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解体屋 鉄治  作者: MiYA
11/25

… 三本木 … 八木原 鉄虎…

「えぇ、そうです、何とかお願い出来ませんか? えっそうですか!受けて頂けますか 、いゃ~有難いです!急なお願いで何ですが、どうぞ宜しくお願いします!では明日 、失礼します」



鉄虎は社長室のデスクの上に携帯電話を置いた。



「ふぅ~良かった… 先ずは、一安心だ…」



おもむろにデスクの引き出しを開け、中から1枚の写真を取り出すと、目を細めて写真を見つめた…



古めかしい写真には、3人の勇ましい漢達が笑顔で肩を組み写っている…



冴木・八木原・真木 …




写真に写る漢達の膝の辺りに、黒いサインペンで名字が書かれていた …



何処の現場に行っても、3人揃った時には三本木(サンボンギ)ってトリオのように呼ばれていたな …


三人とも名字に木の字が入るから、そう呼ばれたんだ、ガハハ!



「おい!三本木!バリ持ってこいっ!」



なんて言われて、土工から始まって色々な会社の先輩達にコキ使われて…



何時も一番先にキレるのが冴木で…



冴木の奴、オペの先輩を重機から引き摺り降ろす事を趣味みたいにしてた…



「邪魔くせぇ… テメェなんかにコキ使われたくねぇんだ… 」



そんな時は、目が座っているからヤバくてな… 真木と俺が直ぐに走って行って、冴木の躰2人で押さえて、時にはロープで簀巻きにして



「今日は、これで失礼しま~すっ!」



そう言って、そのまま2人で暴れる冴木を担いで… 何回帰ったか…何回首になったか… ガハハ!



緩みのある人達の現場ならいいが十中八九



「 もぉいらねぇー!来るなー!」



怒鳴られて … ガハハ!



懐かしいな … そんな感じでも楽しかった



俺達もあの頃は若かったからな



これじゃ、どうにもならないなって事で、会社、立ち上げたんだよな …



俺達の出会いは、ドヤ街だった



酸っぱ~い小便の臭いが漂う…


薄汚い街で…



ビールケースの上に、ベニヤ板を重ねただけの簡易酒場で、三人揃ってよく呑んだ…



そんな酒場でも、俺達にしたら高級店さ、仕事にありつけなきゃ行けないからな…



其処らにダンボール敷いて、背中丸めて寝てる爺さん達や怪我人を見ては…



明日は我が身…



互いに言い聞かせたもんだった



日曜日になると、すぐ裏に建っている教会の神父が、礼拝堂の扉をバンッと開いて



「ハレルヤ!主の御加護を!」


言いながら出て来て、炊き出しを食わせてくれるから三人揃って通ったな …


神父と言っても恰幅(カップク)のいい、肝っ玉母さんみたいな女性で、毎週のように通っていたな…


その女神父は


「礼拝堂の中で、主に祈りを捧げましょう !扉は開かれました!」



炊き出し食ってる俺等に言うんだ … 毎週、毎週 …



ある時、冴木が



「主?主に祈れってか?神父さんよ、俺は 主なんかより、あんたの方が人助けしてると思うけどな… 働けねぇ奴等も炊き出しで助かってる、命繋いでられるよ、感謝だぜハレルヤッ!」



茶化して笑いながら言ったら、女神父さんも負けていなかった…



「貴方は良い事を仰ってくれました。今、私の目の前で生きる人々の為に、私に出来る事は何であろうかと、祈りの中、主に問うた時、私はこの炊き出しの事を思ったのです。貴方のお陰で私はあの日の事を思い出せました。有難う感謝致します。貴方に 、そして皆さんに、主の御加護を!ハレルヤ! 」



冴木は唖然としたんだ、茶化すつもりが逆手に取られたからな、ガハハ!



「あの女神父気に入った!食ったら祈ってみるぞ、お前達も付き合え!」



そう言ってな毎週、毎週、祈りを捧げたよ … ガハハ!


