穢れなき魂
意識はあるっつうのに…
かっ躰が動かねぇ …
玉五郎、バロン、鴉、多田さん…
なぁ… 皆 … 頼むよ…
生きててくれよ …
鉄治の目から流れた一粒の涙が…
首に掛かるイラタカを濡らした
ポツッ …
観~自~在~菩~薩~行~
深~般~若~波~羅~蜜~多~
時~照~見~立~
イラタカから般若心経が聴こえる …
「なっ、何ですか…」
羽波行者は鉄治のイラタカを見つめた…
経の声は崩れかけたリビングに響き渡る
羽波行者の皮膚が…
彼方此方と捲れ上がり…
削げて落ちた …
羽波行者は鉄治から、数歩、後退った …
イラタカは、ゆっくりと廻りながら、鉄治の首をスルリと抜け…
鉄治の頭の上で黄金色に光り出し…
目の眩むような…
眩い光りを放射線状に放った …
「うっ、うわぁ~あぁ~落ちる、私の肉が 、私の皮膚が~」
羽波行者はオロオロし…
ボトボトと床に肉片を落とした…
「わっ私は、究極の悟りを得たのですよ、何故、此の私が朽ちるのです!何故!」
黄金色のイラタカは素早く四隅へ移動し、家を取り巻く炎を鎮火させた …
その間にも羽波行者の躰は、次から次へと欠けて行く…
「助けて下さい!誰か! 嫌っ嫌です!私は … 私は … こんな事を望んではいない!」
イラタカは玉五郎の頭の上に留まると …
ゆっくりと廻り始めた …
放射線状の光りが羽波行者を照らす度…
羽波行者は加速するように欠けて行く…
「嫌だ!嫌です!こんなっ、私は即身成仏 をしたのですよ!酷…い… 」
羽波行者は泣き崩れた …
玉五郎の胸の奥が…
ポッポポッポと熱を持ち…
「オェェ ~ッ、ゲップッ」
青々とした葉を吐き出した …
緑色の葉は忽ち大きく拡がり
人の背丈程になると…
バリバリバリバリッ
自らの力で葉を破いた…
グゴォ-バリバリバリバリッゴォ-ッ
雷鳴のような恐ろしい音と共に
辟邪尊が憤怒の形相で、破れた葉から現れた …
「へっ、辟邪尊 !お助け下さい!私は即身成仏を成した者で御座いますが…あの黒焦げの男に呪われ… このような姿に… どうぞ 辟邪尊、御慈悲をっ…」
羽波行者… 否 … 羽波 勘吉は…
辟邪尊の足元にひれ伏し…
涙を流しながら懇願した…
壁邪尊はジロリと勘吉を見つめ…
涙…カ …
勘吉ヨ…
ソナタ何故ニ泣イテオル… ?
勘吉は顔を上げ …
「はい… 此のように呪いに巻き込まれ、身を滅ぼさなければならない事を…私は悲しんでいるのです… うっうう…」
勘吉はボロボロと涙を落とした…
勘吉 …
ソナタハ …
己ノ身ノ為ニ涙ヲ落トスカ…
勘吉の顔は青醒め…
「いぇ、辟邪尊決して其だけでは御座いません!唯… 私も頭が混乱しているのです… 気が動転しているのです…何と悲しい事か 、何と言う悲劇かと嘆いて おりました …」
辟邪尊は目を細め…
勘吉 …
ソナタハ真ニ …
小賢シキ者…
他ノ者達ヲ見渡セ …
ドノ者モ、愛シキ者ノ為 …
涙ヲ流シ… 傷ツイテオル …
ソナタハ ドウジャ ?
勘吉はオドオドし顔を伏せた …
ソナタノ腹ノ中カラモ…
温カナ涙ガ見エルゾ …
… 勘吉 …
我ガ知ラヌトデモ思ッタカッ!
グォオ-ッ辟邪尊の怒りに併せ風が鳴る
未ダ …
我ニ伝エタキ事ガアルカ ?
勘吉は躰をプルプルと奮わせた。
躰の彼方此方から覗く白い骨が擦れ、カタカタと音を鳴らす…
「わっ、私は、唯!永久の命を望んだだけっ!そして悟りを開き…」
黙レ …
ソナタニ懺悔ヲ望ム事…
其ガ永久ニ無駄デアル事ヲ…
我ハ今、悟ッタ …
ソナタノ 言葉デナ …
ソナタハ人トシテ生マレタノダ…
人ノ身デ永久ヲ生ル等…
我等ハ望ンデハオラヌ…
如何ニ全テノモノニ愛ヲ抱キ …
如何ニシテ、己ノ魔ト闘イ …
如何ニシテ、心穏ヤカニ生キルカ…
其ガ人トシテノ行 …
ソナタノ心ニ見ルハ、己ヘノ愛ノミ!
我ノ眼ニハ、ソウ映ル…
朽チヨ… 勘吉…
… … 生身ノ者トシテ … …
辟邪尊は剣先を、勘吉の鼻先に向けた…
「いっ… 嫌だぁ~死にたくない!死にたくない!私は死にたくないのです!辟邪尊、辟邪尊!どうか!御慈悲を~辟邪尊~!」
辟邪尊は眼を綴じた …
ソナタニ懺悔ヲ望ムハ…
ヤハリ無駄デアルノカ …
憐ナ… 屍ヨ …
辟邪尊がポツリと呟くと…
辟邪尊の腕から…
稲妻のような青白い光りが走り…
剣先から放たれた…
ゴォ-バリバリバリッゴォ-ッ
勘吉の皮膚や肉は溶けるように消えた…
「嫌だぁ~!私は死にたくない~!私ハ … 死ニタクナイ … 死ニ…タ…ク…ナ…イ…」
勘吉は泣き叫んでいたが …
その声も遠くなり…
軈て… 聴こえ無くなった …
勘吉の消えた後には…
勘吉の黄色み掛かった骨だけが…
悲しそうに… 残されていた …
辟邪尊は剣で空を凪ぎ払い…
玉五郎 … 鴉 … バロン …
陽・月・雲・空・地・五匹ノ犬達ヨ …
目覚メナサイ …
多田氏の焼け跡から五つの光りの玉が…
勘吉の肋骨の間からも … 一つ…
バロン、そして、玉五郎の躰からも一つずつ、ピンポン玉程の光りの玉が飛び出し…
辟邪尊の周りに集まると…
クルリクルリと廻った…
サァ …
行クベキ処ヘ逝キナサイ …
穢レナキ魂達ヨ …
七つの光りが崩れた天井を抜け…
空へと昇った…
一つだけ残った光りの玉は …
宙に浮くイラタカヲ押し…
鉄治の首に戻した …
鉄治 …
俺、逝クニャン♪
仲間ガ待ッテル …
鉄治、オ前ニ逢エテ…
最高ニ幸セダッタ …
アリガトナ 鉄治 …
… … 愛シテクレテ … …
光りの玉はスリ~ッと1度だけ…
鉄治の頬を撫で …
空へと高く昇って逝った …
辟邪尊は光りの玉が全て空へ昇ると …
剣を突き出し…
グルリとその場で一回りした…
風が起こり…
渦を巻くその風の中に …
… … … 消えた … … …




