七 その六
七章の最後になります。
「え・・・、今なんてっ。」
目覚めるのと同時に起き上がったせいで梓と頭をぶつける。
「いったぁ。」
「あ・・・梓?」
「よかったぁ~、目が覚めたんだね、麻衣。もうびっくりしたんだからねっ。急に意識を失うんだから。」
梓の口調はキツイが、それは麻衣のことを本当に心配していたことの裏返しなのだろう。
「わたし・・・どのくらい寝てたの?」
かなり長い時間夢を見ていた。でも・・・周りを見たところ、あまり時間がたったようには見えない。
「そうね・・・五分?いいとこ十分ってところよ?」
「そう・・・」
そんなに短い時間だったなんて・・・あれは夢?でも、夢にしてはずいぶんとはっきり覚えているし。不思議な感覚に襲われながら自分が寝ていた社に目を向ける。あの少女はここにいると言ったが、気配は何も感じられない。
「ねぇ、麻衣。本当に大丈夫?」
「大丈夫よ。心配かけてごめんね。で、隆司は?」
隆司がそばにいないことに今さら気が付いて梓に聞く。
「隆司なら、水を取りに車に行ったわ。それと携帯電話をね。もし、麻衣に何かあったら救急車を呼ぶか何かしなきゃいけないからね。本当に隆司は使える子だわ。」
梓は腕を組みながら頷く。
「御褒めに預かり光栄です。」
梓の後ろでワザとらしく声を出す隆司。
「びっくりするじゃないっ、いきなり声をかけないでよ。」
隆司はその言葉を無視して私に聞き返す。
「頭など痛いところはありませんか?目まいや倦怠感は。」
「大丈夫よ。心配かけてごめん、ありがとう。」
「そうですか・・・でも、安心はできません。しばらくここで休んで様子を見て、それから判断しましょう。」
「ちょっとぉ。麻衣の心配するのはわかるけど、あたしを無視するの?」
「今は優先事項が梓先輩ではなく、麻衣先輩であるだけです。」
隆司はいつものように飄々と答える。
「そういうことなら、まぁ、いいわ。」
梓はあっという間に機嫌が良くなったようだ。全く分かりやすい子だ。
「ふふふっ。」
「何よ~、なに笑ってるの?」
「ううん、素直じゃないなって思っただけ。二人ともね。付き合っちゃいなさいよ。」
笑いながら梓と隆司を交互に見る。
「ちょっと・・・何言ってんのよ。急に・・・」
「なんとなくね。そう思ったの。」
舞の記憶の一部を思い出したせいで、麻衣は今までの麻衣ではなくなっていたのだが、それに気が付く者はいなかった。
今までの流れでハッキリしていないところがあったかもしれません。
この章の中で結論の一つが出たと思います。
六章までの話は、この七章よりも以前の話。
そういうことになります。
麻衣の前世は舞で麻耶として育った。
その後は再び舞に戻り、愛として生を終える。
どうやらそういった人生だったようです。
ご感想、ご意見お待ちしております。




