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天狗の弟子になった少年の話  作者: たまむし
二章 蓋
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二十三 突破口





 夜、布団に入って明日の稽古について考えた。主に、(さか)しらなカラスが与えて行った助言を思い返す。


「教わったことを、分けて考えてはいけない…か」


 思えば今まで、稽古とその他を分けて考えていたような気は確かにする。というか、教わることのひとつずつを、それはそれとして考えていたのだと、思い返して初めて気が付いた。


 ならば、今までの授業の中に何か突破口があるのかもしれない。いや、ヤタはあると確信しているような口ぶりだった。


「正立、呼吸法、歩法…」

 真っ先に思い浮かぶのがこのみっつ。内経を習得する前段階だという基礎。これなら今もきちんと続けていて、ふと気づくと無意識に行っていることがあるほど馴染んでいた。


「でも、ゆっくり動くときのものだよなぁ…」

 紐を狙って駆け寄るときに、あの慎重な足の運びや呼吸に気を配ることはさすがに出来ない。もしかしたら極めれば出来るのかもしれないけど、何月かかるかな?と言われたのだから、それぐらいで出来るようになることなんだろうし、なんとなく、呼吸法やら歩法は、数カ月の間にそこまでになるのは期待されていないような気がした。


 そもそも、真っ直ぐ立つのは体を整えて、ひいては()の流れを正すためのもの。呼吸法は()を取り込んで体内で循環させるとかなんとかで、歩法はオレにとっては驚かせるのに便利な高性能忍び足、という感覚だ。本来は違うんだろうけど。

 前ふたつは内経を習得するまでは効果なんかわからないだろうし、かろうじて歩法は奇襲なんかには使えなくもないかもしれない…ってのはこじつけだな。そもそも普段は師匠、紐つけてないし、裏庭に出て向かい合ってるのに奇襲なんて出来るはずない。


「うーーー…」

 体の動きに関して言えば、それぐらいしか思い当たらなくて、唸りながら寝返りを打った。

 そしてはたと気づいた。今までと同じ穴に落ちかかってはいないだろうか。


 課題は体を動かしてするものなのだから、同じく体を動かす教えを無意識に探してしまっていた。

 ヤタは言ったのだ。『そなたに教えたことは、まだ少なかろうが、武術だけではあるまい。分けて考えてはならぬ』と。


 なら、無駄に思えることかもしれないが、今まで教わったことを全部思い出してみるのが良いかもしれない。



「名前、は流石にないだろうな」

 一番最初、この屋敷で初めて言葉を交わしたときに、本名をみだりに名乗ってはいけないということを教わった。だが、これはどう考えても今回は役に立ちそうにない。


「"()"と"()"について習ったっけ。それで、気を整えると、体と精神が整うとか…」

 気が正しく流れていれば、だったか。それで、体を整えるという意味で、正立と循息、歩法を習ったのだった。


「そういえば、世界にも力の流れがあるんだったっけか」

 天の霊と地の霊の流れがあるという話だ。この世を力が巡り、その中で生きるモノの中にもまた流れがある。面白いものだなと今更ながらに思う。


――――気の流れが滞ると病気になるなら、霊の流れがおかしくなったら、やっぱり悪いことが起こるんだろうか…。

 頭にぽっかり浮かんできた思考が転がり始める。

 世界も病気になったりするんだろうか。そしたらどうなるんだろう。木が枯れたり、地震が起きたり、雨が降らなかったり、逆に降りすぎて洪水になったりするんだろうか。夏に雪が降ったり、冬にものすごく暑くなったりするんだろうか。


 そこで、うとうとしていることに気が付いた。何度か瞬きして目を覚ます。せめて一通り思い出すまでは意識を手放したくない。

「え…っと、天地の霊があって…山で天流に触れて修行すると天狗になる…かもしれない」

 失敗することもあるとかなんとか。それと、飲む時期を間違うと、狂い死ぬかもしれない程激痛を齎す薬のこと。


「ああ、階級とか試験とか…」

 そういえば、天狗の長について語る師匠は、なんだか普段と違った様子だったことを思い出す。伝わってきたものは、悪いものではない気がしたけど、今まで触れたことが無い感情だった。

