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解体屋 鉄治  作者: MiYA
1/25

現場

皆さん、お元気ですか?


角田(カクタ)鉄治(テツジ) ・32才・職業:解体工・独身・花嫁急募中 …


自己紹介も済んだ事だし、話しを進めようか…


俺の仕事である、解体屋ってのは名の通り 、家屋や建物を壊す仕事なんだが、幾つかある不思議な体験の一つを、今日も聞いて貰いたい。


あれは数年前…


住人が消息不明になったとの話しで、 困り果てた遠縁の親戚が、ネットでうちの会社を知り受けた仕事だった …


各地に散らばり現場に入った解体工は、仕事終わりには必ず会社の事務所に寄り 、明日の現場の確認を取り帰宅する 。


それが、この業界のルールさ…


解体工にも得て不得手があるが、何でもこなせて一人前!俺はそう思い日々学んでいる。

(カワラ)は経験した事がないだの…

電気系はチョッとだの…

まぁ、うちの会社じゃ無理だな、通しきれねぇ…


「だったら何時から出来るんだ!」


社長に怒鳴られて終わりだな …


目指すところが違うから、仕方がないけれど …


悲しい事だぜ …


学ぼうと言う意欲が無いって事がな…


駄目だな、どうも説教臭くなっちまう…


ごめんな、話を戻すぜ!


それで翌日から、その住人が消えたと言う一軒家を解体する事になったんだ。メンバーは、政に清に天野と俺の4人だ。


軽くメンバーの紹介をしておこうか?


政は23才で年上の彼女がいる。

確か、一回り上だったかな?

鉄虎に入って4年になる、元は鳶職だ。

政はとにかく女にモテる!

何時か秘訣を聞いてみたいもんだな。


清は17才、いじめが原因で学校やめちま ったみたいで … 初めての就職先が鉄虎、まだ2ヶ月目だ、人生も仕事も此れからだよな。


天野は35才で俺より年上だ、最初はリーマンや っていたが、上司と合わなくて脱サラした。鉄虎に入って5年だな…親父さんが大工やってたから、小学生の頃から手伝っていたらしくてな、解体工としても筋がいいな。同棲中の彼女がいて、時々、彼女の手作り弁当を持って来て、俺に見せびらかす … まったく… 羨ましい限りだぜ …


まぁ、こんな感じだな …


このメンバーで仕事に(カカ)る訳だが、初日は消えた住人の親戚が来るから、親戚の要望を聞き、現地で打合せてくれとの話しで、解体現場は古い日本家屋、表札名は多田だと事務の真奈美ち ゃんが現場の地図を渡し教えてくれた。


真奈美ちゃんは独身!

気立ての良い子で、笑顔も可愛い20才♪鉄虎のアイドルだな!

だけど … つき合うなら漢の方は覚悟がいるぜ、俺も含め会社の仲間達も皆、真奈美ち ゃんを妹だと思っているからな!

第一、社長が黙ってねぇな …

姪子だからな (笑)


話が飛んだな、それで…


会社の車を使い、天野の運転で現場へ向か った。


「鉄さん、いつ見ても鉄虎の車ド派手じ ゃないか? 運転していると時々、恥ずかしくなるよ…」


天野が苦笑いしながら話す。


「しゃぁねぇだろ?社長の趣味だから 」


俺は笑いながら応えたが、

確かにド派手だ 。


会社名である鉄虎が目立つ名前だから、基本的に、どんな車種のボディに入れても目立つのさ、それに加えて、文字色は鉄らしくシルバーメタルと虎らしく黄色、映えるだろ? (笑)


