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名も無き聖職者  作者: 慧瑠
今も旅人
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勇者の為に聖職者は魔の力を行使する

飛び立つメイ様達の気配を背に、小高い丘の上で空を見上げた。

満天の星空と、遮蔽物が無い為か少し肌寒い風が心地良い。


心を見れると言うのは、どういう感覚なのでしょうか。僕には、そんな特殊な力は無いので分かりませんが…メイ様もメイ様で色々な苦労をしているのでしょう。

それで養われた判断力は僕には無いもので、アイン達には必要なモノにもなるだ。


ただ、メイ様は少し優しすぎる気もしますね。

そこはイリアさんが補っているのでしょうか…。その辺は、長らく主従関係の彼女達が一番分かっている事なので、僕が考えても仕方ありません。


「それで、メイ様達が居る時に襲わなかったと言う事は、僕に用事ですか?」


思考が一区切り着いた所で、メイ様達が来る前から僕の後をつけていた相手に声をかけた。

このまま無視をしていても良かったけど、相手が相手な為に無視をしたら後ろから襲われる可能性の方が高い。

それなら、諦めて話しを聞いたほうが身の安全が確保できそうなので…。


「やはり気付いていたか。先程の者共は気づかなかった様だが…。

もし貴様まで気付いていなかったら、早々に殺してやろうと思ったが…貴様も成長はしているようで何より何より」


「物騒ですねぇ…。

僕が気付けたのも、昔より魔族の存在に敏感だからです。

まるで仲間が近くに居ると感じる様な感覚ですよ」


「こっち側の力も順調に馴染んでいるようで何より」


振り向けば、その相手は木陰から浮かび上がる様に出てきた。

初老の見た目に以前見た時と同じ金の瞳。本人に言わせれば、その瞳すらも変えれる様だが、その金の瞳は自身のモノらしい。


初めて会ってから、二年の間で会った見た回数なんて片手で足りるけど…毎度毎度見た目が違うその相手。


「ここ最近、随分と活発に動き始めた様で。

そんなお忙しそうな魔王様が、一介の聖職者の僕に何か御用ですか?」


「棘のある言い方をする。

そう警戒する事も無いだろう。我は貴様の事を気に入っていると言うのに、貴様は我がそんなに嫌いかな?」


「そうですね。一日でも早く貴方がアインに討伐される日を待っている程度には」


僕の答えを聞いて楽しそうに笑う魔王は、木陰から出てきて僕の横に立つ。


どうやら、今回も争いの意思は無いようで助かった。

今の僕じゃ魔王の相手はできない。ただ虐殺されるだけで終わる。それほどまでに差を感じ、この魔王の底が見えない。


「いい敵意だ。

だが、まだまだ貴様は弱いな」


「別に僕には弱くても構わないんですがね。

貴方の期待に応える気はないので」


「それは我が困る。

それでは我が楽しめないだろう。それに、我の部下は優秀でなぁ…今は、我が動く必要は無い故、暇なのだ」


「知りませんよ」


この魔王と話していると、調子を狂わされる。

殺す意思が無い時は、本当に敵意が無い。でも気を抜けば確実に殺されてしまう。

絶対的な敵。だからこそ旅をして魔物や魔族を倒して来て気になったことがあった。


「もし暇なら、少しお聞きしたいことがあります」


「ふむ。言ってみよ」


「何故、貴方はこの世界を相手に戦っているのですか?」


気になっていた。

世界を制服しようと企む魔王は、無慈悲であり虐殺の限りを尽くす。と教えられてい僕には、この状況がおかしくて仕方がない。


だから、本人に聞いてみる事にした。

すると、少し面倒そうな顔をした魔王は、その表情通りに面倒そうに答えてくれる。


「くだらん質問だ。だがまぁ、許した故に答えてやろう。


魔王とは、ただ強いだけだ。

どの魔族よりも強くあれば、魔族はその者を魔王と呼ぶ。

魔王より強い魔族が居るならば、それが次代魔王だ。だが、我は常に魔王である。

貴様等の言う、神が我に対抗する為に選んだ勇者に殺されたが、我の魂は消滅する事無く肉体の誕生により蘇り、また我は魔王となってしまう。

くだらんものだ。


我を崇め、我に付き従うのは勝手だが、そんな奴等は我に対しての闘争心が無くなってしまう。

それがつまらん。

長きせいにおいて、我が求めるは闘争のみだ。より強き者との戦い、生死を賭けた戦い、魂までもが消え去ってしまうような闘争のみ。にも関わらず魔王になってしまえば、我の敵は居なくなってしまい暇になる。


ならば、どうするか…簡単な話だ。新たな敵を作ればいい。だが、魔族とは元より戦闘能力の高き者達だ。

幾らエルフ共が保有魔力が高く魔法に長けていようと、獣人共が身体能力が高かろうと、人間が団結力と潜在能力が高かろうと我からすれば烏合に過ぎん。

貴様等は弱すぎる。この世界の者達は脆弱だ。闘争心は薄く、生きる為に狩りをし生を謳歌している。


それでは、我がつまらん。

烏合の衆を嬲るのは簡単だが、退屈で仕方がない。

であれば、育ててやればよい。


我と言う存在を敵と認識した貴様等は、武を高め、技を極め、知恵を高め、今まで以上に強くなろうと高め合う。

戦いと言うのは、その危機は、闘争心を高めるいい薬となり、貴様等を発展させた。

長き時間を掛け、何度も討たれる事で貴様等は次に備え強くなる。

新たな戦い方を編み出し、新たな術を生み出し、我を退屈させぬように強く強者の高みへと伸びゆく。

ゆくゆくは、我が思い考えもしないモノが生まれ、我ですら手足がでなくなるかもしれぬ。


だが…我は求むのだよ。

その様な事を。強者との闘争を。

心が震え踊る様な強者との戦いを!