 普段と違う様子といえば、その後だ。


――――上の言うことは絶対服従を求められるから、出来るならなるべく上を目指せ。

 いつも飄々としている師匠が初めて見せた、苦い顔。


――――中には力に驕って権を振りかざす者もいる…

 師匠も、理不尽な経験をしたんだろうか。あんなに強い師匠が。

 明らかに手加減してくれているのに、全く歯が立たない。対抗心も反抗心も起きなくなる程の、鮮やかな身ごなし。瞬く間に野盗を倒してしまった、あの強さ。


 天狗は実力主義だと言っていた。それで、師匠は長の位にいるんだから、それこそ他の天狗に比べてもとびきり強いんだろう。



 楽しそうに微笑みながら、いつもオレの相手をしてくれる。どれだけ素早く挑みかかっても、簡単に捕まえられて投げられてしまう。流れるようなあの動きのひとつひとつを思い返した。


…思い返すなら、最初からかな…。あの、意気込んで挑んだ一番最初の一回。


 いつも鬼事(おにごと)で、相手の意表を衝いて脇をすり抜けた、自信のあったあのやり方が、全く通用しなかった。


 更に記憶は巻き戻る。数日ぶりの青空の下。苔に覆われた地面で、師匠に向かい合って立っていたあのときへ。


『まず最初は、体を己の意思通りに動かせるようにするところから始めるか』

 構えるでもなく、遊びにでも誘うような気軽な口調で言われた。


『同時にぼちぼち型もやっていくが、先ずは様子見だ』

 ぼちぼち、とか適当なことを言うんだもんな。いい加減だな、なんて思ったっけ。いい加減、か。確かヤタさんも言ってたな。


 ざああ、と湯が零れていく音がする。

『…不精でものぐさで、言葉足らずで無神経の上に感覚が若干ずれた阿呆であるがな』

 偉そうに胸を張って、オレを見下ろしたヤタさん。…そういえば、あの助言について考えてたんだっけ…?なんて、言ってたかな。

 そうそう、確か―――


――――あるじの命じたことを全て(・・)理解できて(・・・・・)おるのか(・・・・)



「あ」

 小さな声が、静まり返った部屋の暗闇に零れ落ちる。


 いつの間にか閉じていた目を見開いた。

 一瞬だけ閃いた考えを急いで捕まえようと、息を凝らして、霧散して行こうとする思考の端を懸命に追う。


 確か、師匠は言ったのだ。

『体を己の意思通りに動かせるようにするところから始めるか』


 そう、紐を解けと言われたから、そればかり考えてしまっていたけれど、これが、今の目的なのだ。

 そう考えれば、へとへとになったオレに対して毎回上機嫌に笑っていたのも、分からないでもない。

 回数を重ねるごとに、オレの動きはほんの少しずつは良くなっている。二日目は筋肉痛で動きが鈍ったけど、三日目からは、もっと速く正確な身のこなしを意識して挑んでいる所為か、初日より機敏に動けているし、持久力も上がっている。…一回の稽古で空を飛ぶ回数が明らかに増えたって点もだけど、開始時間は変わらないのに、終わった時に見上げる太陽の位置が段々と高くなっている。


 ついでに、空中での姿勢制御と、着地時の受け身は初回から比べると飛躍的に上達した。それだけ投げ転がされているんだと思うと形容し難い気持ちになるんだけど、兎に角それらを考えると、自分の意志通りに体を動かすって点では課題は進んでいる。


 師匠にとっては、課題は順調なのだ。弟子は全くもって順調に思えてないけど。

…そこは今は置いておくとしてとして、引っかかったのは、後に続いた一言。



同時に(・・・)ぼちぼち型もやっていくが―――』



 同時に、そう、同時に型を教えてくれると言っていた。なら、それはもう始まって(・・・・)るんじゃ(・・・・)ないか(・・・)


 思考が回転を始める。型といえば、武術の動きの型だろう。立ち方、構え方、動き方。相手の動きに対する対応。

 だが、幾ら記憶をさらっても、これといって教えられていたという感覚は見つからない。我武者羅に掛かって行って、その回数と同じだけ投げられていたということだけ。けれど、今度は慌てないし焦らない。『同時に』とは言ったけど、『ぼちぼち』だ。そんな曖昧な言い方をするんだから、積極的に教えようとしてる訳じゃない雰囲気だ。