3人とも薄汚ねぇ格好してよ、髪も伸ばしっぱなしの長髪でな…



タイプは違っていたが、共通している所が一つだけあった…



三人とも仕事は好きだってところだ



付随する人間関係だの、会社のルールだの … そんなものが煩わしくて、気がつけばドヤ街に流れついていた …



怠けたいとか仕事をしたくない訳じゃ無か った … ドヤ街で生きる俺達の唯一の救いだ … 長所だな …



そんな俺達、三本木の中で、冴木が現場でトラブル起こすって有名になってしまって 、このままじゃ駄目だなと話して、三人で会社起こす事になった…


冴木にトラブルなって言っても言うだけ無駄だからな、大体、冴木は悪くないからな


正直なだけなんだ、冴木は…


誰が社長になるのか、三人とも嫌だって事で最後はジャンケンで決めた、勝った奴が社長になるって決めて…


俺がパー出して勝ってしまった…


ちっとも嬉しくなかったが、三人で決めた事だ、やるしかない!



決めたのは良いが、それからが苦労の連続だった…


先ず金をどうするか…

金貯めてドヤ街を出よう!なんて気が全く無かった俺達だ、貯金なんてある訳がない 、それよりも銀行に口座すら持って無いのさ、ガハハ!無い無い尽くしだった …



けれど、そんな、無い無い尽くしの俺達が


たった1つ、叶えたいと思った夢だ …



自分達の会社を創る!



簡単に諦める訳には行かない!



俺達はそれから、今まで以上に必至に働き金を貯めた、俺は社長役だからと古本屋にも通い、本を読み漁った。


会社の事なんて何も知らないから、会社創 って成功した社長の伝記本・経済界の本・会社の創り方を説明している本、当たり外れはあるけれど、ザッと100冊は読んだな


始めは難しい漢字が読め無くてな、店の店主に



「あの、これっ何て読むんですか?」



読み方教えて貰ってな、薄汚ねぇから、嫌そうな顔するんだけれど…



それでも通って漢字の読み方聞いて本読んでいたら



「これ使いな … 」



小さな漢和辞典を渡してくれてな、帰りに店主に返そうと思ったら



「お前さんにやるよ、それ使って沢山の本を読むといい… また、来てくれよ…」



そう言って小さな漢和辞典を俺の手に乗せて 、ニッコリ微笑んでくれたんだ …



嬉しかったな…



聞く事が恥とか、笑われるだろうとか、そんな事言っている場合じゃないくらいに必死だった…



そんなこんなで半年経った頃…


俺達の貯めていた金が消えた …


200万はあったな …


日曜の朝に起きたら、金も無くて真木も居なくて…


俺も冴木も真っ青な顔をして、血眼になって探した。


真木の姿見たって言うドヤ街の仲間達が、前の晩、真木が俺達に隠れるようにして、競馬新聞を鬼みたいな顔して見ていたと聞いて、冴木と俺は1番近くにある馬券売り場に急いで向かった。


馬券場で真木の姿見るや否や、二人で引き摺り出して… そしたら真木が買 った馬券をポケットから出して



「死ぬ覚悟は出来てる!俺はクズだ!クズらしく自分の命賭けたんだー!」



俺も冴木も、耳ぶち破れるんじゃないかと思うくらいデッカイ声で、俺達に怒鳴ったんだ…


真木のあんな悲痛な声、聞いた事無かったから、呆れてな …



「レース終わる迄待とうや…」



冴木に話して… 冴木も頷いた。


賭事と言うのは驚くような事も起きるものだな…


真木の馬券が2000万に化けた、万馬券にな ってな…


真木が後日話したんだが…

馬と数字が出て来る夢を見て、夢の中の馬も数字も変わらず、その夢を3夜続けて見たそうだ…



「これは絶対、何かある!自分の為だけじ ゃない、仲間の為になるに違いない!」



そう確信したらしいんだ。



けれど、俺も冴木も、勿論、真木も、3人とも必死に金貯めている事を知っていたから 、まさか競馬に使いたいなんて事は言い出せない、それでもレースの日は来る



「死ぬ覚悟で金持って来た!」



もし外れたら、本当に死ぬ気だったらしい



真木なら本気で考えていたと思う…



普段から真面目で賭事なんかしないからな



当たり・はずれ、ではなく、冴木も俺も、真木を責めるなんて事は出来なかったのさ … 寧ろ、悪かったよな追い込んでと二人で反省したくらいだ。


真木のお陰だ、否、真木だけじゃない冴木のお陰でもある…



否 … 違うな …



三本木が曲がらず、杉みたいに真っ直ぐ伸びたから…



三本木の夢を叶えられたんだろうな …




俺はそう想う …



鉄虎は、ふっと笑い…



その後も暫く、古めかしい三本木の写真を見つめていた …



懐かしい想いを甦らせるかのように…


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