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名も無き聖職者  作者: 慧瑠
今も旅人
7/46

新旧邂逅

長くなりすぎた。

日記を振り返り、彼等との最後を思い出し終えれば、外は月が輝いていた。


あれから既に二年。長いようで、短かった思う。あの日以来彼等と会う事は一度も無いが、風のウワサで勇者一行は今や五人らしい。

順調に戦力を増やしているようで何よりだ。


対する魔王とも会う機会は訪れていない。いや、一向に機会なんて来なくても良いのだけれど…活発になってきているのは確かで、最近では国が一つ魔族に落とされたとも聞く。

魔王に属する魔物の被害も多く耳にする。そろそろ本格的に魔王の進軍があるかもしれないと各国は危惧し始めているようだ。


「まぁ、アイン達が魔王を倒すまでの辛抱ですからね。

こちらは防衛面を固めておくぐらいしか無いのが現状だと思いますけど」


そう呟きながら本と日記を鞄へと片付け、窓から外を見る。

夜も更けて来たが、この街はまだ賑やかだ。人通りも多く、あちらこちらで立ち話をしている様子も見受けられた。


街を行き交う人を観察しながら、エデの実を食べ時間を潰していると、視界の端に人だかりができている事に気づく。

それは徐々に大きくなり、それに集る人が増えていった。


「…何でしょうね。

祝い事か、祭りか…そんな話しは聞きませんでしたが…非常に嫌な予感がするなぁ」


人々の歓声を耳に、僕の中にはアレと関わり合うべきではないと、知らない方がいいと感じる。

それでも気になってしまうのが僕の性と言うもので…どうやら街中を進んでいる様子の人だかりは、少しすれば僕でもその中央が見えるだろう。


嫌な予感がしつつも、椅子に座り、窓からその様子を見ていた。


だが、本人無意識に予想ができている事が多く、そこから嫌な予感がしたりするもので…そういうのはわりと当たってしまう。


「ここの料理は美味しかったから朝も楽しみにしていたんだけど…今日は野宿で、朝は干し肉かな」


それは幸か不幸か…人だかりは、中心に居る人物達の進行を邪魔しない様にできていた。

だから少し離れていても、三階の部屋から見ていた僕は、遠目で中心を見る事ができる。


その中心を見た僕は、そそくさと荷物を纏め、一度治癒魔法を自分に使い外へ出る準備を急ぐ。部屋に置いてあった鏡で肌が普通である事を確認すると、古くなってきた杖を持ち、色褪せ始めた黒いローブを羽織り部屋を出た。


そして近くに居たお店の子に、部屋番号が書かれたプレートと料金が書かれた紙に、記載されている分の料金を渡し、店主さんにありがとうと伝えて欲しいと頼むと、表とは別の出入り口から宿を後にする。


危なかった。

出ると同時に、店の表から声が聞こえたけど、まぁ気づかれたなんて事は無い…と思いたい。


----


「いらっしゃい!