 きっと、体が上手く動かせるようになってから本格的にやって行こうと思っているんだろう。紐が解けなくても、もう大丈夫たと判断したら型の習得に移るのか、紐が解けなければ教えてくれないのかは定かじゃないが、要は紐が解ければ次へ移ってくれるんだろうし、オレのやることに変わりはない。

 それに、ぼちぼちとはいえ、同時にやっていくとも言っていたのだから、どうにかすれば師匠から武術らしいことを学べる手があるはずなのだ。



 流麗な動きと鮮やかな投げの光景から離れて、更に深く、記憶を辿って行く。教えられたことが手掛かりになるとヤタさんは言っていた。


 そして唐突にふと思い出した言葉。


――――理解の埒外だとして思考を止めることはせずにおけ。

 そう、全部のことには大元(おおもと)の理由がある。そう教えてくれた。だから目を開いて、考え続けろと。


 目を開いて…。

――――良く見て学べ。なに、お前なら直ぐにできるさ。


「…もしかして」

 師匠の期待していることに見当をつける。根拠を求め、それを踏まえて今までの手合せ…とも呼べない訓練を、できるだけ細かく思い出していくと、ひとつ引っかかること見つけた。

 何度も何度も思い返す。間違いない。一度だけ、投げ技以外(・・・・・)の返しを貰ったことがある。

 何気ないものだったから、今まで意識していなかったけど、もしオレの考えが合っているのなら、ああ攻めれば、前と同じように返しが来るはず。


「やってみるか…」

 外れていたらその時はその時。ひとつずつ試して行こう。






「よし、始めるか」

「お願いします!」


 オレと師匠は、いつも通りに裏庭で向かい合っていた。

 いつものように、師匠は赤い紐を巻いて立っている。初日とは違って、両足に均等に体重をかけ、しかし構えるでもなく背筋を伸ばした立ち姿だ。綺麗な正立。動く様子は、ない。


「…ほう?」

 いつもは開始早々突っ込んでいくか、そうでなくても何らかの動きを見せるオレが、ただ動かず観察しているのに気付いたのか、師匠が面白そうに片眉を上げる。


「…行きます!」


 オレは駆けだした。昨日までのように全力疾走はせず、少し速度を抑えて、前傾気味に三歩―――まだ師匠は動かない。


 四歩目で体を沈み込ませて、五歩目を地面に叩きつける―――すっと師匠の右手が内側へ動き出す。


 五歩目を軸足に、勢いを乗せたまま上半身を捻り起こしつつ、下から紐に向かって手を突きだした。


 あの一回。不意打ちのつもりで下から紐に手を伸ばしたとき、師匠は手首を払って受け流した。冗談みたいな攻防だったけど、変化があったのは間違いないからとこじつけて、試してみることにしたのだ。

 これが気のせいだったとしても、これからは思いつく限りの攻め方を全部試すつもりだ。そして『良く見て学ぶ』のだ。こう来られたらこう返す。動きの一手一手を観察して、どうしてそう動くのかを考える(・・・)。そうして少しずつでも師匠の動きをモノにしてやるつもりだ。それが昨夜の結論だった。


 正直駄目で元々だったけど、攻め込んでみた今、ふっと不思議な実感があった。棒立ちで構えていない相手の正面を攻めるときの、下からの一打の安定感。

 不意に身を沈めることで、相手の視界から外れて意表を衝く。腕は防御に回るだろうし、蹴りを放つには溜めが要る。一度引いた足でなければ、至近距離から振り上げられただけの脚に当たったとしても大した威力はないだろう。


 そして唐突に理解した。師匠が体の前(あのばしょ)に紐の結び目を作った意味。

 あそこは鳩尾(みぞおち)だ。鳩尾は体の中心だ。中心を狙っておけば、外したとしてもどこかには中てることができる可能性が高い。命中すれば胃の腑へ叩き込まれた衝撃で、倒せはしなくとも大きな隙を生み出せる。狙いをつけるには適した場所にある急所のひとつ。


