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天狗の弟子になった少年の話  作者: たまむし
三章 身
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九十二 その実






「ほら、これが甘いやつ。食べてみろよ」

「美味いぞー」

「わぁああい!!」


 三太朗はすっかりおおはしゃぎで、紀伊に差し出された蜜柑をひと房食べた。


「あまーーい!」

「良かったなー」

「じゃあ、こっちは?」


 幸せそうにもぐもぐしている横から、武蔵がもうひと房を差し出す。

 剥き身になれば判りにくいが、その皮はまだ青味が強く、見るからに固そうだ。

 けれど何の疑いもなく、三太朗はそれもぱくりと口に含んだ。


 ぎゅっ。


 そう音がなりそうなぐらい一気に顔がくしゃくしゃになった。


「しゅっっっっ……っぱぁああああ」

「あはは、じゃあ甘いの食べなー」


 さっきの甘い蜜柑からひと房渡されて、涙目で頬張ると、三太朗はそそくさと武蔵から距離を取る。


「あー…」


「ん?そんなに酸っぱかったか?」

 黙って頷く子どもは、こここそが安全だとばかりに師の膝に陣取っていた。


 高遠は笑顔だ。武蔵は釈然としない顔である。


「お師匠…やな役だから自分でやんなかったんだろうな…」

「さあ三太朗、良く見てごらん?」


 高遠は何も聞こえないかのように机の上を示した。

 そこには、次朗がせっせと並べているそれは沢山の蜜柑がずらりと並んでいた。


 黙々と並べられていく蜜柑は完璧な等間隔だ。

 次朗は意外にも、細かい作業に拘ってしまうたちだった。単純作業はめんどくさいが、やり始めると熱中してしまうのだった。


「どれが甘いと思う?」

「う?」


 戸惑って首を傾げたが、三太朗は『良く見てごらん』と言われたから、並んだ蜜柑をじぃっと見てみた。


 たくさんの蜜柑が等間隔に机を埋めているのを眺めていると、何だか"蜜柑っぽさ"が分からなくなってきて、そういう橙色のぶつぶつに思えてきた。

 瞬きする度に瞼の裏に蜜柑の残像が模様を描き、目を開いている間は、目に映る何もかもがちかちかしてきた。


「う~~~?」


「三太朗、こちらが甘かったろう?」

 剥いた皮を皿代わりにした、甘い方の蜜柑が示される。


「そして、こちらが()い方だな」

 もう片方を見た途端に三太朗は顔をくしゃっとした。

 おやおや、と周囲の面々は笑うが、三太朗にしてみればそれどころではない。じわっと唾が湧いて、舌の付け根が痛くなってきて涙目になってしまった。


「そこまでだったか」

「見ただけですっぱい…」

 条件反射である。


 ひとしきり笑った後で、高遠が「良く見てごらん」と灰色の髪を鋤いた。


「甘いものと酸いもの。違いが判れば、どれが甘いのか見分けられるだろう?先ずはどこが違うかを見てみてはどうだ」


「んーーー…あ、そっか!はぁい!」


 疑うことを知らない素直な雛は、なるほどその通りだ、と納得して、今度は眺めるだけではなく、ふたつの剥き身を見比べ始めた。


 違いとやらがどんなものかを尋ねもしないことに周りの大人たちは顔を見合わせたが、自分も見た目に違いが有るかどうか知らない癖に、高遠だけは全く変わらない様子で微笑んでいた。


――――訊かれたらどうするつもりだったんだ…?


