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天狗の弟子になった少年の話  作者: たまむし
三章 身
129/131

百十 張り切って

8/19 誤字脱字と分かりにくかった表現をちょこちょこ修正

お話の内容に変更はありません





 三太朗は今、白鳴山を取り巻く護りの霧の中を、師の背中を追いかけてゆっくりと歩いている。

 じっとりと湿った着物が歩を進める度に脚や腕にまとわりつくが、速度に反して気持ちが高揚していて、火照(ほて)る体にはひんやりと心地いいぐらいだった。


 三太朗はずっとご機嫌だ。

 だって、今日は外経術(がいけいじゅつ)の修行だったから。

 三太朗は内経術(ないけいじゅつ)は上手くいかなかったけれど、外経術は三太朗向きの物らしかったから、どうしても楽しみで勝手に口元がほころんでしまう。


 ”()”を自在に扱うことに憧れていたけれどそれはそれ。

 出来るかもしれない、というのはどんなことだって楽しみなのだ。


『川に行こうか』


 そう言って師匠がずんずん霧の中へ歩いていったときはびっくりしたが、それだって嫌なびっくりではない。

 霧の近くまで遊びに来てみたことはある。

 なんならちょっともやっと霞むぐらいのところまできゃーっと走り込んで、わーっと帰ってくるみたいなこともしたことがあった。


 (やしろ)へ向かうときにカラスに付き添われて通り抜けることはあるけれど、道を外れて奥へ進むのは初めてだ。

 だって外から来る敵を追い返すためのものだと言われればなんだか恐ろし気だし、師匠たちはどうやら、子どもたちが勝手に霧に入り込まないという前提でいるらしいことが何かの拍子に垣間見えるのである。

 そんな場所を堂々と探検できるこの機会は、子ども心にわくわくする冒険だ。


 体をぱたぱたと叩く衣の裾、手足を動かす度に僅かに渦を巻く白い霧は、上からぼやりと降る陽光にきらきらと輝く。

 全部が素晴らしいものに思えて弾むように歩きたかったが、歩くのが不得意なせいで全身を危なっかしく揺らしながら、恐々とした鶸黄(ひわき)と共に濃い霧の中を進む。


 三歩ほど先をゆったりと歩いている師匠の黒い装束でさえ、じわりと霞んでしまうほどの濃霧。

 いつも山の上から見下ろしていた、山の裾野を隔てる白い壁。その中に今いるのだと思うだけでも楽しいのだが、思うように進めないのが少しもどかしかった。


 道を逸れてすぐ、岩石がごろごろとしはじめ、そこここに苔が生え、地面はぬかるんできた。

 おまけに常に霧がかかっているからか、全ての物が濡れていて、山に比べてほんの緩やかな起伏でしかないのに難儀していたのだ。


 三太朗とて雛とはいえ天狗の端くれなので、例え足場が苔生し濡れて滑りやすくとも走り回るくらいはできるはずなのだが、視界が効かない霧の中では全く話が別だった。歩くだけでも、次に足を置く場所がよく見えないのだ。走るのなど無理だ。


 子どもだけで入ると転び放題だろうし、どう気を付けてもすぐに迷子になってしまうのは目に見えている。

 そうしたらきっと鶸黄も怪我をしてしまうだろうし、三太朗も痛い膝を抱えたまま、誰かに見つけてもらうのを待つのはごめんだ。


――――やっぱり勝手に入らなくて良かった!