 なるほどこれは入門編だ。真っ直ぐ向かって行っても相手が棒立ちなんて実際はありえないし、毎回真正面から鳩尾を狙うのは言うまでもなく悪手だろう。

 これは基礎だ。オレにそれらを悟らせるための練習。これから発展させていくための土台。


 オレは師匠の意を察して、紐を掴もうとして開いていた指を握りこんだ。

 紐ばかり見ている訳ではないという自己主張だ。紐を解くことしか見えていなかった今までとは違って、ちゃんと武術の訓練(・・・・・)をして欲しい(・・・・・・)という無言の呼びかけだ。

 師匠は待っている予感がしたのだ。目先のことだけではなくて、全体を見て、どうしてこんなことをしているのかを察することを待っている。それを理解して、オレは学ぶ準備が出来たという合図のつもり。


 仕草はささやかで、通じるか不安だった。


 だけど、師匠は確かに伸びてくる拳を見た。

 そして微かに見開かれる目。次いで浮かぶのは笑み。いつもの穏やかな微笑みじゃなくて、もっとずっと楽しそうな、今まで見たことが無い快活な笑顔。


「よし!」

 喜色が濃い声が飛ぶ。師匠の手が突き出された腕に向かって伸び、手首を手の甲で撫でるように流した。



 そのとき、不思議なことが起こった。

 合図が通じたことに弾けるような喜びを感じた瞬間から、ほんの僅かな時間、たったの数手だったが、オレは師匠の動きがなぜだか全部解った(・・・)。そうとしか表せないその感覚。思考がぴたりと合わさる確信。まるで言葉が無い会話。師匠が次にどう動くのかがわかる。その動きは、オレの次の動きを言外に促しているのが自然に分かった。予想なんていうあやふやなものではなく厳然とした事実として、一手先の動きが差し出され、オレもまた導かれるままに動くことができた。


 これが、オレが相手の動きを読むという感覚を得た最初だった。



 オレの手を受け流し上がった右手に連動するように、師匠の左手がすっと体の中央に寄る。オレは流された動きを止めずに半回転して、導かれるままに胴に据えられた左腕に向かって蹴りを放った。

 すっと身が引かれ、蹴りが当たる寸前に腕が跳ねあがり、勢いの方向をほんのわずかにずらして流す。続けて伸ばされてきた師匠の右拳に向かって、最初の一手をなぞるように、手首を狙って手の甲を当てに行く。撫でるようにとはいかないまでも、流すことに成功して、そこにできた前面の隙に向かい、真っ直ぐ踏み込んだ。

 同時に師匠は身を引いて腰を落とし、オレが突っ込んだ力そのままに仰向けに倒れ、倒れ?――――足と左手を使ってオレを放り投げた。


「のわぁああああ!!」

オレは師匠を飛び越えて、空中で前方に一回転して背中から落ちるも、更にもう一回転して威力を殺して素早く振り向きながら起き上がった。ああ、びっくりした。あそこで投げが来るとは全く思いもしなかった。

 でも、と握った拳を確かめる。


「はははははは!」

 オレはぎょっとして顔を上げた。


 師匠が声を上げて笑っている。オレを投げ、仰向けに寝っころがったまま。心底愉快そうに楽しそうに。

 こんな楽しそうな師匠初めて見た。

 と思ってたら、そのまま勢いをつけてぽんと起き上って、こちらに歩いてくる。

 って今仰向けに寝た体勢から体を跳ねあげて足で着地したよ!?身の軽さすげぇ!!


「全く、お前はすごいな!」

 歩み寄ってきた師匠は、しゃがみ込んだ体勢のままぽかんとしているオレの両脇に手を差し入れて、ひょいっと持ち上げて立ち上がらせた。いきなりのことに驚くオレの頭をぐしゃぐしゃにかき回しながら、なおも愉快そうに声を上げる。


「こんなに早く俺の動きに合わせられるようになるとは思いもしなかったぞ!しかもまさか、たった数日で取られて(・・・・)しまう(・・・)だなんて、誰が予想できようか」