 よもや高遠だけは見分けられるのではないかと、そんなことまで弟子たちが考え始めたそのとき。


「わかったぁ!!」


 元気良く三太朗が叫んだ。

 そのまま手を伸ばしてひとつ掴み取る。


「これ!」

「ん?これか。少し待て」


 高遠が受け取った蜜柑を手早く剥いて、ひと房を差し出した。

 自分で食べる気はないらしい。


「ほら」

「わぁい!」


 見守る目が集中する中、三太朗は蜜柑をひと口で頬張った。


「あまぁーーい」

「見分けられたか。すごいな、三太朗」

「すごい?えへへへ」


 実に幸せそうに笑う子どもを他所に、高遠以外の大人たちの顔は見合わされた。


「おい、さんたろ。おれさまにも一個選んでくれよ。飛びきり甘いやつだ」

「んー?あれ!」


 指差されたものを剥いて口に放り込むなり、次朗は目を丸くした。


(あめ)え!」

「お!すごいな!!俺らも頼むよ」

「三太朗、選んでくれよー」

「はぁい!」


 褒められて嬉しくなり、何かを頼まれることが初めてだった子どもは、張り切ってたくさん蜜柑を選んだ。


「甘っ!」

「こっちも甘い!」


 驚いた声が聞こえる度に三太朗は得意になって、驚いた後に喜んでいるのが分かったから益々幸せになった。


「ごんたろさんとぎんじろさんにもあげる!!」

「おや、ありがとうございます」

「あれ、ありがとうございます」


――――みかんあげたらみんなよろこんでくれる。よろこんでくれたら、うれしい。


 美味しそうに蜜柑を食べているのを見ているのも嬉しいが、喜ばせたのが自分だというのが嬉しくて、誇らしい。

 三太朗は一番大きくて、もちろん甘そうな蜜柑を見繕った。


「はい!」

「ん?俺にもくれるのか。ありがとう」


 高遠は微笑んで受け取った。それだけで子どもは嬉しくて笑う。


――――ありがとうだって!ししょうが、ありがとうって言った!


 三太朗は何かを貰ったら嬉しいことはよく知っていたけれど、何かをあげて、喜んでくれるということがもっと嬉しいことだと初めて知ったのだった。


 ふわふわと笑っている雛を撫でながら、高遠は剥いた蜜柑をひと房口に入れる。


「甘いな。…全て外れなしか。良くやった」

「えへへへー」


「ところで、甘い蜜柑と酸い蜜柑はどう違うと思った?」


 照れる子どもにもうひと房食べさせてやりながら、何気なく尋ねた。

 あくまで自然体に、見事に然り気無く、最も訊きたかった問いは発された。


 部屋中の意識が集中した。


 あからさまに目を向けはしない。

 端から見る者が居れば何も変わりはしないだろう様子で、しかし確かに、次の一言一句を聞き漏らすまいと全員が思ったのは確かだった。


「んんーー…」


 日常の空気の裏に漂う緊張を知らぬ気に、のんびりもぐもぐやった子どもは、こくん、と口の中のものを飲み込んでからこう言った。


「あのね、甘いのは"ほわ"ってなってて、すっぱいのは"ぎゅっ"?"ぱらっ"?"ざらっ"?ってなってるの」


「ほう、そうなのか」


――――解んねえよ!!


 擬音しかない説明だが、高遠は何もかも合点がいったように頷き、その他三羽の弟子は内心で思い切り突っ込んだ。

 急に激しく突っ込んでしまっては三太朗を驚かせてしまうので、寸でで心の中に飲み込んでではあったが。


「酸い方は難しいか?」


「んとね…甘い方が分かりやすい、かな?」


「なるほどな…ふむ」


 高遠は、非常に興味深そうに考え込んだ。

 弟子たちは、寧ろ師匠の方が不可思議なものなような気がして考え込んだ。

 末っ子は、もうふたつみっつ蜜柑を手に取り、偶然目が合ったので釿次郎に手を振った。振り返されると嬉しそうに笑う。その笑顔が可愛いくてタヌキとキツネが揃って笑顔を返せば、さらに嬉しそうに笑った。