これはこれは勇者一行じゃないですか!今日はどうのようなご用件で?」


「あぁ…少し、この周辺に依頼があってな。

今日は遅いから泊めて欲しいんだが…2,3部屋は空いているか?」


「ちょっと待ってくださいね…今、空きの部屋は…」


「お父さん、今三階の人がお帰りになりましたよ。

お客様からありがとうって」


「おぉ…あの人か、気を使わせてしまったな。しかし、これなら二部屋は空いてるな」


店主は、女の子からプレートと料金を受け取ると、何かを記入してプレートと紙を二つ用意すると、待たせていた勇者に向き直った。


「今、隣同士で二部屋空いたので、ご用意できますよ。ただ、大部屋と一人部屋になってしまいますが…」


「なら、頼む」


「ありがとうございます。少し、掃除をするので、準備ができたらお呼びします。

お先に、お食事でも如何ですか?」


「分かった。いきなりで悪いな」


「いえいえ、ご希望にお答えできて良かったです」


会話を終えた勇者アイン一向は、先程の女の子に案内され席に座った。

この宿の一階は食堂の様になっており、食事の際は一階でというのが宿のルールだ。


案内され、暫く待っていると五人分の食事が用意されていく。


「二部屋とれた。

片方が一人部屋らしいから、俺がその部屋で、大部屋の方に四人でいいか?」


「…私、一人部屋がいいです」


「……そうか、ならフェルが使ってくれ」


「ありがとうございます」


「いや、気にしなくていい。

むしろすまない」


「大丈夫です…」


その会話を終えると、フェルは'いただきます'と一言告げると並べられた食事を口にし始めた。

それから後を追う様に、アイン達も食事を始める。


「にしても、アインはやっぱり強いな」


「イリアもな」


「私は、剣しか取り柄が無いからな。だが、逆に言えば剣が私の取り柄だ。どこまでも磨き上げたい」


イリアと呼ばれた女性は、テーブルに立てかけていた愛用の剣を撫で答え

その横では、純白に普通より華やかな緋色の装飾が目立つ修道服を着た子供と変わらぬ身長の少女が何かを気にする様に周囲を見ている。それに気づいたルニンが声を掛けた。


「どうしたの?」


「いいえ、先程一瞬だけ何か違和感が…」


「メイちゃんが感じたなら、何かあったのかな?

フェルは感じた?」


「特には…ただ、さっき裏口から出ていった人が何故か気になったぐらいです」


「裏口から?気づかなかった」


「私も気付きませんでした」


そんな三人の会話に、アインとイリアが混ざりながら食事をしていると、店の少女が部屋の準備が出来たと声を掛けてくる。

それを聞いたアイン達は、食事が終わり次第各自で部屋へと向かう事にした。


----


食事を終えた私は、一足先に割り当てられた一人部屋へと移動する。

あの日以来、私は一人を選ぶ事が多くなってしまった。

アイン様やルニンも気を使ってくれている。二人には申し訳ないし、新しく仲間になってくれたイリアさんとメイさんにとっては空気を悪くしている奴だとも思う。


ただ、どうしても、あの日の自分を私は許しきれない。あの時、残るのは彼じゃなければならなかったのか、彼一人じゃなきゃいけなかったのか、二人で残ったら結果は違ったのではないか…。

