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解体屋 鉄治  作者: MiYA
3/25

漢、張る気か … 清 …

「まぁ、座れよ…」


社長は俺達を黒革のソファーに座らせた。


社長のデスクの椅子に座ると丁度頭から15㎝程上になるかな…


俺の大好きな社訓 … 自惚れるな!


今日も額縁には埃一つ付いてない…

社長が朝一番にする事、会社のトイレ掃除と額縁の拭き掃除 …


俺は社長と出会えた事、

鉄虎の仲間達と働いている事、

俺に与えられた全てに感謝している…

全てを誇りに思っているんだ …


「おい鉄治!何ボーっとしてる?」


「あっ、いぇ… すみませんっ」


ヤベッ!

社長何て言っていたんだ聴き逃した!


「あっ … あのぅ …」


「どうした清? 質問か?」


社長が何か言いたげな清に聞いた


「質問では… ないです … でも… あの家の住人達は … 神主さんでも祓えない… 出て行くとか…成仏するとか…そう言う気持ちがない …呪いだって言っていたし … 」


清は社長や俺達の反応を確めるように、チラチラと周りを見たりビクビクしながら話した。


「呪い? 清、誰がそんな事言ったんだ?」


社長の顔が一瞬歪む …


「バッ… バロン! あの家に飼われていた犬 が教えてくれた …」


清はビクビクしながらも確り応えた


社長は顔を歪ませたまま、


「その犬 … 生きてんのか?それとも… 死んでんのか?」


清はすっかり俯いて


「死んでいます… 殺されました…呪いで…」


冷たい空気が社長室に流れる …


「そうか… 解った … 少し調べてみるか … 皆、 今日は疲れたろ?天野なんて本物に憑かれたしな !ガハハ!政も清も、お疲れさん ! 今日はゆっくり休め!明日6時にな!遅れるなよ~ガハハ!解散!解散!今日は終わり っ!気をつけて帰れ~!あっ、そうだ …鉄治!お前にクレームが1件ある!残れ!」


社長は俺だけを残し、他のメンバーを見送るため1階へ降りて行った。


うわぁ~マジかよ~つかっ何のクレームだよ、今日じゃなきゃ駄目~?社長が他の奴等見送る って… 俺、隔離?マジ恐いんですけど … 生きて帰れるかなぁ …


俺は正直 …

逃げ出したい気持ちでいっぱいだった…


コツコツ…コツコツ…


階段を上がる社長の靴音が響く …

高鳴る心臓… 緊張MAX …


ガチャッ!


俺はソファーから、

ピョンと直立に立ち上がり


「すみませんでしたー!何のクレームかは俺、解りませんが、会社に迷惑を掛けて本当にすみませんっ!」


思いきり深く頭を下げた。


「ほら、飲め … 」


社長は缶コーヒーにクルクルと回転をつけて俺に放り投げた。


「へっ?あっ、有り難う御座います… 」


「クレームは嘘だ… 座れよ鉄治… 」


社長は疲れたような

困ったような顔をして俺に言った。


俺は頷き黒革のソファーに座り、

社長はデスクの椅子に腰を降ろした。

社長がプシュッ!と缶コーヒーを開ける、俺も慌てて社長を真似た。


重たい空気が流れる …


「なぁ… 鉄治 … 清はどうだ? 」


「あっ、清ですか? 頑張っています!清は頭いいですよ、もう少し勢いが欲しいですが、まだ17ですから、此からだと思います !」


社長は俺の応えに頷き、

コーヒーを1口ゴクンと飲み込んだ…


一言で言うなら … 漢の哀愁 …


「鉄治、清の事… 何て聞いている?」


社長が真顔で俺に聞いた


「何てって … 虐めが原因で学校やめたと聞きましたけど … でも俺は、そんな事は人生の一片でしかねぇし、気にする事じゃねぇ って思ってます!一人前の解体工になって見返してやればいいって思ってます! 」


社長は微笑み


「熱くなるなよ鉄治、全くお前は… 清は何で虐められたのかって事だよ、俺が言いたかったのは… 知らないだろ? 」


「はっ … はぁ …」


社長は微笑みながらも悲しそうな目をして


「清はな、鉄治も解ったと思うが… 見えるんだよ… 俺達に見えないような物が…でな… 小学生の頃らしいんだが… 仲の良かった同級生の子に予言をしたらしいんだ … 」


