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寂夢  作者: 蛍石光
寂夢 二
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二 その二

その一の続きです。


前回の疑問だった点が少し解消されるかもしれません。

「あれはもう二十年は前の話だ。例の洋館に住んでいるかたの話だ。あそこには二人の可愛らしい双子がいてなぁ。そう、女の子だ。まぁ、ありがちな話ではあるんだが・・・どこにでもいるんだよ。悪いやつってさ。」


「そう。あれはひどい話だった・・・」


「金目的の誘拐、まぁそんなところだったんだろうな。双子の女の子のうち一人が誘拐されてな。俺たちがそれを知ったのは事件が起こってから数か月がたってからだった。なんて言うのかね。メンツっていうのを気にした館の旦那様がさ、警察にも頼らずに独自に捜査をしてたらしいんだよ。結果としてそれがまずい結果の原因になったともいえるんだろうけどな。」


「そうね・・・私たちを信じてくれていたら・・・」


「俺たちも、気が付かなかったんだ。双子の子がいたことは知ってはいたけど、二人が一緒にいつもいるわけじゃなかってし、見た目は本当に瓜二つだったからな。親でも区別がつかなかったのかもしれない。その子たちの名前は愛ちゃんと舞ちゃん。正直、今でも俺にはどっちが愛ちゃんで舞ちゃんだったのかわらないさ。二人ともいい子だったからな。いつも笑顔で優しい子だったよ。町の子たちとも仲が良くてよく遊んでいたもんさ。」


「本当にね。あの子たちは天使だったよ。私たち村人にとってはね。高無さんは村の顔役だったし、わたしらが何かを言える立場じゃなかったけど、高無さん自体も良い方だったからね。村のことを第一に考えてくださる方だったよ。本当にね・・・」


 そうか・・・まだ詳しいことはわからないけど良くない結果だったんだろうな・・・


「話が逸れたな。すまん。まぁ、その事件で舞ちゃんがいなくなったんだ。いなくなったとき舞ちゃんは三歳だったから、この町のことなんかもう、覚えてないかもしれないけどなぁ。」


 覚えてない?どういうことだ?


「えっと、どういうことですか?事件があって・・・」


「そうだよ、あんたの話はいつもごちゃごちゃしててわかりにくいんだから。」


「うるせぇよ。ちゃんと整理して話せっていうんだろう?・・・全く・・・かあちゃんにはかなわねぇなぁ。」


「あはは・・・」


 二人の関係を垣間見たような気がする。


「まぁ、もう一回整理して話すとな?あそこの洋館にはさ、村の顔役の高無さんが住んでらっしゃったんだ。昔からこの村の発展に尽くしてくれていた村の名士だ。そこには可愛らしい双子の娘さんがいらっしゃってな。二十年くらい前に一人誘拐されたんだ。誘拐された子は舞ちゃん。妹の方だ。誘拐されたときは三歳だったが・・・未だ見つかっていないんだ。」


「え・・・でも、さっきは覚えてないんじゃないかって・・・」


「あぁ、俺たちはさ。今でも信じてるんだよ。どこかで舞ちゃんは生きているって。そういうことさ・・・」


 なるほど。そういうことか。でも・・・実際はたぶん・・・口には出せないよな・・・


「でもさ、今でも噂されていることはあるんだよ。」


 女将さんが眉をひそめて小声で話す。


「ここでは昔から双子は忌み嫌われていてね。ほら、何かの生まれ変わりとかそういうものとか言われてたことがあったでしょう?それでね、陰口をたたく奴らもいたのさ。高無さんがやったんじゃないかってね。」


「けどなっ、それはないと思うぞ?そりゃ、村の一部の奴らには愛ちゃんと舞ちゃんを嫌ってるバカ共がいたことは事実さ。でも、この時代、双子なんてごまんといる。いちいちそんなことを気にしていたら生きていけねぇだろうが。それに・・・舞ちゃんがいなくなった時の高無さんといったら・・・」


「そうだねぇ。今思えば・・・だけどね。」


「今思えば?」


「あぁ、初めは隠してたんだよ。ほら、村人の中には双子を忌み嫌うやつらもいたから、もしかしたらって思っちゃったんだろうね。」


「でもなぁ、たとえそうだとしても、実際にそんなことをする奴なんかいるわきゃないんだっ。」


 その言葉には確信したい、そうであってほしいという願いが入っているようにも聞こえたのは気のせいだろうか。


「えっと・・・つまり、その舞ちゃんですか?誘拐されて今も見つかっていないって・・・」


「そうだよ。あぁ、あんたもタカナシさんだもんね。やっぱり気になるだろ?」


「そうですね。苗字が似てますからね。他人事とは思えないです。」


 高梨と高無。もしかしたら関係でもあるのかなって思わないでもないけど・・・俺は親のことは知らないからな。本当に高梨なのかなんて知る由もないさ。俺のことを引き取ってくれた親切な方は柴田さんだしな。