何度かアイン様と話した事もあるが、'今更話しても結果は変わらないし、あの時はあの方法が最善だった'と説かれる。


私は、誰かを犠牲にする方法が最善だなんて思いたくない。…違う、彼が犠牲になる事が最善なんて思いたくないだけ。

分かっているのに分かりたくないんだ。いつもいつも、ずっとずっと同じ問答を自分の中でする。


彼だけが、あの魔族の攻撃に反応できていた。仮に、自分が残っても時間なんて稼げていない。皆で残っても、彼の足を引っ張る可能性の方が高かった。


仲間を失う事が…こんなに辛いものだとは思わなかった。

両親の死と同じか、それ以上か…それともまったく別物なのか…それすらも分からない。


「少し、いいですか?」


「…どうぞ」


ノックの音の後に聞こえたのはメイさんの声。

もちろん入室を拒否する理由もなく、許可する返事をすると、メイさんが扉を開けて入ってくる。

少し耳を済ましたけど、隣の部屋で音がしないことから、どうやらメイさんが食べ終わってすぐに来たみたい。


私に一度頭を下げて、隣に座るメイさん。

一体、なんの用なんだろう。


「……どうしたんですか?」


「いえ、少しお話がしたくて」


お話…私は、あまり話す事が無い。

元々、会話が得意な方でもないし…。それに…


「それに、私とはそれほど親睦が無いし、出会って間もない。

心が読める相手は何を話そうと言うのか…ですか?」


「……」


その通りです。


教会という組織で、その特異性な力を評価されて'枢機卿すうききょう'の位を与えられているこの人は、一体私と何を話そうと言うのだろう。


「私の力ではありますけど、私自身の評価とはちょっと違う気がするので、あまり肩書の事は触れないで欲しいです。

教会の看板娘の様な存在でしかありませんから。

まぁ、だからこそ枢機卿の位でありながら、勇者アインの旅に同行できては居るので悪いことばかりではありませんけどね。

それに、枢機卿が魔王討伐に加担できたとなれば、教会自体の評価も上がりますから」


だから、彼が居なくなった後釜に教会はこの人を指名した。

彼の後は、アイン様さえ認めれば加護は受けられる。アイン様さえ認めれば、誰でも彼の後釜として認めら晴れて勇者一行。


誰かが居なくなっても、勇者さえ居ればもう一度旅が再開できるように…。


「私、随分と嫌われてますね」


「いいえ…そういうわけではありません。

私が、元々悲観的な方なだけです」


他の方と話していても変わらない。

アイン様でもルニンでも、新しく入ったイリアさんが相手でも、もちろんこの人相手でも…。

たとえ、彼が相手でも変わらない。ただ違うのは、彼には言いたいことが言えてしまう。悲観的な言葉も、その度に彼はいつも私を安心させてくれる。

その瞬間だけは、きっと私は素直になれている。


「よくフェルさんは'彼'の事を考えていますね。

その方は、私の前任の方…アモル・メーンス。アインとルニンの幼馴染であり、勇者一行の後衛担当。

私やイリアは会ったことがありませんが、二人からは優秀な方だったと聞いています」


聞いているだけで知ったような事を言わないでほしい。

教会に指名されたメイさんの実力も分かっている。元々、メイさん護衛役だったイリアさんの実力も共に戦っていれば分かる。それでも、メイさんは彼の様な戦い方はできない。


「…そうですか?」


「今、私の考えは見ない方が良いと思います。

きっと癪に障るかと」


「いいえ、私の事を考えて色々言いたい放題の方は数多いので気にはしませんが…どうして、私では彼の様な戦い方はできないと?