 笑顔の無限機関。


 そして、誰も話し掛けて来ない時間に、子どもはすぐに飽きた。


「オレ、ゆみさんとやたさんにもあげてくる!」

「…ああ、そうだな。行っておいで」

「はぁい!」


 元気よく部屋を飛び出した小さな背中を見送ってしばらく。

 気配が遠くなってから、四羽の天狗はそれぞれ手近な蜜柑に手を(かざ)した。


 するすると宙を撫でるように指を動かすと、光の線が軌跡を残し、術陣を形作っていく。


「こう…か?」


「んっ、お?お!」


「こーやって、これなら!」


「ん?」


 四通りの術が完成し、輝きが宿る。

 すると、術が掛けられた蜜柑がそれぞれふたつずつ、ぼわりと燐光を纏って光り始めた。


「はえー。蜜柑は結構はっきり"気"が分かるんですね」

「初めてやりましたよ」


 双子が感心して言った。


「木は果実に気を集める特性があると聞いてな。種…次世代を育てるために、枝から離れた後も少しの間は留まるらしい」

「へぇ」


 そんなやり取りをしながら、お互いの蜜柑を見比べる。

 彼らは蜜柑に宿る気を可視化しようとしていた。

 初めての術を試す気になったのは(ひとえ)に、三太朗が"黒天狗"であった場合、気の具合を視て(・・)、酸いか甘いかを判断している可能性があったからだ。


 さっきの三太朗語による説明は難解過ぎて、少しでも手掛かりになる情報を求めた。聞き取ったことの真偽を判断するために己の目で確かめようとした。など目的は場の中で三対一ではあるが。


 結果灯った光は、それぞれ異なる。

 それは、性質、強さ、量など、気のどの部分を見ようとしたかが異なるからである。


 幾つもの小さな光が蜜柑の内側に星のように集まり、実を透かして輝いているもの。

 実の内を靄のように彩り、淡くなりながら果実の外にまで僅かに漏れ出ているもの。

 (へた)の方は黄色みがかり、下がるにつれて段々に緑を帯び、更に同順で光が弱くなっているもの。

 そして、


「…ししょーのやつ、何光らせたんすか…」


 高遠の手元のものは、ふたつとも光の玉に生まれ変わっていた。

 白く色が飛んでしまい、橙色が残っていないので元が蜜柑だとは言われてもわからないほど光っているというのに、不思議と周りを照らすことはない。

 しかしこれが強ければ照明として使えるだろうほどに、むらなく煌々と光輝いていた。


「んー?全部違いはないように見えますね?」

「うー?違いなんかあるんですかね?」


 (いず)れの組も同じように見えて、双子が首を捻る。

 これでは甘いか酸いかを判断できない。

 つまりは、三太朗が感じ取ったのは別のものだということだ。


「ふむ…」


 高遠はおもむろに、手元のひとつの皮を一片剥く。すると、果肉だけではなく剥けた皮まで輝いているのがわかる。

 皮の分だけ光が弱まって見えた。


 いや、よく見てみると、皮に宿る光は至極細かい網の目状の、極細の線で構成されており、実の部分もまた同じ。

 網の目が立体無数に重なって、まるで全体が均等に輝いているように見えたのである。


「これもしかして"経絡(けいらく)"っすか?」

「ああ。あいつは気そのものを察知…いや、"視て"いるのではないかと思ってな。少し弱めてみよう」

 

 術陣の記号を幾つか書き換えれば、光はすっと淡くなった。

 すると、走る線の強弱や密度の濃淡がはっきりと浮かび上がった。


「ふむ…これはもしや」


 同じ術を、三太朗に見比べさせたふたつにも掛ける。


「あ」


 違いが顕著に浮かび上がり、驚きの声が上がった。

 甘かった方は全体ほぼ均等に光が広がっており、強いて言えば中央が僅かに強い。それに対し、酸味が強い方はあちこちにダマができ、線も太くなったり途切れそうなほど細くなったりとごつごつしている上、遠目で見れば明らかに斑点模様を作っていた。