まぁ、こんな感じで出発した訳だ。


ナビを見ながら車で走る事1時間、麻野と言う住宅街に着いた。


俺達は、車の中からキョロキョロ辺りを見回し解体する一軒家を探した。


「あっ!あれじゃないっすかね?」


政が後部座席から身を乗り出し指差した。


家は古いが立派な日本家屋、俺は直ぐに車から降り、事務所から貰った住所と表札の名前を確認した。


プッププ~!黒いセダンの窓が開き


「すいません… 白虎さんですか?」


60代くらいの男性が俺に声を掛けた。


「お父さん違うわよ!鉄!鉄!もう恥ずかしい…」


助手席に座る奥さんらしき女性が(タシナメ)た。


「あぁ…そうか!徹子さん?」


ル~ルル♪ ルルルル~ルル~♪


音楽と玉ねぎ頭が脳裏に浮かんだが…

見た所、人生の先輩だし発音は多少の違いだから … スルーしようか…


作業着の胸ポケットから名刺を差し出し、挨拶をした。


「初めまして、鉄虎の角田です。事務所の方から、打ち合わせは現地でと言われたのですが …」


「そうですね、では、中で話しましょう … どうぞ … ホラ!お前は後ろへ!」


家の中かと思いきや車内へ招かれた …


奥さんらしき女性が、後部座席へ移動し、俺は助手席へ…


new style !新しい契約の・か・た・ち♪って感じか?


依頼主の名は、多田 正己 氏 。

この家の土地と建物は、依頼人が所有しており、15年前から弟夫婦に貸していたのだが … 5年程前から弟夫婦と連絡が取れなくなり 、直ぐに訪ねて来たが弟夫婦と隣街の図書館で働いていた姪、そして飼い犬のバロン迄もが消息不明 …


警察には勿論知らせているとの話しだった


必要書類は事務から送られていたらしく


「中を確認して下さい … 」


依頼主はA4サイズの茶封筒を俺に差し出した。


封筒を受け取り書類にザッと目を通し、


「何かありましたら事務の方から連絡しますので… 」


そう言い封筒を預かり依頼主の要望を聞いた。


「家は壊して下さい!更地にしてしまいたいので … 家の中にある物の処分も全てお任せします! 」


依頼主の正己さんは、

何故か早口で …

何かに怯えるように家の方をチラチラと見て話した …


まぁ、弟家族が失踪したのだから…

家に対して嫌だと言う感情が表れても可笑しくはないか …


「はい、承知しました」


俺が応えると、依頼主ご夫婦は安心したように微笑み


「これが鍵です、後の事は全てお任せしますので宜しくお願いします… 」


そう言って家の鍵を渡した …


「では 宜しくお願いします」


車から降りると、依頼主と奥さんらしき婦人も降りて来て車のトランクから箱入りジ ュースを1箱俺に渡してくれた。


依頼主夫婦は頭を深々と下げ


「お願いします…」


鉄虎の仲間3人も依頼主の姿に、慌てて車から降り


「宜しくお願いします!」


威勢良く挨拶し頭を下げた。


此が鉄虎の常識で社長が厳しく指導する礼儀って奴だ …


「では、失礼します…」


依頼主は車に戻るとペコペコと頭を下げ去 って行った。


依頼主の車が見えなくなる迄、4人で頭を下げて見送る


「鉄さん?何かあったんか?」


天野が聞いた


「いや … 別に …」


何となくだが …

嫌な感じがしていた…


此は感覚って言うのか …

俺の職人としての勘て言うか…


言葉にするのは難しいが…

そう感じていたのは事実だな …


けれど仕事だからと、依頼主から預かった茶封筒とジュ ースを車に乗せ、


「始めるぜ!家は全解!更地にしたいって話しで家具やなんかもこっち処分で良いって事だ…」


皆に言い、預かった鍵を使い家のドアを開けた


「天野、政、家の中見てくれ!清は俺と外回るぞ!」


「はいっ!」


「了解!」


俺は清を連れ外へ戻ると


「清、ザッと家の周り回るぞ、何でか解るか?」


清は困ったような顔をしながら


「多分 … 家の状態を把握するため …」


ボソボソと俯きがちにそう言った


「そうだ!それだ!先ずは外観を確認するんだ、左右前後、隣の家との間はどれくらいだとか、建物の状態、傾きはあるのか無いのか、目に見える腐れはあるか無いか、引っ掛ける訳には行かねぇ電線 、電柱は?とかな、前に言った事ちゃんと覚えてんじ ゃねぇか! 」


清はコクンと頷き恥ずかしそうに俯いた


「清照れてんのか?ハハハ!人に誉められた時はな、少し胸張っていいんだぜ! 清がちゃんと学んでいるって事なんだからな、今日の仕事もキツイかも知れねぇが頼むぜ !」


「はっ はいっ!」


清はピンと胸を張り返事をした。


清は当然の事だが、未々見習いだ …


見習いは皆、土工(ドコウ)と呼ばれる…


解体した木材や鉄運びやトラックへの積み込み、解体後の掃除、水撒き …

解体工の手となり足となり、這いずり廻って働いてくれるんだ…


皆、其処から始まる!