 満面の笑みでの手放しの賛辞に、じわじわと実感が伴ってきて、思わず頬が緩むのが分かる。


「充分だ、三太朗。よくやった。次からは本格的に戦う術を教えよう」

「本当ですか!?やった!!」


 思わず天に突き上げた手には、紅い紐がしっかりと握られていた。































「皆、いるか?」

「おう、いるぜー」

「はいはい、こっちもいいわ。始めるのね」

「…」

「こちらは敵に動きなし。ただ、雨が変な降り方をしていたから雲を消しておいた。探ってみたら、何やら天流の乱れが東から流れてきているようだ」

「術者の連中が引き上げたぜ。手下に追わせてるが…今は何とも言えない。とにかく時間をくれ。何か分かったらすぐ知らせる。…雨ね、白鳴山の東っていうと、東都の方か。あっちでもちょっと前かなり降ったらしいけど、お前の山まで行くとはな」

「こっちは中央に顔出して来たわ。白ちゃんの噂の出元は不明…っていうか、広がりすぎてもう追おうにもわかんないわ。ったく、こういうことになるなんて、油断してたわね。もうちょっと頻繁に顔出しておくんだった。あと、議会が長引いているみたい。何か分かったら同じく報告するから待っててね。出来たら足柄(あしがら)ちゃんにちょっと手を貸してもらいたかったんだけど、無理そうねぇ」

「特に異常なし。ただ、人里の方が騒がしいと馬鹿弟子が喚いていたな。戦でもあるのか」

「術者と議会の続報待ってる。あと、噂は青柳(あおやぎ)が動いてくれたから、これ以上酷いことにはならんだろうし、今は外の警戒が優先だな。というか戦?(とき)の山の辺りというと、横山領か?」

恵奈(えな)、ちょっとなら余裕あるから何羽か回そうか?…横山領な。北隣の大炊(おおい)が、竹倉(たけくら)国境(くにざかい)にちょっかい掛けているんだと。春に一回ぶつかって、散々打ち負かされたはずだけどまだやってんのか。まあ実力差は一目瞭然だし、面白くなりそうもねえよ」

「こっちはいいわ。足柄ちゃん。中央より術者の方が気になるし、万全の体勢で挑んで頂戴。…へえ、大炊ってなんでまたそんな無謀な喧嘩ふっかけたのかしらね。人間の考えることって偶にわかんないわ」

「ふん、どうせ下らん利権がらみだろう。だが、死人が増えると瘴気(しょうき)(こご)るかも分からん」

「…一戦やったのか。ああ、なるほど、それで…。ん、瘴気は問題だな。充分注意する」

「あー、そうだっけ。お前横山に縁があったんだったか。手ぇ出すんなら程ほどにしとけよ?」

「白ちゃん、面白いことあったら教えてねー」

「…また厄介ごとに首を突っ込む気か。懲りん奴だな」

「ははは、まあ今回は厄介ごとにもなるまい。そちらは心配はいらないさ」

「そちらは?なんか他に気がかりがありそうな言い回しだな?」

「あら、もしかして残り火が何かあった?」

「…そうか、雨を止ませたんだったか」

「弟子は何も問題ない。寧ろとても優秀で俺が驚いている。…言われずとも気は緩めていないから、言わなくていい。それより今は晨の予想が当たりで、そっちの方が問題だ。多分、今年の秋にまた、はあ…」

「あー、例の供え物な。お前も贅沢なことで悩むよなあ。普通は嬉々として受け取るものだろ」

「邪魔なら奪って(・・・)しまえばいいのに。残りはあんたのとこのワンちゃんにでもあげればいいじゃないの」

「…そんなに面倒なら、はっきり断るか助けるのなぞ止めてしまえ」

「恵奈、そんなことをする必要はないだろう。それに(ジン)に人など食わせられるものか。晨、何もしない訳にはいかないさ。放っておけば俺の方にも害が出るしな。それと、断ったとしても聞きやしない」

「まあ、力が増すんだし、割り切っておけよ。この頃どこもかしこもきな臭いし備えるって意味なら有用だろ」

「そうね、何があっても対応できるようにしときましょ。みんな油断しちゃダメよ。内にも外にも」

「尤もだな。各自何かあったら直ぐ言え」

「了解した。連携は密にしていこう」


師匠は、弟子の成長が何より嬉しい。

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