 過去、入ってみようか随分悩んだことは内緒である。


「ひわ、また岩だ!気を付けて!」

「あ、あい!…ぬしさま、そこ石が乗ってまし!」


 霧の中から、地面から突き出る岩がぬっと現れる。

 だが、実は突き出ている岩の根本の地面も、苔や土に半ば埋もれた岩場だということを彼らはもう知っている。

 岩場はあちこち苔まみれ。苔の上や濡れた岩の表面が露出している場所も滑るが、上に乗ったまま半ば同化している石を踏めば余計転んでしまうだろう。難関である。


「あ!ここつるつる滑る!わああ!?」

「ああ!ぬしさま!?ひゃぁあ!?」

「わぁあ!ひわ!気を付けうぉあ!!」

「ぬししゃ、ああぁ!?苔のしたに石がありまっ、しぃいい!?」

「ひわーー!」


 子どもたちは前かがみになり、正直に言えばへっぴり腰で慎重にそろそろと進んでいく。

 これまで何度かあった岩場で、最初の二回は見事に尻もちをついてしまって痛い思いをした結果であり、彼らは大真面目だった。

 それでもよろめいたり滑ったりしてしゃがみ込むこと数回。四つん這いになったりしたが、なんとか転ばずに乗り越えた。


 そんな彼らを、高遠が振り返って微笑んで待っていてくれた。

 手を貸さず見守ってくれるのは、手助けなしにそこまで行けると思ってくれているからだ。そう思って彼らは必死ながら張り切って、手強い岩石地帯をやっと乗り越えた。


 三太朗たちには師匠は鷹揚に見守っているように見えているのだが、実際はきゃーきゃー大騒ぎしながら楽しそうによちよちついてくる子どもたちがかわいかったからにこにこしてしまっているだけである。


「ね、ね、師匠!水の音がする!川もうすぐ?」


 無事草地を踏み、気づいた変化に期待が高まって、わくわくと雛は聞いてみた。「ああ」と頷く師に自然とぱっと顔を明るくする。


「ほら、もうそこだ」

「はぁい!」

「あ、あい!!」


 三太朗はわくわくそわそわとして、勝手に体が跳ねるのじゃないかと思うほど気分が高まってしまう。

 鶸黄からはそんな楽しそうな主の顔は見えなかったが、今の気持ちを思えば彼も楽しそうに控え目な笑みを浮かべた。


 さらさらと流れる川の音が大きくなっていくのを聞きながら歩くことしばし。背丈を超える高さまで茂った、草か木かわからない植物の茂みの間を抜けたとき、高遠が振り返った。


「さあ、着いたぞ」

「わぁ!」

 高遠に追いついて、三太朗は思わず声を上げた。


 そこは笹が生い茂る川辺だった。

 立ち並ぶすらりと伸びた茎を見上げれば、光るような霧に対して暗く沈み、まるで影の林のよう。対して混じって生えている熊笹(くまざさ)の葉にある白い斑点が星のように光っていた。


 水際に寄ってみると、小屋一軒分ほどの川幅を越えて、向こう岸の茂みの影が見えた。ここは少しだけ霧が薄いことに彼らは気づいた。


「ひゃぁ」

「ふわぁ」


 小さな頭を並べて川面(かわも)を覗き込めば、流れは緩やかに見えるが、川幅に不釣り合いなほど深く、地に彫り込まれたかのようだ。深さのせいか、陽はまだまだ高いのに川底は影がかかってやや暗い。

