!」
「いっ、いえ!」
引き下がった、職員にフンと鼻息を吐き、こちらに向き直る。
「それで、お前はこっちだ! いいな!」
地図の東南の端、73と書いてある場所を指差す。
「断る! パーティーを分ける分けないは、リーダーの専権事項だ!」
「竜の翼に逆らうのか!」
腕を振り上げた。
振り降ろす前に、ザーランの周囲が真っ暗になった。
振り上げた腕の感覚がない。
しかし、驚いて眼を向けると、指先から白くなっていく。
ゆっくりと降りてきた手が、机にぶち当たった時、まるでガラス細工のように弾け飛んだ!
ダンと机が鳴った時、意識をなくしたように机に突っ伏した。
「ザーランさん! ザーランさん? どうしたんですか?」
横に居た職員が、肩を揺するが反応がない。
「ええ、ちょっと! 大丈夫ですか?」
「どうした?」
「いえ、ザーランさんが!」
その時、教会の鐘が鳴り響いた。正午だ。
「うぁあぁああああーーーー!」
ザーランは、何かに打たれたように立ち上がると、奇声を発して人の列を掻き分けて部屋を飛び出していった。
「ザーラン、おい! ザーラン!」
部屋の入り口に居た彼と同じ、クランの者が2人の内1人が追っていく。
「なんだ? 何があった?」
もう1人が、こちらへやって来た。
「いっ、いえ? 突然、ザーランさんが奇声を上げて出て行ってしまって……」
「何でだ?」
「さあ、こっちが聞きたいくらいですよ!」
「誰か何かしたんだろう!」
「言い掛かりです!」
ザーランの仲間が、辺りを見回す。
「お前! 何かしただろう。触らなくとも、魔術師だからな」
まあ俺とやりとりしていたからな、当然の疑いだ。
ローザが反応しかけたのを手で制する。
「いえ、その方は魔術を使われていません。私は呪文の詠唱を聴いていませんから。どなたか聞かれた方いらっしゃいますか?」
職員が皆に質す。
当然ながら申し出はない。
「いらっしゃらないようですが?」
「ううむ……そうか!」
クランの仲間が出て行った。
「おーい。昼になったぞ、早く進めてくれ!」
後方から野次が飛ぶ。
「パーティ分割はお断りだが、場所としては、さっきの地区で不服はない!」
職員に告げる。
「ああ、では、そのように。あなた方パーティーを73地区に割り当てます」
俺達は73地区と追記された調査依頼書を受け取って、皆のギルドカードが更新されて集会所を出た。
従魔溜まりから、セレナも連れ出す。
アリーがニヤニヤ笑っている。
「いやあ、恐い、恐い」
「何がだ?」
「ふふふ。分からないから恐いよね」
さらに笑った。
「そうですね……どうしたんですかね? 師匠」
「さあ……」
ローザとサラが話している。サラがアリーの方を向いた時に、ローザはこちらを見た。アリーだけでなく、ローザも俺が何かをしたと感付いているようだ。
この姉妹には、本当に隠し事ができないよな。
「グゥゥゥ」
「ん? 腹が減ったか? セレナ」
「お昼にしよう、お昼!」
アリーには聞いていないが
集会所の横に、一応食事処があったので入る。意外に空いている。12時に、調査地区近辺向けの馬車団が出たからか?
席に着くと、店員が来た。
「合い済みません。本日はお客様が多いので、シチューの献立しかございません。お代はお一人50メニーです」
予め作ってあるのだろう。
「そうか、では、それを4つ」
「はい!」
まあ、この時期温かい物を食べられるのはありがたい。
あっと言う間に、持ってきてくれた。シチューに黒パン、それにサラダだ。早速戴く。
おっ!
「意外においしいね」
「意外は余分よ」
にこやかだった、アリーが真顔に戻る。
「へーい」
「あっ! 居た居た!」
「ああ、ビアンカ!」
そのまま、隣のテーブル席に座る。
「よくここって分かったね」
「いやあ、セレナちゃんが、外に繋がれてたからねえ。
「あっ、そっか」
「いやあぁ。それにしても恐れ戦いてたザーランの顔、傑作!」
「あははは。だね」
「でも、かっこよかった、ラルフ様!」
ん?
「毅然と”断る”だって! 仲間を守るって意思が強くってさあいいよねえ。年下とは思えないわ」
そっちか。
「あのまま言うこと聞いてたら、あいつにもあんなことや、こんなことされてたかもよ!」
「まあ!」
サラが紅くなる。
「ああ、私も守ってもらいたぁーい。ああ、でも調査地区が、ちょっと離れてるのよね」
「ビアンカは、私が守るわよ!」
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訂正履歴
2018/07/14 脱字(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




