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名も無き聖職者  作者: 慧瑠
今や旅人
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冒険の書が消えました。

なるべく、1ページ1ページの文字数に差が無いようにと思いましたが…長い時は長くて、短い時は短いです。

お許しを。

皆が起きた事で、少しだけ予定を早めて移動する事に僕達は準備を始めた。


「荷物、いつもすまないな」


「戦う度に、後衛に渡すのも面倒だから気にしてないよ」


旅の前日に貰った鞄の中にテントなどを片付けた僕に、手伝っていたアインが申し訳なさそうに言ってきた。


この鞄、なんでも初代勇者に神が授けたらしくて、いくら入れても膨らまない。

入れすぎると少しずつ重くなっていくけど、それでも本来よりはずっと軽い。

だから、アインが気にする事もないし、特に役立てない僕にとってはこれぐらいはしたい。


「結構荷物が増えて、重くなってるだろう?」


「それでも全然軽いよ。

教会で本を運んだ時の方が重かったぐらいだ」


「あー…俺も手伝った事があるが、あれは結構キツイよな。

まぁ、いつでも変わるから言ってくれ」


「ありがとう」


自身の武器など必要な分以外は全部鞄に入れて片付けを終えると、僕達は依頼を受けた村へと進め始めた。


適当に会話をしながら歩いていたけど、少し違和感が僕を襲う。


「アイン」


「あぁ…多分、同じところをグルグルと周っている」


「だよね」


アインも違和感に気付いていたみたいで、そう会話する僕達の目の前には、休憩に使っていた焚き火の跡があった。


どこから…。

祈りができた事から、その後からだとは思うけど…準備をしていた時かな。

違うね。今考えるのは、どの時にじゃなくて、この状況をどうやって脱出するか。

今は、僕達は見えない敵の攻撃を受けているんだから…。


「どうする」


「村から離れちゃうけど飛んでみる?」


「それが一番手っ取り早いか…できるだけ近場の街に飛んで、馬を借りて村へとは急ぐ」


「それじゃあ、僕が飛ばすから警戒お願い」


「フェル、ルニン、周囲を」


僕とアインの会話を聞いて、アインが言う前には二人は周囲の警戒をしていた。

それなりに長く旅をしていると、意思の疎通が簡単で助かるね。


僕は、周囲の警戒は三人に任せて、この状況から脱出するための準備に入る。


勇者であるアインと、旅する仲間の僧侶として教会から教えられた魔法。

初代勇者が考案した魔法らしくて、教会が厳重に保管している魔法。

この魔法用の魔法陣を予め置いた場所へと移動する魔法。


なんでも、勇者とそのの仲間でないと覚えても使えないらしいけど、教会側はこの魔法は勇者の仲間になった僧侶と、その当時の勇者にしか教えない事にしているらしい。

この魔法…僕からすれば、結構魔力を使うから連発はできないけど…何に狙われてるか、どんな相手か分からない以上はアインを警戒に回すのが一番安全に魔法を発動できる。


僕は、イメージする。

今を起点として開く門を…そうすると、イメージの中に行ける場所がポツポツと浮かんでくる。

その中から、終点となる場所を指定して…後は、門を開ける鍵となる魔法名を口に「させないわ」できなかった。


「なっ!」


アインが驚いているけど、それより止血しなきゃ…。


魔法名を唱えようとした瞬間、僕の脇腹を何かが貫いた。そのポッカリと開いた傷口からは血が流れてしまっている。

焦る気持ちを抑えつけて、僕は自分に回復魔法を使って傷口を塞いだ。


「どこから…」


「わからない!」


「どこだ」


みるみる塞がっていく傷口を確認して、僕も三人と同じように周囲に意識を向ける。

アインもフェルさんも気づかないなんて、そうとう危ない攻撃だ。

最悪、頭を攻撃されて即死なんて事もありえる。

さっきやろうとしていた移動魔法と一緒に、蘇生魔法も教えられてはいるけど…正直、あれは使いたくない。

覚えさせられるために、一度体験した死は、蘇りは気分のいいモノじゃない。できれば、アイン達が経験せずに僕は冒険を終えたい。


アインが見れば、もしかしたら蘇生魔法も覚えてしまうかもしれないけど…効率が良くなるかもしれないけど…そうなったと言う事は、誰かが死を体験してしまったということ。

あんなもの、最悪心が死ぬ。狂ってしまう。僕は、それを体験させたくない。


余計な事を考えていると分かってるけど、見えない敵に感じる恐怖から死を連想してしまう。