身を挺してアイン達を守る程度の覚悟はあるつもりですが…」


だから、彼の戦い方はできない。

彼は貴女の様に強くない。だからこそ、彼は皆が傷つきにくい戦い方をしていた。気がつかない内に守られていた。

必要最低限が、彼にとって生存率の高い最善策だったから。

でも、私にとっては信頼されているようで、戦いやすかった。


「私の様に、回復を掛け続け、パーティーの心の内から望む援護をする。それではダメだと、信頼は置けないと?」


「いいえ、貴女のサポートはすごいと思います。

的確で、明確で、正確で、傷ついた先から回復してくれる。攻撃面だって彼にはなかった。

色々と考慮すれば、きっとメイさんは素晴らしい方だとは素直に思います」


それでも、この人の半分以下の魔力で同じ事をしていた彼は、どれほど努力を重ねたんでしょう。

どれだけ、私達の事を理解してくれていたのでしょう。

身を挺して守るなんて、彼にとっては最後の手段として当然のようにあったはず。覚悟なんて必要ない程に当然のように。


「一度、会ってみたいですね。その彼に」


「私も会えるなら、会いたいですね」


「フェルさんは、彼の事が好きなんですね」


「…?」


いきなり、この人は何を言っているのだろう。

私は、彼が家族と同じ様に好きだったと言いたいのか…。


「家族愛…ではなくて異性としての好意ですよ。

貴女は、どうやら自分で気づいていないようですが、それは彼に惚れているという事ではないでしょうか。

ただ、愛されたいのなら愛する事を忘れてはいけません。

無償の愛は、子が受ける特権です。神は人の子皆に無償の愛を向け、平等故に何もしません。


もし、その気持ちに気づけたのであれば、自分から向けてみてはいかがでしょう。

傷付く恐れがあっても、その方に愛を向けたい。その愛を向けてほしい。

恐れ愛せないのであれば、きっと愛される事は無いでしょう。

貴女は、その彼にとって子供ではありませんから」


…何を言われているか分からない。

ただ…自分が納得した事は分かった。彼の事をこんなに考える理由も、あの時、彼に相談してしまった理由も…。


浅ましい。

私は、いつしか彼に好意を抱いていたんだ。

守ってくれる彼に、守っていた彼に…アイン様やルニンを後ろで見守る彼の隣に立ちたいって思っちゃたんだ…。


その気持ちに気付いてしまえば、息苦しさも心苦しさも無くなっている。

今まで考えていた事もストンと心に落ちてくる。


あぁあ…なんで早く気がつけなかったのかなぁ。そうしたら、きっとあの時に一緒に残れたのかな?


いや、きっと結果は変わらなかった…。もし、気付けて気持ちを伝えられても、彼はきっと同じ選択をした。

そして、私はもっと彼を知れていて、彼の気持ちを汲んでいた。だからかな…一つだけ言っておきたい。


「メイさん」


「なんですか?」


「私は、彼に無償の愛も向けたと思います。

その愛し方は、子供の特権ではないでしょう?

思っているからこそ、彼にだけはそうしたいから…そうしたかった…」


「…そうですか。

生憎、神の御心を説くことはできても、私自身がそういう事に縁は無かったので、人の心のソレの良し悪しはなんとも言えません。

それは、アインやルニン、最近ではイリアもですか…彼女達の方が分かっているのでしょう。


でも、今回貴女とお話ができて良かった。

そういう心の在り方を見る事もできましたし、なにより…貴女の事を少しでも知る事ができました」


この人は、本当にこんな話をしに来たかったのかは分からない。

けど、最初とは違って、少し話しが出来てよかったと私も思う。私が見えてなかった所を見つめる事ができた。


もう少し早くとは思うけど…もう、伝えられないと分かっても…彼に思いを寄せていた事が分かって良かった…。


…この人は、こんな私の事を知れて良かったのだろうか?


「えぇ、それだけではありません。

いつもは無口で、最低限の肯定否定ぐらいしかしてくれないフェルさんも、その彼の事になると沢山喋ってくれることが分かりました」


「そんなに、喋ってましたか…?」


「それはもう。心の中も、その口からも沢山の言葉を聞けました」


嬉しそうに笑うメイさんを見て、自分がそんなに喋っていたのかと驚いてしまう。


本当は、私はお喋りだったのだろうか…?

彼の前でもお喋りだったのだろうか…。


そう考えると、少しだけ身体が熱くなってしまった。

それはまるで…彼が祈りを捧げた時の様に…。


「これは…祈り?」


え…?


----


体感する事はできない程に、ほんの少しだけ周囲の空気が冷めた。

私は、この空気を知っている。教会に通う子達が初めに教えられる神への祈りの空気。


でも、この感覚はなんでしょうか…。雑念が多いし、何よりこの祈りは自分に対するものじゃない。


「あの…今、祈りって…それは、こう…空気がひんやりして、胸の辺りが暖かくなるやつですか?」


フェルさんの言葉に私は驚く。

今の変化を感じたと言うのか…神の信仰をし続けた私ですら僅かに感じれるこの感覚を。


「フェルさんは知っているのですか?」


「…はい。彼が日課にしていたので…」


…どうやら、彼女の心境変化と祈りが重なっただけみたい。

きっと、フェルさんには祈りが行われた事は気付いていない…けど、彼女は祈りの加護を今、受けている。

私の眼にはそれが見える。


勇者一行に対する祈りが近くで行こなわれたのか…それとも………


「フェルさん、この近くで教会がありましたか?」


「…?いいえ、この街には教会はありませんよ?