 ただ水は恐ろしく澄んで、水面のゆらぎ越しに川底まで見通せる。全てが霧に遮られた景色の中、川を覗くと一番遠くまで見通せるのが不思議だった。

 ゆらめく水の向こうにきれいな真っ白の小石があるのを見つけたのが、とても手が届かない深さにあるのが残念だ。


 上流と下流に目を向けると、道中と同じく手を伸ばせば掴めるのではないかと思えるほどの白色に塗りつぶされていた。

 水の流れで風が起こっているから霧が薄いのかと思っていた三太朗は小首を傾げた。


「お前たち、こちらへ」

 子どもたちが思う存分この不思議な場所を味わったのを見計らい、師匠が彼らを呼んだ。

 その手には糸があった。


「糸?師匠、糸何するの?」

 修行と浮かれていたけれど、そういえば具体的には何をするのかを聞いていなかったことを思い出して、三太朗はちょっと急いで訊いた。


「ん?これはな、こうする」

 高遠は丁度良い長さの笹の枝を容易く折り取ると、葉もつけたままのそれに糸を結び付けた。

 はらり、と軽く落ちた糸の端には何もなく、あるなしかの風に揺れているが、それはまさしく――


「釣り竿。」


「ああ」


 何かを悟ったようにも見える真顔の弟子に、師は可笑しそうに微笑んで、川際の岩の間から小石をひとつ拾い上げて糸先に括りつけた。


「外経は"()"を扱う術。これもまた、まずはここに在る(・・)ことを感ずることよりはじまる。さて、霊とはどんなものだったか覚えているか?」

「はぁい!チは、自然にある力で、色んなところにあって、風を吹いたり雨を降ったりするのもチがあるから起こります!」

「そうだ。よく覚えている。霊の流れは万物を動かして世の事象を起こす。川の流れもまた、霊によるもののひとつ」


 言いながら、すとんと川べりに胡坐をかくと、当たり前のように釣り糸を垂らす。

 神妙な顔でつられて座り込む子供たちは何故か正座だ。ちゃっかり柔らかそうな苔の上を選んで座ったが、早くも着物の尻のところに水が染みてきて、居心地悪そうに身動(みじろ)いだ。


「川の流れは霊の流れ。まずはこうして、水の流れから霊の動きを感じ取ることから始める」

 笹もとい竿を握る手を見せ、凝視する眼差しに微笑む。

 なるほど、と大真面目に呟く弟子はどこまでも真剣だ。


「つまり、水を手でさわる代わりに釣り竿と糸でさわって確かめるのか。そっか、そのための釣り竿なんだ…」

 なんて小さい声で呟くのを聞いて、子鬼がはっ!としたように体を揺らす。

 釣りをするのではなく、竿と糸によって行う"霊"を感じ取る行為なのだという、この修行の意図を悟ったのである。

 彼らはこの修行の本質をすべて理解したのだ。


 そんな子どもたちから高遠はいつの間にか目線を外していて、黒い眼差しは流れに向いている。


「感じ取れたら、流れが均一でないことを意識すること。岩による凹凸(おうとつ)を抜けるときには逆巻き、底に沈んだ…これは木、か。何かに遮られればこれもまた流れに乱れができる。その感覚を掴めば水の中に何があるのか察しも付く。だが、木や岩とは別の乱れが生ずることもある。それが――お、これだ」


 黒い天狗は言うや否や手を動かした。すらりと青い枝が宙を撫で、たわんだ糸が螺旋を描くように靡いた。

 最後に手首を返して竿を引けば、ぴんと張った糸が不自然に細かく震えている。そのまま無造作に腕を上げ抜いた。

 しゃぱっ、と小さな水音と共に、細かな飛沫がいくつか三太朗のまろい頬に飛んだ。冷たさに勝手に目が瞬く。


「……え、えええ~!?」

 彼の目の前で、ぴちぴちと身をくねらす小魚が揺れた。


「釣りでは!!!!」

「ん?ああ、釣りだな」


 なぜか言わずもがなのことを思い切り叫んだ弟子に高遠は首を捻った。釣り竿で釣り以外何をするのだろうかと言わんばかりである。

 とりあえず揺れる小魚を引き寄せる。


 魚の胴には糸がくるりと巻き付き、糸の先に結ばれた小石が上手く輪を留めている。

 しばらく藻掻けば逃げられそうではあったが、針もないのに確かに魚は釣り上げられていた。実に器用である。

 少し糸を弛めるだけでするりと輪を抜けた小魚は、一度足元の岩に当たって跳ね、とぽんと小さな音を残して水面へ帰った。

 あっ、と声を上げた弟子に目を細める。


「流れにある不自然な乱れは、大体がこのような魚だな。(えび)がいることもある。さんしょううお(はじかみいお)の小さいのはまれにいるが、滅多に大きく動かんから捕れるのは本当にたまだ。捕れたら次朗あたりに自慢してやれ」