「それされると面倒なのよね。

だから、屋外をダンジョン化するのは嫌いなのよ」


ふと声がした方に視線をずらせば、ソレは居た。

健康そうな白肌に、異性を挑発するような服。その背中からは、コウモリ型の魔物の様な大きな翼が生えて不敵に笑い見てくる女の人が…。


「初めまして勇者一行。

私、魔王様の側近の一人である名をレミア。


貴方達は、魔王様の障害にしかならないから…ここで死んでね」


その女性は、アインに指を向けた。

その動作だけで、脳で警鐘が鳴り響く。何が危険なのかは分からないけど、このままだとアインが死んでしまう。


そう思った僕は、咄嗟に防御魔法を展開しながらアインを突き飛ばした。


「ぐっ…」「がっ…」


突き飛ばしたアインが、少し呻き声を上げるけど謝る事が僕は出来ない。

フェルさんもルニンも何事かと驚いている。


僕にも見えてはないけど、確かに感じた。展開したはずの防御魔法を簡単に突き破った事と、その何かが今度は僕の肩を貫いた事に。


「あら…反応できるぐらいに成長してたの?

魔王様の言う通り、勇者一行っていうのは成長が早いのね」


少し驚いた様子の女性だが、その余裕そうな態度は変わってない。

それに、僕は僕で肩の傷口を塞ぐ事と、この現状をどう逃げるかで女性の余裕そうな態度を気にしている暇はない。


移動魔法には、少し時間がかかる。

そして、準備が終わっても移動の瞬間は隙だらけでただの的だ。この女性なら、その移動の僅かな隙だけで僕達を全滅させきるだろう。


今の僕でも、あの僅かな時間でも一人は殺れる。それほどまでに隙だらけな移動魔法を使う暇はない。

なら、対峙するか?それもダメだ。

僕の魔力で補助するのには、限界がある。アインやルニンぐらい魔力があれば、少しは戦えるけど…この女性相手にはその少しもダメだ。


どうする…。

ここで死ぬか?それが一番ダメだ。勇者一行にしか効果がない蘇生魔法で蘇る可能性があるとしても、目の前の女性が僕達の死体を完全に消すか持ち帰るかされたら終わりだ。

それに、死体が魔物達に食われ尽くす前に誰かが見つけてくれる保証すらないじゃないか。


何より、僕は蘇生魔法の感覚をアイン達に知ってほしくない。


……今の僕に思いつく方法は一つしかない。

アインに言ったら、怒られるな。


「アイン」


「ダメだ」


「まだ何も言ってないよ」


良かった。アインもその結論が出たんだね。

なら、きっとこの方法は最善なんだろう。


「それは俺が認めない」


「君は勇者だ。そして、僕はその勇者一行の僧侶なんだ」


「その前に、お前は俺の親友だろうが!」


「……やっぱり、アインはカッコイイな。

僕の親友のアイン、君なら分かるだろ?それが最善なんだ。

なら、僕を信じてくれ」


「だからって!」


「アイン!!!……大丈夫」


こんな声を荒げたのは何時ぶりかな。

多分、フェルさんの前では初めてだ。だからほら、驚いてる。

ルニンですら、驚いてるね。滅多に見ない表情をしてるよ。


「アイン…早く」


「…どこで待てばいい」


「そうだね。一週間ぐらい待ってくれれば…村で落ち合おう」


アインなら、納得してくれると思ってた。

いちいち言わなくても、きっと分かってくれると思ってた。


僕の言葉に頷いたアインは行動を開始した。僕もアインに肉体強化魔法を使う。


アイン、そんなに睨まないで欲しいな。

これが今できる最善だと、僕もアインも思ったんだから仕方ないだろ。


「え…アイン様!?」


「ちょっと!アイン!」


僕とアインの会話の流れに嫌な予感でもしてたのだろう。

アインに手を引っ張られたフェルさんも、ルニンも、珍しく抵抗している。

まったく…今の僕達じゃあの女性に勝てない事は二人も分かってるだろうに…。


「もういいかしら?」


「待ってくれるなんて、優しいんですね」


「魔族は、そういうの嫌いじゃないから。

それでも抗えないと分かった時の絶望的な顔が、魔族は好きなの」


「余裕そうですね」


「余裕よ。

貴方一人が残っても、私はすぐに殺せる。

その後に、あの勇者達を追いかけて移動する前に殺すなんて…今の私でも十分」


「あぁ…そうやって慢心しているから、毎度毎度勇者に負けるんですね。貴方達って」


できるだけ、目の前の女性の意識を僕へと向ける。

強化魔法で強化されているアインに二人は抵抗しても引っ張られていく。


アインを傷つけるわけにもいかない二人は、本気で抵抗もできない。


「もしかして…煽ってるのかしら?」


「え?いや、別にそんなつもりはありませんよ?