「まぁ、そんなこともあってさ。高無さんは引っ越してしまったんだよ。やっぱり、ここにいるのが耐えられなかったんだろうなぁ。だから、今のあそこは空き家なんだよ。」


「そうなんですね。」


「まぁ、結構古い建物だし、俺たちはあそこに住むなんて恐れ多いこともできないしな。それに・・・」


「それに?」


 まだ何かあるんだろうか。


「まぁ、デマだと思うんだが・・・あの家には幽霊が出るって噂もあってな。」


「今度は幽霊ですか?」


 なんというか、空き家となった洋館に幽霊だなんて。なんてベタな設定なんだろう。


「そう、どこから広まったのかねぇ。女性の霊が出るとか言われてるんだよ。」


 女性の幽霊・・・か。もしかしてといった考えが頭に浮かんだのは確かだ。


「くだらない・・・とも言い切れないのが辛いところでなぁ。昔に双子を忌み嫌うっていう民間信仰があったって話はしたよな?でな、その信仰、やっぱりこの地域にもあったわけだからさ。昔はいろいろあったらしいのよな。あぁ、もちろん俺たちが生まれたころにはもうなかったぞ?その・・・双子が生まれたら神に片方を選ばせるなんていう野蛮な信仰がな・・・」


 旦那さんもさすがに声が小さくなる。


「それで・・・まぁ・・・その祟りを恐れてというか・・・なんというか。社を作ってな。代々その慰霊をしてるんだよ、高無家はさ。そう言ったこともあって、いろいろと言われたってのも事実だけど・・・」


 思ったよりも深い闇があるんだな。この村には。


「でもね、他の伝説もあるのよ。さっきの話とはまるで真逆な話。」


「真逆ですか?それは興味深い話ですね。」


 普通は真逆になるというよりも、尾ひれがついてしまうのが伝説のような気がするんだけどな。何があったんだろう。


「その伝説っていうのはだな。双子の神様の話だ。その神はとても慈悲深くて、不幸な境遇になる双子に愛を与えるというんだ。どちらの信仰が先に興ったのかはわからないけどなぁ。」


そこまで話して煙草に火をつける。


「ふぅ~・・・ってな感じでな?その神様は黄泉がえりの力を持ってるとされているんだ。」


「蘇り、ですか?」


「違う違う。それじゃ生き返ってしまうだろう?そんなことはないんだ。現実にはな。それに望んじゃいけない。死んだ人間は何があっても生き返ることはないんだ。それだけは心にしっかりととどめておかなきゃいけない。どんな代償を払ったところで・・・不可能なんだ。」


「はぁ・・・それは、まぁ、その通りだと思いますけど・・・じゃ、どういう意味ですか?」


 蘇りではないってことは・・・


「黄泉がえり。黄泉から帰ってくる。もちろん一時的にだ。そういう力を持っているとされているんだよ。」


「へぇ~、それはなんだか・・・興味深いですね。」


「そうだろう?双子を忌み嫌う村に双子の神をまつる村。どちらも同じ村だっていうんだからな。おかしな話だ。」


 いつの間にか用意されていた瓶ビール三本が空になっている。俺はそんなに飲んだ気がしないんだが・・・こんな話を聞いて酔えるわけがない。


「いや、一概にそうとは言えないかもしれません。」


 あ、しまった。村の深部の話だ。部外者の俺が言えた義理なんかないはずなのに。


「ん?どういうことだ?」


「あ、いえ・・・すみません。」


「気にするこたぁないよ。新しい風っていうのも感じてみたいしな。」


 そう言って話してくれと俺にうながす。女将さんも俺の顔を真剣に見つめている。


「えっと、僕はこういった文化学的なものが専攻というわけではないので、至らないところだらけだとは思いますが・・・信仰というのは何か理由があって興るものです。人は何も問題がないときにはそう言った救いというのは求めないものです。つまり、何か困ったことがあったから信仰が興るんです。えっと、何を言いたいのかというと、この村の双子にまつわる信仰はどちらが先とか後とかではなく、おそらく・・・本当にただの推測ですが・・・双子が・・・いや、そもそも姿が似ただけで双子でもないのかもしれません。とにかくその二人がこの村の誰かを救ったんでしょう。それは黄泉がえりとして伝わっていることだと思います。きっと、先立ってしまった誰かの声を代弁したのでしょう。その二人にそう言った力があったのかどうかが問題ではなく、事実だけがあったのでしょう。」