「んえ…次朗さん…?」


 ちょこっと微妙な顔をしていた三太朗も首を傾げた。

 それにどこか意地悪そうに笑んで、内緒話をするように顔を近づけた。


「そう。次朗は外経の修行(つり)が不得手でな。根気が足りん所為だとは思うが、只の波と霊の乱れの見分けが甘い。ゆえに、奴は魚も滅多と捕れん」

「えっ、そうなの…?次朗さん釣り得意そうなのに、苦手です?」

「ああ。奴はただの釣りも苦手だな。ここだけの話、次朗に勝とうと思うなら最も容易いのは――」


 意味ありげに手元の釣り竿と川へ目くばせする。

 他に誰もいないのに、子どもたちは師匠につられてこそこそと、小さな声で歓声を上げた。

 高遠は頷き、(おもむろ)に懐から、糸束を取り出した。


「説明は終いにして、やってみるか。好きな笹を選べ」

「わあ!ありがとうございます!」


 束から引き抜いた糸はそれぞれに一本ずつ。

 三太朗は手渡されたものを両手でぴろんと伸ばしてみると、隣で同じようにしていた鶸黄となんとなく向かい合って比べた。

 糸は三太朗が両手を広げたより少し長くて、鶸黄の方が余る分が多い。二本の糸は同じ長さに切り揃えられているようだと予想がついた。

 これでは『勝った!』『負けた!』と言い合う定番の冗談は見送った方が良さそう。という事実を納得し合って同時に頷くと、枝を摘みに行った。


 …傍から見ると、似た者同士の無表情で見つめ合う謎の時間を数呼吸。唐突に頷き交わして動き出した訳だが。

 一部始終を見守った高遠は、彼らが何をやっているのか何も解らなかったが、とりあえず順調に関係を深めているようだというのは感じたので、『なんかよく分からないけど良し』としたとかしないとか。




 そんなことはともかく。

 三太朗と鶸黄はこんもりとした笹薮(ささやぶ)に向かい、奔放に伸びた枝を品定めした。


「長めのがいいかな?遠くに届きそう」

「ボク、ボクは、動かしやすそうだから、短いの、が、いいかも、と」

「そっか、そういうのもアリだよな。じゃあ長いのと短いの一本ずつして、途中で交換してみる?やりやすかった方と同じぐらいのを後でもう一本とってきて糸付け替えよっか」

「あい!とても良い、お考え、でし」


 うんうん頷きあって、彼らは足元の低い粽笹(ちまきざさ)の茂みに踏み込んだ。

 しゃらしゃらと脛をこする葉をお構いなしに踏み越えて、奥の背丈がある藪を見上げたが、良く見ると枝分かれが多くて釣り竿っぽくない気がする。と首を傾げた。


「師匠のは枝少ないよな?」

「あ、ぬしさま。こっちのほうの、枝分かれが少ないでし」

「あ、ほんとだ!同じように見えるけど違う種類なのかも!」

「かもでし!」


 小さな気付きも大発見。

 楽しくなった彼らは大はしゃぎでそれぞれの目当ての枝に飛びついた。

 小さな彼らより随分と上にある枝だったが、それは小さくても(あやかし)。足元がちゃんと確かめられる場所での跳躍などお手の物である。

 鶸黄などは自分の身長の三分の二はある高さを軽々と跳び、小さな手は余裕を持って目標を掴んだ。


「おわっ!?」

「あやあ!?」

 笹は折れずに、びよん、と(しな)った。

 三太朗はしゃがみ込む形で座り込み、鶸黄は足元の茂みに両足が刺さったが、つま先がかろうじて地面に擦れる程度でぷらぷらと揺れた。


「とれない…!?」


 大問題にぶちあたり、とりあえず降りた三太朗は、衝撃を受けた顔で『はぅあ!』とする。出来た配下は隣に立ち、両手で口を塞いで精一杯の深刻な顔を作って"どうしましょう感"を演出した。


「こーいうときには!」

「ときには!」

「こーがーたーなーー!」

「どどーーん!!」


 すちゃっと帯の後ろから引き抜いたのは、かつて師から与えられた護り刀『空器(うつき)』だった。


 実は、三太朗はある程度の背丈が戻った頃から、肌身離さずこの小刀(こがたな)を持ち歩いていた。いや、小さくなったその日も、何もわからぬ状態ながら手に取ってはいたのだ。

