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名も無き聖職者  作者: 慧瑠
今や旅人
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冒険の書を記録しますか?

今日も疲れた。


日中に予約した宿屋の一室で日記帳を開き、今日の分を綴る。

この行為に意味は既に失われているが、今や日課となってしまった。


今日あったことを記し、新たに見つけた魔物の特徴があればまとめ書き、本日の成果とでも言えばいいのか…そういったものを記していく。

一通り書き終えると、いつもの様に本を取り出し読みふける。

この本は、この町で買った新しい本だ。

以前読んでいた本を売って手に入れた路銀から、少し奮発して買った本。


日記帳と昔から持っていた一冊の本以外は、売っては買ってを繰り返している。

一度読んでしまえば、ある程度は内容を思い出そうとすれば思い出せるから、何度も読む必要はないから。


まぁ、日記帳なんて売っても仕方ないし、自分の愛読書なんて古くてボロボロで路銀の足しにもならない本だ。

思い出の品だからか…もう読まなくても丸暗記している本をいつまでも持っている自分に呆れもする。


部屋の中には紙が捲れる音と、時たまにグラスの音だけが響く。

昔なら、ここに隣から聞こえる軋む音や嬌声が聞こえていたが、今では外の雨音のみ。

心地いい音だ。

不思議と読書が捗る。


どうやらこの本は誰かが記した冒険譚が元のようだ。

読み進めていくと、仲がいい。喧嘩をした。仲直りをした。仲間が恋仲になった。実は昔から自分もその相手が好きだった。彼女は幸せそうだ。彼は強い。魔物が強い。苦しくても大変でも、困難があっても仲間と一緒だったから乗り越えられた。

恋愛模様と主人公の心境と葛藤と…仲間と共に行った英雄の様な行動と、過ちや困難に立ち向かう姿。

上手く表現され、最後はハッピーエンドで終わった。


起こった困難の半分が男女のしがらみなのは、事実なのか、それぐらいしか書くことが無かったのか…。


まぁ、分からなくもない。

だって自分も昔はそうだった。想いを寄せ、その相手は昔馴染みに取られ籠絡、自分の中で落とし所を作るのに苦労した覚えもある。

…言い方が少し酷かったな。別に籠絡でもないし、元々自分の相手でも無かったのだから取られたという表現も違う。


どうやら、今でも少し彼女に思いがある事は、自分でも否定できないみたいだ。


でも仕方ないだろう。自分の幼馴染は神託によって勇者となり、強く大きく人々の光になっているんだから…彼女が惹かれるのも仕方ない。…彼女達と訂正はしておこう。


英雄色を好むとは過去の勇者が言い、自分は節操なしと笑ったけど、今になればよく言ったものだ。と関心してしまう。

今頃、自分の幼馴染はモテにモテまくっているのだろう。

そんな世界の光の勇者パーティーに自分が居たと言うのは、小さな誇りか…はたまた消したい過去か。


雨音の中で、思い出に耽けるのも悪くない。

悪いばかりで無かったのも確かだ。


同じ様に日課になっている読書時に食べるクソ苦い種を口へと運び、次は日記を読み返す事にした。

不定期です。


よろしくお願いします。

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