少し…離れた所に一応教会はあるようですが……」


その教会ならば、私も知っている。でも、その教会はこの時間に祈りを捧げる習慣は無いはず。

仮にあったとしても、こんな薄く感じるなんて事は無いはず…。

もっと小規模な祭壇で…祈っている様な…。


もし、迷い人が祈っているならば助けなければなりませんね。


「すいません。少し用事ができました。

今日はこの辺で…また、お話してくれますか?」


「……私で良ければ」


「それは良かった。では、また明日にでも…」


不思議そうな顔をしているフェルさんに一礼をして、私はフェルさんの部屋を出る。

今日、彼女と話しができたのは良かった。最近、死に急ぐ様な戦い方が目立っていたから、私もアイン達も気にしていた。


その彼に会ったことはありませんが、大分彼女の心の支えになっていた様子。

今回で、自分の気持ちに気付けたのであれば、少しは変わると信じましょう。

彼女は強い方です。戦いの中で冷静で、無意識に死に急ぐような事さえしなければ、もっと安全に戦える。

アインもルニンもそうですが…この一行は彼の存在が大きすぎた。

何よりも精神面でのケア。アインやルニンは身体を重ねる事で、なんとかしていた様ですが…それ以外でボロボロな節が見え隠れしていますし…。


愛情と友愛は別物である事を改めて認識させられる。


このパーティーに置ける問題点を見直しながら歩いていると、一階で剣の手入れをしているイリアを見つけた。

もちろん偶然ではなく、私は彼女がここにいる事を知っていて来たのだ。


「イリア、時間はありますか?」


「メイ様!ハッ!大丈夫です!」


「今は同じパーティーでしょう。堅苦しくしなくていいですよ」


「ご、ごめん…。中々癖は抜けなくて…」


私の護衛としての期間が長いイリア。

私が信頼を置ける相手。この子は素直すぎるから、少し危なっかしい所もあるけど…イリアが私の支え。

きっと、彼女に何かあったらと思うと…その時の自分を想像すれば、アイン達の事も分からないわけじゃない。


「それで、どこかに?」


「えぇ。少し気になる事があって…大丈夫?」


「もちろん。メイに着いてくよ」


「アインの所に行ってもいいのですよ?」


「メイ!そう直接言われると…ね…?」


顔を赤くするイリア。その心境も可愛らしく赤くなっている。

初めは吊り橋効果の様なものだったが、今ではすっかりイリアも乙女ね。


今の私に、そういう自由は無いけれど…貴女の幸せな所を見ると、私も幸せになれる。

長年、一緒に居ると情も湧く。是非、イリアには私に気を使わずこのまま幸せを掴んでほしい。


「んんっ!それで、どちらへ?」


「ふふっ…どこかとは言えないけれど、どうやら勇者一行に向けて祈りを行った子が居るらしいの。

珍しい事ではないけれど…どうも教会とかでは無いみたい。

もし、助けを求める祈りなら、見捨てるわけにはいかないでしょう?」


「なるほど…準備はいつでもできてる。今すぐにでも行けるぞ」


「では、アイン達に一言告げてから行きましょう」


私の言葉に頷いたイリアは、おそらくアイン達が居る場所へと歩いていく。

その間に私は移動の為の準備をする事にした。


宿の裏にある開けた場所に移動した私は、周囲に十分な空間がある事を確認して、いつも持ち歩いている魔法陣が書かれた布を広げる。


場所が不確定な以上、教会が保管している移動魔法は使えない。

だから、私は大司教以上が管理する魔法を使う。


「主よ、お力をお貸しください。 '召喚・霊鳥'」


私の祈りに呼応し、広げた布の上に書かれた魔法陣が輝く。

その光りが収まると、目の前に白く輝く巨大な鳥がこちらを見ていた。


「おやすみの所、ありがとうございます」


私の言葉に、白き霊鳥は可愛らしく鳴き、身をかがめてくれる。