 二人は真剣な表情で話を聞いてくれている。


「でも、一方で・・・それを恐れる人たちもいた。双子が生まれる確率は約1%と言われてますから、単純に百人に一人は双子ということになります。それはとても低い確率ですが、ゼロではありません。そして、それが時の権力者の子としてだった場合・・・跡継ぎ問題などが発生すると思うんです。おそらく・・・生活が苦しいときに双子が生まれた場合は・・・そうでなくても苦しい生活だった場合・・・どういった行動がとられるのかは想像に難くないと思います。姥捨て山という話もあったくらいですから。」


 一気に話してしまってから後悔する。


「そうなんだろうな。現代の俺たちには理解できるが、昔の人間たちにはわからないことがあったりもしたんだろうな。」


 旦那さんは少し寂しそうに微笑んだ。


「はい・・・でも、その逆もあるのかと思います。僕らにはわからない昔の出来事。そういうのはあると思います。」


「その通りだな。結局分かるのは自分が関わったことだけだ。所詮人間は知ることしか知らないってことだな。」


「はい・・・」


 それにしても、舞ちゃんはどうしているんだろう?生きているなら二十歳くらいになっている。すっかり大人だ。

 もし、三歳のころから誰かに育てられていたら?俺だってそんな子供のころの記憶はない。それが別段不幸な環境でもないなら?

 旦那さんも女将さんも生きてるって信じているのは、その可能性を信じているってことかな。現実は厳しいけど・・・俺もそうであって欲しいとは思うな。


「さて。思った以上に長話になってしまって申し訳ない。明日は人生がかかった入社試験だってのにな。」


 笑いながら俺の肩に手をかけて立ち上がる。そして、『ちょっと酔い覚ましに歩いてくるわ。』といって出て行った。


「こんな話をした後だもんね。あそこの社に行くのかね?」


 女将さんが溜息をつきながら言った。


「あそこの社?」


「あぁ、ほら、さっき話に出てた双子の神様を祀ってるところだよ。」


「近くにあるんですか?」


「そりゃそうさね。村なんてそんなに広くないからね。歩いて10分もかからないよ。まぁ、旦那も双子だったからね。思うところがあるんだろうさ。」


 そうだったのか・・・旦那さんも・・・もしかして?


「そうさ。あの人の弟も民間信仰のせいで亡くしてるのさ。だから、他人事ではいられなかったんだろうさ。舞ちゃんもこともさ。きっと生きてる。そう願いたかったんだろうね。」


 それだけ言って女将さんは奥に下がっていった。


*********************


 部屋に戻って布団に転がりながらさっきの話を考える。


 俺には両親に関する記憶がない。高梨と名乗っているのも、施設の園長さんが教えてくれたからだ。なんでも、俺が捨てられていた時に名前が書かれていた紙があったと。そこに平仮名で『たかなしかずき』と書いてあったからだそうだ。だから漢字はわからない。和樹という字も当て字なのかもしれない。でも、それはいいんだ。俺も自分の名前には誇りみたいなものを感じているし、里親になってくれた柴田さんもどちらの名字を名乗ってもいいって言ってくれている。


 それに双子信仰の話。神の話。黄泉がえり。深い話だ。双子に慈悲を与える・・・か。

 なんだか、本当はもっといろいろと内容があるんだろうな。聞いてみたい気もするけど、もうそのタイミングは逃した。さすがにもう一度あの話をするのはあの老夫婦にとっても酷な話だろう。社は近くにあると言っていたけど、きっとそこでは例の儀式的なことも行われていたんだろう。顔役の高無家が関わっていた慰霊もそこで行われていたに違いない。


 そして、高無家に起こった不幸な事件。ここにも双子が関わっている。偶然だろうか。

 さらに、女性の幽霊の話。それはやっぱり、舞ちゃんのことが関係しているように思えてならない。本来なら二十歳を過ぎた女性に成長しているはずなんだから。

 だた、こういった話は興味本位で首を突っ込むべきではないと思うし、そのつもりもない。けど、家に戻ったらこのことは少し調べてみたいと思う。調べたからってどうなるというわけでもないのだけど、なんだか気になってしまって仕方がない。そうだ。明日の試験が終わったらあの洋館というのも見てみよう。



 さて・・・今日はもう寝よう。明日は試験だ。頑張らなきゃいけないしな。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


寂夢第二章、完結です。

おいおい、わけがわからないよ。

そう思われる方も多いと思います。


そもそも和樹は何者だよ。

高梨?高無?

舞って、第一章に出てきた高梨舞?


そもそも、第一章と第二章の関係は?


次章は、また、別の視点からの話になります。

誰の話なのかは・・・ぜひ読んでみてください!


感想お待ちしております。

悪口、批判なんでも結構です。

よろしくお願いします。

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