 だが縮んだ体では持ち歩くには重すぎて、雑に懐に突っ込んでは着物が緩んで脱げかけてしまい、持ち歩くのはもう少し大きくなってからにしてはどうだと高遠に言われて大泣きしながらも素直に手放した。という事件があった。未だ兄弟子たちにたまにからかわれる。


 なぜ小刀を持っていたかったのかというと、三太朗自身なんとなくとしか言えはしない。

 しかしなぜか、ただなんとなく自然に、護り刀が手元にあるのがしっくりくるような気がしただけなのである。

 とはいえ、小さな雛は小刀を手にしながらも、それを無暗に抜こうとはしなかった。

 抜いて遊ぶようなら危なくて取り上げられただろうが、ただ大事に持っていようとしただけの上、高遠によって三太朗の抜く意思がなければ抜けないように術が施されているので、館の妖たちも心配はしても取り上げることはなかった。


 彼らは三太朗にとって小刀を抜くという行いが、そんなに気軽にできることではないというのを半ば確信していたこともあるだろう。

 それは的を射ていて、実のところ今も続いている。


「……ふっ」

 三太朗は短く息を吐いて気合を入れた。


 彼自身は、なぜこんなに小刀を抜くときに緊張するのかはわからない。

 ただ、忘れてしまった記憶の中に何かがあったのだろうということは察することはできたから、他の記憶や事象と同じく、そういうもの(・・・・・・)でどうにもできないと思っていた。

 それに、翼が生える前の記憶では、ものすごく怖がっていたような気がするので、寧ろ緊張するだけなら『治ってきた』のだから良かったと思うことにしていた。

 苦手ではある。好きではない。が、刃物に触れない、見るのも出来ないなんてことはもうない。


 手にじんわりかいた汗を一度着物で拭いて、緊張した肩を一度ゆすってから、ぐっと力を込めて引き抜いた。


 しゃら、と涼やかな音と共に、磨き抜かれた刀身が現れた。

 霧越しのぼやけた光もきらりと反射して、曇りも歪みもない刀の中から灰茶の目が見返してくる。

 はっと鶸黄が息をのむ音に我に返って、澄んだ鏡のような(やいば)から目を引きはがし、頭上の枝にあたりを付けた。


「いっくぞーー!やっ!」

 身軽く跳びあがり、軽く目線の高さに目標を捉えた。

 右腕を上げ、落下が始まると共に枝の根本に刃を差し込む。

 すると、僅かに擦るような手応えがあり、殆ど抵抗らしいものなくすとんと枝を落とした。


「わぁー!ぬしさま、すごいでし!」

「ふふ…そうでしょ!次もいくぞ!」

「あいでし!」

 心配げな表情から一転、殊更(ことさら)に大きな歓声を上げた鶸黄に向かってぐっと拳を握って見せ、次に鶸黄が狙っていた枝にとりかかった。




「ふむ…誰か呼んでやるべきだったか」


 二本目の枝を無事に切り取り、楽しそうに騒いでいる弟子たちを眺めて、高遠は密かに呟いた。

 無邪気に彼らが戯れているのはこの上なく和む。

 それに三太朗は、苦手な刃物に対する怯えと緊張をおどけて隠し、高遠に頼らずに自分で枝を切り落とした場面は、他の弟子たちや配下たちも見たかっただろう。


 三太朗が間違いなく成長しているのだとこんなに実感できることも中々ない。

 それに成長は鶸黄もだ。少し前なら、自分がすると言い出しただろうが、三太朗が刃物を苦手なことをどことなく察している様子でありながら、主の意思を尊重していた。


「少し前はしがみついて泣いていたというのにな」


 末の弟子は、配下を得てから成長が著しい。その姿は、誰かに見せてやりたいと思うほど喜ばしいものなのだった。




ちび主従は例えるなら小学生男子のノリ。

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