「予言… すか …?」


社長は頷き話を続けた


「清に悪気は無かったろうな …きっと、その同級生の子を心配したんだろうな… その子の父親が自殺すると言ったらしい … 翌日から清に対する同級生の虐めが始まった… 酷かったらしい… 毎日、青アザが出来ていたと清の母親が言っていたよ… 其から1週間後、本当に清の予言を受けた同級生の子の父親が自殺した … 恐怖心だろうな、同級生の清に対する目に見える虐めは消えた … でもな、清につき纏う噂は消えなかったんだろうな … 3ヶ月前の出張の帰りに飛行機降りたら急に具合が悪くなってな … 何とかなるだろうと思って空港から車運転して来たら、ダムに掛かる大橋の手間でどうにもならなくなって車を脇に停めて少し休んだんだ、 そうしたら寝ちまって… 起きたら真夜中だぜ、あんな山ん中の薄気味悪い場所で… 俺も自分で驚いたぜ、よく此処で寝ていたなって… さあボヤボヤしていないで帰ろうと思ってヘッドライト点けたら光の先に真 っ白い人形(ヒトガタ)が浮かびあがった…」


「ヒィ~!社長!淳二?ねぇ淳ちゃん?」


社長はニヤッと笑い …


「俺も嫌なもの見ちゃったよ~って思ったんだけどな、その人形じぃ~っと哀しそうに橋の下見ててな… 俺、ふと、思ったんだよな… 止めなきゃなって … 」


「うわぁ~!駄目だ~社長~逝かないで ~ !」


俺はすっかり社長のホラーワールドに呑まれていた …


「運転席のドアを開け… ゆっくりと車を降りた… ガサッ!ガサッ!俺の足は一歩…又一歩…橋へと近づく … それは俺の好奇心?否… 今は勇気と言っておこう… そして哀しそうに橋の下を見つめる人形の姿がハッキリと、この目に映る … なんだ… まだ少年じ ゃないか… 俺はホッとしたのと同時に、少年がこんな真夜中に何を思い詰めて橋の下を見つめているのか知りたくて、ポンッと少年の肩に手を置き、何か見えんのか?こんな夜中に… と聞いた … すると少年は頷き … この世にもダムの中にも地獄が見える… とそう応えた … 」


「じっ … 地獄?」


社長は哀しそうに顔を歪ませ二度頷くと…



「あぁ … 清は俺にそう言ったんだ …」


「地獄 …って …」


社長は困ったように微笑み


「だからな言ってやったよ… 悪いが俺にはダムの中の地獄は見えない… でもな、この世の地獄なら、自分の意思と力!それと自分と繋がる万物全てへの感謝の気持ちで天国にだって変えられる!人間なめんなよ!世の中の・い・ろ・は・も知らねぇクセに … 命棄てるな!… それで、少年に俺の名刺渡して帰って来た … 2週間過ぎた頃、清が俺を訪ねて来て現在に至るって訳だ … 」


「そんな事があったんですか… 」


社長はニッコリと笑い


「だからよ鉄治、清にな地獄を天国に変える方法を教えるのを手伝ってくれや… 俺もお前も、未々ガキ臭いところはあるけれど … でもよ、大人と言われる年齢ではある訳だし、大半の大人が望むスカした生き方だけが大人になるって事じゃないだろ?」


俺は社長と力強く握手したい気分になっていたが、流石にそれは不味いなと… 気持ちだけに留め


「はい!俺でお役にたてるなら!喜びまして ! 」


俺が応えると社長は目を輝かせ、スーっとパンフレットを1枚、俺の目の前に差し出した。


「何のパンフですか?」


パンフレットには …


あなたも体感!1日修験者体験 !

霊山である修験場を思いきり走り

風と一つになろう!


滝に打たれて身も心もリフレッシュ!

開眼間近、只今、参加者募集中!


「あ… でっ? 社長はこの嘘臭い体験に俺も参加しろと … ? 開眼間近って… ないだろう …無茶するよなぁ… 」


社長は頬をポッと赤く染め、クルリと俺に背中を向け


「しっ…自然界に感謝をする事は、大切な人間のぎっ…義務だろうが… それに!俺は清の為にも成るだろうと思ってな… 」


否 … 違うな社長 …

社長は清に(カコ)つけて、

本当は修験者体験したかったんでしょう?

試してみよっかなぁ~


「でも… 社長… 俺、参加費出せませんよ…金欠です… 清なんて俺より給料貰ってないし … 出せるんすかねぇ …」


社長はクルリと振り返えりニッコリ笑って


「鉄治君、金は会社で出そうじゃないか… 折角の休日の日曜日に参加して頂く訳だから… 鉄治… 下手に俺の腹探っていないで全員強制参加だ!バカヤロー!」


俺は大目玉をくらい逃げるように退散するはめになった …


… 無念 …


恐るべし … 八木原 鉄虎 …


明日は6時に会社へ集合、

今日のメンバーと一緒に多田家へ向かい、宮司がお祓いをして …

仕事が出来るようなら仕事に係ると …


それから明後日は修験者体験か …

どうなる事やらだよな …

取り敢えず家へ帰るか …


俺の住んでいるアパートは会社から徒歩10分のワンルームで、風呂トイレ付ペット相談可、家賃月額4万円で水道料金込み2階建ての鉄筋コンクリート、まぁ普通だな…


徒歩10分家に着く間には、スーパー2件・コンビニ・ それと少し大きめの公園がある 、気が向いたら、ぷらぁ~っと家を出て公園で暇を潰したりもしている …

俺にとっては小さなオアシスなんだよな …



夕暮れ過ぎの薄暗いオアシスに通り掛かると…


「お前が殺したんだろ!言えよ!お前が呪っているんだろ!」


何とも物騒な若者の声が聞こえた …


ボカッ!ボコッ!