ただ、貴様等の寿命は短い。実に勿体無い。

エルフの様な長寿も稀に存在するが、奴等は戦いの末の悲しさなどというつまらんモノに溺れ、成長を放棄する愚かな種だ。

神の意思やら悟りやらと言葉を並べようが、それはただの停滞でしかない。


貴様等が悟り成長を放棄する事を、神が望んでいるとでも思っているのか?

ならば何故、神自身が我の前に姿を現し、我を消そうとしない。神託などと無駄な手順を踏む。

簡単だ。貴様等が、現状に満足し成長を放棄するからだ。


まぁ、神の意思などどうでも良い。

我を恐れ、貴様等に役目を擦り付ける臆病者というだけかもしれぬしな。

そんな事はどうでも良いのだ。

ただ、この環境は感謝せねばならん。我が満足するまで何度でも繰り返し、我を退屈させぬ世界を。


どうだ?理解できたかな?

我はただ闘争を求むだけだ。貴様等で無くとも良い、魔王となった我が退屈せぬように我はこの世界を敵にする。

無論、あまりに弱く我が飽きれば、我を楽しませきれない不要な世界など滅ぼすがな」


くだらないと言った割には、しっかりと教えてくれる魔王に僕は思わず笑みが零れそうになる。

もう一つ気になっていた事があった。


何故、魔王は生まれ勇者が生まれるのか。


でも魔王は、それも教えてくれた。

勇者は神の意思だと、魔王が居るから勇者が生まれると、そして魔王は魂まで消滅させない限り目の前のこの魔王が蘇って繰り返されると。


僕の目的が決まった。

世界は広い。それこそ魔王が嫌う長寿の種も居る。

アインが魔王と倒すまでに、僕は僕で目的の為に動こう。


「ありがとうございました。

良くわかりました。貴方が居る限り、世界の平穏は訪れない事に。貴方が敵である事に」


「我は元より貴様の敵だ。

無論、貴様がこちら側に降るのであれば、その時は我の為に動いて貰うがな…」


「ご心配なく。

私は貴方の敵です。これまでも、これからも敵です。

そして貴方を倒すのはアインで、アインは最後の勇者になるでしょう」


僕の言葉を聞いた魔王は、少し驚いた様に目を見開いた後、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「つまり…今代の勇者は、我を魂ごと滅すと?」


「えぇ。今代の勇者一行は、必ず貴方のくだらない暇つぶしを終わらせます」


「…ふっ、ふふっ…クハハハハハハハハハ!!!この状況で、我と貴様しか居ないこの状況で、すぐにでも死んでしまう貴様がそれを言うか!

そうか!そうかそうか!今の話を聞いて尚、これまでの様にではなく、我に死を叩きつけようと言うか!

良い。大変それは良い!その意気は良い!

歴代勇者が成し得なかった事を、貴様等が成し得るというのならば我はその時を楽しみに待とう。

我が、その危機を体感できる程に強くなるのであれば、我は願ってもない事だ!

貴様はやはり、我の喜ぶ事を良くしっておる」


上機嫌になった魔王は、そのまま身を翻し闇に紛れていく。

そして、完全に闇に溶け込む前に一度こちらを向いて言う。


「どれ、気分の良い我は一つ貴様に教えといてやろう。

近々、我の側近の一人が西の国を落とす。東へと向かう勇者共が気付いた時には、手遅れだろうな。


さて、貴様はどうする。見捨てるか?勇者共に縋るか?それとも、軍を相手に貴様一人で立ち向かうか?

我としてはどちらでも良い。精々、先程言った言葉を実現させてみよ。


我を失望させぬ様に…な」


言い終えた魔王は、完全に闇へと溶け消えた。


やってくれますね。

西の国…アスビラ国ですか。西と言えば、間違いないでしょう。


正直、遠いので自力でなんとかしてもらいたいですが…教えられた以上は、知らぬ存ぜは通用しませんよね。

魔王が僕にわざわざ教えた意味、最後の言葉…何かしなければ、失望したと言い始めるかもしれません。

アイン達が魔王と戦うには、まだ早い。

今、魔王は何故か僕に興味があるみたいですし…魔王自身がアインにちょっかいを出さない様に僕が行動する必要がある。


「いいでしょう魔王。

今は、貴方の望みどおりに動きましょう。アイン達が安心して東へ行けるように、西は僕がなんとかする。


どうせ西の方に用事があったので丁度いい。

だから、アイン達も進んでね」


手を見れば黒い皹が脈動しているが、回復魔法は使わない。

その代わりに、僕は別の力を行使する。


僕は使えるものは使う。それが例え、敵側の力であっても。

今の僕の姿をアイン達には見せられないな。


苦笑い気味の僕は、背中に生えた灰色の羽を使って飛び上がり、周囲を軽く見回した後にそのまま西へと急ぎ飛び向かった。

次回から、アスビラ国で頑張ろ。

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