 それを見た上で、最初のふたつを見てみると、片方はダマや濃淡が殆どないが、もう片方は幾つもの(まだら)が散っている。


 三太朗が迷いながら口にしていた擬音群に当てはめてみても、矛盾はないような気がする。


「なるほど、三太朗が見ていたのはこれか…」

「そう…ですね」


 確かにこれであるという保障は、三太朗がいないのでわからないが、違いが出たのは高遠のものだけであり、これを彼が見ている可能性は他より高い。


「これを、術もなしにかぁ…」

「そういうことなんだろうなぁ…」


 ここにいる者は、天狗の中でもそれなりに実力者を自認している。

 彼らをして、工夫を重ねてみなければ見えない世界を、三太朗は見ているのだ。


「ふむ…」


 感心しきりの弟子たちを他所に、高遠は深く思案する。


「どう育ててやるべきかな…」




 何やら深刻な顔でやっている天狗たちの横で、難しげなことは何も分からないタヌキとキツネは、顔を見合わせてほっこりした。


「綺麗ですねぇ」

「綺麗ですなぁ」


 光る蜜柑の意味はさておき、見た目はとても綺麗だったのだった。











「ふぃーー」


 廊下をだいぶ進んできたところで、三太朗は大きく息を吐いた。


 黙々と進んでくる間に、足音だけでなく息まで抑えていたことにそのとき初めて気が付いた。


 自分も知らない間についやってしまっていたことだけれど、驚きはない。

 息を詰めて気配を消そうと思う理由に、心当たりがあるから。


「…みんな、どうしたのかな」


 ぽつん、と呟いた頼りない声が、誰もいない廊下に落ちた。

 いつの間にかまた降り始めていた雪の、ほんの幽かに、しかし無数に重なる白い音に呑まれ、他の誰の耳も鳴らさずに消えた。


 三太朗はきゅっと口を引き結んで、雪景色の庭へ向くと、そのままぺったりと座り込んだ。


 家族とも言うべき彼の保護者たちを思い描いて、どうしてか鼓動が速くなる胸を押さえる。

 いや、その早拍の原因も実は明らかなのだ。ただ目を逸らしていたい自分がいるだけで。


 そっと、それなりに重たい溜息が出た。

 いつからか、誰も居ないところで、壁にも背を向けて、こうして嘆息するようになった。


 稀に三太朗の周りの大人たちが、ふとしたときに様子が豹変するということに気付いてからだろうか。


 様子と言えばあからさまに過ぎるかもしれない。

 豹変と言えば大袈裟過ぎるかもしれない。


 見た目ではわからないところが、普段と比べればほんの少し、冷たく固くなったように思えるときがある。

 いつもが柔らかく温かいものだから、その差違が際立って、余計に大きく思えてしまう。


 そんなとき、三太朗は何だか物にでもなったような気がして、落ち着かなくなる。

 体の真ん中のところが嫌な風に震える。


 皆、それまでの温かさを残した顔のままで、そう、物でも見るような目をしていたから。


――――怒ってるのかなぁ。


 怒られたことはないけれど、皆が変わってしまうのが、三太朗が何かをやらかしたときだったから、それで気分を損ねてしまうのかもしれないと考えていた。


――――言われたから、やっただけなのに。


 次朗を探しに行ったとき、みんなすっと冷めた(・・・)

 蜜柑を選んで、選び方を訊かれたとき、みんなふっと固く(・・)なった。


 そんな風に三太朗を見ていた。

 何だかとてもよそよそしかった。

 すごく居心地が悪いから、時折あるあの時間が嫌いだった。


 あんな風になって欲しくないから、何がいけないのかをいつも一生懸命考えた。


――――ちゃんとさがさなかったからかな…?


 もしかしたら三太朗が知らないだけで、次朗があそこに隠れているのが分かっていても、あちこち探して見せないといけなかったのかもしれない。


――――ちゃんと言えなかったから…?


 これはどうだろうか。だって、変な感じがしたのは、甘い蜜柑と酸っぱい蜜柑の違いを説明する前だったのだから。


 けれど、そう考えてしまったら…


――――ちがい、わかるの、だめだった…?