この霊鳥は、私が神に祈り契約を許された神の眷属の一体。大司教になる条件として、神から眷属を一体お借りする事が条件としてある。

もちろん、彼等にも都合や好みもあり、必ず契約できるわけではない。神から許され、眷属に認められた者のみが大司教へと成れる。


「すまない!待たせた!」


「イリアもいいですか?」


走ってきたイリアを見た霊鳥は、持ち上げた頭をもう一度下げ、早く乗れと言わんばかりに鳴いた。

少しぶっきら棒な子ですが…この子も優しい子なんですよね。


霊鳥の態度に微笑ましさを感じながら、私とイリアは霊鳥の背に乗る。それを確認した霊鳥は、あまり揺れがないように、ゆっくりと飛び立った。


「それで、どうやって場所を?」


「一応、祈りを辿って場所を割り出してはいます。

まだ、そこに居てくれればいいのですが…」


霊鳥は、私達を乗せながら私が口にしなくても私の意思を汲み取って飛んでくれている。

目的地は、泊まっている街から馬なら半日程は離れた場所にある小高い丘。だが、霊鳥ならば一時間程度で着く。


念のために、街の近くにあった教会の様子も上空から見たけど、やっぱりここではないみたい。

私は霊鳥に願い、少し速度を上げて目的地へと急いだ。


「ありがとうございます。帰りにも呼ぶので、お願いします」


私は霊鳥に礼を言うと、霊鳥は一度鳴き、光りとなって消えていった。


さて…この辺だと思うのですが…。

祈りの中心だと思われる場所に着いたけど、周囲に人影はなく、私達は小高い丘の頂上と目指して祈りを捧げた方を探して歩き出した。


探してはみたが、そのような方は見当たらず、頂上へと着いてしまった。

そして、そこには人影が一つ…。


その人物を見た瞬間、私は首を締められた様に息ができなくなった。


「メイ!」


「ハッ…ハァ…」


突然膝から崩れてしまった私を心配して、イリアが私を支えてくれる。

そのおかげで、私はなんとか立ち上がり、気持ちが落ち着き、目の前の人物を直視できるようになった。


そうすると、先程と同じ様に目の前の人物の心が見える。

何を考え、何を思うか…それが見える私のはずなのに、その人物から見えるのはただただぐちゃぐちゃで…悲鳴の様な声が聞こえ続け、まるで地獄だ。


「神聖な気配が近づいて来たので、待ってみましたが…まさか、こんな所でお目にかかれるとは。

噂で聞いてはいましたし、遠目ながら、もしやとは思っていましたが…なるほど、本当でしたか。


お名前とお姿は聞き及んでいます。

こうしてお目にかかるのは初めてですが、お聞きしていた通り幼いながらも聖女の様な方ですね。


教皇様に仕える四人の内の一人であり、最年少の枢機卿。

神のまなこを持つと言う…メイ=リティニア様」


「貴様、何者だ…」


その人物から漂う雰囲気にイリアも危険性を感じ、私を庇う様に前に立ち、その黒いローブの人物に剣を向け問う。


「そして、その側近としても優秀であり、何より剣の腕は教会騎士テンプルナイトの中でも五本指には入る程だと聞く…イリア=フォントラスト。

大変ですね。有名と言うのは、それだけ情報が漏洩しやすい。

でも、貴女達が新しい勇者一行と言うのであれば、心強いですね」


「もう一度だけ問う。答えなければ、敵と見做す。

貴様、何者だ」


「敵対の意思はありません。

ただ…名を置いてきてしまったので、お答えできるとすれば…ただの聖職者です」


そう言いフードを取った彼が顔を見せた瞬間、彼の心は先程までが嘘の様に静まり返り、見えたのは、そこに言葉はなく。

ただただ優しい慈愛の風と、ただただ純粋な殺意だけでした。

私が忘れた時用に


メイ=リティニア

教会所属 枢機卿の一人

現勇者一行の後衛


イリア=フォントラスト

教会所属 教会騎士テンプルナイト 枢機卿直属護衛

現勇者一行の前衛

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