肉に埋まる鈍い音も響く …


「まぁね … 一応 、近隣住人として確認しておかねば… 」


俺は右向け右!

足音を忍ばせ公園へ向かった。


大型タイプのタコの滑り台に身を隠し若者をチェック!


えっ!


5人の少年に囲まれ地面に踞る少年は …


紛れもなく、清 !


シャキッ!


2人の少年がギラギラ光るナイフを、

ヨロヨロと立ち上がる清に向けた 。


「オイッ!ガキがナイフ出して何してんだ ?」


俺の心が烈火する …


「お前等、卑怯って言葉知ってるか?あ~ ?」


俺は清の前に進み若者に言った


「なっ、何だよ此のオヤジ!」


「関係ねぇだろ!ただコイツが認めないから出しただけだろ!」


「面倒臭ぇ、オヤジも殺っちまうか!」


心のマグマは爆発寸前


「ナイフで脅して、で?言う事聴かなかったら? どうすんだ? 刺すのか?コノ糞ガキ共ガー!お前等1人に対して5人 、しかもナイフ付、ハハッ 笑っちまうぜ!卑怯者が―!!」


お空の神様 …

こんな事が赦せない俺を…

お赦し下さい …


俺はガキ共を叩きのめそうと


「コノッ糞ガァー!!」


えっ?清 ?


清はグッ!と俺の腕を掴み


「お兄さん … 此は僕の闘いだ!黙って見ててよ… 関係無いんだから …」


清… お前…

そんなボコボコにされているのに…


漢、張る気か …


清は構えた …


軽快なフットワーク…


ボスッ! ボコッ!ボコボコッ!


繰り出すパンチは確実に

相手を1人づつ潰して行った …


嘘っ!強ぇな … 清 …


残る敵は1人 …

清は最後の1人に向かい、


「下田… 僕は、お前の父親も母親も殺していないし呪ってもいない…小学校の頃お前とは仲が良かった…だから!見えた事を話した…お前の親父さんに死んで欲しく無か ったから!なのに … 今迄は、ず っと我慢してきた!陰で殴られても金取られても! 今日からはヤられたらヤり返す !これ以上俺の人生の邪魔はさせないっ ! 」



清 …


おぃおぃ、未だガキだぜ …17だ


でも、清、お前は立派に漢だな



「うるせぇ!お前が何かしたに違いねぇ! こっちにだって恨みがある!ぶっ殺す!」


シャキッ!


「おいっ!卑怯な下田~!ナイフは卑怯だ !それとも、お前の根性が卑怯なのか~? 何でも人のせいにして~卑怯者~!卑怯な下田!アッホレ!卑怯な下田!」


今の俺には野次を飛ばす事しかできねぇ…


「うるせぇ!オヤジ黙ってろっ!」


下田少年のナイフを持つ手は震えていた…


「キェェ―!!隙ありっ!」


奇声と共にヒョイッと下田少年のナイフは取り上げられた …


「あっ… 矢野さん!」


矢野 俊平 … 元プロボクサー・78才・鉄虎で働く解体工としては最高齢 ・趣味は自然観察・特に花を愛でる事 …


「坊主、物騒な物チラつかせないで素手で闘いなさいよ… こんなものはね …」


バッキ~ン!

矢野さんはナイフを素手で簡単にヘシ折り


「ワッハハ!これで良し!ファイトッ!所で鉄治、どうしてナイフ取り上げないの、 少年達が怪我するでしょ、下手したら死ぬよ… 大人として凶器は止めなきゃ… はい梔子(クチナシ)の花!2個あげる♪」


矢野さんは作業着の胸ポケットから梔子の花を2つ俺に差し出した


「何処で摘んだんすか… 」


俺の質問に乙女のようにクスッと笑い


「現場♪」


矢野さんは微笑みながら応え


「明後日、山だってね!修行体験するんでしょ?楽しみだなぁ~♪全員参加だから鉄治も来るでしょ?ワシ明日の夜眠れるだろうか~♪フッフ~ン♪」


なんて可愛いらしい爺様 …


矢野さんと居ると …

ほんわか・ふわふわ~って感じで、

俺は和んでしまうんだよなぁ …


あっ!清の闘いは ? 決着ついたか?


必死に逃げ去る5人の少年達と、

堂々と胸を張り逃げ去る少年達を見つめる清の姿が其処にあった …


清は清々しい顔をして


「鉄治さん!さっきは知らない人のふりして、すみません … 巻き込みたくなくて…コーチ!俺、勝ちました !」



ニッコリ笑った。





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