もしかして、煽られてる様に聞こえましたか…?それは、申し訳ない事をしました。

その羽から魔族だと分かっていましたが…こうして魔族を見て話すのは初めてだったので…」


「何が言いたいの?」


「いえいえ、まさか魔族がこんな安い言葉で反応して怒る程に器が小さくて…低俗だとは思っていなかったので」


「殺す」「'シールド'」


魔族の女性は僕に指を向ける。

さっきと同じだ。


だから、僕は防御魔法を唱える。

いつもより魔力を込めて、何枚も何枚も少しだけずらし並べて展開する。

瞬間、展開した魔法は何かに貫かれていくが、徐々に威力が落ちて狙っただろう方向からズレていく。

そして、その女性の攻撃は、僕の顔の横を通過するだけに終わる。


「……」


「さっき、'今の私'でもって言いましたね。

もしかして、魔王もまだ完全に力を出せないんですか?だから、その魔王の力を授かる貴方達もこんな攻撃しかできない」


「知ったように言うわね」


「過去の勇者の冒険の記録って、結構役にたつんですよ。

なんせ、貴方達を倒して世界を救った方々の記録で…貴方達の秘密まで記してくれていますから」


「だったら何かしら?

そんな防ぎ方してたら、貴方の魔力が先に尽きるのは目に見えてるわ」


「ふふっ…そうですね。

別に、僕はアインやルニンの様に魔力を持っていませんからね。

確かに尽きてしまうかもしれません。しれませんけど…僕の目的は、貴方も分かっていると思いますが?」


「時間稼ぎ。

貴方は、その時間稼ぎをするための生贄。


でも、甘いわね。私が見逃すと思うのかしら」


女性は、今度は指を向けるのではなく掌をアイン達が逃げた方向へと向けた。

その掌には、黒い靄が集まり球体を形作っていく。


今から放たれる攻撃をどうにかするには、さっき程度の魔力じゃ意味がない。それが分かる程に嫌な感じが伝わってくる。

けどね、僕だって奥の手が無いわけじゃないんだ。


「僕が、それを見逃すと思うんですか?」


背負っている鞄ではなく、腰に付けている小さなポーチからエデの実を一つ取って食べる。

スッと落ち着く気持ちと思考。


やっぱり、なんだかんだと言っても僕も怖かったみたいだ。


落ち着いた思考でそれを理解しつつ、僕の武器である杖に魔力を込めていく。


「何をする気かしら?」


「どうぞお気にならさずに。

貴方が全力を出せない事を神に感謝していたところですから」


実際、全力だったら溜めなんていらなかったのかもしれないけど…今は溜める必要があるその技を選んでくれて良かった。

時間をくれたからこそ、僕も時間を掛けられた。


「まぁ…さよなら」


「もう少しだけ、お付き合いください 'ロッド・オブ・アエギス'」


女性の攻撃が放たれると同時に、僕の杖が光りを放つ。

その放たれた光りは杖を中心とした壁となり、女性が放つ黒い直線の魔法を受け止めた。


受け止め続けると、自分の魔力がどんどん減っていくのを感じる。

このままじゃ、受け止めきる前に僕の魔力は尽きるだろう。でも、僕はそれを許さない。

追加でエデの実を食べ、微量に保有魔力の上限値を上げる。そうすると、不思議と枯れた魔力がちょっとだけ戻ってくる。


どういう理由かは分からないけど、0の魔力が1だけ回復する。

数字で表すとこんな感じだ。

これが、一番僕が理解しやすい。


きっと、自然魔力が回復する量も少しだけ上がっているんだろう。

僕はそれで納得している。


でも、空になった状態で魔法を発動しようとすると、生命力を使うことは一般常識だ。

つまり、常に魔力を消費する魔法を発動し続けると魔力は当然空になって、それでも続けて発動し続けると、生命力を削っていく。


エデの実で、少しだけ魔力を戻しても、0以下になる時間は出てくる。その結果は、肉体に現れる。


「貴方…死ぬ気かしら?」


「生贄と言ったのはそちらでしょう?

まぁ、僕は死ぬ気はないですけど…」


裂けていく皮膚に痛みを感じながら、僕は魔法を止めない。

代わりに残っているエデの実を食べていく。

口の中も切れているのか、味がしない。今の僕にとっては、好都合だ。


限界など等に越え、時間がやたら長く感じた。

今、どれほど経ったのか…数時間か数分か…はたまた数秒か。


エデの実を食べても朦朧としていく意識の中で、そんな事を考えていると、僕の魔法とは違う光りが後ろから僕の影を伸ばした。


あぁ…やっとアインが移動魔法を使ったみたいだ。

後は、僕もどうにかしなきゃ。


そう思って腰に付けていたポーチの中を漁るが、中は空っぽだった。

どうやら、ストックしていたエデの実を全部食べてしまったらしい…。


「まぁ…もってよかった…

主よ…どうか…彼等を見守りくだ…さい……彼等に…幸あれ……」


頑張って絞り出した言葉は、小さすぎで自分でも言えているのか分からない。

薄れ、落ちていく意識の中で最後に思ったのは…


鞄…アインに渡すの忘れてた………。困るだろうなぁ・・ ・・・ ・

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