七 その四
麻衣に起こる異変。
麻衣=舞だとして、何が起こっているのか。
また見える景色が変わる。どこか立派な屋敷の中みたいだ。今度は誰かの視点からではない。自分の意志で見ることも動くこともできる。ただ・・・音が聞こえない。一切の音が聞こえない。静寂・・・おかしい。そんなことがあるだろうか。
『ここは・・・』
そう声を出してみるが、声にはならない。確かにいつものように声を出したつもりだった。でも、声は聞こえない。幼い少女が階段を駆け上がっていくのが見えた。だが不思議なことに私の姿は見えていないようだ。良くわからない。この状況が理解できない。ただ、あの少女について行かなければいけない。その気持ちだけが強く湧き上がってくる。理由はわからない。けど引き寄せられる何かを感じる。私は何かに誘われるかのように階段を一歩一歩登っていく。足元を確かめながら、ゆっくりと・・・
そこには三人の姿が見える。一人はさっき見た少女。もう一人は倒れている女性。最後の一人はその女性を抱きしめている女性。何が起こっているのかわからない。倒れている女性の口が動いているのは見える。何かを話しているのはわかるが声は聞こえない。意を決して少しずつ近づく。
『え・・・』
思わず声を出しそうになる。いや、本当なら声が出てもおかしくない状況だった。倒れている女性は大量の血を流し、手足が本来あるべきではない方向に曲がってしまっている。
『惨すぎる・・・』
思わず手で口を覆い隠して目を背ける。その時、もう一人の女性の姿が目に入る。そして、二重の驚きに襲われる。
『わたし・・・?』
思わずそう思うほどにその女性は私に似ていた。違うのは髪の長さ。私はショートだがその女性はセミロングで一本にまとめている。
『どういうこと?』
再び疑問が口から湧き出る。しかし、それは音にはならず自分の頭の中にだけ響く。そして再び倒れている女性に目を向ける。
『・・・っ』
その女性も同じ顔。顔色は青ざめていて血の気はほとんど感じられないが、もう一人の女性と同じ顔だ。そして私の顔とも・・・
『わけがわからない。誰か教えてよっ、なんなのよっ。』
その場で頭を抱えてしゃがみこむ。
「知りたいの?」
ふいに声が聞こえた。私は声の聞こえた方を見る。
「本当に知りたいの?」
そこにいるのは一人の少女。まだ年端もいかぬ少女。しかし、その少女から発せられた声はとても低く、ひどいギャップを感じざるを得ない。
「誰・・・」
思わず後ずさりしながら、その得体の知れぬものに声をかける。声?声が出る。そう思った時、今度は別の異変に気が付く。さっき見た女性たちや少女が動きを止めているのだ。まるで時間が止まったかのように・・・
「僕のことを忘れたのかい?」
その不気味な少女は低い声で私に尋ねてくる。
「あなたのことなんか知らない。誰よ、誰なのよっ。なんなのよっ。」
「やれやれ・・・まだ思い出せないみたいだね。仕方ない・・・」
少女は不気味な笑みを浮かべて上目遣いで私を見る。
「思い出せない?なに・・意味が分からないっ。」
「なーに、そろそろ思い出すさ。君も本当はわかっているんだろう?」
何を言ってるの?さっぱりわからない。目を瞑って耳をふさぎ不気味な声を遮断する。
「これはどうかな?」
どうにも長い章です。
謎の声との話。続きます。