 けれど、甘い蜜柑を当てたときに喜んでくれた。あれもまた本当だったと三太朗には解っていた。

 だとすると、当て方が違っていたのかもしれない。


 何が正解だったのか。三太朗には難し過ぎて、山に来る前の記憶を探そうとしたときみたいに途方に暮れるしかない。


 考えに没頭して力が弛んでしまって、ころりと不意に蜜柑が転がった。

 慌てて拾い上げた手は、所々固く腫れていて、皮が乾いて突っ張っているところもある。


 心配性のヤタが、もっと怪我に気を付けるよう言い諭そうとしていたことを思い出して、三太朗は悲しくなった。


 ヤタが伝わらないことをもどかしく思って、()れていたことは、三太朗には伝わってしまっていた。

 解ってあげたいと思って一生懸命考えたけれど、館の中で拾い上げた数々の記憶の中には手掛かりになるものはなくて、結局諦めるしかなかった。


――――オレはいつも、期待はずれ。


 失敗ばかりで、心配をかけてばかりだ。


 みんな、初めてだから仕方ないと言って慰めてくれるが、三太朗は本当は初めてではない(・・・・・・・)ことを知っていた。


――――前のオレなら、うまくやってたのかな。


 きっとそうなんだろうとなんとなく思う。

 周りもみんな、前の感覚で三太朗を見てしまっているから、三太朗が突拍子(とっぴょうし)もないことを仕出かす度に驚いて、困惑するのだ。


 それを三太朗は気付いているけれど、彼らは三太朗が気付いていることに気付いてない。それも分かっていたから、三太朗は気付いていないふりをすることにしていた。


 皆はきっと、彼らのことで三太朗がしょんぼりしたり悲しくなっていたら、もっと悲しくなってもっともっとしょんぼりして、心配して、もしかしたら彼らは自分が悪いのだと思ってしまうかもしれない。


 そんなのは望んでいなかった。何も出来ないのは彼自身の責任で、失敗するのはみんなの所為ではない。

 みんながしょんぼりしてしまうのはすごく嫌だった。

 三太朗は、周りにいつも幸せに笑っていて欲しかった。そしてその中に交ざって、楽しく笑っていたい。

 だから、そんなことだけで皆の気持ちが暗くならないなら、幾らでも嫌な気分は隠すのだ。


 幸い、楽しかったり嬉しかったり以外を顔に出さないようにするのは、三太朗には数少ない簡単に出来ることのひとつだった。

 誰に習った訳でもない。他者の感情を読む(・・・・・・・・)ことと同じく、前の自分に染み付いた(なら)(しょう)。彼にとって生きていくのに必須の技能である。


 しかし、上手に隠してしまえても、何も思わなくなる訳ではないのも事実。


「むぅうーー」


 三太朗は霜焼けを睨みつけた。

 もやもやする何もかもの象徴のように思えて、なんだかやたら小憎らしい。


――――オレだって、がんばってるもん。


 すごいな、えらいぞ、と褒めてくれる声を思い出して、三太朗は思わずにやっとしてしまった。


 嫌な感じに変わってしまうのはあくまでたまにだけで、いつもは優しくて、頑張っていることをちゃんと分かってくれていて、いっぱい褒めてくれる、大好きな家族なのだった。


――――みかんあげたら褒めてくれるかな?


 ヤタと弓に渡す蜜柑を持ち、それを渡したときの反応を思い浮かべてにっこりした。


 三太朗は雛の割に悩みはあったが、基本的に楽天的であり、大抵のことはそこまで深刻に悩まない子だった。


 忘れることはないけれど、それはそれ、これはこれとして、横へ置き、楽しいことを思いっきり楽しむ、切り替えが早いところがある。

 美徳とも言えるが、周りからすると『もっと真剣に考えろ』と思わずにいられない場面も多々あったりする。

 ちなみに、立ち直りが呆れるほど早いのは次朗に似たのかと裏で言われているのは気付いていない。


 たまに家族の様子が変わるのは、天狗に成って(うまれて)からずっとのことだっから、彼にとっては当たり前のことでしかなく、気にするほどの実害がないので、是が非でもなんとかしようと思うものでもない。

 館の者が自分を家族のような愛情を注いでくれていることは疑いようもないので余計に重要度は下がった。


 それに、楽しいことや興味深いことを追うのに忙しい子どもは、それ以外のことに対する集中力は紙のように薄かった。


――――今日のごはんなにかな。


 蜜柑を眺めている間にお腹が空いてきてしまった三太朗は、蜜柑を弓やヤタにあげに行ったときにひとつふたつ分けてもらえないだろうかなどと、少し図々しく考えながら立ち上がろうとして――



 凄まじい悪寒(おかん)に襲われて凍りついた。




引きで終わっておりますが、今年の投稿は今話で最後となります。

2020年も拙作を読んでくださると嬉しいです(・∀・)

少し早いですが、皆さま良いお年をお迎えくださいませー(*´꒳`*)ノシ

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