犬以下の扱いをされる事も腐る程ある!

怒鳴られる事も日常茶飯事だ!


もう辞めちまったが、俺より5つ上で佐々って先輩がいた。俺はその先輩に洗礼を受けた、要は(シゴ)かれたって事だな …俺だけじゃ無く他の土工にもそうで…悪く言いたくは無いが …


テッペンでいたい人だったな …

そう言う性格なんだろうな …

笑える程、理不尽だったな…


佐々は屋根を解体したら、ボンボン投げてくるんだ俺等に向かって… その投げ方が意地悪くてな…


偶々、社長が入札の帰りに各現場廻ってたらしくて、佐々の仕事見てたんだな… 俺等は、受け取るのに必至で、社長が来た事知らなかったんだ…


佐々の仕事と言ったら、やったらやりっ放しでアチコチ投げて危ねぇし…

俺等の事なんか何も考えねぇ…

作業着は引っ掛って裂けるし…

躰もすり傷、切り傷当たり前だぜ …

破傷風にならないのが不思議なくらいだ…


あれっ?飛んで来ねぇな?って屋根見上げたら、社長がスーツの上着脱いで …


「土工さん達な、悪いが退いてくれ!休憩 !休憩!悪いなっ!」


俺等に、笑顔向けたんだ…


それからな …


「佐々解体工殿、下降りて俺の梃子(テコ)してくれねぇかな?解体工さんよ!」


鬼みてぇな顔して佐々に言って、佐々を屋根から降ろして、土工の仕事をさせたんだ


社長の仕事の、速い事速い事!

見る間に屋根が剥がされて行き、佐々はゼ ェゼェ息を切らせて、右に左に右往左往…

終いに足が縺れ、よろけてバッターン!と倒れた。


当たり前だぜ …


佐々1人に、俺等土工3人付いているのに、佐々は社長相手に1人だ、そりゃぁ倒れるぜ …


其でも社長は、剥がした屋根や木材をボンボン投げて、アチコチに散乱させたんだ。


俺等は唖然として、顔見合せたけれど…


考えは皆同じでな、社長が投げて散乱した屋根や木材を、伸びている佐々の代わりに長さを合わせて、運び易いように集めたんだ …


「佐々! 何やってる!立てや !仕事せぇや ー!」


佐々は動けず伸びたまま…


「すっ… すいません!」


声出すのもやっとで、社長に謝っていたけれど …


社長が屋根から降りて、バケツに一杯水を汲んでバシャッ!佐々に浴びせたんだ…


「何伸びてる?佐々… てめぇの解体何だ ?釘は抜かんし、今の今迄、誇らしく建 っていた家に敬意も払わんで!ボンスカボンスカ投げやがってよ!お前の真似してみたが気分悪いな!お前の仕事って何だ ?今のお前みたいな解体工は、うちには要らん!よく覚えとけ! 」


「はっ … はいっ!」


佐々の怯えようったら無かったな …


其から社長は俺等に向かい、


「土工さん … 散らかしてすみません…」


俺等に頭下げて、社長が自ら運び始めたんだよな…


俺等も慌てて、社長と一緒に運んでな…


俺、あの時驚いたんだよな…



何時の間に?と不思議に思った…

社長の剥がした屋根や木材には釘1本付いてないし、尖っている所とかササクレとか俺達が怪我しないように、折ってあったり丸めてあったり …それだけ俺等を、気遣ってくれているのに 、佐々より断然仕事が速い


良く神業って言うだろ?

正にそれだな、 降臨て感じだったよな …


あの日の事は …

今でも忘れられねぇな …


会社の事務所には社訓として


自惚れるな!!


社長が毛筆で書いた文字が額に入って、デカデカと壁に掛けてある。


社長も自分を戒めて仕事してんだなって思 ってな…


格好いいよなって、そう想うぜ …



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